1話 不良少年アルト
『ExtraStory』は1~2話で終わるような
短い小ネタ的な話を投下していきます。
「アルト様の子供時代は、どんな感じだったんです?」
夕食を頬張りながら、エレノアが言った。
ここは俺の家の食堂。
「ん? 急にどうした?」
「いえ、ふと気になっただけです。わたくしのご先祖様であるウルバーノとも仲良しだったのでしょう? 何か面白いエピソードはありますか?」
言われて、俺はウルバーノのことを思い出す。
「そういやあいつ、見た目はエレノアにソックリだな」
「ほう! ではかなりの美形ですね!」
こいつ!?
自分を美形だと認識していやがる!
って、ヴァンパイアは基本的にみんな整った顔なんだけどな。
おかしいなぁ、俺も整ってるはずなんだけどなぁ。
なぜか怖がられるんだよなぁ。
「エレノアの髪色をもっと薄くして……そうだな、プラチナブロンドって感じの色にして、あとは爽やかに笑えば、子供時代のウルバーノだな」
「ほうほう! うちの父も金髪でしたので、血筋なのでしょうね!」
エレノアはどこか誇らしげに言った。
◇
万年ほど前。
とある湖の畔。
「おいアルト、お前はまだ平和だとか言ってるのか?」
レーヴァテインを振り回しながら、300歳前後のウルバーノが言った。
ウルバーノの見た目はほとんどエレノアである。
スカートではなくズボン、という点だけが大きく異なる。
ちなみにレーヴァテインは俺たちが邪神ババアの家から勝手に借りてきた。
大丈夫、ちゃんとあとで返す。
「アルトきゅん、マジ反社」
爪を塗り塗りしながらそう言ったのは、ヴァンパイアギャルのニコルだ。
ニコルは赤毛に金色の瞳。
太陽避けのローブの下は、お腹が見ている丈の短い黒のノースリーブに、同じく黒のミニスカート。
足には黒のルーズソックスと踵の高いブーツ。
「大人たちに真っ向から反抗するアルト君……カッコいいよぉ……」
頬を染めながらクネクネと身体を動かしたのは、比較的、俺と考えの近いヴァンパイア少女サビナ。
サビナは薄ピンクの髪をツインテールに結んでいて、ローブの下はなんか俺の服と似てるブラウスとズボン。
てゆーか、俺の服じゃね?
いやまさかな……。
「平和に長生きするのが俺の夢なんだが……」
地面に座って、ウルバーノを見ながら俺。
俺たち4人はみんな300歳前後で、いつも一緒にいた。
なんせ、ほかの同世代はみんな死んでしまったから。
太陽光チャレンジや聖水チャレンジで。
親子喧嘩や他種族との喧嘩で死んだ奴もいたか。
「おいおい、勘弁しろよアルト」ウルバーノが言う。「不良は200歳で卒業しろよ。お前は俺様の右腕になる予定なんだからな」
「なんでだよ。俺は将来、辺鄙な田舎の村に引きこもって暮らすんだ」
ヴァンパイアたちとはおさらばして、人間たちと暮らす予定だ。
なんせ、人間の方が俺の考えに近いんだよなぁ。
「アルトきゅん、マジもんの反社で笑えるぅ」
「カッコいい……不良なアルト君カッコいい……」
「いや、別に反社でも不良でもないんだけどな……」
俺は苦笑いしつつ言った。
どうやらヴァンパイア社会で、俺は不良扱いされているらしい。
いや、前々から分かってはいたけれど。
俺の言動はかなり反社会的らしいのだ。
うーん、やっぱり将来は人間と暮らそう。
人間社会なら、俺は反社でも不良でもないはずだ。
「やれやれ」
ウルバーノが肩を竦めてから、レーヴァテインを俺に投げる。
俺はサッと立ち上がってレーヴァテインの柄を握る。
魔力を送ると、レーヴァテインが変形。
うーん、カッコいい。
「邪神ババア、これ俺にくれないなかな?」と俺。
「いやさすがに無理だろ」とウルバーノ。
俺はレーヴァテインを振り回し、変形させ、十分に堪能した。
「ねぇねぇ」ニコルが言う。「その武器ってぇ、チョベリグじゃん? そんで、世界を焼き尽くすっしょ? アルトきゅん、やってみてよ」
そんな強力な武器を、近所のおばちゃんが持ってるわけねぇだろ。
俺はそう思ったけど、あえて言わなかった。
「そこの湖で……」サビナが湖を指さす。「試してみたら……?」
「いいじゃん。やってみろよアルト」とウルバーノ。
「まぁいいけど、期待すんなよ?」
俺が魔力を込めると、レーヴァテインの刃が炎に包まれる。
見た感じ、やっぱ世界を焼くには弱い。
使用者の俺が平均以下のヴァンパイアだから、余計に弱いのかもな。
「……すご」と目を丸くするニコル。
「……カッコいい」とサビナ。
確かにすごくカッコいい!
それは俺も同意!
「早く振ってみてくれよ!」とウルバーノ。
俺がレーヴァテインを一振りすると、炎だけが飛んで行き、湖に衝突。
瞬時に湖を蒸発させる。
うーん、やっぱ威力はこんなもんかぁ。
でもマジでカッコいいな。
いつか邪神ババアが死んだら、形見分けみたいな感じで俺の物にならないかな?
まぁ、俺と邪神ババアってそんなに仲良くないけど。
「マジかよ……すげぇ」
ウルバーノが酷く驚いた風に言った。
「ああ、威力は微妙だけど、すげぇカッコいいよな」と俺。
「「え?」」
俺以外の3人が目を丸くした。
「え?」
俺も目を丸くした。
こいつら何で「え?」って言ったの?
◇
(アルト様、普通、湖は蒸発しません!)エレノアは心の中で突っ込んだ。(わたくしがその場に居ても「え?」って言いますよ! 威力、全然、微妙じゃない!)
◇
万年ほど前のある日。
「あんた! あたしのお尻にタッチするとはいい度胸じゃないかい!」
邪神ババアはウルバーノをぶん殴った。
ウルバーノは遠くに飛んで行った。
「……だから『それは止めなぁ』ってニコル言ったのにぃ」とニコル。
「度胸試しで死ぬダメキン……カッコ悪い」とサビナ。
なぜこんなことになったのかと言うと、単純に「度胸試しをしよう」という話になって、ウルバーノが邪神ババアのお尻を叩いたのだ。
正直、ドラゴンに蹴りを入れるようなものだと思うよ、俺は。
種族は知らないけど、邪神ババアは普通に怖いし、普通に強いのだ。
大人のヴァンパイアたちですら、邪神ババアには一目置いている。
「まったくあんたらときたら……」
くどくどと邪神ババアに説教される俺たち。
この前もレーヴァテインを持ち出したことがバレて、ぶっ飛ばされたんだよなぁ。
「最強世代ってか、最強のバカ世代だねぇ……」
邪神ババアは長生きなので、色々なヴァンパイアを見てきたみたいだけど、その中でも俺たちは最高におバカらしい。
なんてことだ。
◇
またある日。
「あー、俺は戦いとかしたくねぇんだけどぉ……」
俺は広っぱに大の字に寝転がって言った。
ちなみに、ウルバーノ、サビナ、ニコルは戦いゴッコをしている。
ちなみに俺は4人の中で一番弱い。
サビナが平均で、ニコルがちょっと強くて、俺がちょっと弱い。
ウルバーノはキングのくせに俺とあまり変わらない。
「おいアルト、戦いは俺様たちの本質だぞ」とウルバーノ。
分かっている。
ヴァンパイアは大人も子供も戦うのが大好きだ(俺以外)。
故に、こんな戦いゴッコをしてるわけで。
俺はしたくないけど!
「平和にのんびり生きていたいっ!」
俺は自分の欲望をぶちまけた。
「やっぱりアルトきゅん反社~」
ウルバーノ、サビナと戦いながらニコルが笑った。
「アルト君! わたしが、アルト君とその……平和に暮らすための……」サビナが言う。「帝国を……作ってあげるよ? きゃっ……言っちゃった。わたしも今日から不良……」
「帝国とかいらんが!?」と俺。
田舎でのんびりが好みだが!?
くっ、俺と一番気の合うサビナですら、支配者気質!
よし、400歳になったら旅に出よう!
そして自分で安住の地を探そう!
◇
「で、見つけたのがこの村ってわけ」
そして俺は人生の8割をこの村に引きこもって過ごした。
「なるほど。そうだったんですね」エレノアがうんうんと頷く。「ウルバーノの妻ニコルや、導師サビナまで幼馴染みとは恐れ入りました」
「導師サビナ?」
なんだその通り名。
「ええ。サビナは純潔を保ったまま長く生き、ニルヴァーナに達してこの世から消えたとか」
マジで!?
俺、最後に会った同族ってサビナなんだけど!?
2000年ぐらい前。
てかあいつ、アンデッドなのに悟っちゃったの?
悟ってどっか消えちゃったの?
前代未聞だぞ。
てかサビナの地下帝国、大丈夫か?
今度、様子を見に行ってみるか。




