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ノヴァインパクト-産まれたら世界が壊れていました-  作者: ウルティ
少女は瓦礫の中で目を開く

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9/68

第八話 制御せよ

⸻

 中型ヴォイドの襲撃からニ日後。

 アヤメはガレンに呼ばれていた。木と鉄を組み合わせた、倉庫のような広い空間。

 湿った土と油の匂いを吸い込んだ。

「来たか」

 低い声がした。

 ガレンが壁際の武器棚に背を預けて立っていた。

 ルカは磨かれた氷刃の短剣を点検し、エマは土を操り足場を平らに均している。

「調子は?」

 ルカがこちらを向く。アヤメは首をひねった。

「普通。重くない」

「……普通、ね」

 三人の視線が微妙にずれる。

 昨日まで寝ていた人間の言う「普通」が信用できないのは当然だった。

 ガレンが腕を組んで前に出た。

「今日は、お前のシックスセンスの制御を見たい。

 あんな雷膜をぶっ放して生き残る奴なんて、見たことがない。

 だが――制御できなきゃ危険すぎる」

 アヤメは瞬きした。

「危険……?」

「お前が、だ。周囲にとってな」

 ガレンは言葉を選ばずに言った。

 アヤメはその意味を処理するように、少しだけ目を伏せる。

「……わたし、傷つけたくない」

「なら制御だ」

 ガレンは歩き、武器棚を指し示した。

 ずらりと並ぶのは槍、棍、短剣、そして――剣。

「ホルダーで戦うなら武器が必要になる。お前の流派とか事情は知らんが……扱いやすいものを選べ」

 アヤメは棚の前に立った。

 剣の中でも形が違うものが目につく。

 細身、反り、単刃。

 いわゆる刀型のブレード。

 指が自然に伸びた。

「……これ」

 アヤメは迷いもなく一本を引き抜いた。

 重さ、質量、重心――握った瞬間に違和感が走る。

(刃の厚みは均等。骨格は軽い。でも衝撃には弱い。

 なら、力の通し方を変えれば──)

 ほんの一秒で結論が出た。

「扱える」

 そう言ったアヤメに、ガレンが目を細めた。

「試してもいないだろ」

「見れば分かる」

「……は?」

 ルカが吹き出し、エマが「あー……始まった」と呟いた。

「アヤメ、その“見れば分かる”って何?」

「構造が分かれば動きも分かる。壊れる角度も壊れない角度も、たぶん」

「たぶんで言うなよ!」

 エマが土の塊を落とし、ガレンは苦い顔をした。

「……いい。試せば分かる。構えろ」

 アヤメは静かに刃を持ち、足を半歩ひらいた。

 癖のない基本姿勢――しかし、誰も教えていない。

「なんで素で“正しい構え”になるんだよ……」

 ルカのぼやきは無視された。

 ガレンが腕を振る。

「エマ、壁を出せ」

「はいよ」

 エマが地面に手をつくと、土が膨れ上がり、厚い壁が形を取った。

「斬ってみろ。軽くだ」

「軽く?」

「ああ。絶対に、軽くだ」

 アヤメは少し考え、壁に向き直った。

(力の入れどころはここ。刃が跳ねないように重心は……)

 一瞬で計算が終わり、刃が線を描く。

 ――ザシュ。

 土壁が真横に切り裂かれ、上半分がずるりと落ちた。

「軽く、って言ったよな?」

「軽いよ。今のは」

 ガレンは深く息を吐き、エマは崩れた壁を見て青ざめた。

「……アヤメ。それ、多分“軽く”じゃなくて“殺意ゼロで全力風味”のやつ」

「殺意はない」

「そういう問題じゃない!」

 ルカが頭を抱えた。

 アヤメは首を傾げた。

「じゃあ、どうするの?」

「制御だよ!!」

 三人が声を揃え、倉庫に響いた。

⸻

 訓練はまず、“雷を出さない練習”から始まった。

「この前みたいに暴走されたら、俺たち死ぬからな」

 ガレンの言葉にアヤメは素直に頷く。

「止めるのは分かった。どうやって?」

「逆にこっちが聞きてえわ!」

 しかし、実際はすぐに進展した。

 アヤメの指先に、微かな電気の気配が走る。

 本人は無自覚。

「ほら出てる出てる出てる! 止めて!」

「……出てる?」

「出てるの!!」

 アヤメは指を見つめ、そこで初めて意識的に“止めよう”とした。

 次の瞬間、電流の気配はふっと消えた。

 三人が固まる。

「……お前、今の、普通は数週間かかる訓練なんだが」

 ガレンの声がかすれた。

「止めろって言われたから止めた。悪い?」

「悪くはない……悪くはないけど……」

 ルカとエマが顔を見合わせ、同時に頷いた。

 アヤメは自分の胸に手を当てた。

(言われたから止めた。それだけ。

 でも、それがそんなに変?)

 分からない。

 アヤメの中では、ただの操作のひとつだった。

⸻

「次、雷を“点”で出してみろ。絶対に“膜”にするなよ」

 ガレンの号令で、アヤメは刀を横に置き、手を伸ばした。

(点……小さく……)

 指先でイメージすると、青白い光がぱちりと弾けた。

「そう、それ! そのくらいが基礎――」

 ルカが安堵した瞬間、アヤメが無表情で言った。

「じゃあ、この“点”を刀に乗せるのは?」

「乗せなくていい!!」

 だが遅かった。

 アヤメは刀を取ると、まるで当然のように雷の点を沿わせた。

 刃の金属が光を受け、微かな振動が走る。

 刀は焼けるどころか、振動を吸収するように安定していた。

「……壊れない」

「いや、なんで壊れないか説明してくれ!!」

 ガレンが叫び、エマが腰を抜かし、ルカは半笑いになった。

 アヤメは淡々と言う。

「刃の中の芯の形と厚さで、雷が壊す場所は分かった。

 そこに電気を通さなければ壊れない」

「そんなの“一瞬で理解して実行できる”と思ってるのか?」

「できたよ?」

 三人が同時に沈黙した。

(できたことが、そんなに変……?)

 アヤメは何度も瞬きをした。

⸻

 訓練の最後、ガレンは深い息を吐くと、言った。

「……アヤメ」

「なに?」

「お前は、すげぇよ」

 アヤメはきょとんとする。

「すごいって……どうすごいの?」

「いいから黙って聞け」

 ガレンは真剣な目で続けた。

「お前は“できること”を普通だと思いすぎてる。

 だが、その普通は俺たちの普通じゃない」

 アヤメは少しだけ戸惑う。

「……わたし、変?」

「変だよ。とんでもなく変だ。

 でも……その変さが、この世界では武器になる」

 横でルカが頷く。

「あなたの理解力はやばい。

 一を聞いて百動くタイプでしょ。

 あたしたちの常識で測れないのは分かった」

 エマも笑う。

「だから、逆に言えば――教えがいがあるってことだよ」

「……教えがい?」

「うん。伸びるって意味」

 アヤメは胸の奥で何かがぱちりと灯るのを感じた。

(伸びる……?

 わたしが……?)

 未知の感覚だった。

 評価でも称賛でもない。

 ただ「あなたには可能性がある」と言われた気がした。

 アヤメは静かに頷いた。

「……じゃあ、教えて。もっと」

 ガレンは笑った。

「ああ。叩き込んでやるよ。

 制御できなきゃ共闘もできねぇからな」

「わかった」

 アヤメの手には、雷を宿さない静かな刀。

 その刃は、まだただの金属。

 けれど、三人の目にははっきりと見えていた。

 ――この少女が、本格的に“戦い方”を覚えたら。

 世界の天秤が、きっとどこかで傾き始める。

⸻


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ハイファンタジー/女主人公/異能/第六感/チート/異能バトル
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