2 欠損
【あなたのステータス画面にも、種族の下に、欠損の項目があるはずです。それが、あなたのアバターに課せられた半永久的課題、『欠損』です。】
(欠損…。ああ、あった。これか)
ナビに言われた通り、種族の項目に再び目をやる。
種族:魔族
階位:魔人
欠損:『血液』
欠損詳細:プレイヤーの血液が著しく欠かれた状態となります。血液の消耗方法やその補充手段、プレイに与える影響に関しては、音声ナビにてご案内がございますので、ご質問ください。
欠損の項目には、その詳細について書かれてある項目もあった。
音声ナビに聞けと。
(というか、『血液』…? 何、俺吸血鬼みたいな存在にでもなってるの? 魔人らしいんですけど)
【『血液』は、あらゆる場面で消費される非常に多様な役目を担う要素です。
魔法を使用したり、肉弾戦による格闘で消耗。また、足を使う移動などでも消耗します。
精神的なショックを与えられた際にも消耗してしまう要素です。
他、感情が高ぶった際の涙や、性的欲求を満たす行為、それに付随する粘液など、この世界で生きていく上で必要となる場面の多い代物です。】
(え、…結構血液って使われるんじゃん。)
というか、さらっと性的欲求とか言ってるけど、このナビの中の人恥ずかしくないんだろうか。一応、声のトーンから、女の人っぽいが…。完全な合成音声なのだろうか。
ナビの説明を聞いていると、この血液というゲーム内の要素は、現実世界の血液とほとんど変わらない役割を果たしているらしい。
なんだか説明を聞いてて冷や汗が出てくる。って、もしかして冷や汗も血液使ってる?
(それで、その血液が欠かれた状態って、どこかに表示されてるのか?)
【血液は、視界の左上にある黄色の『体力ゲージ』、緑色の『魔力ゲージ』に並んでいます。
その下にある赤色のゲージがあなたの『血液ゲージ』となります。
Lv.1のあなたの血液ゲージは、現在、『最大値:200 現在値:70』です。血液ゲージが30を下回ると、貧血による眩暈を起こし、20を下回ると幻覚や幻聴などの反応を示します。これにより20以下は一時的な行動不能状態に陥ります。】
(30で眩暈かよ!! てかもうあと50下がったら行動不能じゃん!!)
これ、聞こえの良い種族名でぬか喜びさせておいて、実は詰んでるって話なんじゃ…。
【アバターに課せられた『欠損』には、必ずそれを補う方法がゲーム内に存在しています。特殊な例もほんの一部ありますが、『欠損:血液』はそれに該当しません。補充する手段があります。】
欠損の現状だけ聞いて一瞬焦ったが、そうだよな…?
さすがにな…?
(ちなみにどうやるんだ? その補充方法)
不安げに質問する俺に、音声ナビは相変わらず機械的対応を続ける。
【『血液』は一部のクエスト報酬で手に入れる事が可能です。
また、クエスト中か否かを問わず敵から吸血する事も、味方である他のプレイヤーアバターから吸血する事も可能です。
商店によっては、輸血パックを販売している商店もあります。また、それを他のプレイヤーからプレゼントされたり、NPCと交換して手に入れること事も出来ます。
その他、『ヒュギエイアキス希少種』という植物は、樹液が血液のため、そこから吸血することも可能です。】
(へぇ~。色々と補充する方法はあるんだな。まぁ確かに、この貧血問題は俺に限らず、他のプレイヤーにもついて回る問題だろうしな)
【いいえ。他のプレイヤーはそれほど『血液』には困りません】
(え、なんで!?)
【一般的なアバターの血液消費量は、体力消費量のおよそ50%ほどの消費量に留まり、加えて、消費していない間は最大値の50%まで自然回復していくものだからです。】
(最大値の50%ってことは、今なら100までは自然回復するってことか)
【無論、あなたのアバターは『欠損』のステータスにより、自然回復の最大値が100ではありません。自然回復できるのは35%。つまり現在値の70までです。】
(えぇ…。大分ハンデ背負ってない?)
【それが先ほど、種族による勝ち組・負け組が発生しなくなるとした大きな要素なのです。】
俺は、そのまま音声ナビの言葉の続きを待った。
【種族により、魔力量に差がある説明は先ほど致しましたね? 今度はその逆です。】
(逆か。まぁ、なんとなく察しは付き始めてるが…)
【この極楽浄土の世界では、魔力量の多い種族ほど、生まれた際にリスキーな欠損を被るようになっています。
反対に言えば、魔力量の少ない種族ほど、生まれた際に被る欠損は、些細なものである場合がほとんどです。】
なるほど。
どうやらこの『魑魅魍魎』というゲームでは、『欠損』というものによってゲーム内のバランスを計っているらしい。
こうしたバランスを取らなければ、生まれたその瞬間にプレイヤー同士のゲーム内格差が生まれやすくなってしまうからな。
オンラインゲームや対戦ゲームの定石だな。
(とりあえず、まだ始めたばかりだし、何かモンスターでも狩ってみるか)
【始めたばかりのプレイヤー向けに、チュートリアルクエストがあります。受注されますか?】
(OKOKっと…。)
【チュートリアルクエストの あずき洗いの撃退 が受注されました。】
【チュートリアルクエスト:あずき洗いの撃退】
【制限時間:30分】
【ステージ:古びた民家(朝)】
【クリア条件:あずき洗い1体の撃退および討伐】
【初回クリア報酬:500ノーツ、初心のスカーフ】
音声ナビの、受注されました。の音声後、すぐに視界が暗転。
上記のクエスト内容が数十秒ほど出たあとで、視界がクエストの発生ステージに移行された。
古びた民家ステージは、まさしく今にも倒壊しそうなあばら家が奥に控えられた広い原っぱのステージだった。
朝とかっこ書きにあっただけあり、どこからか朝日が差している。
どうやらクエストを行う最中は、指定の時間帯に切り替わるらしい。
報酬の『ノーツ』というのは、このゲーム内の仮想通貨の単位なのだろうか。
このステージは、民家と手前の原っぱ以外、周囲が森に囲まれており、他に人影は見えない。ただ一名をのぞいては。
「ググぅ……ググぅ……」
向こうで小さな男の子がおかしな声を発している。
声? いや、何かの音か…?
と、聞こえてくる音に疑問を抱いていたその瞬間
「キシャアアアアア!!!」
「うわ! いきなりこっち来やがった!」
男の子がこちらへ向かって走り出してきた。
小さい子だからそれほど強くもないだろうし、怖くないだろうとか思っていたが、そんな事はなかった。
頭は半分禿げ上がり、ぐわっと見開かれた両目はひどく充血しているようだった。
痛々しく千切れている唇からは、よだれが豪快にしたたっている。
完全におばけ屋敷か、ホラー映画みたいな仕上がりだな!
めちゃくちゃ怖い。
ヒイヒイって言葉がほんとに出そうだ。
慌てて後ろに向き直り、逃げ出す。
(よく考えてみれば、俺は武器とか防具とか、そういうの一切用意してなかったが、大丈夫なのか!?)
チュートリアルだし、とりあえず大丈夫だろうとか思ってたが、全然そんなことないか!?
慌てふためく俺の脳内に、音声ナビが冷静な声で言う。
【フラン・グレース。あなたは初級魔法:ダークネスウィンドが使用できますよ。】
「はぁ……はぁ……は??…なんだって!!??」
必死にあのデス小僧(あずき洗い)から逃げてる最中に、そんな初めて聞く魔法を教えられてもだな。
【だから、ダークネスウィンドが使用できますよ。ダークネスウィンド。
あなたのコマンド画面から、魔法の技を選ぶことで使用が可能です。】
「っはぁ…! はぁ……! そんな事今言われてすぐ出来るかよ!!」
そうだ、こうやって逃げてる時も、『血液』は無くなるんだよな?
まずい、落ち着け俺。
落ち着くんだ。
頭を冷やして、走る速度を一定に保ちながら、コマンド画面の操作を行なう。
【アクションコマンド】
・ダークネスウィンド(闇/風) <対象物に、自身の攻撃力の130%の物理ダメージを与える>
どうやらアクションコマンドというものが、ナビの言っているコマンド画面らしい。
色々気になる欄だが、もう今は迷っていられない!
後ろから追いかけてきているあいつに、この魔法を使ってみるしかない!
あれこれ考えるのはその後だ。
このままだとチュートリアルで殺される!!!
アクションコマンドのダークネスウィンドを選択すると、俺の右腕から、ゴゴゥ…と鈍い音を立てて黒い竜巻のようなものが発生しはじめた。
なんだ? コマンドの選択だけじゃダメなのか。
発生したまま、竜巻は俺の腕から離れなかった。
【ダークネスウィンドを敵に使用するには、対象に向かって、その右腕を振りだす必要があります】
そうなのか。
ナビ助かる。とりあえず腕を、こうっと!
ナビの助言に従い、黒い竜巻のようなものが巻き付いている自分の右腕を、振り返りざま、対象のあずき洗いに振るう。
すると
ビュオオオオォオォォォ……
「ギギギ…ギギギ…ギアァァァァ」
おぞましい顔で俺を追いかけてきていたあずき洗いが、俺の放った黒の渦の中に、切り刻まれるようにして消えていってしまった。
(結構むごたらしいのな、この魔法。小僧が一瞬で千切りキャベツだ。)
【魔人ですから。】
(……)
音声ナビさんのよくわからない受け答えに無言をかましていると、クエストのステージ、古びた民家から視界が暗転する。
【クエスト達成 おめでとうございます! excellent!! 】
【あなたは 報酬 を受け取りました。】
【報酬:500ノーツ 初心のスカーフ】
【獲得経験値:0 あなたのLv:1】
ふーっ。
暗転した視界に、リザルト画面が表示された。
どうやら無事、チュートリアルをクリアしたらしい。
500ノーツというのは、やはりこのゲーム内の仮想通貨のようだ。
初めて聞くが、初心のスカーフというのは、おそらく装飾品か装備の類いだろう。
とりあえず、ひと段落したらしかったので、胸をなでおろす。
(そういえば、都市の門の前で、いきなりチュートリアルクエストに飛んだわけだが、これはちゃんと場所を弁えたほうがいいかもしれないな…。戻っていきなり目の前に誰か居ても驚くしな)
【それはご安心ください。どこからでも受注可能なクエストは、このチュートリアルクエストのみです。
他のクエストは、それぞれ異なりはしますが、定められた場所でしか受注できません。】
(なんだ、そうなのかよ…うっ)
音声ナビの言った事にほっとしたせいか、今のクエストの疲労感がどっと身体を襲ってきた。
【作者からのお願い】
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