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第11話 聖々堂々

~前回のあらすじ~


始まってしまった、マロビへの力ずくの説得。


驚異の実力とトリッキーな戦闘スタイルで終始余裕を見せるマロビに対し、

笑太は圧士との特訓のおかげでなんとか必死に食らいついていた。


やっとのことでマロビにクリティカルな一撃を食らわせ

決着はついたかと思われたが……

ハゲだ。ハゲが居る。

全裸のハゲが、ドヤ顔でベルトを振り回しながらこちらを見ている。


罰ゲームで強要されているようにしか見えない姿。


しかしここまでの戦闘を経て笑太(しょうた)は、

本人が100%真面目であろうことを理解していた。

それどころか、もはや感心していた。

この期に及んで、まだこちらを驚かせる手があったのかと、


『それで?その全界抱擁(グレートフル・ハグ)モードとやらで何が変わる。』


純粋な好奇心で問いかける。

何がこの男を、そこまで奇行に走らせるのか。


「知りたい?」

『ああ。』


知りたい。


「じゃあキミも裸部(ラヴ)入部(はい)ってヨ♪」

『それは断る。』

「ツレないなァ~~~」


その裸部の活動を止めるためにこの男を説得しているのだ。

自分が入部してしまったら元も子もないだろう。

真相は己の身で確かめようと、静かに戦闘の構えをとる。



その時、笑太の顔の横を何かが掠めたような気がした。



空気が炸裂(さくれつ)する音。宙に舞うフード。

呆気に取られている笑太の様子をマロビは鼻で笑う。

そしてベルトを鞭のように大きく(しな)らせ、

炸裂音と共にフードを()()りに裂いてしまった。



「ラウンド(トゥー)、始めよっか☆」



笑太の心臓が激しく跳ねた。


この男は、確実にまだ余力を残している。

先ほどのベルト使い、一度目はほぼ予備動作が無かった。

つまり二度目は()()()笑太に見せつけるように振るったのだろう。


本気で行かねば()られる。

否、現状では全力以上のパフォーマンスでも勝負になるか怪しい。

少なくともスピード勝負では話にならないだろう。


『ゲラ ゲラ ゲラ ゲラ』


嗤い聲(わらいごえ)を響かせ、マロビからは一切目を離さずに間合いを保つ。

無策でベルト圏内に入ってしまわないように。


「え~~~どうしたの?ビビっちゃった?」


そんな様子を見てマロビは一歩また一歩と距離を詰める。

飛び道具の無い笑太は手出しできずにただ距離を保ち続ける事しかできない。



そう思っているのだろう。



「来ないならこっちから行っちゃうヨン☆」


床を踏み割る勢いで一足飛びに間合いを詰めて来る。

あっという間にベルト圏内に入れられてしまった。


『ぐッ!!!』


笑太に襲い来る、ベルトによる鞭打ちの雨。

当然避けることはできず、防御姿勢をとることで手一杯だ。

服はあちこち引き裂かれ、瞬く間に身体中裂傷まみれになる。


その間、血だるまと化しながらも嗤い聲は途絶えさせない。

陰暗示(ノセボ)が効いて手が緩む隙を伺っていた。





しかし、笑太の考えに反して攻める手はいっこうに止む気配がない。


(おかしい、効くのが遅すぎる…!?)


「ゴメンね、全界抱擁モードのボクに陰暗示は効かないんだ~」


鞭の雨が止んだ。

すぐ傍まで近づいていたマロビが、腰に手を当てて笑太の顔を覗き込む。

笑太が苦し紛れに拳を放つも、易々(やすやす)と躱されてしまう。


「世界を愛して、世界に愛されてるからねッ☆☆☆」


カウンターで放たれた拳は笑太の腹に直撃し、

笑太の身体は扉をぶち抜いて奥の部屋まで吹き飛ばされた。


敵を吹き飛ばした方向にゆっくりと歩みを進めるマロビ。

嗤い聲は止んでいる。


「おーい、大丈夫ゥ?」


語りかけるものの返答は無く、

瓦礫に埋まってしまった笑太の姿は見えない。


「もう終わり?じゃあボク帰るよ~?」


意気消沈したマロビが踵を返したその時、

彼の背後で瓦礫が押しのけられる音がした。


マロビの顔に笑みが戻る。


嬉々として振り返った彼の眼には、

獣のような息遣いで辛うじて立っている翔太の姿が映っていた。


『ゲラ

   ゲラ』


ゆっくりと一歩ずつ、マロビのもとに笑太が踏み出す。



「まだやれるかい?」


ベルトの間合いに入ってきた笑太を一発鞭打つ。

笑太の衣服が大きく裂けグラりと体勢を崩したものの、

ダンッ!と踏み止まり再び歩みを進める。


『かかって…来いや……』

「いいね…ッ!」


今までの余裕の笑みではなく、喜びの笑みを浮かべるマロビ。


彼も、笑太もとへゆっくりと歩みを進める。




お互いの拳が届くほどの距離で、

示し合わせたかのように双方立ち止まり向かい合った。


ぼろ布を纏う血濡れの笑太を、恍惚とした表情で眺めまわすマロビ。


「やっぱりキミ、ウチの部に欲しい…ッ!!!」

『うる…せぇよ……』



朦朧とする意識の中で、笑太は圧士(あつし)の言葉を思い出していた。


「いいか、頭が無事なら()()()は死なねぇ。

 骨折られまくろうが、内臓(モツ)潰されまくろうが絶対に死なねぇ。

 絶対だ。信じて足掻き続けろ。」


徹底的に()()()()()()2日間の経験と記憶が、

笑太の意識を繋ぎ止めていた。



(やってやるよ…ッ!)




『 ゲ ラ 』




「ッ!」


今までより低く、脳髄を揺さぶるような嗤い聲と共に、

マロビの左頬が殴り抜かれた。


(当たった…!?)


殴られたマロビ以上に笑太自身が驚愕していた。

おそらく笑太本人は無意識なのだろうが、マロビは変化に気付いていたのだ。


「もっと!もっと、嗤いなよ…!!!」

『グッ…!』


笑太の左頬が殴り抜かれる。

一瞬飛びかけた意識を無理やり引き戻し、嗤い聲を更に強く響かせる。


『ゲラゲラゲラ!!!』


狭い部屋がゲラドクロの聲に呼応するかのようにミシミシと振動している。



「アハハハハハ!!!!!楽しいねェ!!!!!」


『ゲラゲラゲラゲラ!!!!!!!』



どちらからともなく拳が放たれ、爆笑の渦に絶え間ない打撃音が加わる。


時折蹴りが空を裂く音や、乾いた木材が折れるような音が交る。


二人の男たちが放つ狂気の五重奏(カルテット)で部屋は満たされていた。




どれほど時間が経っただろうか。

次第に笑い声は静かになってゆき、消え入るように喧騒は終わりを迎えた。


いつの間にか日は沈み部屋は完全な暗闇に包まれていて、

いまは二つの荒い息遣いだけが聞こえている。


笑太はもう限界だった。

身体中が痛い。骨も確実に数本折れているだろう。

今すぐにでも倒れ込んでしまいたかった。


『まだ…諦めねェか……』

「アハッ……すっごいシンドい♪」

『へっ、余裕そうじゃねぇか……』


口調は軽かったが、マロビも限界に近いようだった。

おそらくお互いに次が最後の一撃になるだろう。


「だから、もうこれで倒れてッ☆☆☆」


先に仕掛けてきたのはマロビだった。

笑顔のような表情で歯を食いしばり、拳を大きく振りかぶる。

当然笑太に避ける余力など無く、左頬への衝撃を甘んじて受け入れた。


『ッ!ァァァアアアアッッッ!!!!』


その衝撃を、回転エネルギーへと転じる。

左足を軸とした後ろ回し蹴りがマロビの右側頭部に直撃。


「ガァッ!!?」


マロビが、膝から崩れ落ち、倒れ伏した。


笑太は肩で息をしながら、静かに見下ろす。


「アハッ、もう動けないや♪ボクの負けだよ…完敗っ☆」

『…約束は守ってもらうぞ。』

「わかったよ、彼女への勧誘はやめるネ。」




ついにやった。




達成感で脳の緊張が解かれ、一瞬でブラックアウトしてしまう。

全身の力が抜け溶けるように背中から倒れるところを、

何者かに抱きかかえられた。



「ゲラくん、よくやったな。」



遠のく意識の中、最後にそんな声が聞こえた気がした。

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