表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は毒リンゴでは倒せません!  作者: 山音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/2

1.ついにやったぞ!理想の世界に転生してハッピーライフの始まり!?★

この世界で一番の大国王の一人娘に転生して無双人生を送るはずが、私をミジンコ以下にしか思っていない史上最悪の悪魔のような夫がいた!?

事あるごとに殺そうとする夫から生き抜くために奮闘する物語。




名前 マリー姫

Lv.99 この世界で一番の大国の一人娘

HP 1 瀕死

攻撃力 1 本より重いものを持ったことがない

防御力 1 一撃で死にます

MP (魅力ポイント)???

ブクブクブク••••コポッ


肺に残っていた最後の空気が、泡となって水中へと溶けていく。

冷たい水に沈んでいく身体。

冷え切った全身を刺すような痛みさえ、もう感じなくなっていた。

閉ざしていた瞳が、ゆっくりと開く。


揺れる水面の向こうに見えたのは、どこまでも澄み渡る、美しい青空だった―



「ー姫様。ー姫様。」


誰かが私を呼んでいる?

うーん、まだ寝たいのに。

鉛のように重たいまぶたをうっすら開くと、目前には見たこともない若い女性が心配そうに覗きこんでいた。


「…ミア。」


自然と口から名前がこぼれた。

誰? と、言うつもりだったのに。


ミアは瞳を涙で潤ませながら、


「すぐにお医者様をお呼びします!」


そう言い残すと、慌ただしく部屋を飛び出していった。


……。


これは一体どういう夢なんだろう?

彼女の背中を見送りながら、私はぼんやりと思った。

とりあえず、自分がベッドに寝かされていることだけは分かる。


ミア、って言ったっけ。


白い詰め襟に紺色のワンピース。まるで物語に出てくるメイドみたいな格好をしていた。栗色の髪に茶色の瞳なんて、どう見ても日本人じゃない。


初めて会ったはずなのに、なぜか彼女の名前がミアだって分かるのも不思議だ。


へんな夢。


ま、いっか。


私はふふっと笑うと、目を閉じた。

さっきからめちゃくちゃ気持ちがいいのよね、このベッド。

羽毛に包まれているみたいなふかふかの感触に身を委ねて、しばらく何も考えずぼーっとしていると、廊下の向こうから複数の足音が聞こえてきた。


どうやら、さっきのメイド、ミアが人を連れて戻ってきたらしい。


気づけば、私のベッドの周りはあっという間に人だかりになっていた。


「姫様、お加減はいかがですか?」


医者らしき年配の男性が、神妙な顔で私の顔を覗き込んでくる。その隣では助手らしき人物が私の手首を取り、これまた真剣な表情で脈を測っていた。


姫様。


ああ、聞き慣れたフレーズ。

そっと目を閉じて反芻した。


ーそう。私は姫。


キャバクラ「シンデレラ城」で働くキャバ嬢、マリー姫。いつか白馬の王子様と出会うことを夢見て生きてきた、25歳独身、メルヘンこじらせ女子。


……結局、王子様には出会えなかったなぁ。


―って、待って。

今、人生終了モードにならなかった!?

そもそも、ここ現実世界じゃないよね!?なんで私、メイドさんやらお医者さんやらに囲まれてるの!?

自分の置かれた状況を確認しようと、ゆっくり天井を見上げた瞬間―

間違いなく、目玉が1.5センチは飛び出した。


ここ、どこですかぁぁぁぁ!?


天井には、これでもかとばかりに豪華な装飾が施されている。天使の絵画に、きらびやかなシャンデリア。どこを見てもキラッキラで、まるで視界そのものに加工フィルターがかかっているみたいだ。

何度目をこすっても、キラキラは消えない。


うふんんん〜ヴァッキンガム!!


もはや、自分でも意味の分からない感想しか出てこない。

…あれ?もしかして、目だけじゃなくて頭までおかしくなった?

なんで、こんなことになってるの。

私はぎゅっと目を閉じ、必死に記憶をたどった。

えーっと、えーっと••••。

その瞬間、頭の中に稲妻が走った。

そうだ!

私、…転生したんです!

本物のお姫様に。



ーーーーーーーーーーー


―あれは昨日のこと。

記念すべき、私の25歳の誕生日。

誕生日だというのに祝ってくれる彼氏もおらず、

「こうなったら一人で盛大に祝ってやる!」

と、ヤケになって有名店の限定ケーキを買い、街をトボトボ歩いていた。

…そこで、爆発事故に巻き込まれた。

らしい。

というのも一瞬の出来事すぎて、正直よく覚えていない。


25歳の誕生日当日に爆発事故で死亡。

チーン。(合掌)


そして、気づけば私は魂になっていた。

訳も分からないまま辿り着いた天国の門で、門番から衝撃の宣告を受けたのである。


「予約リストに載っていません。天国は予約制ですので、受け入れできません」

チーン。(二度目)


まさかの入店拒否ならぬ、入天拒否。

呆然としている私に(いや、魂だから呆然とした顔ができていたかは知らないけど)門番は慣れた口調で説明を続けた。

「このような場合、特例として元の体に戻れることがあります。数万人に一人ほどですが」

へぇ。

「人間界では、『三途の川で向こう岸から名前を呼ばれて目が覚めた』などと表現されているようですね」

ほほぅ。


…あれ?

門番が一瞬だけ微妙な顔をした。

「…あなたの場合、爆発で体が残っていません」

そして彼は、小さくこう呟いた。

「浮遊霊、ですかね」

…はい?

ちょっと待て。

今、私のこと浮遊霊って言った!?

あの、そのうち地縛霊になって、心霊写真の隅っこで自己アピールし始めるアレ!?


イヤァァァァァ!!

嫌すぎる!ひどすぎる!

浮遊霊、断固反対!!!!


ーと全力で抗議していたら、なぜか即座に別室へ連行された。

そこは真っ白で何もない空間だった。

なんというか…取調室?

そして、目の前には取調官、ではなく神様がいた。

え。

なにこの展開。

「あのー確かに門前で騒ぎましたけど、浮遊霊はあんまりじゃー」

「いやはや、今回は滅多にない特殊案件でな」

神様は私の言葉を華麗にスルーした。

「そこの魂よ」

「…はい」

「おぬし、元の体がなくなってしまったからのう。そこで提案じゃ」

提案。

なんだか嫌な予感しかしない。

「別の世界で、ちょうど同じ時刻に天に召された娘がおってな。その娘の体に転生できるのじゃが」


はい?

何その、「キャンセルが出ましたのでご案内できます」みたいなノリ。

いやいやいや。

いくら私が単純だからって、

『了解です☆』

なんて二つ返事で承諾できるわけがない。

だって、どんな人かも分からないし。

「まあ、最後まで聞かんか」

神様は軽く咳払いをした。

「その娘は湖に落ちて死んでしまった。とはいえ、まだ時間が経っておらん。いわゆる仮死状態じゃ。本人の魂だけ先に昇天してしまってな。体は綺麗なまま残っておる」

ふむ。

つまり、体は普通に使えるってこと?

ーいや、待って。

その子はちゃんと予約があって、私には予約がないって、なんかおかしくない?

もしかして、そもそも予約の手違いだったりしない?

私は疑いの目を神様に向けた。

しかし神様は、そんな私にトドメの一言を放った。

「ちなみに、その娘は世界最大の大国の姫じゃ」

―なぬ!?

姫!?

私は即座に食いついた。

だって。

爆発する直前、私は確かに願っていたのだ。


「本物のお姫様になって、素敵な王子様と結婚したかったーー!!」


こうして私は、秒で転生を決意したのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


子どもの頃、可愛いものが大好きで将来の夢はお姫様になることだった私。

大好きな白雪姫やシンデレラの絵本を読みながら、いつか素敵な王子様にプロポーズされて幸せな結婚をするんだーと夢見ていたあの頃。

だけど現実は甘くなかった。

道場を営んでいた熱血親父の方針で、これまた熱血兄貴2人と同じように育てられた私は、言われるがまま兄達と数々の道場に乗り込んで道場破りを繰り返した結果、高校を卒業するまで


不殺三兄弟


という有りがたくない通り名で恐れられていた。

ある日、不良に絡まれている真面目少年を助けたら、助けた少年まで私の前から逃げ出す始末。


「ヒィィーた、助けて下さい!」


どうやら額から流血してたのが、返り血を浴びまくった殺人鬼の形相に見えたらしい。

それ以来、男達は揃って私の顔を見るなり逃げ出すようになった。


「放課後のチャッキー」


包丁持ってないし、人殺してないし。

もはやどこから突っ込んでいいのか分からない最凶キャラに仕立て上げられるという。

思い出したくもない黒歴史。



そんな私に転機が訪れたのは、進学のため一人暮らしを始めたことだった。

誰も私のことを知らない都会。

ようやく自分の好きにできる!

ええ、そりゃ嬉し泣きに、小躍りしましたよ。

そして、それなりに女の子っぽいことに挑戦し始めたある日のこと。

買い物に行った街で、とあるアルバイトのスカウトをされたのだ。

世間知らずの私は、提示された高額時給に、ラッキー♪くらいの軽い気持ちでホイホイついて行った。その行き先は、ギラギラの看板がひしめくネオン街。

そして、たどり着いた終点にでかでかと掲げられたシンデレラ城の看板。


そう、そこはキャバクラだったのだ。


普通なら気が引けるところかもしれない。

が、私は幼い頃に憧れていた名前に釘付けになってしまった。


シンデレラ城…


これはデスティニーじゃないかと。

つまり運命☆


「一緒に働きましょう、姫。」


黒服から投げ掛けられた言葉が、胸をズキューンと射抜いた。

フロアを見渡すと、働いているお姉さん達はみんな綺麗なドレスを着てキラキラと輝いて見えた。

そしてお姉さん達はみんな「姫」と呼ばれている。


ここでなら私は姫になれるの!?


それから私は二つ返事で入店し、本物の姫になりたくて頑張りましたよ。目標に向けてファイト一発!

今まで出来なかったお化粧や女らしさを見よう見まねで必死に習得し、辛いことも苦しいことも、これまで培った体育会系精神力で耐え忍んだ。


何度も言います。

ファイトォォォォ一発!!


そして、数年後。

私はお客様に"姫"姫"ともてはやされるNo.1へと上り詰めていた。


キラキラのドレスにキラキラのネイル。ふわっとカールさせた巻き髪に、キラキラの靴。

私はどこから見ても完璧なモテ女子になれたのだ。

放課後のチャッキーはもうどこにもいない。

他人から見れば順風満帆で何もかも揃っているかのように見えるだろう。

でも歳を重ねるとともに、致命的なあることに気付いてしまったのだ。


ここには 王 子 様 がいない!!


ええ、脳筋の私も流石に気がついた。

キャバクラとは、大人の駆け引きを楽しむ社交場であって、爽やかイケメン王子が白馬でやってくるところでは断じてない!

セクハラ上等のおじ様に、愛人になってくれとのたまうおじ様に、遊びまくっている青年実業家etc....


全っ然王子様がいないぃぃぃぃ!!


私の理想の王子様は、世界一カッコよくて、エッチなことなんて絶対に言わなくて、キラキラ澄んだ瞳をしていて、私にだけ優しくて、私だけを愛してくれて―それから、それからーー

そんな理想を積み上げに積み上げた結果。

気づけば私は、孤高のお一人様街道を爆走していた。

例えるなら、エレベストの頂上で

「王子様どこぉぉぉ!!」

と叫んでいる状態である。

そんな”頂点到達女子”の私を、周囲は盛大に勘違いしていた。

恋愛話を適当に濁していたら、「人には言えない相手と付き合っている」ことになり、さらに昔語った理想の王子様像に尾ひれはひれがついた結果―

いつの間にか私は、


アラブの 石 油 王 と交際中


ということになっていた。

ちなみに、

「白馬に乗った王子様」は、「白馬を所有する王族」に。

「マントを翻した姿が凛々しい」は、「民族衣装姿が凛々しい」に。

…どうしてそうなった。


「マリさん、誕生日はプライベートジェットでドバイですか?」

「ふふ……ご想像にお任せするわ。」

「さすがマリさん!!」

羨望の眼差しが痛い。いや、本当に痛い。

もうこの空気の中で、『彼氏なんていません』とは言えなかった。

その実態は―

25歳の誕生日に、一人でケーキを片手に街を歩いている、ただのぼっち女である。

私の前を、冷たい風がひゅうっと吹き抜けた。

ふと周りを見れば、腕を組んで楽しそうに笑い合うカップルたち。

…いいなぁ。

私はずっと、虚構の世界で姫を演じてきた。

でも、どれだけキラキラした姫になったって。

王子様がいないんじゃ、意味がない。

そういえば、人生で一度も本気の恋をしたことがなかったな。

男性を喜ばせる技術ばかり覚えて、人を好きになる方法を忘れてしまった。

子どもの頃、絵本を抱えて夢を見ていた、あの頃のキラキラした気持ちには、もう戻れないのかもしれない。

気づけば、ケーキの箱を抱えたまま、泣きそうになっていた。

本物のお姫様になりたかった。

姫になれば、王子様に会えると思っていた。

でも、現実にはどこにもいなかった。

胸の奥で、ずっと燻っていた想いが、とうとう限界を迎えた。

「あぁぁぁ!! 本物のお姫様になって、素敵な王子様と結婚したかったぁぁぁ!!」

―そして私は、金色の光に包まれた。


で、現在に至る。

あの金色の光は実際には爆発だった訳だ。

その瞬間、マリー姫は覚醒した。

みたいな展開にはならなかったようで。

むうう残念です。


でも。

私はゆっくりと記憶をたどりながら、胸の奥から湧き上がってくる歓喜を必死に押さえつけた。

だって。

諦めようと思っていたのに。

とうとう、本物のお姫様になれたのだ。

今にも「ヒャッホォォォ!!」と叫び出しそうになる口元を、必死に引き締める。

落ち着け、私。

世界一の大国のお姫様なんだから。

きっと深窓の姫君に違いない。

おしとやかで、上品で、優雅で―。

決して、

「ヒャッホォォォ!!!」

なんて叫んだりしないんだから。



…ん?

ちょっと待て。

ここで私は、とんでもなく重大なことに気づいてしまった。

姫はみんな、おしとやかだって、誰が決めた?

もし、この体の持ち主が、

放課後のチャッキー系の姫だったらどうする!?

私はガバッとベッドから飛び起きると、壁に掛けられた鏡の前へ一直線に駆け寄った。

そして、鏡に映った自分の姿を見た瞬間。


…へっ?


思考が止まった。

真っ白な肌。

さらさらと流れるピンクゴールドの髪。

光の加減で淡い青にも紫にも見える、不思議な瞳。

さくらんぼのように赤い唇は、雪のような白い肌によく映えていて―。

まるで絵本から飛び出してきた妖精のような、その姿に。

私は思わず息を呑んだ。


何この子。

めちゃくちゃ可愛い。

いや、可愛いとかいうレベルじゃない。

超絶美少女。

年齢は20歳くらい。

しかも、この世界最大の大国のお姫様。

勝った。

私の人生、勝った。

「……ふふ。」

笑いが漏れた。

「ふふふ……。」

止まらない。

「フフフフフ……!」

想像の百倍、いや千倍くらいのハイスペック転生だった。

「ひ、姫様!?」

鏡に張り付いたまま笑い始めた私を見て、周囲がざわつき始める。

「姫様がご乱心されました!」

「気付け薬を! 早く気付け薬を!」

お医者様たちが大騒ぎしている。

でも、そんなことはどうでもよかった。

だって。

私は、本物のお姫様になったのだ。

神様。

ありがとうございます。

私、この世界で絶対に素敵な王子様を見つけます!!


―この時の私は。

前の姫が、なぜこんなにもあっさりと人生を手放してしまったのか、その理由を考えもしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ