第十九話
中庭のベンチに座っていた。
昼の光が、石畳の隙間をゆっくりと照らしている。
午前中の講義で詰め込まれた知識が頭の中で渦を巻いていた。
『魂とは、自己を定義する情報だ』
『揺らぎは、魂の不安定さの表れだ』
自分の掌を見つめる。
先ほど見た、ラヴェンツァの揺らぎのない紫。
あれはすごく完成度が高い。
「隣、いい?」
返事をする前に、その声の主であろう男は横に座っていた。
振り向くと、やたらとでかい男がニカッと笑っている。
「あ」
「あー!」
何かに気が付いたようで、こちらを指さして大声を出す。
「お前さ、さっきの授業で前に出てたやつだろ! 二刀のやつ!」
「……まあ、そうだけど」
「やっぱな! いや見てた見てた!」
「 実はさ、俺」
「お前と魂の形の色が同じなんだよ!!」
「なんか運命感じちゃってさ〜?」
勢いだけで会話が進んでいく。
その後ろから、黒髪で落ち着いた雰囲気の男が顔を出す。
「よせよフェイ…」
「お前みたいに筋肉で魂を理解してる奴と一緒にされたら、キース君が困るだろ?」
「申し遅れたね」
「俺はハンク」
「ハンク・ユーシラオス」
「こっちはフェイ」
「フェイ・ランス」
「改めて、よろしくね」
「そうそう、君の『二刀一対』」
フェイが続ける。
「あれは今まで見たことがない」
「まぁ『魂の武器は一人一つの武器で、同じものは二つと存在しない』から当たり前ではあるのだが…」
「それにしても、二つの武器として顕現させている君に非常に興味があるんだ」
「は、はぁ…」
初めて、この力を異常としてではなく興味として受け入れてくれる奴らに出会えた気がして、少しだけ肩の力が抜けた。
「……キース? こんなところで何を」
だが、その平穏はすぐに破られた。
中庭を横切ってきたのは、ラヴェンツァ、アリス、そしてデイジー。
「え」
ハンクとフェイはキースと言う名を聞いて目を丸くしている。
「もしかして、学長推薦の飛び級って…」
「一応…俺っすね」
「マジかよ!」
「先言ってよ〜…」
「失礼じゃなかった?大丈夫?」
「あの…気にしてないんで…」
アリスはフェイとハンクを交互に見て、呆れたように腰に手を当てる。
「ちょっと!!!」
「次の実技演習まで時間がないんだよ!?」
「こんなところで油売ってる暇あるなら、隙を見て逃げ出すとかしないでよ!!!!」
うっ。
ばれていたようだ。
「あの…なんていうか…」
「一人の時間が欲しかったっていうか…?」
「口答えするな!!!!」
やはり強情だ。
「ほら、さっさと行くよ!!」
そう言って、アリスは腕を掴んで歩き出そうとする。
すると、フェイがもう片方の腕を掴んでその場に止まらせようとする。
「固いこと言うなよ、アリス」
「俺たちは期待の新星と仲良くなろうとしてただけだって」
ハンクがもう片方の腕を引っ張っている。
「なんで私の名前知ってるの?」
「てか誰?キースの知り合い?」
「いや、さっき知り合ったばっか」
「てか、痛いっす」
だが、引っ張っている二人は聞く耳を持たない。
「あの、痛いって」
綱引きのようになっている。
「渡さないんだか…らっ!」
アリスは意地になっている。
「こっちだって…!」
ハンクも意地になっているようだ。
「ちぎれるちぎれる!!!!」
ポンっ。
勝ったのはアリスだった。
「へっ…なかなか…やるじゃない」
「アリス…君もね…」
「……行きましょう、キース」
「はぁ…」
「襟がまた曲がっているわ」
「えっ、あ、また?」
今回のは明らかにさっきのが原因で崩れたものだろう。
慌てて首元に手をやるが、ラヴェンツァはそれを待たない。
なかば強引にキースの腕を引いて歩き出す。
「またな、キース! 今度手合わせしようぜ!」
フェイの快活な声が背中に響く。
愛想笑いをしながら手を振る。
「結局、あれは誰だったの?」
アリスが聞いてくる。
「なんか同じクラスらしいよ」
「え」
「あんなのいたっけ…」
「さぁ?」
キーンコーンカーンコーン。
講義開始5分前を告げるチャイムが校内に響く。
「やばい!!」
「急ぐよ!」
四人は廊下を全力疾走で駆け回り、訓練場へと向かう。
その後ろを、フェイとハンクも追いかけてきている。
「廊下は走るな!!!」
訓練場へと向かっている途中、教師に怒られた。
「すんません…」
しかし、教師が廊下から見えなくなった後。
「急ぐよ!!」
また全力疾走し始めた。
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