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arithmetic  作者: たろSAN
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22/22

第22章 遺された手紙

 十年前、私はとある治験で綾瀬みさえさんという方を殺してしまいました。

 治験の内容、それは私が十五年前に発見したネフタソリタミン成分を配合した全く新しい麻酔薬の治験でした。

 本来であれば、彼女は一度仮死状態になり、そのうち息を吹き返すはずだったのだが、彼女はこの世に戻ってくることはありませんでした。

 動物実験を何度も繰り返し、薬の配分を調整し、完璧だと思っていたのですが…、私の考えが甘かったようです。

 その光景を前に、私は誤った行動をした。

 彼女を治験での死ではなく、事故死に見せかけようと。

 あいにくこのネフタソリタミン成分は世に出した論文上では死に至るという記述もされてなければ、この成分だけでは体には何の効能を示さない。

 私は躊躇することなく、その行動に走った。

 車に乗せ、そして駅の階段から彼女を突き落とした。

 幸い、あの場所は人目に付かなければ、ほとんど人も通らない。

 うってつけの場所だった。

 その後彼女は発見され、事故死として処理された。

 正直安堵した。

 それと同時に取り返しがつかないことをしたと、後悔もした。

 そんな折、とある刑事が私のところにやってきた。

 彼の考えは鋭かった。だが私も論文の定義を説明し、彼はそれ以上追及してこず、事件は収束した。

 したはずだった。

 その事件から7年後、彼女にそっくりな子が研究室に入ってきたではないか。

 彼女の事を私は調べると、何と綾瀬みさえさんの娘と判明した。

 恐ろしかった。

 それでいてしばらくして、彼女はネフタソリタミン成分の研究を始めたではないか。

 彼女は感づいている。

 そう思い、彼女を呼び出し、問いただしたが、まだ何もわかっていないようだった。

 しばらくの間、私は彼女を泳がせていたが、気が気ではなかった。

 そしてしばらくの月日が経ったころ。

 私はもう限界だった――。

 そして彼女を殺害しようと思うようになりました。

 そんな時、私は彼女がとある漢方薬を服用していると聞いた。

 そして、私は、“あの” 薬とその漢方薬をすり替えた。

 しかし、夜が明けると、私の息子の友人がその薬を飲んで死んだというではないか。

 症状を聞く限り、あの薬で死んだと思った。

 息子は泣いていた。

 私はその日の夜に、現場に赴き、遺体が発見されたあたりで拝んだ。

 すまなかったと。

 そして後悔した。

 罪のない人を二人も殺めてしまった。

 その後私のもとに警察が聞き込みに来たが、受付からの内線電話では出張で居ないと伝えさせ、柳田君が何も言わず警察の相手をしてくれた。

 彼らには私のわがままに対して気を使ってもらい、感謝する。


 この手紙を読んでるあなた。

 綾瀬奈々君にこの手紙を見せてほしい。

『綾瀬奈々君。君の人生を台無しにしたのは私だ。申し訳なかった。この命をもって償わせてください。』


 最後に我が息子、一二三。こんなことになってしまって、本当にすまない。お前の成長を最後まで見届けてやれない、甲斐性のない父親を許しておくれ

――鈴木奏――


 俺は手紙を読み終えた。

 一二三君は鈴木理事長の息子だったのか…!

 おれは少し驚いた。

 それよりも鈴木理事長が、事件当日の夜、現場に来ていた。

 あの社員証は、そのときに落としたものだったのだろう。

 俺はそう推察した。

 隣では、話を聞いていた綾瀬奈々さんが、膝から崩れ落ち、声を上げて泣いていた。

 そして、柳田は……。

「嘘だ! 理事長がそんなことをするはずがない! そうですよね、理事長!」

 柳田は、もう返事をすることのできない理事長に向かって、必死に問いかけた。

「柳田さん、落ち着いてください。とりあえず、警察を呼びますから」

「うるさいっ! 黙れっ! 何も知らないくせに!!」

 柳田は、怒号を上げた。

 そして、おもむろに理事長のそばへと歩み寄ると、胸に刺さっていたナイフを引き抜いた。

「ああっ、柳田さん! やめてください!」

「お前らさえ……お前らさえ現れなければ、理事長はこんなことにならなかったんだ!」

「柳田さん、そのナイフを置いてください!」

「うるさいっ! うるさい、うるさい、うるさい、うるさいっ!!」

 柳田は狂ったように叫ぶと、俺と綾瀬さんにナイフを向けた。


「俺が……俺が! 綾瀬みさえと佐藤浩太を死に追いやったんだ!!!」


「なっ、!!!!!!!!」

 その瞬間、窓の外で激しい稲光が走った。

 直後、室内の明かりが一斉に消え、辺りは闇に包まれた。

 再び雷鳴が轟き、稲光が窓の外を走る。

 その閃光に照らされ、ナイフを手にした柳田の姿が、不気味に浮かび上がったのだった。


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