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99.赤きインターナショナルとバラバラな自由世界

# 海洋帝国日本史 第十章:第二次世界大戦の終結と赤き新世界


## 第七話:赤きインターナショナルとバラバラな自由世界(1943年11月)


### 1.モスクワの咆哮――『第四インターナショナル』の設立(1943年11月)


1943年11月。

凍てつくシベリアの寒気が、ヨーロッパからアジアにかけての広大なユーラシア大陸を白く覆い始めた頃。

世界大戦の硝煙がようやく薄れつつあった地球上に、核爆弾にも等しい、巨大で絶望的なイデオロギーの咆哮が轟き渡った。


モスクワ、赤の広場。

クレムリン宮殿のバルコニーに立ち、見渡す限りの赤旗の波を見下ろしていたのは、この世界大戦において最も無傷で、最も巨大な果実を貪り食った「真の勝者」――ソビエト連邦の最高指導者、ヨシフ・スターリンであった。


「……同志たちよ! 帝国主義者とファシストどもが血みどろの殺し合いを演じ、自らの欲望で世界を破壊したこの数年間。我々プロレタリアート(労働者階級)は、ついに地球の半分をその手から解放した!!」


スターリンの野太い声が、巨大な拡声器を通じてモスクワの空を震わせる。

「資本主義の豚どもは、条約という名の紙切れで世界を切り分け、平和が訪れたと錯覚している。しかし、我々の革命は終わらない。……本日、我々ソビエト連邦は、全世界の解放された社会主義国家を一つに束ねる、絶対的で不可分なる巨大な連帯組織――**『第四インターナショナル』**の設立を宣言する!!」


(※史実において「第四インターナショナル」はスターリンと対立したトロツキーが設立したものだが、この狂乱の世界線においては、スターリン自らが既存のコミンテルンを発展的解消させ、世界中の共産主義国家を【完全にモスクワの軍門に下らせるための絶対的軍事・経済同盟】として、この名を強奪・宣言したのである。)


スターリンの宣言は、単なる思想の共有ではなかった。

それは、地球上のあらゆる共産党と社会主義国家の軍隊、経済、そして国家の意思決定権を、「モスクワ(スターリン)の絶対的な支配下」に組み込むという、恐るべき中央集権システムの完成を意味していた。


### 2.地球を覆う赤き版図――一枚岩の帝国


スターリンの呼びかけに呼応し、モスクワに忠誠を誓った『第四インターナショナル』の参加国(あるいは衛星国)の顔触れは、資本主義陣営の指導者たちを極限の恐怖で震え上がらせるに十分すぎる、異常な巨大さであった。


東ヨーロッパにおいては、ソビエトの軍門に降った**ルーマニア**、そして恐怖から自ら共産主義を受け入れ、王制を残したままソビエトの傀儡となった「共産主義唯一の赤色王国」**ブルガリア**。

中東においては、イスタンブールを無血開城して内側からの権力簒奪を狙う**トルコ**、さらにイギリスが撤退した隙を突いて革命が起きた**イラク、シリア**、そして地中海の要衝**キプロス**の臨時社会主義政府。

カフカス山脈の三国と、広大な**中央アジア諸国**。


さらに極東へと目を向ければ、ユーラシアの中央部を分厚く覆う**ウイグル(新疆)**、世界の屋根**チベット**、そして巨大な緩衝地帯である**モンゴル**。


そして何よりもアメリカ合衆国の心臓を凍りつかせたのは、海の向こう側――パナマからチリ、ブラジルに至るまでの**中南米諸国**のほぼ全域が、このモスクワの『第四インターナショナル』に熱狂的に加盟したという事実であった。


「……地球の陸地面積の半分が、完全に真っ赤に染まったぞ」

「しかも奴らは、互いに関税も国境もなく、スターリンの命令一つで何千万という巨大な赤軍を一斉に動かせる【完全な一枚岩モノリス】だ……!」


資本主義陣営の指導者たちは、作戦地図を塗り潰す巨大な赤い染みを見て、顔面を蒼白にさせた。

世界大戦が終わった直後に現れたのは、ナチス・ドイツのヨーロッパ支配など可愛く見えるほどの、人類史上最大にして最凶の『赤い帝国』だったのである。


### 3.バラバラな自由世界――エゴと利権のモザイク模様


強固な一枚岩となった共産主義陣営に対し、彼らを迎え撃たねばならない資本主義(自由主義)陣営の現状は、目を覆うほどの惨状であった。

彼らには、「反共産」という消極的な共通項はあったものの、全体をまとめる理念も、強力なリーダーシップを持つ統一機構も存在しなかったのである。


資本主義陣営は、各国のエゴと利権によって、大きく三つのブロックに無惨に引き裂かれていた。


**①【パックス・ジャポニカ(大日本帝国ブロック)】**

アジア太平洋において最強の軍事力と経済力を誇る大日本帝国。彼らは、北中華連邦、南華共和国、独立したインドシナ三国、大韓民国、そして満州国という「完璧な絶対防衛圏」を構築していた。

しかし、帝国は自らのブロックの繁栄と安全を維持することにのみ極端に特化しており、「ヨーロッパやアメリカの危機のために、日本人の血を一滴も流す気はない」という極めて利己的で老獪なオフショア・バランシング(遠隔操作)を徹底していた。


**②【アメリカ要塞ブロック】**

かつての「世界の警察」は、今や北米大陸の引きこもりと化していた。トルーマン大統領の強力な指導の下、メキシコ、グアテマラ(防衛線)、そして独立を回復したカナダをアメリカの完全な庇護下に置き、「反共産の砦」として自国の防衛に全リソースを注ぎ込んでいた。彼らもまた、南米赤軍との睨み合いで手一杯であり、海を越えて世界を救う力など残されていなかった。


**③【混沌のヨーロッパ・ブロック】**

最も悲惨でバラバラなのが、旧世界・ヨーロッパであった。

完全な戦勝国として威厳を取り戻した**イギリス**。

フランス中東部と中欧(ポーランド、オーストリア、ハンガリー)を巨大な影響下に置く**ドイツ第三帝国**。

地中海とバルカンの権益を裏切りによって確保した**イタリア**。

イベリア半島と北アフリカを丸呑みした**スペイン**。

そして、ドイツの傀儡となり果てた**フランス(第四共和制)**と、北欧の小国たち。


彼らは、東からソビエトの脅威が迫っているというのに、条約で切り取った領土の維持に汲々とし、互いを牽制し合い、少しでも隙あらば相手の背後を刺そうとする「終わらない疑心暗鬼」の泥沼に浸かっていたのである。


「……資本主義の連中は、自らの財産を守るために互いにいがみ合っている。放置しておいても、いずれ自滅するだろう」

スターリンの冷笑は、極めて正確に世界の真理を突いていた。


---


### 4.【歴史の窓】――レーニン式共産主義と、スターリン式『第四インターナショナル』


ここで、世界を恐怖の底に叩き落とした「共産主義」という巨大なイデオロギーが、いかにしてこの狂気の姿(第四インターナショナル)へと変貌を遂げたのかを、歴史の窓から俯瞰してみよう。


かつて、ロシア革命を成功に導き、ソビエト連邦という国家を創設したウラジーミル・レーニン。

彼の提唱した**『レーニン式共産主義(マルクス・レーニン主義の初期形態)』**には、良くも悪くも、極めて純粋で熱狂的な【理想主義】が存在していた。


レーニンが目指したのは、「労働者階級の連帯」であり、「世界同時革命」であった。

彼は、国家という枠組みそのものがいずれ死滅し、世界中の労働者が国境を越えて平等のユートピアを築くと本気で信じていた。初期のコミンテルン(第三インターナショナル)も、あくまで各国の共産党を「対等な同志」として支援し、世界中で同時に資本主義を打倒するためのネットワークとして機能することが期待されていた。


しかし。

レーニンの死後、権力闘争を勝ち抜き、血の粛清によってソビエトの頂点に立ったヨシフ・スターリンは、その理想主義を完全に、そして冷酷にゴミ箱へと放り捨てた。


**『スターリン式・第四インターナショナル』**の真の姿。

それは、共産主義の赤い皮を被り、平等を声高に叫びながら、その本質は帝政ロシア時代よりも遥かに醜悪で巨大な**【ロシア帝国主義の極致】**であった。


スターリンが掲げた「一国社会主義」の行き着く先。それは、「世界の共産主義革命は、すべて【モスクワ(ソビエト連邦)の国益と防衛】のためにのみ奉仕しなければならない」という、極限のエゴイズムである。


第四インターナショナルに参加した東欧諸国や中東、中南米の国家は、決してソビエトと「対等な同志」ではなかった。

彼らは、資本主義国の攻撃からソビエト本国モスクワを守るための『分厚い肉の盾(衛星国)』であり、ソビエトの工業化のために資源と食糧を強制的に吸い上げられる『新たな植民地(搾取対象)』に過ぎなかった。


もし、衛星国の共産党指導者が、自国の労働者のために「モスクワの命令」に少しでも逆らえば、即座にKGBの暗殺者が差し向けられ、反逆者として血祭りに上げられた。


平等なき階級闘争。

連帯なき絶対服従。

密告と恐怖警察がすべてを支配する、巨大な監獄。


スターリンの創り上げた『第四インターナショナル』は、資本主義の搾取から労働者を解放するという甘い嘘で世界を騙し、人類史上最も効率的で、最も冷酷な「巨大独裁システム」を完成させたのである。

そして、その赤い巨獣は今、バラバラに分断された自由世界を、ゆっくりと、確実に飲み込もうとしていた。


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### 5.エピローグ――静寂への足音


1943年11月が終わろうとしている。


地球の半分を覆い尽くす『第四インターナショナル』の設立。

それは、第二次世界大戦という武力衝突の終結が、決して「平和な時代の到来」を意味するものではないという事実を、全人類の魂に絶望という形で刻み込んだ。


アジアで、北米で、そしてヨーロッパで。

資本主義陣営の指導者たちは、スターリンの咆哮に震えながらも、自国の軍隊を再編し、来るべき「長い長い冬(冷戦)」に備えて、国境線に分厚いコンクリートの壁と監視塔を築き始めていた。


世界大戦の硝煙が風に流され、血に染まった泥濘が冷たい霜に覆われていく。

大国たちの狂乱が終わり、イデオロギーの狂気が世界を二分する中。


人類は、1939年の開戦以来、実に数年ぶりとなる『戦争のない、静かな12月』を迎えようとしていた。

第十章の最終話。銃声の消えた世界で、それぞれの思惑と涙が交差する「二度目の降誕祭クリスマス」の夜が、静かに幕を開ける。


(第十章 第七話 完)


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