3 種族
あずき洗いを倒し、チュートリアルを終えた俺は、目の前の門から都市部へ入ることにした。
門には駐在の男がいたが、こちらから話しかけない限り、向こうから話しかけてくるという事は無さそうだった。
スルーして、中に入ろうと思えば入れるな。
ただ、一つ気になる。
あの男のわずか頭上に、半透明の青いインターフェース画面が浮き出ている。
いわゆる“ふきだし”マークに、「……」という三点リーダの表示。
話すことがありますよ、というアピールだろうか。
よくRPGやアクションゲームにも使われる手法だ。
(あの男に話す必要はある?)
【それはあなたの自由です。話しかけず、特に不利益を被ることはありません。】
(へぇー…)
まあそうだよな。
VRMMORPGは大抵高い自由度が売りの一つだ。
可能な限り、こうしたNPCとの絡みは省かれる傾向にある。
それにしても、結構な大きさの門だ。
俺は、脇の男のことは見ないようにしつつ、目の前にそびえ立つ大きな門を見上げていた。
俺の身長が、現実世界と変わらない170cmくらいのアバターだろうと予測されるから、相対的に見て門はゆうに5、6メートルくらいはありそうだ。
城郭都市なのだろう。門の左右は、その門よりも背の高い頑丈そうなコンクリート系の壁が続いている。
それだけ大きな門だから、開けるのはよほど苦労するかと思われたが、当然のように人間サイズの者が出入りする専用の、背丈に合わせた扉がついていた。
小さくもドッシリとした重量のある扉を開ける。
扉の内側に入ると、目の前に大通りが伸びている。
大通りの先は、都市のさらに中央まで繋がっているのだろうと思われた。
大通りには様々なお店が連なっていた。
通りすがりに利用する者も、その店を営んでいる者も、皆等しくこのゲームで言うところの怪物であるらしい。
“人間”と表現できる容姿の者は、あまり見掛けない。
ちなみに、俺の“魔人”の姿も、“人間”の姿にはちょっと見えない。
肌は全体的に青白くて不健康そうだし、右瞼の上から、皮膚を裂くようにしてニョキっと角が生えているのだ。
両方の耳たぶに時折白く反射して光る、小指の先端大くらいの宝石のようなものが埋め込まれている。
(もしかして、肌が白いのは『欠損』の血液不足のせいなんじゃ…)
【それは正解です。】
俺が考え出した疑問や推測に、ほとんど反射的に音声ナビが答えてくるんだよな。
少し怖い。
(へぇ…)
【アバターの外見は、『欠損』によるステータスの変化にも影響を受けます。
フランさんの欠損は血液ですが、他のプレイヤーにも当然ながら欠損があり、それらが外見的特徴として現れている場合も珍しくありません。
しかし、初めにお伝えした通り、このゲーム内では、それらを補う方法が存在しています。】
(なるほどな…。ん? 待てよ。という事はだ。補う方法が無い部位が欠損してる事は無い、ということか。)
【……そうとも言えます。『欠損』というマイナスステータスは、いわばこちらからプレイヤーに課している物。足枷です。
補いようがないものをアバターの『欠損』に指定したりはしていません。
ですから、例えば片足が欠損している、というアバターは存在しません。
片足を補う方法は、このゲームには現在未実装ですから。】
(わかりやすっ。ナビ子さんは親切ですね)
【親切というより、これが私の仕事ですので。
それより、ナビ子さんとは……?】
(いやー、それにしてもこれからどうしようかな)
音声ナビゲーションなので、これからはナビ子さんと呼ばせてもらおう。
ナビ子さんは反応に困っていたようだが、俺が完全スルーを決め込んでいたので、それ以上の言及はしてこなかった。
大通りを進んでいくと、少し開けた広場に当たる。
広場の中心には、名前のわからない綺麗な花が咲き揃っている。現実世界で俺が見たことのない花々だ。
単に俺が花に無知だという可能性もあるが。
その花畑の一画に、大きな掲示板が立てられてあり、そこにプレイヤーと思われる者達が集まっていた。
「うーん、次は何受けよっかなー」
「おい聞いたか!? No.12の『言霊使い』がヤバすぎるらしい」
「ねー、そろそろ私達もちょっと上のナンバリング受けてみないー?」
「いや、ある程度同じクエストをこなして、装備とか整えてからのほうが―――」
「――――――――――。」「―――――! ―――?」
皆それぞれ、思い思いの会話をしているらしい。
掲示板の前は、ガヤガヤとした賑わいを見せている。
掲示板には、どうやら自由に受注できるクエストの依頼書が貼り付けられてあるらしい。
内容、場所、実行希望日、制限期間、報酬。
そういった詳細が、一件一件書いてあるようだ。
遠目からだが、群衆越しに俺にも見える。
「あれ? 依頼主が書いてない奴もあるけど、……書き忘れか?」
【それは、依頼主が非公開のクエストです】
「依頼主が非公開だって?」
【依頼主だけでなく、依頼理由についても、開示義務はありません。
プレイヤーでも、NPCでも、クエストを作る際に依頼主がそれを決めます。
ただ不文律として、開示した方が良いとは言われています。
素性のわからない者のクエストを受けるという事は、様々な観点からリスキーな事ですからね。
依頼主の名前や素性が非公開だと、クエストを受けてくれる人が現れなかった、という事態も容易に起きるのです。】
なるほどな。
保身も、度が過ぎると他のプレイヤーが見向きもしてくれなくなるわけか。
その辺りのさじ加減は、ある程度やり込んでみないと掴めなさそうである。
【無論、それは通常のクエストと変わらない場合に限りですが】
(え?)
【通常のクエストよりも、報酬に、高い金額・珍しい装備などが設定されている場合は、その例に納まるとは限りません。やはり怪物の皮を被っていても、プレイヤーは人の子。依頼主の情報が不明であっても、報酬や、何かしら普通のクエストよりも“おいしい点”があれば、話は変わってきますからね……。】
(この怪物たちが、“人の子”ねぇ‥…)
目の前の掲示板でわちゃわちゃと賑わっている群衆。
これが全員、NPCではなくプレイヤーだとわかるのは、頭上にある青色のアイコンが目印になっているからだ。
軽く指先でそのアイコンをクリックすると、名前と体力ゲージくらいは覗き見する事が出来る。
その他は、フレンド登録と、個別メッセージの送信ボタンだけがそこにある。
あれは……?
群衆の中には色々な怪物がいた。
俺は、視界に映る彼ら各々のアイコンをいじってみていた。
すると、面白い事に気が付く。
傍からインターフェース越しに他人のアイコンをクリック。
すると、先ほども言ったが、名前と体力ゲージがわかる。
だが、稀に種族名までわかる者がいる。
これは、個人で開示設定が出来る項目なのだろう。
(俺は、俺自身のプロフィールの開示設定を行ってなかったから、どんな仕様で、今どんな風に見られているか、後で確認する必要があるが…。)
【プロフィールの種族名は、初期設定のままなので周囲には伏せた状態になっています。】
(……へー。そうなんだ)
もう段々慣れてきたな。このナビ子さんの返答速度に。
(しかし、プロフィールで何人か種族が確認できると、他のプレイヤーのアバターが伏せていても、大体種族の見当がつき始めてくるから面白いな。)
もののけ族と、幽体族。この辺りは初見で「ああ、そっちの種族だな」と察することの出来る見た目の者が多い。
もののけ族は、キツネやタヌキ、ウサギや犬、猫など、既に現実世界で見知っている動物達が、その姿を変異させたものという大きな共通点があるようだ。
次に幽体族だが、こちらも結構わかりやすい。
幽体族に属している者は、地面に足を着けていられないらしい。
種族が“幽体族”となっている者は、俺の見たところ皆ふわふわと浮いている。
いや、種族名を隠していて足をついている、という者が、居ないとは言い切れないので、あくまでこれは俺の推測になるわけだが……。
(幽体族って、地面に足を着けないのか?)
【いいえ。幽体族でも、他の種族のように、地面に足を着く事は可能です。しかし、彼らは特別で、足を着いている間は微量ですが魔力を消費します。】
(浮いている方が自然体、という感じか)
……ふむふむ。中々ユニークな種族だな。
【彼らは幽体ですので、当然、普通の物理攻撃が一切利きません。
おそらく、チュートリアルクエストのクリアがもっとも容易だった種族だと言えます。
あずき洗いは、物理攻撃の“突進”と“あずき砲”しか攻撃手段がありませんので、倒されるリスクがゼロに等しかったと思われます】
(へぇ! そうなのか。幽体族、中々侮れないな。)
【魔力量は二番目に低い種族ですけどね。】
(それを言うなよ。わかってたけど!!)
他、妖族と魔獣族、魔族と天人族に関しては、確認できた者がそれぞれ一人、二人くらいしかおらず、まだまだ判別出来そうもなかった。
皆、個性が強いように思え、同じ種族内でも一様にその個体と同じ性質を持つのか、その個体だけが特殊なパターンなのか、そうした判別がつかなかった。
魔力量が最高レベルの天人族に関しては、一人も見つけられていないし…。
(ん? というか、今何時だ?)
【現在の極楽浄土は、午後3時30分です。また、現実の日本時間は、午後7時24分です。】
結構時間経ってるな。
夕飯とトイレにしたほうがいいか。
VRゲームの注意点として、空腹や排泄の問題がある。
VRゲーム(特にフルダイブ式)は、人間の五感などがゲーム内に没入する。
そのシステムの都合上、現実世界における空腹感や、尿意などの排泄に関わる感覚も、全てシャットダウンされている。
そこで、ゲームログインから最長でも4、5時間置きにログアウトしておく事が推奨されている。
そうしないと……当然、そうしなかった場合の“惨事”が待ち受けている。
過去、VRゲームにのめり込みすぎて餓死した者もおり、それがニュースとなり、問題視される時期もあったくらいだ。
(ログアウト…っと。)
視界の右下隅に設けてあるスパナとレンチのアイコンが、このゲームのセッティング項目のようだ。
そこからログアウトボタンを選択。
次の画面が表示される。
―――――――――――――――――
本当にログアウトしますか?
done cancel
―――――――――――――――――
done(完了)を押し、画面が徐々にブラックアウトしていく。
ふぅー…。
VRのホーム画面に戻り、俺は現実世界の五感を取り戻す。
案の定、かなりの空腹感と尿意が襲ってくる。
(結構危なかったかもな…ハハハ)
VRゴーグルの電源を切り、頭から外すと、部屋の外がもう真っ暗で少し溜め息が出る。
俺は急ぎ足でトイレへと駆け込んだ。
【作者からのお願い】
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