4 一ノ瀬
翌日は、高校二年に上がってから初の登校日だった。
俺の通う公立水ヶ森高等学校も、世の一般的な高校の例に漏れず、始業式が行われる。
身支度をしながら、昨日の事を思い出す。
昨日は、あれから一度も『魑魅魍魎』をプレイしなかった。
時間が中途半端になりそうだったからだ。
結局就寝時間まで、もはや習慣化されているラジオ視聴と、スマホゲーのデイリー任務の消化だけやっていた。
昨日の『VRデベロッパーコメンタリーFM』にも、先日のラジオDJ・シノミヤは出演していたらしい。
“らしい”というのは、もちろん、どこからともなく最後の挨拶にだけ現れた彼のミスディレクションを評しての事だ。
昨日、初めてシノミヤ氏がラジオ番組を二つ掛け持ちしているのだと知った。
だからどうという事もないのだが。
4月のうららかな日和の下、身支度を終えた俺が朝の通学路を歩いていると、前方の脇道から、見覚えのある男子生徒が視界に入る。
一ノ瀬マオだ。
一ノ瀬は日本人とフランス人のハーフで、その母親譲りの白色寄りのブロンドヘアーは、嫌でもその生徒が彼であると認識させられる特徴の一つだ。
「ん? あ、おはようー。カオルー」
何気なく後ろを振り向いた一ノ瀬が、そこにたまたま居た俺に気がつく。
彼は、軽く手をふって声をかけてきた。
「あー、おはよー」
「ぷふっ。…なんかさ、新年度でもカオルの気の抜けた感じは相変わらずだね」
俺と一ノ瀬は、接点が無い。
だがそれは、一年の時のクラスメイト達に対しても、お互いに同じだった。
俺はクラスメイト達と馴染めていなかった。
一ノ瀬も馴染めていなかった。
結果として、馴染めていない者同士、二人組を組まされる際は、よく顔を合わせる事が多かったのだ。
不愛想でぼっちを極めてるような人間と、窓辺の席にでもそっと置いておきたくなるようなハーフ系美少年。
どういう取り合わせで俺が彼と並んで歩く程度に仲良くなったのか、正直俺自身にもよくわかっていない。
気が付いたら仲良くなっていたらしい。
「というかさ、カオルはまだエオネオ再開しないわけ? ずーっと、俺待ってるんだけどなー」
「今のところ、予定無いな」
「そっか。…うーん、せっかく買ったのに勿体無い気がしないでもないけどなー」
そう。
俺にVRゲームを勧めてきた張本人が、この一ノ瀬マオだ。
一ノ瀬は俺と一緒にエオネオをやりたかったらしい。
「VRゴーグルも無駄になっちゃうじゃん」
「ハードのほうは使ってるけどな」
「え!?」
俺のセリフを聞くなり一ノ瀬は、何!?何のソフト遊んでるの!? と割と食い気味に質問してきた。
そんなに人の遊んでるゲームが気になるのか。
それとも、やっぱり一ノ瀬はネット界隈で言うところの『フリップ系』なのかもしれない。
フリップ系とは、VRゲームを遊んでるユーザーに対し、「エオネオやらないなんて頭おかしい」「エオネオが一番面白いんだから、やれば?」と、さほど興味を持っていない者にまでエオネオを押し付けてくる迷惑で狂信的な人達の事を指すネットスラングである。
ちなみにこの『フリップ』とは、エオネオの初イベントで登場したネタ敵キャラクターの名前であり、【EoNeo最高かよ!!】と大きく書かれたフリップをプレイヤーにいくつも投げつけてくる敵のことらしい。
まさしくネット界隈にはフリップ系VRゲーマーが一定数いる。
この皮肉の効いた蔑称が秀逸で、そこまでハマらなかった俺でもこの単語は知っているというくらいである。
以前ツイッターで、エオネオユーザーが【EoNeo最高かよ!!】と書かれたフリップを、それ以外のソフトで遊んでいるユーザーにいくつも投げつけてくる、という迷惑極まりない描写の4コマ漫画がバズっていた。
両者の溝は、きっといつまでも埋まらないだろう。
「新しくライエクから出た『魑魅魍魎』ってやつ。わかる?」
「あー。パッケージは見たことある。やった事ないけど、カオルそっちにハマってるの?」
「うーん。……お試し中?」
「お試しかよ。(笑) お試しでソフト買っちゃうとか、富豪か何かか。俺、近頃新作チェックしてなかったからなー。実況動画とか上がってないの?」
「新作だからまだそんなに――――」
一ノ瀬とVR雑談を繰り広げているうちに、学校に到着。
始業式中も、場所が近かったのでそのまま雑談を続けていた。
話しているうちに、一ノ瀬も『魑魅魍魎』をやってみるという流れになったが、どうせ話半分だろうと思う。
やるという言葉に確約はない。
今日もまた、帰宅後はエオネオの世界に没入している事だろう。
それから午後は普通に新年度一日目の授業を終えた。
夕方に帰宅した俺は、夕飯や入浴を済ませると、また『魑魅魍魎』の世界へ飛び込んでいったのだった。
―――――――――― ――――――――――
前回のように、ゲームスタートから『極楽浄土』へ移行する。
今度は、前回ログアウトした場所からのスタートとなっていた。
【フランさん。本日も宜しくお願い致します。】
(ああ、ナビ子さんよろしく)
さて、前回はチュートリアルをこなしただけで終わってしまった。
色々と気になる要素もあるが、とりあえず敵を倒す手段として、魔法を使うのが魔族としてはセオリーなのかもしれない。
アクションコマンドの【ダークネスウィンド】を改めてよく見てみる。
すると、ダークネスウィンドという攻撃の名前の下に、白いゲージが付いている事に気が付く。
(ナビ子さん、このゲージって何?)
【それはアクションコマンドの経験値ゲージです。
アクションコマンドを使用した際、それぞれのコマンドを使用した分だけ経験値が蓄積されます。
一度目の初心ゲージが一杯になると、アクションコマンドの項目を開かなくてもコマンドを「技」として発動させられるようになります。
二度目のゲージも一杯になると、レベルが付与されるようになっていきます。】
一度目のゲージは、チュートリアルとしての経験値ゲージって感じなのか。
しかも、その後はレベル制になっていく。
使えば使うほど強くなっていくらしい。
ダークネスウィンド乱発するしかないなこれ。
という事で、早速受注するクエストを探すことにした。
掲示板に貼られてあるクエストの中でも、初心者(もといレベルの低いアバター)は【初級クエスト】しかまだ受けられないらしい。
レベルが上がれば受けられるクエストが増えていく、オーソドックスな仕様のようである。
<受注するクエストを選択してください。>
【初級クエストNo.1 あずき洗いの撃退】
【初級クエストNo.2 濡れ女子の話】
【初級クエストNo.3 夜道怪からこどもを守れ!】
【初級クエストNo.4 ――――――――――】
…………
初級クエストはざっと10個ほどあり、そのどれも自由に選べるようだ。
No.1のあずき洗い撃退は、チュートリアルと同じ内容のクエストだが、ナビの話では、こちらのクエストでは経験値が手に入るらしい。
チュートリアル段階では、まだ経験値をもらえない仕様だったという事である。
チュートリアルで思いだしたが、手に入れた【初心のスカーフ】とはなんだったのだろうか。
気になりだした俺は、おもむろにステータス画面などから、手に入れたアイテムの一覧へ繋がるボタンは無いだろうかと探しはじめた。
これかな?
アイテムと書かれた項目を押すと、やはりそこに所持アイテムが一覧となり表示される。
その中に当然のように【初心のスカーフ】が表示されてあった。
【初心のスカーフ(装飾品)】
【効果:体力の現在値が50%以下になると、現在値50%まで微かに自然回復する。】
微かに回復、ってのがショボいが無いよりマシの精神だな。装備しておこう。
【フラン・グレースは 初心のスカーフ を装備した。】
さて、とりあえずザッと初級クエストの内容にそれぞれ目を通したが、一番簡単そうなのは、やはり【初級クエストNo.2 濡れ女子の話】っぽいな。
クリア条件が、【話を最後まで聞く】だけだしな。
チュートリアル中のチュートリアルっぽい。
ナンバリングの若い順に簡単というセオリーもあるし。
クエストを引き受けたと同時に、またしても視界暗転。
すでに確認済みのクエスト内容が、数十秒の間映し出された。
【初級クエストNo.2 濡れ女子の話 が受注されました。】
【制限時間:50分】
【ステージ:バス停(雨)】
【クリア条件:濡れ女子の話を最後まで聞く】
【失敗条件:行動不能状態、またはクリア条件を満たさないと判断される言動】
【初回クリア報酬:600ノーツ】
【獲得経験値:200Exp】
話を聞いてクリアって、よく考えたら【ダークネスウィンド】使う機会なくね?
……次!この次のクエストで使おう。
(ん? それより、よく見ると失敗条件ってのが追加されてるな。チュートリアルの時はなかったのに)
俺の疑問にナビ子さんがすぐ答える。
【チュートリアルクエストに失敗条件はありません。
初級クエストをはじめ、チュートリアルクエスト以外のすべてのクエストには、失敗条件というものがあります。
その条件を満たすと、クエストから強制退場させられますので、ご注意ください。】
そういう事はチュートリアル段階で教えてほしかったね。
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