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万年を生きる平和主義ヴァンパイア、いつの間にか世界最強に ~俺が魔王軍四天王で新たな始祖? 誰と間違ってんの?~  作者: 葉月双
ExtraStory

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3話 導師サビナ 前編


「ほう! 導師サビナの地下帝国ですか!」


 エレノアが瞳をキラキラさせて言った。


「ああ。もうたぶん廃墟になってると思うけど、一度、様子を見に行こうと思ってな」

「是非わたくしも一緒に行きたいです!」


 エレノアが両手を広げたので、俺は流れでエレノアを抱き上げた。

 ……あれ?

 なんで父親みたいに抱き上げてんだ俺は。

 そしてエレノアも、なんで俺が抱っこしてくれると思って手を広げたんだ?

 まぁ、細かいことはいいか。


 俺は【ゲート】を使って、サビナの地下帝国の入り口付近に移動した。

 結界があるので、直接帝国内に【ゲート】することはできない。

 少なくとも、2000年前はできなかった。


「なんですか、この凄まじい結界は……」


 俺の腕の中で、エレノアが結界を見上げて言った。

 ここはとある大陸のとある山脈の谷間。


「えっと、魔法防御、目くらまし、物理防御、あと何か他にもあったかもな。忘れた」


「魔王城の結界より強固ですね……」エレノアが引きつった表情で言う。「さすが導師サビナ……こんな結界、誰も破れませんね」


「いや、壊そうと思えば壊せるぞ」

「アルト様はそうでしょうね!」


 平均的な大人のヴァンパイアならみんな壊せると思うけど、言わなかった。

 どうであれ、今のエレノアには壊せないし、この結界の主な役割は目くらましだ。

 地下帝国の入り口を隠蔽することが最大の目的。

 目の前まで来なければ、ここに結界があることすら気づけない。

 防御力よりも、ステルス性を優先した結界なのだ。


「……それでアルト様、どうやって入るのです?」


「入る方法は2つある」俺が言う。「1つは、さっき言ったように壊して押し入る」


 もちろん、平和主義者の俺はそんな強硬手段は選ばない。

 特に友達が作った結界を壊したくはない。


「2つ目は、サビナの魔力に反応させればいい」


 俺はまず、抱いたままのエレノアを地面に下ろした。

 そして右手を結界に近づける。

 正しくは、俺の手袋を近づけた。

 そうすると、結界の一部に穴が空く。


「何に反応したのですか?」


 エレノアが不思議そうに俺を見上げた。


「ん? この手袋、実はサビナに貰ったんだ」


「そうだったんですか……」エレノアが複雑な表情で言う。「そういえばアルト様は、その手袋をいつも装備していますが……」


「ああ。かなりいい装備だからなぁ。色々と付与されてるし、それに」俺は手袋を見ながら言う。「サビナの血で錬成されてるんだ」


「ほう! わたくしたちにとって、血とは魔力そのもの! 結界が反応するわけですね!」

「そういうこと。行くぞ」



(もしかして導師サビナとアルト様は、恋人だったのでは?)


 だから今でもアルト様は手袋を使い続けているのではないか、とエレノアは考えた。


(まぁ、サビナ亡き今、アルト様の伴侶はわたくししかいないわけで)


 アルトが結界内に足を踏み入れたので、エレノアも続く。


(そもそも、わたくしは昔の女に嫉妬するような心の狭いクイーンではないっ! 仮にサビナが生きていたとしても、わたくしは上手くやれるはず! そう、わたくしが正妻、サビナが側室という感じで! なんならサビナに魔王と勇者を始末してもらえば……)


 エレノアが妄想を膨らませつつ歩いていると、目の前に洞窟が出現した。

 アルトはスタスタとその中へと入った。

 もちろんエレノアもそれに続く。

 洞窟は下り坂になっていて、しばらく進むとらせん状に下へと向かった。


(人工的な洞窟で間違いない)


 自然の洞窟はこんな規則的な形にならない。

 洞窟内に照明は1つもなかったが、ヴァンパイアであるエレノアの視界は良好である。

 かなり深くまで歩くと、洞窟は平坦で真っ直ぐになった。

 そしてその先に大きな扉があった。


「この先が地下帝国だ。まぁ、さすがに住民はもういないだろうけど」


 アルトが扉の前で立ち止まり、肩を竦めた。


「この扉……とても頑丈そうです」


 エレノアはコンコンと扉を叩いてそう言った。


「そう思うよな? でもこれ、サビナの魔法で、幻だ」


 アルトの言葉に、エレノアは仰天した。

 これほど精度の高い幻など見たことない。


「幻だって分かってりゃ、そのまま素通りできるぞ」


 アルトは言葉の通り、扉をすり抜けた。


「ま、待って下さい!」


 あとを追おうとして、エレノアは扉に顔をぶつけた。


「痛いっ!」


 エレノアは顔を押さえる。


「……ぐぬぬ……幻だと思えない……」


 呟くと、アルトがぬっと扉から出てくる。


「しょうがねぇなぁ……目をつぶれ」


 アルトは苦笑いしつつ、エレノアの手を握った。

 そしてエレノアの手を引いて、再び扉をすり抜ける。

 目をつぶったままのエレノアも、今度はすり抜けることができた。


「開けていいぞ」とアルト。


 エレノアが目を開くと、そこは普通に地上のように見えた。


「え?」


 街というほど大きくはないが、アルトの村より少し規模の大きなそこは、色々な種族が普通に生活をしていた。


「まさか地下帝国が健在だとは俺もビックリだ」

「え? えっと、植物が普通に育っていますね……」


 少し離れた場所には、小さな山、川らしきもの、泉なんかも見える。

 そして何より。


「太陽……?」


 エレノアは空を見上げ、そしてフードをかぶった。

 空はとっても青く、なんなら白い雲まで浮いている。


(ここって地下なのでは?)エレノアは思考する(それとも、どこかに転移したのか?)


「あれは魔造太陽だ」とアルト。


「魔造太陽!?」


 エレノアは驚いて少し身体が揺れてしまう。

 少なくとも、魔造太陽を作るには白炎を操る必要がある。

 文献にほんの少しだけ記述が残っているという程度の、超古代魔法。


「作る時、俺も協力したんだ。懐かしいな」

「そ、そうですか……」


 つまり、サビナと2人でこれほどの物を作ったと?

 神々ですか? とエレノアは思った。


「空は幻だけど、ちゃんと雨が降ったりするんだぜ?」

「ほ、ほう……さすがですね」


 もう何がどうなっているのか、エレノアにはサッパリ分からない。

 エレノアがやや混乱していると、1人の青年が飛んで来た。

 その青年はエレノアたちの前に着地。

 あ、こいつヴァンパイアの眷属だ、とエレノアはすぐに分かった。


 青年は銀髪ロングで、かなり華奢だった。

 女性みたいに見えるが、男性。

 見た目年齢は、人間だと20代前半。

 黒くて長いコートを羽織っている。


「アルト様、お久しぶりです」

「よぉマイルズ。元気か?」

「普通です」


 マイルズと呼ばれた青年眷属は、柔らかな笑みを浮かべた。


「そっか。サビナが死んだって聞いて、様子を見にきたんだ」


「なるほど、そうでしたか」マイルズが言う。「しかしながら、死んだとは少し語弊がありますね」


「ああ、えっと、ニルヴァーナだっけか?」


「ええ。そうとしか考えられません。実際に見た方が早いでしょうが……」マイルズがエレノアに視線を向ける。「こちらのお嬢ちゃんは?」


「こいつはエレノア。最後のヴァンパイアクイーンだ」


「クイーンでしたか」マイルズが胸に手を当てて、お辞儀する。「僕はサビナ様の眷属で、マイルズと申します」


「うむ。わたくしはエレノアだ」


 エレノアは胸を張って、なるべく偉そうに言った。

 なぜならクイーンは偉いからだ。

 眷属に舐められるわけにはいかない。


「では早速、付いて来てください」


 そう言って、マイルズが飛ぶ。

 アルトとエレノアもあとに続く。


「それにしても、本当に地下に町があるとは」


 世界は広いなぁ、とエレノアは思った。


「サビナ様がニルヴァーナに至ってからは、多くの者が外の世界に出て行きましたがね」


 マイルズが寂しそうに言った。

 とはいえ、そのおかげでエレノアたちはサビナの噂を知ることができたわけだが。



 サビナの家である小さい塔に入って、その地下へと案内された。

 そうすると、地下室でサビナの死体が結跏趺坐(けっかふざ)の姿勢で維持されていた。

 サビナの身体は部屋の中央にあって、部屋の隅にはサビナの好きだったピアノが置いてある。


「聖属性!?」


 俺は驚いて言った。

 サビナの身体から、聖属性を感じたのだ。

 なんてこった、ヴァンパイアにあるまじき属性だぞ。


「な、なんて清浄な魔力……」エレノアが俺の後ろに隠れた。「アンデッドを辞めていますね……」


「一体、なんだってサビナはこんなことに……」と俺。


「サビナ様は8000年もの間、処女を守り、ニルヴァーナに達し、聖処女となったのだと思われます」マイルズが言う。「よって、その精神は次元上昇を起こし、清廉な肉体のみが残されたのです……たぶん」

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