2-1-11 圧勝
槍持ちの殺気だった目が向けられた。
それでも、どこか強くは感じない。
「挑発すんなって……」
隣を見るとデイジーが頭を抱えている。
「今回はマジで違う!勝手に口から!」
そう取り繕うが、彼は聞く耳を持たない。
「どこが違うんだよ……」
そう言って、デイジーは鞭を構えた。
「ほら、来るぞ」
そう言われ前を向き直す。
前を向くと目の前に槍の先が突かれている。
左右の節を両手で持ち、中節で槍を弾いた。
思ったよりも受ける衝撃が弱く、逆に呆気に取られてしまった。
一瞬だけ気を取られたが、体制を低くして下段蹴りを繰り出す。
それを後方へのバックジャンプで避けられてしまった。
相手はそのまま岩陰へと姿を消してしまった。
だが、そんな状況こそデイジーが一番生きるはず。
彼にアイコンタクトを送った。
それを瞬時に判断したかのように、鞭を大きく構えた。
スパンと、鞭が空気を斬った。
ドォン。
とてつもない轟音と共に、目の前にあった巨岩が崩れ去っていく。
彼の鞭の剣先は、地面に深く突き刺さっていた。
それを抜くように腕を大きく振った。
「さすが〜」
その様子をみて軽く賞賛した。
砕かれた岩の粉塵からは、槍を持っている彼が姿を覗かせていた。
こちらを見るや否や、冷や汗がダラダラと流れている。
「……マジで?」
小声だったが確かにそう聞こえた。
無理もないだろう。
「どうする?まだ戦う?」
彼にそう聞いてみた。
「降参するわけないだろ」
「なら私が——」
そう言って前に出ようとしたが、デイジーの手で静止させられる。
「俺がやる」
彼は低い声でそう言って、一歩ずつ前へと出ていった。
何も言わず鞭だけを軽く振った。
さっきのような空を切るような音はしない。
それを相手は横に回避して軽々と避け、こちらへと槍を向けて迫ってくる。
槍は脇腹目掛けて突き立てられている。
一歩、また一歩。
相手は近づいてくるが、まだ動く気配はない。
槍先との距離が一メートルほどになり、デイジーの足が砂埃を立てて動いた。
右手にあった鞭の顕現を一時的に解き、左に再顕現し直す。
一瞬で左に向けて薙ぎ払いをした。
シュッ。
「……は?」
相手はそう言い残し、鞭のしなりに轢かれるように地面に叩きつけられた。
『エドガー・クロフォード、脱落!』
地面に悶えながらのたうち回っている彼は、そのまま転移されていった。
「やりすぎじゃない?」
その惨状を見ながら聞いた。
彼はその状況を意に介さず、砂埃を払うだけだった。
「舐めてる相手にはこんくらいした方がいいんだよ」
「そういうもんか——」
そう話していると、またナイフが飛んできた。
今度はしっかりと胴体が狙われている。
咄嗟にローリングで回避した。
今回は飛んできている方角がわかりやすい飛ばし方だった。
山頂の方を見る。
そこには人影が見えた。
姿までは視認できなかったが、確実に何かはいた。
「さっさと行って片をつけよう」
山頂に向ける視線を変えずに彼に言った。
「ルール上、一回でも当たると脱落だぞ」
「言われなくてもわかってる」
そう一瞥し、足早に山頂へと向かう道を一歩踏み出した瞬間だった。
ズサズサ。
山頂からさっきの人影が転がってきた。
麓に砂まみれの人影が横たわっている。
その人物がムクムクと起き上がった。
「ちょっとお話があって……」
彼はそう言って近づいてくる。
声色に悪意は感じられない。
でもその笑顔の中には不気味さも含んでいる。
右節を持ち、構える。
デイジーも同じく構えた。
「いやいや、戦闘の意思はないし勝とうなんて毛頭思ってないって」
彼はそう言いながら首を横に振った。
「ルール上、自主的に降伏するのが認められてないからわざわざ来たんだよ〜」
そう言いながら、彼は一歩ずつ着実に近づいてくる。
「だから警戒しないでよ〜」
「刺そうなんて思ってない———」
彼の言葉がそこで途切れた。
その瞬間、彼の目の奥の光が戻ってきた。
「——よっ!」
言葉と共に懐からナイフが飛んでくる。
デイジーの方にも同様に飛んできている。
一本目は足を狙って飛んできている。
それを横に軸をずらして回避する。
問題は二本目。
これは回避先を読んで胴体に狙われている。
一本目と二本目の間に時間的な差はほとんどない。
ならどうするか——。
三節棍の梢頭部分をナイフの着弾点に合わせる。
それが功を奏し、ナイフが弾かれる。
隣のデイジーも回避に成功した様子だった。
「まだやる?」
奥の方にいる複製の人に聞いてみた。
「すんません……」
彼は地面に視線を向けて申し訳なさそうにしていた。
「じゃあ勝ちね」
そう宣言すると、会場中にファンファーレが流れた。
『勝者、アリス・グレイブス、デイジー・バーグ!』
一回戦を突破したことに安心感を覚えた。
そうして、ヴァンガード・フェスティバル一日目が幕を閉じていった。




