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122.タガの外れた檻――ペレストロイカの暴走と黄金の弾丸

# 海洋帝国日本史 第十三章:崩壊の足音と双頭の鷲の落日


## 第二話:タガの外れた檻――ペレストロイカの暴走と黄金の弾丸(1986年〜1990年)


### 1.致命的な劇薬――ペレストロイカとグラスノスチ(1986年)


1986年。

長きにわたりユーラシア大陸の北半分を恐怖と絶対的な権力で支配してきたソビエト連邦(第四インターナショナル)は、指導者ミハイル・ゴルバチョフの下で、ついにその重い重い鉄の扉を内側から開け放とうとしていた。


「……我々の経済は完全に破綻している。軍拡競争を止め、西側の資本と技術を導入しなければ、ソビエト人民は餓死してしまう。今こそ『ペレストロイカ(立て直し)』と『グラスノスチ(情報公開)』が必要だ!」


ゴルバチョフの意図は、あくまで「社会主義体制を維持したまま、経済の効率化を図る」というものであった。彼は西側諸国(大日本帝国やドイツ)との軍縮交渉に乗り出し、軍事費を削減して市民生活を豊かにしようと試みた。


しかし、この「劇薬」は、巨大な赤い帝国にとってあまりにも刺激が強すぎた。

『グラスノスチ』によって長年の言論統制が解かれた瞬間、ソビエト市民が目にしたのは「輝かしい社会主義の勝利」などではなく、党幹部ノーメンクラトゥーラの信じられない腐敗と、西側諸国(日本や欧米)の圧倒的で眩いばかりの豊かさという「絶望的な現実」であった。


「……我々は、何十年も騙されていたのか!」

モスクワやキエフの街角で、市民たちの怒りが沸点に達する。ゴルバチョフの改革は、ソビエトを蘇らせるどころか、国家の土台を支えていた『恐怖』と『嘘』という二つの柱を、自らの手でへし折ってしまう結果となったのである。


### 2.崩れゆく鉄のカーテン――周辺諸国の反乱(1987年〜1989年)


「……モスクワのヒグマは、もう牙も爪も失っているぞ。今なら、我々を戦車で轢き殺す力はない!」

このソビエト本国の致命的な「弱体化」を最も敏感に察知したのは、これまでモスクワの強権によって力で押さえつけられていた『第四インターナショナル』の加盟国や、周辺の衛星国たちであった。


彼らは、ゴルバチョフが「他国の内政には武力干渉しない(新思考外交)」と宣言したのを良いことに、一斉に、そして雪崩を打ってモスクワからの『独立』と『離反』へと走り始めたのである。


**【バルトの独立と、旧領復帰のうねり】**

最も火の手が上がるのが早かったのは、西の国境地帯である。

バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)が、数百万人の市民が手を繋ぐ「人間の鎖」によって独立を強烈に要求。さらに、かつて大戦でソビエトに領土を奪われていた**旧フィンランド領(カレリア地方など)**の住民たちも、フィンランドへの帰属を求めて大規模なデモを展開し始めた。


**【穀倉地帯の離反と、ルーマニアの流血】**

「……もうモスクワの連中に、我々の小麦を吸い上げられるのは御免だ!」

ソビエト最大の穀倉地帯と工業力を持つ**ウクライナ**でも、強烈な民族主義と独立の機運が爆発。

さらに東欧の**ルーマニア**では、モスクワの庇護を失った強権的な独裁者チャウシェスクが、怒り狂った民衆の武装蜂起によって無残に打倒され、血みどろの革命の末に社会主義体制が崩壊した。


**【中央アジアの動揺と、トルコの傲慢】**

南部では、カザフスタンやウズベキスタンといった**中央アジア諸国**が、モスクワの経済的支援が途絶えたことで独自の資源外交を模索し始める。

そして、前時代から着々と力を蓄えていた**社会主義トルコ**は、ソビエトの衰退を冷ややかに見下ろしながら、「我々こそが中東とバルカンの新たな盟主である」と公言してはばからず、第四インターナショナルの枠組みを完全に無視した独自の覇権拡大(ネオ・オスマン主義)を強引に推し進めていた。


一方、地球の裏側にある**南米社会主義連合(SASU)**は、このソビエトの混乱に対し「……モスクワの官僚主義の限界だ。我々は我々の道をゆく」と極めて冷淡な態度を貫き、ソビエトと完全に距離を置く独自の社会主義ブロックを維持していた。


### 3.黄土の逆転劇――黄金の弾丸(1988年〜1990年)


ユーラシア全土でソビエトの権威がガラガラと崩れ落ちる中、極東の中国大陸において、この「歴史の地殻変動」を最大の好機と捉え、凄まじい逆襲に打って出た勢力があった。

豊かな沿岸部を支配する資本主義国家、**南華共和国(広州・上海政府)**である。


1950年代の『中華代理戦争』において、南華共和国は毛沢東率いる**中華人民共和国(西)**と血みどろの戦争を繰り広げたが、大国たちの都合によって国境線は1ミリも変わらず、停戦を余儀なくされていた。


しかし1980年代後半。状況は完全に逆転していた。

西の中華人民共和国は、最大のパトロンであったソビエトからの資金援助と兵器供給が完全にストップし、極度のインフレと深刻な食糧不足(飢餓)に喘いでいた。時代遅れの計画経済は完全に破綻し、人民解放軍の兵士たちに配給するパンすら事欠く有様であった。


対する南の南華共和国は、上海を中心とする凄まじい商業資本と、大日本帝国やイギリスとの貿易によって、桁違いの経済的繁栄を謳歌していた。


「……西の共産党幹部どもは、飢えとソビエトの崩壊に怯えている。今こそ、銃弾ではなく『カネ』で奴らの喉元を切り裂く時だ」

南華共和国の指導層(上海の巨大資本家たち)は、軍事侵攻というリスクを避け、極めて狡猾で冷酷な**『工作活動(静かなる浸透と買収)』**を開始した。


彼らは、国境線(長江周辺)の密輸ルートを全開にし、北の飢えた人民に向けて、南華で生産された圧倒的に高品質な家電製品、日用品、そして美味な食料を大量にばら撒いた。

「……見ろ、南の資本主義社会はこんなにも豊かなのか!」

西の人民たちは、配給制の粗悪な品物と、南から流入する煌びやかな商品の圧倒的な差を見せつけられ、共産党への忠誠心を急速に失っていった。


さらに南華の工作員たちは、西の人民解放軍の将官や共産党の地方幹部たちに対し、アタッシュケースに詰め込んだ大量のドル紙幣や金塊、そして上海の高級マンションの鍵をチラつかせた。

「……我々に協力すれば、南華の『名誉市民』として、一生遊んで暮らせる富を保証しましょう。モスクワの泥船と一緒に沈む必要はありませんよ?」


イデオロギーの壁は、「圧倒的なマネーの暴力」の前に、まるで濡れた紙のようにボロボロに崩れ去っていった。西の将軍たちは次々と南華の資本に買収され、人民解放軍の部隊は事実上、南華の「私兵」へと変質していったのである。


### 4.影のスポンサー――星条旗と強欲な香港資本


この南華共和国による「えげつない資本主義的買収工作」の背後には、彼らに莫大な裏金を提供している**『巨大な黒幕たち』**の存在があった。


一つは、北米大陸の要塞に引きこもっていた**アメリカ合衆国(NAFTA)のCIA**である。

「……ソビエトが弱っている今、中国大陸から共産主義の赤いシミを完全に拭き取る絶好のチャンスだ。南華にいくらでも裏金(工作資金)を流せ」

アメリカは、かつてキューバを南米の社会主義者(SASU)に奪われた屈辱を晴らすかのように、極東における反共工作に莫大なCIAのブラックマネーを投下していた。


そしてもう一つの、極めて厄介で強欲なスポンサー。

それは、大英帝国の植民地であり、東洋の金融の心臓部となっていた**香港の英国系資本家たち**であった。


当時のイギリス本国(ロンドン政府)は、英連邦の維持とヨーロッパ経済の安定を最優先としており、「中国大陸での無用な混乱(戦争)」を望んでおらず、南華共和国に対しても「現状維持(平和的共存)」を公式な方針として指示していた。


しかし、香港に巣食う英国系の投資銀行や巨大商社(アヘン戦争時代からの系譜を継ぐような冷徹な資本家たち)は、ロンドンの方針など完全に無視していた。

「……政治家の臆病風など知ったことか。もし南華が北を飲み込んで『巨大な統一中国市場』が誕生すれば、我々はそこから天文学的な利益(インフラ投資や金融支配の特権)を搾り取ることができるのだ!」


彼ら香港の資本家たちは、純粋な『資本主義の強欲』に基づき、ロンドン政府の目を盗んで、南華の軍部や上海資本に莫大な融資と工作資金を秘密裏に提供していたのである。


### 5.エピローグ――静かに崩れ落ちる紅き帝国(1990年)


アメリカの星条旗と、香港の強欲な資本という「影の巨大スポンサー」をバックにつけた南華共和国の黄金の弾丸は、中華人民共和国の土台を完全にシロアリのように食い破っていた。

西の首都・成都では、もはや共産党の命令は長江以南には届かず、国家としての機能は事実上、崩壊のカウントダウンを迎えていた。


そして、その震源地であるモスクワ。

1990年。ミハイル・ゴルバチョフが掲げた改革の光は、完全にコントロールを失った暴走機関車となり、ソビエト連邦という巨大な檻を完全に破壊し尽くそうとしていた。


「……我々は、帝国を維持することはできない」

クレムリンの窓から、赤の広場に集まる群衆を見下ろしながら、ゴルバチョフは力なく呟いた。


バルト三国が独立を宣言し、ウクライナが背を向け、東欧の衛星国たちは次々と西側(ドイツや大日本帝国)へと擦り寄っていく。

ユーラシア大陸の半分を赤く染め上げた恐怖の超大国は、外からのミサイル攻撃を受けることなく、ただ自らの内側に抱え込んだ「経済の病」と「イデオロギーの矛盾」によって、音を立てて自死への道を転げ落ちていくのである。


1990年が暮れようとしている。

冷戦という、絶対的に固定化されていたはずの巨大な氷の壁が、完全に砕け散った。

世界は、恐怖の均衡という「ある種の平和」を失い、むき出しの資本主義の欲望と、新たな民族主義が激突する、誰も予想できない『混沌の1990年代』へと突入していく。


(第十三章 第二話 完)


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何故北の首都北京で共産党の命令が云々って話になるのか。北京は北中華連邦の首都では?
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