一緒に
僕自身については入籍に関連しての手続きはそんなにないのだけど、和香が宮島姓に名前が変わることで銀行や職場等に手続きや申し出等の作業があった。和香の職場では認知症の方も多いので、いきなり名前を変更するのは戸惑ってしまう利用者様を慮り、旧姓のままの希望を出した形で、あの「ガハハ施設長」も快諾したという。それから家の表札は「宗像/宮島」としていたので、そのまま使うことにした。将来的には大輝が相続するかも知れないからそのままでいいかも、と和香の意向。大輝は宗像姓なので将来は大輝と陽菜がここに住んでくれれば一番嬉しいとも和香は付け加えた。その時はふたりの間に子供が生まれるかも知れないから、その時は僕がまた設計して新しい家を建て替えようかとも提案したり。もし、ふたりが入籍せず事実婚の状態でもこの表札は使える、と本当に勝手な想像をして夢が膨らむ。言うだけならタダだから、と笑い合った。僕の想像に和香が否定せず乗ってくれる会話が心地よい。そういった将来の先のことまで考える年齢になってきたんだね。宗像から宮島に変わってもイニシャルがMのままで変わらないから得だとか損だとか、そんな次元の話じゃないのだけど、そんなくだらないことでも僕たちは思い切り楽しんで笑い合える。楽しんだもん勝ちだ。出会ってからもう何年も経つけど僕たちは喧嘩をしたことがない。罵りあったり、言い合ったりしてもろくなことにはならないことを僕は美佐子との結婚生活で学んだから。和香も然り、いや寧ろ和香の方が舵を取り気を遣ってくれている所もあるだろう。
それから、僕の平屋を売却したときのお金がいくらかあったのだけど、相続税対策としてこの家のローンの一括返済は見送り、住宅ローン減税の適用期間が終わるまでは和香の名義のままで、終わってから建物の名義もそのタイミングでふたりの名義へ変える予定でいる。ひとつひとつをふたりでクリアすることで、面倒臭いことも面倒臭いと思わずに、寧ろ楽しんで乗り越えることができた。
そして、一番重要なことを。和香に一応確認しておく必要があることを。勇気を出して言ってみた。
「和香、ちょっと今は落ち着いている様だから相談だけど、もう切って(リストカットして)ないよね?」
言ってしまった。でもこのこと、和香を苦しませている「切る」ことを確認しておく必要があると思った。入籍したこのタイミングで。
「僕はもう逃げられないし逃げないよ。籍を入れたのだから、大丈夫だから。だから安心して。和香が病気ならばちゃんと向き合って治療し完治を目指したいと思ってる。今は僕の目から見ても切っていないね?今でも切りたい衝動に駆られるかい?」
ちゃんと目を見て話そう。真剣に。後回しにせず、逃げない。
「うん。俊介さん。今は切っていないよ。本当に。一緒にお風呂入ってる時もあるから知ってるでしょう?嘘ついてない。」
「ありがとう。実はね、和香があの時、産婦人科で入院したときに看護師の林田さんから支援団体もあると教えてもらったんだよ。もし、必要なら、興味あるなら一緒に今度尋ねてみてもいい。和香に本当に必要ならね。でも今は必要ないかな?」
和香は暫く考えていた。そしてひとりで行ってみると言ったけど僕は一緒に行こうと返事をした。この事も一緒に乗り越えたかったから。ただそれだけ。




