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第二十一話

ラヴェンツァの構えは完璧だった。

しなやかな姿勢から放たれる気配は、ただの訓練とは思えないほど鋭い。

拳を軽く握った右手が、わずかに震えているのは、彼女なりの緊張の表れだろうか。


俺は両手を軽く構え直した。

魂の武器は使えない。

生身の体だけで、彼女と向き合う。

「……来い」

俺が先に踏み込んだ。

一歩、二歩。

距離を詰め、右の拳を斜め上から振り下ろす。


ラヴェンツァは軽く後ろにステップし、左手で受け止めた。

ガンッ、という重い衝撃が腕に響く。

「重い……!」

予想以上の反動に、俺の体が一瞬よろけた。

油断していたら簡単にやられる。


ラヴェンツァは受け流すと同時に反撃。

右の掌底が、俺の胸元を狙ってくる。

俺は左腕で払い、間合いを保とうとした。

しかし——


まただ。

彼女の動きが、一瞬だけ「遅く」見えた。


その隙を逃さず、そのまま拳を突き出す。

しかし、想定していたよりもかなり強い力で突き出してしまった。

「…っ…!」

このままの力で当たってしまうと、間違いなく怪我をさせてしまう。

咄嗟に軌道を横へずらす。


拳が空を切る。

ラヴェンツァの目がわずかに細くなった。

「今……何を…?」

彼女の声は低く、しかしはっきりと俺に向けられていた。


二人の間に時間が流れていたが、


再びラヴェンツァの拳が迫ってくる。

受け止めた。

ガンッ。

重い衝撃が腕に伝わった。

さっきのアリスとは違う重さだ。

技術と制御が凝縮された、無駄のない一撃だった。

「っ…重い」

「当然よ」

ラヴェンツァが連撃に移った。

右、左、右。

リズムが読めない。

防ぐのが精一杯だった。


「さっきの私への一撃」

連撃の合間に、ラヴェンツァが皆に聞こえないくらい静かに言った。

「あれは何だったの」

「わからない…」


「わからない?」

「気がついた時にはすでに…」

ラヴェンツァの目が細くなった。

攻撃の手は止まらない。

むしろ、少し速くなった気がした。


「じゃあ」

「もう一度、やってみなさい」

「やろうとしてできるものじゃない」

「いいから、再現してみて」

有無を言わさない口調だった。

踏み込んだ。

右拳を突き出す。

意識的に力を込める。

でも何も起きなかった。


ラヴェンツァが難なく受け止めた。

「できない…」

「そうね」

二人で距離を取った。

お互いに息を整える。

「さっきはどんな感覚だった?」

「無意識に、って感じで」

「体が勝手に動いたような」

「その時、ソウルはどんな状態だった?」

「よくわからない…」

「だけど、なんか…熱くなった気はして」

「熱く、か…」

ラヴェンツァが繰り返した。


また踏み込んできた。

今度は下から掬い上げるような軌道だった。

それを読んで躱す。


しかし、ラヴェンツァはそれの読んでいるようだった。

一度バックステップで距離を取る。

だが、ラヴェンツァが追ってくる。

速い。

どんどん距離が詰まっていく。

鋭い眼差しがこちらに飛んできている。


追い詰められた。

壁が背後に迫っていた。

「逃げ場はないわよ」

「…」

ラヴェンツァが踏み込んだ。

全力の一撃が来る。

受け止めようとした。

でも間に合わない。

あまりにも速い。


そう思った瞬間だった。

また、同じ現象が起きた。

ラヴェンツァの動きが、一瞬だけ遅くなった。

いや、彼女だけが遅くなったんじゃない。

周囲の全てが、スローモションのように遅くなった。

その限られた時間が、引き伸ばされているようだ。

その隙間の中で、体が動いた。


ラヴェンツァの軌道を読んで、横にずれる。

そのまま右拳を脇腹に当てようとする。


—まただ。

拳に徐々に力が溜まっていくのを感じる。

アリスの時と同じだ。

「っく…!」

このままでは、いくらラベンツァと言えど怪我をさせてしまう。 


寸止め、ギリギリのところで止めた。

時間の感覚が戻った。

ラヴェンツァが静止した。

俺の拳が、彼女の脇腹の数センチ手前で止まっていた。

訓練場が、静まり返った。

「…今の」

ラヴェンツァが息を呑んだ。


「今の動き、私には見えなかった」

「…」

「でも、今度は意識があったの?」

「…うん」

「どんな感覚?」


「世界が、一瞬だけ遅くなった気がして」

「その間に、体が動いて」

ラヴェンツァは何も言わなかった。

俺の右拳を見ていた。

それから、俺の目を見た。


「そこまで!!」

バルガの声が訓練場に響いた。

「キース!」

バルガが豪快に笑いながら近づいてきた。

「ラヴェンツァ相手に一本取るとは、大したもんだ!」

「見事な一撃だった!」


周囲から歓声が上がった。

「ヤベェな…」

「流石、学長推薦なだけはあるな」


俺は何も言えなかった。

右手を見た。

熱が残っていた。

「…キース」

ラヴェンツァが静かに言った。


声が、いつもより低かった。

「放課後、時間はある?」

「あるけど」

「二人で話しましょう」

「…わかった」

アリスが俺の隣に来た。


「さっきのと、同じやつね」

小声だった。

「多分」

「…あんた、自分で気づいてる?」

「なんとなく、は」

「なんとなく、か」

アリスが少し間を置いた。

「デイジーも気付いてるみたい」

「え」

振り返ると、デイジーが静かにこちらを見ていた。

本を閉じていた。

目が合った。

デイジーは何も言わなかった。

ただ、小さく頷いた。


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