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149.閑話 白と青の階段市街と、インド洋の誓い

# 閑話「白と青の階段市街と、インド洋の誓い~大学生6人組の豪州旅行記(後編)~」


### 1.赤き大地の聖地・ウルル

旅行5日目。

明爾湾めいじわんの洗練された文化芸術の空気を胸に刻んだ6人は、双発のプロペラ航空機に揺られ、オーストラリア大陸のほぼ中央に位置する『赤き大地』へと向かっていた。

「プロペラ機なんて初めて乗った! 音がブルブルしててアトラクションみたい!」

ギャルの莉愛りあが、少し揺れる機内で窓の外を覗き込みながらはしゃぐ。

「ウルル周辺は環境省の『特別保護区』に指定されてるからね。自然保護と先住民の聖地を守るために、騒音の出るジェット機でのアクセスは法律で固く禁じられてるんだよ」

リーダーの健人けんとが、手元のガイドブックを指差して解説する。

眼下に広がるのは、見渡す限りの赤茶けた荒野。その果てに、人口5万人ほどの小規模な都市が見えてきた。キュランダと同様に、先住民族の特別区指定がなされているウルル市だ。(アボリジニは大航海時代に帝国による豪州入植によって武力でも、そして、伝染病によってほとんど壊滅していた。その中でも残ったアボリジニ、特に帝国に友好的な部族は彼らの精神的な信仰となるウルルの近くで特別区を作り、その特異性を逆手にとって観光都市として繁栄していた。)

プロペラ機が小さな空港に降り立つと、そこには強烈な乾燥した風と、圧倒的な静寂が待っていた。

「うわぁ……! 見て、あれがウルル……!」

ロシアからの留学生・アンナが、長い金髪を風に揺らしながら、地平線の彼方に鎮座する巨大な一枚岩を指差した。

彼らは環境省の厳格なルールの下、ウルルに登ることはせず、整備された外周の遊歩道からその雄大な姿を見学した。

太陽の光を浴びて、時間とともに赤、オレンジ、そして紫へとその色を変えていく巨大な岩。

「すげえ……。翠海すいかいのサンゴ礁も凄かったけど、こっちは地球のヘソって感じがするな」

いつもは筋肉と元気が取り柄のしょうも、この圧倒的な大自然の前では言葉を失い、静かに見入っていた。

6人は、太古から続く地球の息吹を肌で感じ、この春休みの旅の最終目的地へと向かうべく、再びプロペラ機へと乗り込んだ。


### 2.インド洋の真珠・西寧さいねい

オーストラリア大陸の西海岸、西豪県・**西寧(さいねい/史実のパース)市**。

プロペラ機がインド洋から吹き込む海風に乗って着陸態勢に入ると、機内の窓から見えたその光景に、女子3人は一斉に歓声を上げた。

「嘘……! めちゃくちゃ綺麗! なにあの街!」

「エーゲ海の島みたい……! リンフォ(LINKPhoto)で見たことあるけど、実物はもっとすごい!」

眼下に広がっていたのは、高低差のある丘陵地帯に作られた、息を呑むほど美しい**『白と青の階段市街地』**であった。

かつての日英戦争において、激戦の末に一度は焦土と化した旧市街。しかし戦後、帝国はこの地を復興する際、西寧の郊外で豊富に採れる純白のシリカ(珪砂)を用いた白い壁と、紺碧のインド洋を思わせる鮮やかな青タイルの屋根で街を統一したのだ。

地中海性気候の乾いた風が吹き抜けるこの街は、まさに観光客を魅了する「リンフォ映えの聖地」として生まれ変わっていた。

空港から市街地へ向かうタクシーの中で、健人が歴史を語る。

「西寧は地理的にインド洋に面してるだろ? だから、かつては大英帝国の植民地だったインドや、南アフリカ、東アフリカ方面からの交易船が多数寄港する『中継港』としての歴史があったんだ。だから街の文化には、日本的な要素に加えて、『英国とインド洋圏の文化』が色濃く混ざり合ってるんだよ」

「へえ! じゃあ、美味しいものもいっぱいありそう!」

食いしん坊の結衣ゆいが目を輝かせる。

市街地に到着した6人は、眩しい太陽の下、白と青のコントラストが美しい石畳の階段を登りながら、ホテルへとチェックインした。


### 3.策士なリーダーと、二つのデート

荷物を部屋に置いた後、ホテルのロビーに集まった6人。

ここで、リーダーの健人がポンと手を叩いた。

「よし、みんな聞いてくれ。この西寧が俺たちの春休み旅行の最後の街だ。だから今日は……『完全自由行動の2人1組』にしようと思う!」

「えっ?」

驚くメンバーをよそに、健人は隣の結衣と目配せをした。結衣も悪戯っぽく微笑んで頷く。これは、昨日の明爾湾めいじわんのドライブで「良い雰囲気」になった俊樹とアンナ、そしてずっと片思いを頑張っている莉愛と翔を、物理的にくっつけるための「カップル成立アシスト大作戦」であった。

「俺と結衣は、どうしても行きたい歴史保存地区(海岸要塞)があるから二人で回る。翔と莉愛は、白と青の階段市街地の西側を。俊樹とアンナは東側の倉庫街方面を回ってくれ。夕食の時間まで解散!」

有無を言わさぬリーダーの采配により、あっという間に三組のペアが結成された。

「え、ちょっと健人! 俺、ぜんぜん調べてないぞ!?」と焦る翔。

「翔、私に任せて! ガイドブック持ってるから!」と、内心ガッツポーズをして翔の腕にすかさず絡みつく莉愛。

一方の俊樹とアンナは、昨日のドライブでの「両片思いの自覚」からまだ少し照れがあり、互いにモジモジしながらも「……行こっか、アンナ」「う、うんっ!」と連れ立って歩き出した。

その二組の後ろ姿を見送った健人と結衣は、ハイタッチを交わした。

「ふふっ。健人、ナイスアシスト」

「ああ。さて、俺たちはあいつらの邪魔にならないように、ゆっくり旧要塞の歴史探索でも楽しむとするか。……最後くらいは、こっそり見守ってやりたいしな」


### 4.海風と気付き(翔 & 莉愛)

「うわーっ! 見て翔、このカフェめっちゃ可愛い! 白い壁に青いパラソル、絶対リンフォ映えする!」

莉愛は、階段市街地の中腹にある英国風喫茶店を見つけるなり、スマホを構えて大はしゃぎした。

「お、おう。……でもなんか、お前みたいなギャルがこういう落ち着いたカフェにいるの、ちょっと浮いてねえか? 似合わねーぞ」

翔は、いつものように軽いノリで莉愛をからかった。普段のサークルなら、莉愛が「ちょっと翔! ムカつくんですけどー!」と笑って言い返すお決まりのパターンだ。

しかし、今日の莉愛は違った。

「……っ。そう、だよね。私なんか、こういう綺麗な街、似合わないよね……」

莉愛はスマホを下ろし、急にうつむいてしまった。その表情には、いつもの強気なギャルの面影はなく、本気で落ち込んだような、悲しそうな色が浮かんでいた。

(……え?)

翔は、その瞬間、心臓がドクンと鳴るのを感じた。

(なんだよ、その顔。……俺、本気で傷つけたのか?)

脳筋で鈍感な翔だが、スポーツで鍛えられた直感と、根底にある「他人の痛みに敏感な優しさ」が、彼に一つの真実を悟らせた。

翠海でのシュノーケリング、キュランダでのBBQ、明爾湾のディスコ。ずっと自分の隣をキープし、自分を見つめてくれていた莉愛の視線。

それは「サークルのノリ」なんかじゃない。

(こいつ……俺のこと、本気で……)

「……悪かった」

翔は、うつむく莉愛の頭に、大きな手をポンと乗せた。

「似合わないなんて嘘だ。……お前、その、今日着てる白いワンピース、すげえ可愛いし。この街の景色に、負けてないくらい……似合ってるぞ」

「え……?」

莉愛がバッと顔を上げる。翔の顔は、彼自身の金髪よりも赤く染まっていた。

「ほら、カフェ入るぞ! アフタヌーンティーってやつ、食ってみたかったんだよ!」

翔は照れ隠しのように莉愛の手を引き、カフェへと入っていった。莉愛の顔に、再びひまわりのような満面の笑みが咲いたのは言うまでもない。

その後、二人は港へと降り、インド洋の交易船が行き交う港湾クルーズを楽しんだ。海風に吹かれながら、翔の莉愛を見る目は、明らかに「ただのサークル仲間」を見るそれから、「一人の女の子」を見る目へと変わっていた。


### 5.レンガ倉庫と深まる距離(俊樹 & アンナ)

一方の東側ルート。

俊樹とアンナは、白と青の市街地から少し離れた、旧港の巨大なレンガ造りの倉庫街を歩いていた。

「ここ、なんだかノスタルジックで素敵だね。歴史の匂いがする」

アンナが、赤茶けたレンガの壁にそっと触れる。

「ああ。ここは『環インド洋日英同盟記念館』だ。大英帝国と日本が、このインド洋で協調していた時代の遺物さ。アフリカからのスパイス交易なんかも、ここを通ってたらしい」

歴史に詳しい俊樹が、静かに解説する。

二人は、倉庫を改装したお洒落なパブに入った。

「俊樹、ビール飲む?」

「俺は運転ないから少しもらうか。アンナは?」

「私は、このアフリカンスパイスのチャイにしてみる!」

少し薄暗いパブのカウンターで、二人は肩を並べて座った。昨日のドライブでの出来事が、まだ二人の間に甘い余韻として残っている。

「……ねえ、俊樹」

アンナが、チャイのカップを両手で持ちながら、上目遣いで俊樹を見つめた。

「昨日の、車の中での言葉……。あれ、夢じゃないよね?」

俊樹は、ビールが入ったグラスを置き、まっすぐにアンナの青い瞳を見つめ返した。いかつい顔つきだが、その目はどこまでも優しく、誠実だった。

「夢なわけねえだろ。……俺は、アンナが好きだ。ずっと前から、お前から目が離せなかった」

「……っ!」

アンナの顔がパァッと明るくなり、目にはうっすらと涙が浮かんだ。

「私、ドジだし、日本のことまだ分からないことも多いけど……。俊樹の隣に、ずっといたいな」

「……任せろ。お前が転びそうになったら、俺が一生支えてやる」

インド洋の潮騒とスパイスの香りが漂うパブで、二人は静かに、けれど確かな絆を結んだ。


### 6.西寧大灯台の夕陽――男気と純情の交差点

夕暮れ時。

翔と莉愛は、西寧の街の最も小高い丘に立つ『西寧大灯台』の展望台にいた。

目の前には、見渡す限りの雄大なインド洋。空と海が、燃えるようなオレンジ色に染まり、白と青の階段市街地をセピア色に包み込んでいる。

「……すっごく、綺麗」

莉愛が、海風に髪をなびかせながら呟く。

「ああ。……すげえな」

翔は、夕陽ではなく、夕陽に照らされた莉愛の横顔を見つめていた。

莉愛の心臓は、壊れそうなほど早鐘を打っていた。

(今日一日、翔はずっと優しかった。手も引いてくれた。……今しかない。今、言わなきゃ!)

ギャル特有のノリの良さの裏に隠された、莉愛の純情。彼女はギュッと拳を握りしめ、覚悟を決めて翔に向き直った。

「あのね、翔! 私……ずっと前から、翔のことが――」

「待て」

莉愛が言葉を言い切る前に。

翔が、莉愛の小さな両肩を、大きな手でガシッと掴んだ。

「えっ……?」

「そういう大事なことは、男の俺から言わせろ」

筋肉バカで鈍感だった翔の顔から、いつものヘラヘラした笑みが消え、一人の「男」としての真剣な表情が浮かんでいた。

「俺、すげえ鈍感でバカだからさ。今日、お前が悲しそうな顔するまで、お前の気持ちにちゃんと向き合ってなかった。……でも、今日一日一緒にいて、お前が笑ってると俺もすげえ嬉しくて。お前が落ち込むと、胸がチクッとして……」

翔は、莉愛の瞳を真っ直ぐに見据えた。

「俺、お前のことが好きだ。ただのサークル仲間じゃなくて……俺の彼女になってくれ。莉愛」

「……っ!!」

莉愛の大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。彼女は、翔の広い胸に飛び込み、そのシャツをギュッと握りしめた。

「……バカ! 遅いよ、バカ翔……っ! 私も、大好き……っ!」

「おお、悪かった。これからは、絶対にお前だけを特別扱いするからよ」

翔が莉愛を力強く抱きしめ、二人のシルエットが夕陽に溶け込んでいく。

「……やったな、あいつら」

「うん。翔くん、最後はしっかり男見せたね」

灯台の陰から、こっそりとその一部始終を見守っていた健人と結衣は、自分たちのことのように嬉しそうに微笑み合い、若い恋人たちの邪魔をしないよう、音もなくその場を立ち去った。


### 7.白と青の中の赤の公園――夜景に誓う愛

すっかり日が落ち、西寧の街はライトアップによって昼間とは全く違う幻想的な姿を見せていた。

白と青の階段市街地の中腹に位置する、真っ赤なバラが咲き誇る美しい広場。通称『白と青の中の赤の公園』。(季節的には咲いてないけど。季節的にワックスフラワーが咲いていた。)

俊樹とアンナは、公園のベンチに座り、眼下に広がる500万都市の圧倒的な夜景を見下ろしていた。

紺碧の屋根と白い壁が、暖色の街灯に照らされて光り輝き、遠くの港には交易船の灯りが星屑のように瞬いている。

「本当に、夢みたいな景色……。日本の冬から抜け出して、こんな素敵な場所に俊樹と一緒にいられるなんて」

アンナが、俊樹の肩にそっと頭を乗せる。

「ああ。……でも、俺にとっては、この夜景よりも、隣で笑ってるアンナの方がずっと綺麗だ」

俊樹が、普段のいかつい顔からは想像もつかないほど甘い声で囁き、アンナの金糸のような髪を優しく撫でた。

二人は見つめ合い、そして、ゆっくりと唇を重ねた。

インド洋の夜風が、新しく生まれた恋人たちの誓いを祝福するように優しく吹き抜ける。

「……ヒューヒュー! 俊樹、やるぅー!!」

「アンナちゃん、おめでとーっ!!」

「「っ!?」」

突然、背後の茂みから響いた冷やかしの声に、俊樹とアンナはバネ仕掛けのように飛び離れた。

「お前ら……! いつからそこにいたんだよ!!」

俊樹が顔を真っ赤にして怒鳴ると、暗闇の中から、ニヤニヤと笑う健人と結衣、そして、しっかりと手を繋いだ翔と莉愛が姿を現した。

「いやー、灯台で翔たちがくっついた後、こっちの様子も見に来たら、ちょうど良いトコだったもんで」

健人が悪びれずに笑う。

「ちょっと翔! 莉愛と手繋いでるじゃない! そっちも結ばれたの!?」

アンナが驚いて声を上げると、莉愛が照れくさそうに、でも誇らしげに翔の腕に抱きついた。

「えへへー。翔がね、男らしく告白してくれたの!」

「お、おう。……まあ、そういうことだ」

翔が鼻の下を擦る。

「……なんだよ。結局、健人たちの思い通りか」

俊樹がため息をつきながらも、どこか晴れやかな顔で笑った。


### 8.エピローグ――6人の絆と、次なる旅へ

西寧の夜景をバックに、6人は公園のベンチの周りに集まった。

健人と結衣、翔と莉愛、俊樹とアンナ。

三組のカップルが誕生した奇跡の夜。しかし、彼らの根底にある「6人のサークル仲間としての熱い友情」は、何も変わっていなかった。

「いやー、今回の春休み旅行、マジで最高だったな! 翠海の海も、明爾湾の車も、西寧の景色も!」

翔が、夜空に向かって大きく伸びをする。

「うん! 私、日本に留学してきて、みんなに出会えて本当に良かった! みんなのこと、心から愛してる!」

アンナが、両手を広げて満面の笑みを見せる。

「健人くん、素敵な計画立ててくれてありがとう。最高のリーダーだよ」

結衣が健人の腕に寄り添うと、健人は優しく微笑み返した。

「俺一人の力じゃないさ。みんながいたから、こんなに楽しい旅になったんだ。……また来年も、絶対にこの6人で、どこか行きたいな」

「当たり前だろ! 次はどこ行く? ヨーロッパか? それとも帝国本土の北の端(樺太や千島)を攻めるか!?」

俊樹の提案に、全員が「いいね!」「絶対行こう!」と賛同の声を上げる。

白と青の階段市街地に響き渡る、若者たちの明るい笑い声。

大日本帝国という広大で強靭な国家の片隅で、彼らの青春の1ページは、決して色褪せない極彩色のリンフォ(思い出)として、深く、美しく刻み込まれたのであった。

(『南洋の翠海バカンス』 完)


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