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ルームメイト、または魔王の側近、または村人、または喫茶店の客、または郵便屋、または神城芽衣として

 

 あたしはいつものように教室の扉を開けた。


「おはよう皆の者!今日も我輩の為に精を尽くしたまえ!」

「誰よそれ」

「神城将軍」

「お主みたいな将軍がいたら国は一瞬で撃ち落とされるのではないか」

「何を。織田さんのように天下とったるわ!」

「織田さん天下とれてないから。天下とったの豊臣さんだから。クソ神城は相変わらず馬鹿だな」

「チェストおおおおおおお!」

「ぐふおっ」

「何故わしまで?!」


 生意気な口を叩く2名を秘技裏拳で静かにさせ、呆れた表情の美夜に送り出されながら、本を読む槙くんに近付く。


「おっはー!槙くん!今日のパンツは何色かなあ?」

「白」

「あたしが言うのもなんだけど白が人気色なのは女子学生だけだと思うよ」

「そうか?」

「あ、朝からそんな、げ、下品な話しなくても」

「ダメよ香菜ちゃん。そろそろ槙くんも染まってきてるから、何を言っても芽衣語しか返ってこないわ」

「俺がいつからこのアホと同系列にされてたんだ。それにそんな頭の悪そうな言語を身に付けた覚えはない」

「間接的に槙くんがいじめるんだけど!」

「安心しなさい芽衣。ここに貴女の味方はいないから」

「世の中は無情なり」

「が、頑張って!」

「香菜ちゃん他人事おおおお!」


 あたしは槙くんの机の上にあった数学のノートを頂戴しながら自分の席に走り去る。


「槙くん取られたよ」

「いい。神城に絡まれる方が面倒くさい」

「あ、あたしも英語のノート置いてこようかな」


 何やら後ろから泣いてもいいような内容の会話が聞こえてきたような気がしないでもない。

 いや、あたしの優しいマイフレンドたちに限ってそんなことあるはずがない。

 そう、後ろから「芽衣がいないうちにこれ食べよ」「あ、こ、これ、近くの美味しいケーキ屋さんのお菓子!い、いいの?」「お、美味そうだな、サンキュー」「芽衣がいないうちに食べて食べて」なんて会話聞こえない。聞こえないったら聞こえない。

 目から出てくる透明な液体を拭いながらノートを写しとる。


 沈んでいた生意気な2人も起き上がり、美夜たちに加わわったようだ。後ろから5人の会話が聞こえてくる。

 あたしは無言で文字を写しとる。


「いってて。ほんとクソ神城は凶暴だわ。あいつに勝てるやつなんているのか?」


 何だと。あの魔王を倒してやる!っていってた暑苦しいやる気はどこにいった。


「世界中を探せば若しくはいるかもしれん。何せ芽衣は強すぎる」


 震えた声で言うあんたは、あの風格は最早見る影すらないな。


「まず常識が欠けているんじゃない?」


 学園の常識を一から教えてやったあたしに対するこの無礼よ。


「あ、ちょっと、わ、分かるかも。偶に何言ってるか分かんないよね」


 妄言の塊だったあんたが言うのかい。


「最早存在自体が迷惑極まりないな」


 世間に迷惑をかけてたあんたにそれを言われる日が来ようとはね。


 あたしはひたすら文字を写しとる。

 5人は未だにあたしの話をしている。人気者は辛いね。

 時々笑い声が混じる会話に、あたしは口元が緩む。


 そう、あんた等はそうやって今ある時間を楽しめばいい。

 間違っても「前世」なんて厨二病なんかに侵されてはいけないんだから。


 まあ、1人怪しいやつもいたけど、あんた等の記憶がはっきりしたものじゃなくてよかったよ。

 はっきり覚えてたら、あたしの顔や身体つきは()()()()、つまり()()()()だってバレてたからなあ。

 やっと今の世界にも慣れてきたのに、前世なんてもんに引っ掻き回されたらたまったもんじゃない。


 それにしても、ほんと、前世って何だろうね。

 死ぬなんて経験したことないあたしには、全く分からんぞ。

 とりあえず、()()ではそんなのを厨二病って言うことだけは知ってたけど。


 あたしはやっと写し終わったノートを無造作に机に突っ込み、槙くんのノートを本人に返すため、床と平行になるように持ちそのまま投げ渡した。コツは手首のスナップです。

 コツーンといういい音と「いでっ」という原の声が教室に響いた。

 どうやら原がデコキャッチしたらしい。全く、世話のやけるやつだ。


「クソ神城おおおお!静かになったと思ったら一体何しやがる!」

「槙くんに返したのに、何であんたがとるかなあ。ほんとに、しょうがないやつ」

「何で俺が悪いことになってんの?!ねえ何で?!」

「おいふざけんな。貸してやった恩を忘れて雑に扱うとは、覚悟は出来てるんだろうな」

「いやん。怒らないで槙くん。高瀬がお叱りは是非わたしにって言ってたよ」

「わしに擦り付けるな!全力で全面拒否だ!」

「ちっ、役に立たないやつめ。美夜〜助けてよ〜」

「香菜ちゃん。これもどう?美味しいよ」

「スルー!見事なまでのこのガン無視よ!香菜ちゃんはあたしの味方だもんね?!」

「………………うん」

「その間は何?!正直に言ってみな!その間は何なの?!」

「つまり、神城は俺にお仕置きをされたい、と」

「お仕置きって艶かしい響きだよね、ちょっとエロ…………ままままとうか槙くんその手に持っているのはあたしの大嫌いなネギとやらではないのかなちょっと考え直そうかそいつがいかに臭いかあんたは知らないんぎゃああああああ!」



 あたしの悲痛の叫びは、チャイムの音と担任の「神城は放っておいてホームルーム始めるぞー」というやる気のない声に掻き消されたのだった。






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