攻防戦
数時間後。
アルバムに新たな画像が追加された。
JPEGファイル――光を受けて、半分だけ陰になった彼女の横顔。
画面の端には、薄く「距離あけてるでしょ?」と書かれている。
俺の胸に、鈍い痛みが走った。
俺の胸に突き刺さった。
「距離あけてるでしょ?」と書いてあるしたり顔のりんの写真
俺の顔が一瞬で引きつる。
まるで見透かされているようだった。
違うんだ、と言いたいのに、言葉が出てこない。
本当は――距離を置いたのは、守るためだった。
でも彼女には、そんな言い訳は通じない。
やられた。
完全に一本取られた。
けれど――
このやりとりが、嫌いじゃない。
「しばらくメールはやめます」
それが、俺にできた精一杯の反撃だった。
短く、冷たく、そして苦しいほどの負け惜しみ。
本当は――余裕なんてなかった。
追い詰められていた。
だが、俺にはもう「知らないふり」しか選べなかった。
彼女がアルバムに置いた一枚の写真。
そこに写る彼女は、どこか勝ち誇ったように見えた。
無言の笑み、どこまでも冷静で、言っていた。
「ちゃんと距離取ってるよ、あなたの言う通りにね」
その表情が、ムカムカきた。
したり顔。
俺の言葉を完璧に利用して、まるで自分が主導権を握ってるみたいに。
違う。
そうじゃない。
俺が決めたことだ。
俺の選択だったはずだ。
だが、言い訳をする暇も、立て直す時間も与えてくれない。
彼女は言葉を使わない。
ただ、静かに、鋭く、俺のプライドを撃ち抜いてくる。
なぜ、こんなにも効くのか。
なぜ、言葉がないのに、ここまで追い詰められるのか。
…いや、本当はわかってる。
効くのは、彼女の中に「悪意」がないからだ。
ただ、真っ直ぐに映し出されてる。
ああ、認めたくない。
負けたくない。
けれど、今の俺には――
返す言葉すらなかった。