133.ペルシャ湾の死闘と、狂犬を包囲する鉄の網
# 海洋帝国日本史 第十四章:電脳の夜明けと静かなる侵食
## 第五話:ペルシャ湾の死闘と、狂犬を包囲する鉄の網(1996年2月)
### 1.熱砂の空の激突――第四次日英同盟の盾(2月19日)
1996年2月19日。
クウェートを瞬く間に飲み込み、サウジアラビアを蹂躙したトルコ連邦軍の狂気は、ついにペルシャ湾上空における「列強との直接的な武力衝突」というルビコン川を渡った。
「……レーダー警報受信機(RWR)鳴りっぱなしだ! 敵機捕捉、多数! 回避しろ!!」
ペルシャ湾の青い海原の上空。
クウェート防衛の支援に駆けつけていた**大英帝国空軍(RAF)**の『トーネード戦闘攻撃機』部隊が、トルコ空軍の誇る最新鋭第4.5世代戦闘機**『TA-13』**の大群に完全に捕捉され、絶望的な防戦を強いられていた。
「くそっ、奴らの電子戦能力が高すぎる! ミサイルがロックオンできない!」
旧ソビエトの航空技術とトルコの工業力が結実したTA-13は、ギリシャ空軍を壊滅させたその恐るべき牙を、今度はイギリス空軍へと容赦なく突き立てた。トーネードが放つチャフとフレアの虚しい輝きの中、数機のイギリス機が火ダルマとなって海面へと墜落していく。
その絶体絶命の空域へ、超音速のソニックブームを轟かせて乱入してきた白銀の機体群があった。
「――こちら大日本帝国空軍・第38航空団! これより第四次日英同盟に基づき、友軍の援護および敵機の排除を開始する! エンゲージ(交戦開始)!!」
アラブ特別県のアブダビ基地から緊急発進してきた、大日本帝国の空の盾。
アメリカのF-15と同等の圧倒的な推力と制空能力を誇る双発大型戦闘機**『紫電23型』**と、F-16に近い思想で設計された軽量かつ驚異的な旋回性能を持つ格闘戦の鬼**『疾風26型(第41航空団所属)』**の大編隊である。
「……極東のハイエナどもが来たか! 叩き落とせ!」
トルコ空軍のパイロットたちは、機首をひるがえして帝国空軍へと襲いかかった。
ペルシャ湾上空は、ミサイルの白煙とジェットエンジンの爆音が交錯する、地獄のドッグファイト空間と化した。
「フレア散布! ブレイク、ブレイク!」
『紫電23型』が強烈なG(重力)に機体を軋ませながらトルコ機のミサイルを間一髪で回避し、すかさず僚機の『疾風26型』が死角から機首を上げ、赤外線誘導ミサイル(AAM)を放つ。TA-13の翼が吹き飛び、空中で爆散する。
しかし、帝国空軍も無傷では済まなかった。
「……駄目だ、敵のレーダー性能が我々の第4世代機を凌駕している! 先手を取られるぞ!」
第4世代の紫電・疾風に対し、トルコのTA-13は「第4.5世代」という半歩先の電子戦能力を持っていた。帝国空軍のパイロットたちの超人的な技量(練度)をもってしても、機体性能の差による被弾は避けられず、数機の紫電が黒煙を吹きながら基地への帰投を余儀なくされた。
結果は、互いに多数の被撃墜機を出す**『凄惨な痛み分け』**。
トルコ空軍はペルシャ湾の完全な制空権奪取を諦めて一時撤退したが、大日本帝国空軍もまた、建軍以来初となる「正面切っての航空戦での大出血」という極めて重い代償を払わされたのである。
### 2.ベールを脱ぐ『見えない翼』と、艦隊の集結(2月19日夜)
「……我が国の主力戦闘機が、トルコ機相手に痛み分けだと!?」
同日夜。帝都・東京の将軍府および防衛省は、ペルシャ湾からの戦闘報告に激しい衝撃を受けていた。
「敵のTA-13は完全に第4.5世代機です。我が方の第4世代機(紫電23型)では、電子戦の優位性が保てません!」
「ならば、出し惜しみはなしだ。……本土で極秘裏に実戦配備を完了していた『アレ』を、アラブ特別県へ送れ」
帝国空軍トップの決断は、電光石火であった。
本土の極秘基地から、夜の闇に紛れて数機の異形の戦闘機が飛び立った。
**帝国空軍・第1特殊戦術航空隊**。彼らが操るのは、既存の航空力学の常識を覆す平面的なエイのような機体形状(史実のアメリカ軍YF-22に近い形状)を持ち、敵のレーダー波を完全に逸らす究極の第5世代ステルス戦闘機、**『紫電38型』**であった。
「……トルコのレーダー網など、存在しないも同然にしてやる」
見えない死神たちが、ペルシャ湾に向けて音もなく長距離飛行を開始する。
さらに、海の上でも帝国の巨大な軍事機械がうなりを上げていた。
インド洋を航行していた帝国海軍の**『第6空母機動艦隊』**(母港:南洋特別州・西寧近郊の軍港都市「西花」)に対し、最新鋭の海軍航空隊所属機**『流星35型』**の飛行隊が空中給油を繰り返して緊急合流。艦隊はフルスピードでアラブ特別県の沖合(オマーン湾)へとその巨大な鉄の壁を進めていたのである。
### 3.アラブを目指す狂犬と、将軍の決断
しかし、トルコ軍もただ空を眺めていたわけではなかった。
「……日本軍の航空戦力が我々の脅威となるなら、空に上がる前に『滑走路ごと』潰せばいい!」
サウジアラビアに展開していたトルコ陸軍の機甲師団は、驚くべき強行軍を見せた。彼らは、イギリス・カタール連合軍が強固な防衛線を敷いているカタール国境を「迂回」し、広大なルブアルハリ砂漠を横断して、大日本帝国の直轄領である**アラブ特別県・アブダビ市(および帝国空軍基地)**への直接の地上侵攻ルートへと雪崩を打って進軍を開始したのである。
(※なお、トルコ軍はアメリカ軍の基地がある地域は極めて慎重に避けていた。彼らも馬鹿ではない。アメリカと日本という「二つの眠れる獅子」を同時に本気で怒らせれば、国が消滅することを理解していたからだ。また、列強がいきなり核兵器を使うことは国際社会の非難を恐れて絶対にないと踏んでいた。)
トルコ軍がアラブ特別県に向けて進軍しているという凶報を受け、東京の将軍府では、極限の緊迫感の中で最高幹部会議が開かれていた。
「……トルコの機甲部隊が、アブダビの防衛圏内に侵入するのは時間の問題です!」
「将軍閣下。我が国の領土(直轄領)が直接の脅威に晒されています。見せしめとして、戦術核兵器による砂漠での限定的な敵部隊の蒸発を許可願います!」
一部の強硬派の意見に対し、上座に座る**大日本帝国・将軍**は、静かに、しかし絶対的な威厳を持って首を横に振った。
「……却下する。核兵器などという臆病者の火は、我々の誇り高き帝国軍には不要だ」
将軍は、広げられた中東の地図を扇子でピシャリと叩いた。
「トルコの狂犬どもは、身の程を知らぬまま砂漠を引き伸ばしすぎた。……海軍の艦砲射撃と、到着する第5世代機の爆撃で、奴らの機甲師団を砂漠の砂粒一つ残さず『通常兵器のみ』で完全に殲滅せよ。大日本帝国の真の恐ろしさを、世界に刻み込んでやるのだ」
### 4.【閑話】帝国放送協会(NHK)臨時ニュース(2月20日 午前4時)
*ピロロロロン、ピロロロロン……!*
1996年2月20日、午前4時。
夜明け前の深い静寂に包まれた日本列島を、再びあの恐怖のチャイムが切り裂いた。
眠い目をこすりながらテレビの電源を入れた帝国民は、画面に映る『赤地に白抜きの巨大なテロップ』に息を呑んだ。
**【緊急事態宣言・アラブ特別県全域】**
「……臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます」
深夜帯の当直アナウンサーが、極度の緊張で声を上ずらせながら原稿を読み上げる。
「先ほど、帝国政府は、我が国の直轄領である**『アラブ特別県』全域に対し、最高レベルの国家非常事態を宣言**いたしました。……現在、サウジアラビアを侵攻中のトルコ陸軍の一部が、カタール国境を迂回し、我がアラブ特別県・アブダビ市に向けて進軍を続けている模様です」
「これに伴い、ドバイ国際空港、およびアブダビ国際空港は、民間機の離発着を『完全閉鎖』いたしました。現地に滞在中の帝国臣民は、直ちに地下シェルター、または帝国軍が指定した防空壕への避難を完了させてください」
「繰り返します。我が国の領土に対し、外国軍の直接的な軍事侵攻の脅威が迫っています。帝国陸海空軍は、防衛出動の最高警戒態勢に移行しました――」
ついに、大日本帝国の「直接の領土(内地化された特別県)」が戦火に巻き込まれる。帝国民は、冷戦期にも味わったことのない真の戦争の恐怖を、その肌で実感したのである。
### 5.狂犬を縛り上げる鉄の網――列強の反撃(2月20日昼〜)
しかし、歴史の歯車は、トルコの思い通りには回らなかった。
大日本帝国がアラブの砂漠で迎撃の刃を研ぎ澄ませていた2月20日の昼頃。
自国の火消しや外交調整で足並みが乱れていた各国の巨大な軍事機械が、ついに「トルコ殲滅」という一点において、完璧に同期し始めたのである。
**【カタール戦線:大英帝国の意地】**
アラブ特別県の手前、カタール国境。
「……これ以上、女王陛下の庭を荒らさせるな! 撃てェ!!」
イギリス陸軍の主力『チャレンジャー2』戦車部隊とカタール軍が、防衛線を突破しようとするトルコ軍に対して猛烈な十字砲火を浴びせた。装甲の厚さにおいて世界最高峰を誇るイギリス戦車の前に、トルコ軍の進撃はついに完全に停止した。
**【バルカン戦線:黒十字の空の蹂躙】**
そして、バルカン半島。
トルコ空軍の爆撃によって息も絶え絶えになっていたブルガリアの空に、突如として地鳴りのようなジェット音が響き渡った。
「……ドイツの友軍が到着したぞ!」
ルクセンブルク条約(EU)とNATOの防衛義務に基づき、体勢を整えた**ドイツ第三帝国・国防空軍**の大編隊が、ブルガリア国境を越えて殺到した。
彼らは、トルコの第4.5世代機を上回る『圧倒的な数の暴力』と、洗練された戦術ネットワーク(AWACSとのデータリンク)を駆使し、ブルガリアを攻めていたトルコ空軍を、文字通り空から箒で掃き出すように完全に殲滅したのである。
**【カフカス戦線:双頭の鷲の報復】**
さらに北では、セルゲイ王率いる新生**ロシア王国空軍**が、牙を剥いた。
「……我々の南の庭で好き勝手をするオスマンの亡霊どもを、凍てつく地獄へ送り返してやれ」
ロシア空軍の戦略爆撃機と戦闘攻撃機がカフカス山脈を越え、トルコの支配下に置かれようとしていたカフカス三国(アルメニア、アゼルバイジャンなど)に展開するトルコ軍事施設への、容赦のない絨毯爆撃を開始した。
**【イラン戦線:ペルシャの猛虎の覚醒】**
そして、極めつけは東の国境であった。
大日本帝国がアラブ特別県への防衛のために「海兵隊と第5世代機(本気の戦力)」を投入したことを認知した**イラン政府**は、ついに確信した。
「……背後は帝国が守ってくれる。今こそ、長年の宿敵の横腹を食い破る時だ!」
国家非常事態を宣言して国境で待機していたイラン軍の全軍が、怒涛の雄叫びを上げて国境を突破し、トルコとの全面戦争へと突入したのである。
### 6.エピローグ――自重で崩れる三日月
イギリスの戦車砲弾。ドイツの空の蹂躙。ロシアの絨毯爆撃。イランの全面侵攻。
そして、眼前の砂漠で待ち構える、大日本帝国の「見えない第5世代機」と巨大な艦隊。
わずか数日間の間に、クウェート、サウジ、ギリシャと四方八方に戦線を広げすぎたトルコ連邦共和国は、自分たちが**「ユーラシア大陸のすべての列強・強国から、一斉に包囲されてタコ殴りにされる」**という、世界で最も絶望的な状況に陥っていることに、遅まきながら気づいたのである。
「……ば、馬鹿な。各国の足並みは揃っていなかったはずだ! なぜ全方位から同時に攻撃されているのだ!?」
イスタンブールの司令部で、トルコの指導者は悲鳴を上げた。
補給線は完全に伸び切り、弾薬も燃料も枯渇し始めていた。
「ネオ・オスマン帝国」という誇大妄想の夢は、各国の怒りという名の現実のハンマーによって、音を立てて砕け散ろうとしていたのである。
(第十四章 第五話 完)
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