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123.赤い巨象の死と双頭の鷲の覚醒

# 海洋帝国日本史 第十三章:崩壊の足音と双頭の鷲の落日


## 第三話:赤い巨象の死と双頭の鷲の覚醒――1991年3月、インターナショナルの崩壊


### 1.八方塞がりの改革者と、腐りゆく巨体(1991年初頭)


1991年。

世界を恐怖で支配してきた超大国・ソビエト連邦は、その巨大な質量を支えきれず、自らの重みで圧死寸前の状態にあった。


書記長ミハイル・ゴルバチョフは、国家を延命させるため「決死の若返りと経済改革」に挑んでいた。しかし、彼の手術台に乗せられたソビエトという患者は、すでに全身にガン細胞(官僚主義と腐敗)が転移しきっていたのである。


「……軍隊を減らせば、予算は浮く。だが、巨大な軍需産業に依存していた都市は丸ごと失業の街と化す。公務員を減らせば、今度は行政が回らず経済がさらに悪化する……!」

クレムリンの執務室で、ゴルバチョフは頭を抱えていた。

リストラをしても、しなくても、結果は同じであった。国家の金庫は完全に底を突き、軍人や公務員への「給与の遅配・未払い」が数ヶ月にわたって常態化するという、近代国家としてあり得ない末期症状を呈していたのである。


さらに政治の場でも、ゴルバチョフは完全に孤立していた。

既得権益を手放したくない軍や共産党の『守旧派』が改革を猛烈に妨害し、一方で「そもそも社会主義の原点に戻るべきだ」と主張する時代錯誤な『原始共産主義者』たちがイデオロギー闘争を繰り広げる。


「……腹が減っているんだ。イデオロギーの議論などどうでもいい。我々にパンと給料をくれ!」

凍てつくモスクワの街角で、市民の怒りは爆発寸前に達していた。

そして彼らの羨望の眼差しは、シベリアの遥か東、大日本帝国の防波堤として驚異的な経済成長を遂げていた**『極東ロシア王国』**へと向けられ始めていたのである。


### 2.双頭の鷲の覚醒――若き王の決断


「……見よ。かつて世界を震え上がらせた赤い帝国が、自らの腐敗で自壊しようとしている」


極東ロシア王国の首都、ウラジオストク。

白亜の王宮のバルコニーから、凍てつく金角湾を見下ろしている一人の若者がいた。

アナスタシア女王の血を引く、極東ロシアの若き王、**セルゲイ・ニコラエヴナ・ロマノヴァ**である。


大日本帝国や西側諸国との活発な貿易により、極東ロシアは林業・鉱業をベースに豊かな資本主義国家へと成長していた。スーパーマーケットには西側の食料品や日本の家電が溢れ、人々は自由を謳歌している。


「……同じロシア人の血を引く同胞たちが、西側モスクワで飢えに苦しんでいる。共産主義という悪夢は、もう終わらせなければならない」

セルゲイ王の瞳には、かつてロマノフ王朝が掲げた『双頭の鷲』の誇りと、強烈な野心が燃え盛っていた。

極東ロシア国民の間にも、「腐敗したソビエトを打倒し、極東主導で祖国ロシアを統一すべきだ」という機運が、かつてないほど高まっていたのである。


歴史の女神は、この若き王の覚悟に応えるかのように、西の国境で「最初の一撃」のゴングを鳴らした。


### 3.運命の3月21日――雪原のサボタージュ


**1991年3月21日、現地時間午前5時。**

ソビエト連邦の北西国境、**カレリア地方**。


白銀の雪原を切り裂き、大戦で奪われた「祖国(旧領)奪還」の悲願に燃える**フィンランド軍**の精鋭機甲部隊が、猛烈な勢いで国境線を突破した。


「……敵襲! フィンランド軍がカレリアに侵攻!」

国境警備隊からモスクワへ、緊急の無線が飛ぶ。本来であれば、世界最強を誇るソビエト赤軍が直ちに反撃を開始し、侵略者を火の海に沈めるはずであった。


しかし。最前線の塹壕にいたソビエト兵たちは、誰一人としてカラシニコフの引き金を引こうとはしなかった。


「……撃て! なぜ撃たんのだ貴様ら!」

政治将校が怒鳴り散らすが、凍えるような寒さの中でボロボロの軍服を着た兵士たちは、ただ虚無の瞳で将校を見つめ返すだけであった。


「……ふざけるな。半年も給料を払わない国のために、誰が命を懸けて戦うものか」


兵士たちは、次々と雪の上にライフルを投げ捨てた。

それは、敵に対する降伏ではなく、自らを飢えさせる祖国に対する**『究極のサボタージュ(ストライキ)』**であった。

軍隊としての絶対的な規律が、未払いという「カネの切れ目」によって完全に消滅したのである。フィンランド軍は一発の銃弾も浴びることなく、歓喜とともにカレリア地方の旧領を無血で奪還していった。


### 4.反逆の連鎖と、赤軍の瓦解


「カレリアの部隊が戦闘を放棄したぞ! 国境が突破された!」

この前代未聞のサボタージュのニュースは、軍の無線網を通じて、瞬く間にソビエト全土の駐屯地へと広がっていった。


「……カレリアの連中が正しい。我々も、もうモスクワの豚どものために戦うのは御免だ!」

兵士たちの鬱憤は、限界をとうに超えていた。そして、この「軍の命令無視」は、ソビエト国内で燻っていた民族主義と強烈に結びつき、最悪の『軍隊の造反(寝返り)』へと発展する。


「我々バルト人は、モスクワの支配を拒絶する!」

バルト三国出身の兵士たちで構成されていた**『第14独立作戦軍』**が、ソビエトの軍旗を焼き捨て、母国の独立運動側に寝返ることを宣言。


「ウクライナの富を、これ以上ロシア人には渡さない!」

ウクライナ人を中心に編成されていた精鋭**『第5集団軍』**が、戦車の砲塔をモスクワの方向へと旋回させ、ウクライナ臨時政府の樹立を武力で支持した。


最強を誇ったソビエト赤軍は、外敵と戦う前に、自らの内側に抱え込んだ多民族の怒りと経済の崩壊によって、まるでパズルが弾け飛ぶようにバラバラに瓦解してしまったのである。


### 5.モスクワの凶弾――改革者の悲劇


軍が統制を失い、全土で独立の暴動が吹き荒れる中。

首都モスクワのクレムリンにも、最悪の悲劇が迫っていた。


「……ゴルバチョフを引きずり下ろせ! 奴のせいで、偉大なる祖国が崩壊するのだ!」


3月21日の昼下がり。

腐敗した国家に憤慨し、完全に方向性をを見失った軍の青年将校たちが、武装したままクレムリンの執務室へと突入した。


「待て、君たち! 私は腐敗などしていない! 私はこの国を救おうと……!」

ゴルバチョフは机から立ち上がり、若き将校たちを説得しようと手を伸ばした。

しかし、血に飢え、誰かに責任を押し付けなければ精神が崩壊しそうになっていた彼らに、改革者の声は届かなかった。


ダァン!! ダァン!!


冷たい銃声が執務室に響き渡り、ミハイル・ゴルバチョフは胸を血に染めて大理石の床に崩れ落ちた。

軍や党の上層部が肥え太り、腐敗の極みにあったソビエトにおいて、皮肉にも「唯一国を良くしようと足掻いていた男」が、すべての腐敗の責任を被らされる形で暗殺されたのである。


最高指導者の死。

それは、ソビエト連邦という国家の『脳死』を意味していた。モスクワは完全な無政府状態アナーキーに陥り、指揮系統を失った巨大な帝国は、死に体のまま歴史の断頭台へと引きずり出されていった。


### 6.赤い檻の消滅――怒涛の独立ドミノ(3月21日〜24日)


ゴルバチョフ暗殺の報が世界を駆け巡ったその日のうちに。

ソビエトの西側では、堰を切ったように新たな国家が産声を上げた。


**【3月21日】**

キエフにおいて**ウクライナ臨時政府**が立ち上がり、ミンスクで**ベラルーシ臨時政府**が独立を宣言。さらに、ヴィリニュスで**バルト連合独立政府**が成立。彼らは寝返ったソビエト軍の兵器を盾に、モスクワからの完全な離脱を果たす。


そして、この「ソビエト本国の死」は、モスクワ条約機構(MTO)と第四インターナショナルという、世界を二分していた巨大なイデオロギーの檻を、木端微塵に吹き飛ばした。


**【3月22日〜24日の三日間】**

恐怖のヒグマが死んだことを確信した加盟国たちは、蜘蛛の子を散らすように、次々と離脱の声を上げた。


東欧の**ルーマニア**と**ブルガリア**が脱退を表明(ブルガリアはすぐさま西側へ接近を開始)。

ネオ・オスマン主義で覇権を狙う**トルコ**も、もはや沈む泥船に用はないとばかりにMTOを脱退し、バルカンと中東における自らの野心を隠そうともしなくなった。


さらに、黒海とカスピ海に挟まれた**カフカス三国(ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン)**、資源の宝庫である**中央アジア五カ国(カザフスタン、ウズベキスタン等)**が相次いで独立を宣言。


極東・アジア戦線においても連鎖は止まらない。

ソビエトの衛星国であった**モンゴル**が、機に乗じて中国の**内モンゴル**を吸収する形で独立。

さらに、南華共和国の工作で虫の息となっていた北中華連邦の背後で、**ウイグル**と**チベット**が武装蜂起し、一気に独立を勝ち取る。

地中海の要衝、**キプロス**も静かにインターナショナルの旗を降ろした。


そして、地球の裏側。

「……モスクワの社会主義は失敗した。我々は我々の道を往く」

**南米社会主義連合(SASU)諸国**もまた、崩壊する第四インターナショナルからの正式な脱退を表明し、完全にモスクワとの決別を果たした。


### 7.エピローグ――終わりの始まり


1991年3月24日。

わずか「3日間」。


フィンランド軍の侵攻と兵士のサボタージュから始まり、ゴルバチョフの暗殺を経て、世界地図を真っ赤に染め上げていたソビエト連邦と第四インターナショナルは、信じられないスピードで地図上から完全に消滅した。


それは、核兵器が飛び交う第三次世界大戦の火の海ではなく。

給料未払いという「カネの尽き」と、腐敗に対する「民衆の絶望」がもたらした、極めて現実的で、あっけないほどの『内破』であった。


大日本帝国の将軍府も、ワシントンのホワイトハウスも、ロンドンのダウニング街も。

西側の指導者たちは皆、ユーラシア大陸で起きたこの凄まじい大崩壊劇を、言葉を失いながら見つめていた。


「……冷戦は、終わったのだ」

誰もがそう思った。


しかし、赤い巨象が倒れた跡地には、平和ではなく、巨大な『権力の空白』と『新たな野心』が残された。

極東から祖国統一を狙う若き王セルゲイ、覇権を狙う社会主義トルコ、そしてタガが外れ、核兵器を持ったまま独立した無数の新興国たち。


冷戦という絶対的な秩序が消え去った世界は、これまで以上に血生臭く、複雑な『混沌カオスの時代』へと、その重い扉を開け放ったのである。


(第十三章 第三話 完)


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