引き出し
今日は実習がないからあの髪留めを使おうかな。和香さんがくれたあの、黒猫モチーフの髪留め。陽菜は朝の支度で髪留めを探した。後ろ左手に伸びた髪を束ね右手で洗面台の棚を探した。
「ないな⋯?あ、ドレッサーかな?」
左手で髪を束ねたまま、ドレッサーまで移動し、右手でその引き出しを引き出し探す。
「ないな。確かここに入れたと思ったんだけどな。」
更に引き出しを前に出した。ドライヤーのコンセントやホットカーラーが絡み合っていた。いつも整理をしなきゃと思いつつ、ぐしゃぐしゃに絡み合ったコンセントを解き、かき分けて探し手が止まった。
そしてそれを見つけた。
正確には、「違うもの」を見つけた。
髪を束ねていた左手を下ろし、両手でそれを掬った。束ねていた髪は解け、ばらけた。見つけたそれは髪留めではなく、探していたあのお守りだった。大輝先生から貰った、大切な。ずっと、ずっと探してた。なくした日は泣いた。どうしてこんな所に?しかも引き出しの奥に。どうして?私が入れたんじゃない。誰かがドレッサーの引き出しに入れたんだ。そして奥に。見えない様に。両手でそっと温め、自分の胸の鼓動を聞かせて抱きしめた。陽菜の瞳から一粒涙が出た。
「ごめんね⋯ずっと探してたんだよ。こんな所にいてくれてたのね。」
大事に大事に両手で包んだ。
「陽菜ちゃん!学校遅刻するよ。」
階下から祖母の良江が声を掛けてくれなければ時間を忘れ泣いていただろう。
「はい!」
陽菜は涙声になりそうになるのを抑え込んで返事をし、そっとそのお守りをズボンの後ろポケットに仕舞い、涙を拭って登校の準備をした。髪を束ねたのは黒猫の髪留めではなく黒のヘアゴムだった。




