1-2 初めての町
長かった。ようやくステラの町の防壁が見えてきた。
自分の体感ではだいたい5時間ほど歩いていた感じだ。(歩いている途中で腕時計の存在に気づき、時計によると4時間は確実に歩いていたみたいだ。もちろん隠してある。)
どうやらステータスの能力値どおりに体が強化されていて体力的には疲れはほとんどない。精神的に来るものはあるが。3人いっしょに転移したからまだましだが、それぞれ別々に転移したらと思うとぞっとする。ぼっちは怖い。
どうやらというか、やはりセイとライは、なかなかきついらしい。俺が脳筋ビルドで助かった。といっても間違いなく前の体であれば確実にここまで歩けなかったから明らかに肉体強化されているだろう。
「なんでこんなに遠いのにこの世界では、近いのですか…。大体の距離が具体的な数値でわかっていてもいいものですのに…。」
激しく同意だ。ただしよく考えてみると当然のことで、
「それは無理な話だ。俺、測量の現場に居たけれどかなり面倒で難しいぞ、あれ。…いや?ちょっと待てよ?俺ら20~30kmぐらいしか歩いていないじゃねえか?だとしたら俺らの感覚がおかしいんか?」
「そんなことよりも私たちが疲れ果てているというのが問題よ。こんな状態でまともな判断が下せるかしら?」
とライは言う。
たしかにセイはゲッソリろとしている。そうか。そうなのか。俺はそこまで疲れていないが二人に判断を任せれないのはつらい。俺の判断では不安だ。
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などなど雑談をしているうちにステラの町に着いた。
やはりヨーロッパ式の町で、平原に壁に囲まれている町だ。防壁はレンガのようなものでできていて、高さはだいたい5mぐらいある。思ったより高くないなと思ったが、かなり分厚くぱっと見10mほどの厚さがあった。そして壁の扉は高さが3mほど、横が10mほどあり、その両脇には門番が5人ずついる。
その脇にある衛士の詰め所みたいな(というかそうであろう)ところから、町への入場者が並んでいる。大体30組ぐらいであろうか。
なぜそんなに簡単に数えれるのかって?
どうやら歩いてきたのは俺たちぐらいで、ほとんどの人が馬車に乗っている。だから1組がわかりやすい。見たところ荷物をかなり積んでいて、どうやら商人が明日売るために商品を運んできているような感じだ。
ということで俺らもその列の最後尾に並んだ。一応(信用できるかわからないが)あの女神からの贈り物として入場証らしきものがあるから何とかなるであろう。
俺たちがしばらく周りを観察していたら、俺らの後ろに並んだ中年の商人らしき男に話しかけられた。(やはり馬車に乗っている。)
「おい、お前さんたち。歩きで町に来るなんて珍しいな。はじめは都会にあこがれて上京したのかと思ったがそれにしてはかなり落ち着いているから、多分違うな。その身なりからして、村から追い出されたわけではないじゃろうし一体どうしたのだ?まさか途中で馬車が壊れて途中から歩いて来たとは言わんじゃろうな?」
急に話しかけられてどう答えればいいかと俺が悩んでいたところ
ライが答えた。
「うーん、おじさん。合ってもいないし間違ってもいないといったところね。私たちは近くの村から旅をしようと出てきたのよ。ここが記念すべき旅の初めての町よ。」
商人は、(はて、そんな村なんてあったかな?)といった顔をして、
「そうかそうか、それでは疲れているだろう。うちの馬車で休みなさい。」
と言ってくれた。
ただ、俺は裏があるのではないかという考えを捨てられず警戒していたが(商人の部下たちはそ助けるのが当たり前という顔をしているのも疑わしさを増す原因だ)ライとセイはすぐに乗り込んだためいったん不信感は顔から引っ込めて馬車の中に入った。あとで問い詰めないとな、二人に。
馬車の中では、町の入場審査待ちをしている間、入場するときに聞かれることだとか、この町でおすすめの宿とかこの町独自のルールだったりとか、いろいろ親切に僕らにいろいろなことを教えてくれた。
また、彼は日用雑貨の小売をしているらしく、教えてもらった情報が正しければ彼の店「ダランベ-ル商会」を利用させてもらおうと思った。
そして、俺たちの順番がきた。
衛士が聞いてきたことはおじさんが言ったとおりだった。そして、特に問題なく町に入れそうだったので、この町の宿とか店を聞いてみた。
するとかなり詳しく、丁寧にいろんなことを教えてくれた。ただ、おじさんが勧めた宿が出てこなかったので聞くと、どうやら比較的高めの宿で、俺たちには手が出ないようなところのようだ。(ダランベールさんってかなり儲けているのか…)
これ以上(すでに30分ぐらい話している)話すと後ろの人に迷惑が掛かりそうだったので話に区切りをつけ、町の中に入れさしてもらった。
町の中に入った途端、俺はライを問い詰めた。
「おい、ライ!俺たちの目的が旅だとしてもなんであのオッサンの馬車になにも疑わず乗り込んでいった?俺らは弱いし、お前は仮にも美人なんだぞ、見た目は!見た目は!!そのまま誘拐されるとは思わなかったのか?たまたまあの人がいい人あったからよかったものを。」
「あら?ベアが現実の人を美人というなんて珍しいわね。あそこで行ったのは私の勘よ。行っても問題ない。情報を集めるのに最も手っ取り早いってね。」
「ベア、そのことを僕から付け加えさせてもらいますと、あのおじさん、周りの商人と比べて着ている服が少し良かったです。そして、彼の部下たちもそれなりに小ぎれいでした。このことからおじさんはそれなりに儲けていて、奴隷商人ではないということが分かったから僕は行くと判断しました。」
「そうか…。一言ぐらい言ってくれよ…。」
なるほど、二人に完全に論破された。二人とも過程をすっ飛ばしすぎなんだよ。常人の俺ではそのスピードについていくのは難しい。う~む。やはり俺は二人にかなわない。
ということで拠点を確保すべく俺らは衛士さんに教えてもらった宿の中で最も安い宿「ターシャの家」に向かった。
住んでる世界のスピードが違うのはよくあること。