2.崩壊 2-2-1 最終日
「はぁ……」
観戦席に座りながら、大きくため息を吐いた。
前の席に腕を預け、そこに顎を乗せた。
今日は大会四日目。
最終日だ。
アリーナでは準決勝が行われており、熱狂は最高潮に達していた。
出場者専用のここも、そこそこの人がいる。
それをいつもの四人で並んで見ている。
正直、昨日は敗戦して転移した後のことはあまり覚えていない。
多分リシアとフィリアとは何かしら会話はあったはずだが、それすらも曖昧だ。
体が無意識に動いていて、気づいた時には夜で自室にいた。
「まだ引きずってるのかしら?」
隣にいるラヴェンツァが苦笑いをする。
「まぁ、気持ちもわかるけど」
頭だけをそのままに、目線だけラヴェンツァに向けた。
「かと言って、完膚なきまでに負けたってわけでもないわよ」
ラヴェンツァが制服の襟を掴んできた。
「だからちゃんと試合を見なさい」
力任せに釣り上げられた。
視線を目の前のモニターに戻す。
だが、どうにも集中できない。
「そういえば、アリスたちって昨日勝ったの?」
そう聞いた瞬間、デイジーが吹き出した。
「当てつけ……?」
アリスが腕を捲った。
目元が暗くなっており、今にも立ち上がりそうになっている。
どうやら地雷だったらしい。
「落ち着けって……」
デイジーが制止してくれた。
そのまま席に戻った。
「……普通に負けた」
明らかに不服な様子でアリスがそう答えた。
「あれは俺のせいだって、アリスは気にすんなよ」
デイジーがアリスの肩をポンと叩いた。
まだアリスは頬をぷくっと膨らませている。
「そんなことより——」
デイジーが切り込んできた。
「勝敗よりも、昨日の試合で気になったことがあるんだ」
それがデイジー自身の試合か、他の出場者の試合か。
はたまたこっちの試合なのか。
含みがある発言なのも相まって、どれのことを言っているのかはわからない。
そう感じていたが、デイジーがキリッとこちらに視線を向けてくる。
「キース、お前のことだ」
薄々わかってはいた。
いつも一緒にいるからこそ、違和感にはすぐに気づける。
試合中なら尚更だろう。
アリスがパッと視線を上げた。
「あ、それ私も思ってた」
「ラヴェンツァは?」
彼女はそう聞かれたが、すぐに答える様子はない。
ラヴェンツァ自身、戦闘を共にしているバディだ。
気づいていないわけがないだろう。
「……そうね」
低い声で頷きながらラヴェンツァが答えた。
デイジーが太ももに肘を置き、考え込んでいた。
「キースが退場する寸前、明らかに動きが変わっていた」
「一瞬だったが、あれはお前じゃないように感じた」
「キース自身はどう感じていたんだ?」
デイジーが向けてくる視線は真剣だ。
確かに違和感があったのは確か。
既視感もある。
だが、先輩二人との約束がある反面気軽に言うことはできない。
しかもこの場所だ。
安易に話すことはできない。
しかし、やはりこの三人は共有しておくべきなのではないだろうか。
それも許可を取る必要があるわけで、今すぐに話すことは尚更できない。
「いや!ただ疲れてただけだよ。気にしないで」
精一杯の作り笑いを向けた。
冷や汗が流れるが、それも悟られないように平然を装う。
ラヴェンツァが冷たい目線を向けてきた。
「ふーん……」
そう一言だけ言って試合に戻った。
デイジーとアリスも同時に懐疑的な視線を送ってくる。
「まぁ、ならいいんだけど。体調は万全にな」
デイジーもそう一言だけ言って試合に目線を戻した。
できるだけ取り繕ったつもりではあったが、反応的にバレているだろう。
だとしても、その内容を深くまで聞いてこない三人には頭が上がらない。
そのまま試合を見ることにした。
準決勝を見ながら他愛もない会話をしつつ、準決勝の一試合目が終わった。
ラヴェンツァがトイレへ。
デイジーは別の用事で観客席を後にして行った。
「そういえば、この大会中って学長見た?」
アリスが背もたれに大きく体重を預けながらそう聞いてきた。
言われてみると見ていない。
まぁ単純に忙しいのだろう。
「確かに見てないね」
「だよね!いつもあんなに校内を練り歩いてたのに、大会中になると見えなくなるの不思議だと思わない?」
「まぁあんまり性格がわかんない人だからね、気にすることもないでしょ」
そう話していると、ラヴェンツァがすぐに帰ってきた。
しばらく話していると、デイジーも帰ってきた。
そして、準決勝二試合目が始まろうとしている。




