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第14話 天空の暴君と、群れ狂うミサイルの雨


 セーフティエリアで極上の〈ルビー・グレイス・ラビット〉のステーキを平らげ、永久バフと超高速自動回復(リジェネ)の祝福を全身に宿したアゲハたちは、心身ともに最高のコンディションを維持したまま、さらに深層へと続く階段を駆け下りていった。


 道中に出現する中層のモンスターたちは、強化された三人にとって文字通り敵ではなく、次々と光の粒子へと変えられていく。


 そして、ついにアゲハたちは、中層の大きな節目であり、最初の試練が待ち受ける『第20層』のフロアへと到達した。


・ついに20層到達きたあああ!!


・中層の節目、フィールドボスのお出ましだな


・ステーキバフのおかげで三人ともお肌ツヤツヤだし、完全に無敵のオーラ出てるわ


・どんなボスだっけ? 今から楽しみすぎる


 配信のコメント欄が期待と興奮の弾幕で埋め尽くされる中、目の前に広がっていたのは、これまでの薄暗い洞窟や荒野とは打って変わって、見渡す限りの広大な『大草原』のフロアだった。


 どこまでも続くエメラルドグリーンの大草原の頭上には、人工とは思えないほどリアルで美しい蒼穹が広がり、心地よい風が草木を揺らしている。


「うわぁ……! 中層にこんなに綺麗な草原が広がってるなんて、なんだかピクニックに来たみたいだね!」


 アゲハは目を輝かせながら両手を広げ、そよ風を全身で受け止めた。


「感心してる場合じゃないわよ、アゲハ。このフロアの空気、あきらかにさっきまでの層とは違うわ……。魔力の密度が跳ね上がってる」


 ミーアは二振りの剣を抜き放ち、警戒を露わにしながら周囲の草むらを睨みつける。


「あ、上です!」


 理音が青空の一点を指さした。


 その瞬間──。


 ゴオオオオオオッ!!  と、空間を引き裂くような凄まじい爆風とともに、青空を覆い隠すほどの巨大な影が舞い降りてきた。


・うわあああああデカい!!?


・空からなんかヤバいのが落ちてきたぞ!!


・ワイバーン!? あれは完全にワイバーンだ!!


 舞い上がった土煙が晴れたとき、そこに姿を現したのは、全長十五メートルを超える圧倒的な巨躯を誇る飛行型の魔獣だった。


 全身を血のように真っ赤で硬質な鱗が覆い、背中には切り裂くような鋭い風を纏った巨大な翼。そして口元からは、周囲の草木を一瞬で枯らし尽くすほどの凄まじい暴風のブレスが漏れ出している。


『はい、ステラの解析入るよー! 個体名〈ゲイル・ブラッド・ワイバーン〉、等級B、推定レベル340のフィールドボス! 強烈な暴風を纏う極めて凶暴な個体だよ! 体表の風の障壁が物理攻撃を大きく減衰させるから注意してね!』


「ゲイル・ブラッド・ワイバーン……! しかも、あんなに高い空を優雅に飛び回られたら、近接特化の私たちじゃ攻撃が届かないじゃない!」


 ミーアが悔しそうに地団駄を踏んだ。


 確かに、ワイバーンは上空数百メートルの高空を自在に滑空し、鋭い爪や風の刃で一方的にこちらを蹂躙する構えをとっている。剣を主体とするミーアや理音の近接攻撃では、届くはずもなかった。


「一般的には、こういう飛行型のボス相手には強力な遠隔魔法や対空の投擲術で対抗するのがセオリーなんですけど……私たちのパーティには、あいにくいわゆる『魔法使い』ポジションの人間がいませんよね……!」


 理音が冷や汗を流しながら頭を抱える。


・あ、詰んだ?


・魔法使いがいないこのパーティーで、飛行型ボスは相性最悪だろ


・けど、アゲハちゃんには【セラフィム・フェザー】があるからな!


・プロフェッサー・アルファ:ほう、〈ゲイル・ブラッド・ワイバーン〉の暴風障壁か。物理主体の剣士たちでは手出しができない。さて、未来のエージェントがこの空中の敵をどう攻略するのか……実に興味深い見世物ね


 視聴者たちが固唾を呑んで見守る中、アゲハは「あー」と声を漏らし、頭をポリポリとかいた。


「どうしたのアゲハ? あなたの自慢の【セラフィム・フェザー】の出番じゃない」


「うん、でもね。実はちょっとした問題があって……」


 アゲハは苦笑いを浮かべながら、自身の左腕のブレスレットを軽く叩いた。


「ここまでの道中でガンガン使いすぎちゃってさ……今、『セラフィム・フェザー』ちゃん、完全にエネルギー切れなんだよね。ナノマトリクスの再充填には、あと数時間はかかっちゃうの」


「「ええええええええっ!??」」


 理音とミーアの絶叫が響いた。


・ファンネルがまさかの充電切れwww


・ここにきて最大のピンチ到来じゃねえか!!


・遠隔攻撃ナシ、ファンネルナシ……アゲハちゃん、絶体絶命のピンチ!!


「クオオオオオオオオッ!!!」


 地上で慌てるミーアたちを嘲笑うかのように、上空の〈ゲイル・ブラッド・ワイバーン〉が凄まじい咆哮を上げ、巨体を急降下させながら、周囲の空気を切り裂く無数の風の刃の嵐を頭上から容赦なく浴びせてきた。


「危ない、よけて!」


 ミーアと理音が素早く距離をとり、飛来する風の刃をどうにかかわす。


 だが、ワイバーンはすぐにまた上空へと舞い上がり、次の爆撃の態勢に入ろうとしていた。


「ふふっ……でもね、私にはちゃんともう一つのとっておきがあるんだから!」


 アゲハは微塵も慌てる様子を見せず、ふっと不敵な笑みを浮かべた。


 彼女は自信満々の足取りで一歩前に出ると、腰の空間収納のポシェットに手を突っ込み、ずっしりと重厚な金属のコンテナのような巨大なパーツを取り出した。


「【ナノマトリクス・システム】──マルチロックオン展開コマンド、承認!」


 アゲハが澄んだ声で告げた瞬間、彼女の手元から無数の極小ナノマシンが凄まじい勢いで噴き出し、空中で一気に結合・構築されていく。


 ガチャガチャガチャッと心地よい機械音と重厚なロック音が響き渡り、アゲハの肩の上と背中に、圧倒的な存在感を放つ巨大な多連装の兵器がガッチリと装着された。


 それは、未来のレジスタンスが誇る全方位制圧用ミサイルポッド

──マルチロックオン・マイクロミサイルポッド【スウォーム・ハイドラ】。


「な、なにこれ……! 背中にすごいものを背負ったわよ……!」


 ミーアが目を剥いて仰天する。


「いっけー、見せてあげるよ! 私の新しいお友達、【スウォーム・ハイドラ】の威力をね!」


 アゲハが右手を天高く突き上げた瞬間。


「ウィーーーーーーーーン…………ッ!!!」


 背中に装着されたポッドの重厚なハッチが、電子音を響かせながら一斉に左右に展開された。


 その内部からは、幾重もの円環状の制御リングが姿を現し、妖しく、そして鮮烈な青白いプラズマの光を放ちながら一気にチャージを開始していく。


 ジジジジジジ……ッ!!


 制御リングがエネルギー充填を完了するとともに、ポッドの内部から電子的な機械音声のカウントダウンが響き渡った。


『──3……2……1……ロックオン完了。全弾、一斉発射』


・ハッチがウィーーーンって開いたぞおおおお!!


・内部の制御リングが青く光ってチャージとか男のロマンが詰まりすぎてて脳汁出るわ


・カウントダウンからの全弾発射演出、神がかってるんだが!!?


・ワイバーンさん、完全に詰みましたねこれ……


「いってらっしゃい! 【スウォーム・ハイドラ】──フルバースト!!」


 アゲハの号令とともに、ハッチの内部から数え切れないほどの小型スマート・マイクロミサイルが、一斉に猛烈な白煙と炎の尾を引いて大空へと飛び出した。


 ドゴオオオオオオオオオッ!!!!!!


 発射の凄まじい反動と爆音が草原を揺らし、無数のマイクロミサイルがまるで意思を持った群れのように、青空を覆い尽くすほどの軌跡を描いて上空の〈ゲイル・ブラッド・ワイバーン〉へと猛烈なスピードで直撃コースを駆け抜けていく。


「ク、クオァ……!?」


 上空で優雅に旋回していた〈ゲイル・ブラッド・ワイバーン〉は、自分に向かって数え切れないほどの光の群れが襲いかかってくるのを目撃し、初めて恐怖の色を浮かべた。慌てて翼を羽ばたかせて回避しようとするが、ミサイル群はまるで生き物のように完全に敵の飛行軌道を追尾し、逃げ場を完全に塞いでいく。


 避ける隙など一ミリもない。


 次の瞬間──。


 轟音とともに、上空で無数の連続爆発が巻き起こった。 


 ドカババババババババババッ!!!!!!!!!


 空全体が眩い閃光と爆炎に包まれ、〈ゲイル・ブラッド・ワイバーン〉の巨躯は四方八方から容赦なく叩き込まれたマイクロミサイルの雨によって完全に蜂の巣状態と化し、その強靭な風の障壁ごと木端微塵に粉砕された。


 断末魔の叫びすら上げる暇もなく、空の覇者であった巨大なワイバーンは、鮮やかな光の粒子となって大空へと散りゆき、盛大に消滅していく。


 静寂が、再び大草原のフロアに戻ってきた。


・圧倒的すぎて草


・ミサイルの雨が美しすぎるだろ……


・ワイバーンさんがただの動く的になってて少し同情したわ


・マルチロックオン・マイクロミサイルポッド【スウォーム・ハイドラ】、名前負けしないどころかヤバすぎる性能で震える


・プロフェッサー・アルファ:素晴らしいわ……! 全方位自動追尾のマイクロミサイル群による立体的な弾幕制圧。飛行する敵に対し、これほど確実かつ効率的なアンチテーゼが存在するとはね。アゲハ氏、貴女の引き出しは一体どこまで深いのよ……!


「はぁ……終わっちゃったわね……」


 ミーアはポカンと口を開けたまま、すっかり綺麗になった青空を見上げて呟いた。


「すご……すごすぎますアゲハさん……あんな巨大なワイバーンが、一瞬で蜂の巣になって消えちゃいましたよ……」


 理音も、手に持った剣をダランと下ろして呆然としている。


「ふふーん、どうだ見たか! これが私の新しい秘密兵器、【スウォーム・ハイドラ】の威力だよ!」


 アゲハは背中のミサイルポッドを「どうだ!」とばかりに誇らしげに叩きながら、満面の笑みを浮かべた。ポッドはカチカチと音を立てながら、見事な手際でコンパクトに折りたたまれ、あっという間に彼女のポシェットへと収納されていった。


・アゲハちゃん可愛すぎるだろ!


・最強の兵器を使いこなす美少女、最高かよ


・チャンネル登録と高評価をもう一回押したい気分だわ


 チャット欄はアゲハの圧倒的な勝利を称える称賛のコメントで埋め尽くされ、お祭り騒ぎのような熱気に包まれていた。


「よし! これで20層のフィールドボスも撃破完了だね! みんな、よく頑張りました!」


 アゲハが元気に両手を掲げると、ミーアと理音も苦笑いを浮かべながら、それぞれハイタッチを交わした。


「ほんと、アゲハのおかげで危なげなく突破できたわね。ありがとう」


「ですね。さて、お次はいよいよ大きな目標である『第25層』のフロアボスを目指して進むわけですね」


 理音が気を取り直してキリッとした表情に戻る。


「うん、その通り! 油断しないで、どんどん奥へ進んでいこっか!」


 アゲハは仲間たちと共に、さらなる強敵と未知のロマンが待ち受ける第21層へと続く階段へ向けて、軽やかな足取りで再び歩みを進めていった。


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