表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
網目模様の途中  作者: 河野 与一
網目模様の解
88/93

初観光

 信司から教習所のパンフレットを貰い、陽菜は夏休みに教習所に通う事にした。教習所の送迎バスがあるというのに信司は送り迎えをしてくれた。そして聞いてもいないのにクランクやS字カーブの注意点はどうのこうのと運転技術のアドバイスまでしてくる熱心な信司に思わず笑ってしまう陽菜。長野での初めての夏休み。信州の空高くに入道雲。陽菜は今年初めて西瓜を食べた。そして長い夏休みに初めてのアルバイトも経験した。教習所代金を美佐子に立て替えてもらい、アルバイトで得た賃金で返すつもりだ。アルバイトは大学の提携先の総合病院で看護助手、否、看護助手の補助といった表現がいいだろう。シーツ交換やごみ捨て、配膳や下膳等を手伝った。覚えることが沢山あったがそれよりも看護師の忙しさに圧倒されてしまった。⋯私に将来看護師が務まるのかな。大丈夫かな。こんな時、大輝がタルト・タタンを食べたときのあの表情を思い出す。絶対に看護師になって先生を迎えに行く!行かなきゃならないの。必ずやり遂げなければと自分に言い聞かす。再度決意を新たにした。

そしてアルバイトが終わると家に帰って大学の課題を片付ける。大学に入って初めての夏休みはこうして1日1日があっという間に過ぎ去っていく。


夏休みが終わりに近づいたある日、アルバイトも教習所もない日に信司が息抜きに出かけよう、と陽菜を誘った。折角の夏休み、この1日くらい楽しもうよ、長野に来て観光してないだろうと。信司はりんご園の作業の他にシンジ・トライの試作、それから消防団の活動の合間を縫い陽菜の休みに合わせた。

「なんだ、信司。そんなにめかし込んで。」

祐司も三浦の婆さんと同じように信司をからかって笑った。

「うるせえな、いいだろ。親父、軽トラ借りるから。」

いつも付けない整髪料、ちょっとよそ行きのシャツとズボン。普段の作業では着ない服たち。実はこの日の為に新調してしまった。車はいつもの軽トラで陽菜を迎えに行く。チャーがのせてくれるの?と出かける気満々で近づいてくる。

「チャー、今日は留守番。よろしくな!」

チャーを繋いでから軽トラのエンジンを掛け陽菜の家の前まで迎えに行った。陽菜は家の前で既に待っていてくれて、信司に気づくと小さく手を振ってくれた。白いブラウスに薄ピンクのスカート、肩からショルダーバックを下げていた。通学の時はいつも自転車に乗っているからほぼズボン姿しか見たことなかったけど、スカート姿の陽菜は新鮮で、本当に可愛いと信司は笑顔になってしまう。信司は陽菜を助手席に乗せ、善光寺に向かって走らせた。終わりに近づいた夏休みを惜しむかのように、子供や学生、そして外国人観光客も多かった。仲見世通りの賑わい。暑いからりんごソフトを食べようかと信司はひとつ買い、陽菜に差し出す。陽菜は信司の事を忘れ夢中で食べている。

「俺にもくれよ!」

信司にようやく気づいた陽菜、たった一口だけ信司の口にプラスチックのスプーンで入れてあげた。

「甘っ!ってか陽菜、俺の事忘れただろ。」

ふたりは笑いながら。若いふたり。信司は陽菜をいつの間にか呼び捨てにしていた。

「善光寺で何をお願いしたの?」

信司は移動中、車の中で陽菜に聞いてみた。

「うん、無事看護師になれますようにって⋯。アルバイト先の看護師さん達、皆忙しそうで大変そうだから。私、大丈夫かなって。」

「そっかぁ。うちのばーちゃん心臓悪いから、訪問の看護師さん来てくれてる。そういう働き方もあるみたいだね。」

陽菜は大学やアルバイトのこと、信司はりんご園の作業やシンジ・トライの話しをした。

信司はそれからガラス細工を体験製作できる工房に陽菜を連れて行き、ふたりはお揃いのりんごの形をしたキーホルダーを作った。実は信司はこの「初観光」の日時が決まってから陽菜をどんなところに連れて行ってあげたらいいのかわからず、農協の金田に相談したところ、一緒にキーホルダーを作るのがいいんじゃないかとこの工房を紹介してくれたのだった。

信司が作ったりんごのモチーフがちょっと歪んでいるのを陽菜が指摘すると

「手作りの味が出ていていいだろ!」

とふたりは笑い合う。

お互い作ったものを交換し合い、キーホルダーを持ってふたりはスマホで自撮りした。

信司は軽トラの鍵に付け、陽菜は自分のショルダーバックの外ポケットファスナーの持ち手に。そこには大輝が贈った湯島天神のお守りも結ばれている。お守りとりんごのキーホルダー。陽菜の大事なものが並んでいた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ