第6話 覚悟のキャンディ
※時間軸としては高等学校2年の3月。159話〜160話あたりのお話。バレンタインデー外伝の一ヶ月後です。
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「……と、いうことで、クッキーでいいな?」
「はい、それが一番無難でいいかと」
レオニス研究室。
今日はたまたま最後に残ったのが男三人。
ちょうど『その日』も近づいてるということで、三人でホワイトデーのお返しについて考えていたんだ。
しかし贈る物にも注意が必要なのがホワイトデー。
キャンディやマカロンは本命に、クッキーは義理返し、嫌いな人にはマシュマロ。
他にもたくさんあって、さっきまでレオニス先生とカリウスと一緒に、誤解されないラインをずっと考えていたせいで、頭が疲れてしまった。
「ではマルクス、カリウス、すまんが買うのはお前らに任せていいか? 俺は今の若い奴らの好みなど分からん。金は出しておいてやるから、この範囲で買えばそうそう高すぎるということもなかろう」
「分かりました、ありがとうございます」
僕とカリウスは明日の休みで、何を買うか探しに行く約束をして、この日は別れた。
「ただいまー」
「お帰り。今日は遅かったわね」
「うん、学校でカリウスと先生とホワイトデーのお返しの相談をしててさ」
すると店の奥から父さんが顔を出した。
「なんだ、マルクス。本命の女の子はまだいないのか?」
「と、父さんには関係ないだろ」
胸中を見透かされたようで、思わず反抗してしまったが、僕だってどうにかしたいとは思ってる。
「ねぇ、父さん」
「うん、なんだ?」
「今日、店が終わったらちょっと話いいかな? 聞いてみたいことがあるんだ」
父さんは僕の頭をくしゃっと撫でる。
「いつも自分一人で決めるお前らしくないな。それなら今聞こうじゃないか。ステラ、少し頼めるか?」
「ええ、ゆっくりしてらっしゃい」
久しぶりに入る父さんの部屋は、たくさんの本の匂いがした。
魔導具も日進月歩、日々改良が重ねられている。
情報を集めることを怠らず、努力を重ねる父さんのことを、僕は尊敬していた。
「そういえばまだきちんと謝れていなかったな。寄附金の件でお前に肩身の狭い思いをさせてすまなかった」
ソファに座ると開口一番、父さんは頭を下げて僕に謝ってきた。
一応、優遇措置の件については父さんたちも知らなかったと説明は受けていた。
アルバイトの件は、技術の高い学生がいるから面倒を見てほしいと頼まれただけだったらしい。
もちろん全部をそのまま信じるほど、僕も子供じゃない。
けれど、今までの父さんたちを思えば――信じてもいいのかもしれない。
もちろん全てを鵜呑みにするほど、僕も子供ではないけれど、今まで愛情を注いで育ててもらったことから考えると、信じてもいいんじゃないか?
そう思っていた。
「いいんだ、もう済んだことだし。今は学校で楽しく過ごさせてもらってるよ」
「そうか。……それなら良かった。――ところで、お前の聞きたいこととは何だ?」
「うん、僕の友達の話なんだけど……」
同じ街に魔導具工房が二つ。
一つはその街を代表する工房、もう一つは小さいながらも、一代で築き上げた工房。
大きな工房の跡取りの娘が、小さな工房の跡取り息子に恋をした。
けれど娘は婿を迎えて工房を継いでもらうことを期待されている。
そして彼の工房も別の工房の傘下に降るのをよしとはしていない。
「こういう状況なんだけど、同じような立場の父さんの意見を聞いてみたいんだ」
すると父さんは呆れた顔で僕を見る。
「マルクス、そういう話はもう少し分かりにくくしてから言うもんだぞ? 要するにお前が好きになった娘が、この街の工房の跡取りなんだな?」
一気に顔が熱くなる。
息子と娘を取り替えて分かりにくくしたつもりなのに、あっさりと見破られた。
「お前の素直さは美点ではあるが、商売を任せるとなると不安だな。それで、そのお嬢さんはどこの工房の子なんだ?」
「……『水のせせらぎ』」
もう隠す意味もないだろう。
僕は観念して白状した。
「あそこか。確かに小さいながらも頑張っている工房だな。……マルクス、お前の人生だから好きにしろといいたいところだが、これだけは言っておく」
「俺もステラも、お前が成長して、やがていつかはここを継いでくれることを、心から楽しみにしている。そして、二つの工房が関係を持つのは、何も傘下に降ることだけではない」
「それは、どういうこと?」
「そこから先は自分で考えろ。振り向かせたい子がいるのだろう? 本当に側にいてほしいのなら、死に物狂いで頑張ってみろ。俺は……そうやってステラに振り向いてもらえたんだからな」
この言葉は意外だった。
いつも父さんの言葉に、優しい笑みで応える母さん。
てっきり母さんの方から告白をしたものだとばかり思っていた。
「あ、ところで父さん。明日カリウスとホワイトデーのお返しにクッキーを選びに行くんだけど、学生でも手の出る、どこかいい店知らないかな?」
「カリウスくんとか? お前たち二人が揃って行けば、どこの店でもワンランク上のクッキーを狙えそうだが、ふむ」
紙を取り出し、いくつか店の名前を書いてくれた。
「まあこの三店舗なら大丈夫だろう。……マルクス、好きな子には用意しないのか?」
「え? でも個別でもらったわけじゃないし」
「つまりはマルクスの好きな子は、研究室の子ってことか」
「っ……! ひどいよ、父さん!」
「ハッハッハッ、俺からは何もせんよ。だがもらってないからと言って、あげてはいけないなんてルールはないぞ?」
それはそうだけど、一人だけそんな事をしたらバレちゃうじゃないか。
僕が……リディアを好きってことが。
「マルクス」
「なに?」
「うまくいくといいな?」
そう言って部屋を出ていった父さんの背中に、僕は思わず頭を下げていた。
◇◆◇
「そうか、トニトルスさんがそんなことを」
「うん。なんか僕って情けないな。カリウスにも見抜かれて、父さんからも答えを引き出されて」
ハハッと、力ない笑いを漏らす。
「お前はとても優しいじゃないか。人それぞれなのだから、あまりそうやって卑下するんじゃない」
カリウスはいつだって僕に優しくしてくれる。
彼が言うには、先に優しくしたのは僕だから、自分はそれを返してるだけだと言うんだけど、僕にはその記憶がないんだよな。
「あっ! そういえば」
「どうしたの? カリウスが驚くなんて珍しいね」
「すまん、半年ほど前になるが、お前がリディアを好きだということ、ついセレナに話してしまっていた」
…………
「ちょっとカリウス、何してんの! なんで? どうやったらそんな話になるのさ!」
「いや、あいつが突然結婚とか考えてるのかと聞いてきたから、考えてないと。で、研究パートナーとしてなら、セレナとマリーナはいい相手だと思うと伝えた」
「それでセレナからリディアは? って聞かれて答えたパターンか。だから温泉の時にあれほど気を付けろって言ったじゃないか。しかも僕のまで話しちゃって……」
「本当にすまない」
カリウスは不意に立ち止まり、僕に対して目上の人にするかのように、深く頭を下げた。
……もう! こういうところがあるから、コイツを嫌いになれないんだよね。
「いいよ、カリウス。言ってしまったものは仕方ない。道理で最近セレナさんから妙な視線を感じるとは思ったんだ」
僕とリディアが近い位置にいる時に限って、セレナさんがやけにこちらを見ているような気がしていた。
僕の自意識過剰かと思って気にしないようにはしてたんだけど、やはり見ていたようだ。
「なあ、マルクス。バラしてしまった俺が言うのもどうかとは思うんだが、セレナに相談してみたらどうだ?」
「セ、セレナさんに!? 何を相談するのさ?」
「ストレートに聞けばいいだろう? リディアの好きなものや、タイプなど。どうせお前の気持ちは知られてるわけだし、遠慮をする意味がどこにある?」
「ホント、カリウスが言うことじゃないけどね。……でも、そうだな。お前の言うとおりかもしれない」
少し、吹っ切れた気がする。
学生生活も後一年。
そろそろ僕たちも将来の問題が目の前に迫ってくる頃だ。
せめて今のうちに、この想いだけでも伝えておきたい。
「カリウス……悪いんだけど」
「ああ、任せておけ。お前は後悔しないよう頑張ってこい」
「頼む! この紙におすすめの店は書いてあるから」
僕は紙を渡して、一路、ウルヴィス高等学校女子寮へと駆け出した。
◇◆◇
女子寮。
存在は知ってたけど、敷地内に入るのは初めてだ。
すれ違う、寮生だろう女の子たちが、物珍しそうにこちらを見てくる。
思わず目を伏せながら、受付でセレナさんを呼び出してもらう。
すると……。
「あれ? マルクス珍しいじゃん。何の用?」
「もしかしてセレナをデートに誘いに来たの? 高いわよー? 主に私への御礼が」
「なんでマリーナに御礼いるのよっ!」
「あら? セレナはデート行きたいんだ?」
……相変わらずこの二人は姉妹みたいに仲がいいな。
なんとかセレナさんだけを呼び出せないかな?
「あ、あのー。セレナさんだけに相談があるんだ。ちょっと、外出られないかな?」
二人は不思議そうに顔を見合わせるが、すぐにセレナさんが、
「マルクスにしては珍しいね。いいよ。ちょっと着替えてくるから待ってて」
と言って二人して階段を上がっていった。
良かった。
ひとまずセレナさんだけ呼び出せた。
あとは色々聞いて、役立てられれば。
◇◆◇
私とマリーナは部屋に戻るなり、
「絶対リディアの相談だよね」
「あの少し思い詰めた表情はたぶんそうね。一応聞いとくけど、セレナに惚れてるって可能性は?」
「真面目なマルクスが私に? ないない。あいつはもっと地に足ついた女性を好きになるよ」
「そうね。さあ、どうしましょう?」
そうすんなり納得されるのも納得がいかない気もするんだけど、まあいいか。
私とマリーナはリディアからマルクスに変な協力をしないよう頼まれている。
女の約束は重い。
というかまたリディアにくすぐられるかと思うと、どうしてもそれは避けたい。
「リディアのことについてはあまり知らない風で情報を出して、それ以外のことについては普通に話すとかは?」
「それ以外の話なんて出るかしら?」
「うーん、でもリディアのこと考えたら、リディアを売るような真似はしたくないよ」
「じゃあセレナに任せるわ。くれぐれもリディアに恨まれないようにね」
「うっ! ……が、頑張ります」
私が一階に降りると、マルクスがそわそわしてそこにいた。
そりゃそうだよね。
女子寮に来るとか勇気がいったろうに。
今回はそれだけ本気なんだろうな。
なら、私が伝えるのは……あれだけで良さそうだ。
しかし二人で、誰にも聞かれず話せる場所ねぇ……。
あそこしかないか。
私はマルクスを連れ、『やすらぎの甘み』へ向かった。
いつも通り個室を取り、マルクスと二人、対面の席に座る。
……たぶんリディアの件だとは思うけど、こういう場面は緊張しちゃうな。
私は鞄から『沈黙の箱』を取り出し、起動させる。
この部屋のプライバシー保護能力のなさは、何度も経験済みだ。
個室なだけで、防音対策がほぼされてないのだから。
「セレナさん、それは?」
「前にカイル様からもらったの。これ起動させておけば、周りに声聞こえなくなるんだって」
「へぇ、貴族なりの注意ってやつか。すごいね」
まじまじと箱を見つめるマルクスに、私はさっさと話を切り出した。
「マルクスがこの時期に私に相談。リディアのことなら、私に来る理由は一つしかない。……カリウス、やらかしたでしょ?」
「セレナさん、後ろにでもいたの!?」
驚いた表情で小さく拍手をしてくるが、驚くことじゃない。
カリウスの迂闊さを知っているうちらなら、誰でも分かることだ。
「先に言っておくよ? 私はリディアを売るようなことは出来ない。だからそれ以外の相談にしてね」
「えっ! そ、それ以外? そうなると呼び出した意味が……」
頭を抱えて唸りだしてしまった。
まあ私も少し悪かった。
いきなり切り捨て過ぎた。
「ねえ、マルクスはリディアと付き合いたいだけなの? それともその先まで考えてるの?」
「もちろん先まで考えたい。だけど僕たちは立場があって、そこをどうしたらいいか、僕には分からないんだ」
「はぁ、問題点には気づいてるわけね。マルクスはどうしたいのよ」
そう聞きながらココアを口に運ぶが、いつもよりほんの少し苦みを感じる気がした。
「僕は……家を継ぎたい。父さんと母さんが必死に守って育てた工房を守り継いで行きたいんだ」
「リディアだって一緒だと思うけど?」
「だから苦しいんだ! 彼女の想いは同じ跡取りの僕が一番よく分かってる。でも、彼女を好きな気持ちだって本当なんだ! 一緒になりたい、彼女と共に人生を過ごしたいんだ!」
はー、マルクスがここまで情熱的とは知らなかった。
「それ、私じゃなくてリディアに言ってよね」
「あ、ごめん。つい……」
顔を真っ赤にしてマルクスがうつむく。
私向けに言ってないと分かってはいながらも、私もつい頬が熱くなってきた。
魔性の女あたりなら、二人ともカワイイとか言ってからかいそうだ。
「これから言うのは私が工房について思うことだから、マルクスもリディアも関係ないからね?」
私の前置きに顔を上げたマルクスは、不思議そうに頷いた。
「どちらかを潰す前提で考えるから面倒になるのよ。だったら逆に、二つとも残す形を考えればいい。例えば――二つの工房を束ねる上位組織を作るとか」
「なるほど。そこを僕たちが運営するという形にするわけだね」
「私はだれなんて言ってないからね。でもそういう方法だってあるじゃない」
マルクスの顔に、次第に精気が戻ってきた。
まだ迷いからは抜け出せてはいないと思うけど、一つ答えを見つけて希望が見えてきたのかもしれない。
「うん、うん。ありがとう、セレナさん。やっぱり君に相談して良かった。僕はどちらの家も幸せになれる道を見つけたい。それを見つけた時、リディアに告白するよ」
「それまでにリディアが待っててくれるといいねー」
私の言葉にマルクスは急に情けない顔になる。
「えぇ〜、遅いかなぁ」
「知らないよ。でもね、マルクス。あなた優しいばっかりじゃ、女は振り向いてくれないよ? たまにはバシッと決めるところを見せる! そのギャップが大切なんだから」
「へぇ、セレナさん、そういうこと詳しいんだ。なんか少し意外だった」
「……ママの受け売りだけどね」
少し情けない顔になった私の顔を見て、マルクスはププッと吹き出し、大笑いする。
失礼なヤツだ。
せっかく協力してあげたのに!
「ご、ごめんね。でも、セレナさんはそういうのはまだなの?」
「うーん、私はしばらく魔導具だけでいいかな。好きとか嫌いとか、理屈では分かるんだけど、マルクスみたいにどうしても一緒になりたいみたいな情熱はよく分からなくて」
「そうか。……いつかセレナさんにも素敵な人が見つかるといいね」
「ありがと。期待しないで待っとくよ」
その後少し黎明祭の振り返りや、来年の卒業課題などについて話をして、私たちは店前で別れた。
◇◆◇
まずい、予想以上に時間をかけてしまった。
カリウスは無事にクッキーを買えただろうか?
途中から駆け足になってカリウスの家へと向かうと、ちょうど帰る最中のカリウスを捕まえる事ができた。
「カリウス!」
僕の掛け声にカリウスはゆっくりと振り向く。
たぶん研究室の他のメンバーが見ても分からないだろう。
だけど付き合いの長い僕には分かる。
相当不機嫌だ。
たぶんお店でかなりの数の女の子に絡まれたのだろう。
「本当に済まない。やっぱり僕も一緒に行けば良かった」
「いや、いい。これは俺が勝手にセレナへバラしてしまった罰だ。お前のせいじゃない」
「お前は……まったく。僕が許してるんだ。それ以上はもう罰なんか受ける必要はない。お疲れ様、大変だったろう?」
カリウスは紙袋を僕に寄越す。
「ん? カリウス、少し少なくないか?」
「そうか? あの日いたのはセレナ、マリーナ、リディア、ティミナ、クーラだから、五人分で間違いないだろう?」
はぁ〜……。
重い溜息が出てしまった。
「カリウス、覚えておいてくれ。こういう時は、集団に向けて返すから、六人分揃えておかないと、もらえない一人が仲間外れみたいになってしまうだろう? だからこういう個包装じゃなくて、詰め合わせみたいなものでいいんだ」
「そうなのか?」
「もちろん個別でもらったら個別で返すべきだぞ? これは僕が家でまとめて、いくつ買ったか分からないようにするから、あと二種類くらい、安いのでいいから買いに行こう。それなら僕たちは安いクッキー、レオニス先生からは高いクッキーと言えば説明も付く」
こうして僕たちは再びクッキーを買いに街に戻った。
◇◆◇
「いやー、三人ともありがとね。倍の数用意しなきゃだから大変だったでしょ?」
「こら、セレナ。こそっと俺にタメ口を叩くな」
セレナさんとレオニス先生のいつものやり取りを見ながら、僕は心の中で胸を撫で下ろした。
これでなんとか無事にお返しは終わった。
あとは……。
みんながクッキーを楽しんでいるところ、僕はリディアを廊下へ呼び出す。
この時間はこのあたりを通るものはほとんどいないため、とても助かった。
「どうしたの? 何か用?」
「リディア、これは僕から君に」
昨日クッキーを買った店で一緒に購入した、小さなハートの箱に詰められたキャンディ。
制服のポケットに隠していたそれを、リディアへと差し出した。
「今はこれだけ受け取ってほしい。将来のことで答えが出せたら……その時はきちんと伝えるから」
差し出された箱をじっと見ていたリディアは、顔を上げて少し興味なさそうに僕を見つめると、
「私、そんなに気長くないわよ?」
と返してきた。
彼女らしい。
けれどこんなところも好きになってしまったのだから仕方ない。
「それでも構わない。僕がその前に答えを出して見せる」
ほんの少し、リディアの瞳が大きく見開かれた。
いつもの彼女とは、ほんの少し違う。
あまり人に見せたことがない表情を引き出せたことに、僕の胸がすこしだけ温かくなった。
「し、仕方ないわね。少しは頑張ったみたいだし、ちょっとなら待ってあげるわよ」
僕の手から少し乱暴にキャンディの箱を取り上げる。
「ありがとう。必ず……伝えに来るから、待っててくれ」
僕はそれだけ伝えて研究室へ戻った。
◇◆◇
研究室外の廊下。
マルクスが去り、ここには私一人だけ。
さっき手渡された箱を開けると、キラキラと輝くキャンディが入っていた。
一つ包みを破り、口に放り込むと、私が好きなりんごの味がした。
包み紙を見つめて、私は小さく笑った。
「……あいつ、絶対そこまで考えてるわよね」
キャンディの箱を指先で軽く叩く。
「急に……強引なんだから」
胸の奥が、少しだけ落ち着かない。
私はそのまま、しばらく廊下を動けなかった。




