ひっくり返った主導権
これはまだ途中。
彼がどう動くのか、息を潜めて見守っている。
ただ黙って待つわけじゃない――糸はすでに、こちらの手の中にある。
俺は短く、冷たく、そして苦しいほどの負け惜しみを打ち込んだ。
『しばらくメールはやめます』
本当は余裕なんてなかった。
追い詰められていた。
だが、もう「知らないふり」しか選べなかった。
そして彼は――潜った。
まるで海の底に沈んでしまったみたいに、どこにも姿を見せない。
――私、ブロックされた?
いや、それはない。
けれど、どこを探しても彼の痕跡は見つからない。
Facebookも止まったまま。
囮として用意した“リーナ”にも、一切食いつかない。
最初は余裕だった。
既読にならない通知を見て、「ヨシヨシ、そのうち来る」と軽く受け流していた。
餌でも撒こうと、別キャラのリーナを作って待ち構えた。
……それでも、食いつかない。
胸の奥がじわじわと熱を帯びてくる。
りんはもう一枚、アルバムにイラストを追加した。
「待ってる時は長い」と歌い踊るキャラクター。
色合いは明るく、表情は楽しげ――でも奥に小さな棘を潜ませて。
数時間後、通知が光った。
『ようわからん』
その短さに、りんは思わずニヤリとした。
「乙女チックな私の心」と返す。
すぐに返事が届いた。
『最近忙しくて、あまりLINEも開けず、返信もしづらいと思います』
その言葉には、不思議な暖かさと優しさがあった。
――うん、待てる。待ってる。
もう、不安にはならない。
そう心の中でつぶやき、ヒロの存在を静かに感じていた。
「駆け引きは続いている。
沈黙の裏で、何かが少しずつ動き出している。
その瞬間を逃さないために、ただ視線を外さず、見守っているだけ。」




