62話「受け継がれし力」
いつの頃だっただろうか?
父親に自分に受け継がれた力の存在を教えられたのは。
誰も知らなかったさ。僕だってそんな事知らなかった。
そんな悪魔の様な凶悪な力を自分自身が持っていた事も父親が普通の1人の人間ではなく、異世界帰りの英雄だったと言う事も…
何も知らなかった。
その事を知った日は覚えていない。
しかしある日、父親が家に帰ってきた。父親は基本的に世界中で仕事をこなしている人間だった為家に帰ってくる事はあまり多くなかった。
帰ってくるのは正月の時とお盆の時。そして稀に普通に帰ってくる時もあった。
しかしいつどんな時にでも、父親が帰ってくれば自分を含めた家族全員は父親の帰りを大きく喜んだ。
母親も姉も妹もそして自分も父親が大好きだった。
最後に会ったのは、この世界に召喚される3ヶ月前だった。ちょっどお盆の時に父親は帰ってきたのだ。墓参りに行き、祖父母の家に一緒に帰った事を覚えている。
父親の容姿は今でも覚えている。見た目は自分似な容姿をしていた。多分だが僕は父親似な子だったのだろう。
いつも口元を微笑ませながらもクールな表情を絶やさない。前髪が長く目元がいつも見えなかったが、時折見えるその目元にはどこか強いカッコ良さがあった。
そして情に深く、家族の誰にでも優しかった。怒る事はせず、いつも家族を見守っていた記憶があった。
特に母親とは妻と夫と言う関係なのかいつもラブラブな感じだった事を覚えている。2人が口喧嘩をしている所は1度も見た事がなかった。
そんな父親を嫌いになる人物はいなかった。
家族の中で父親を嫌っていた人は誰1人として。
それが僕達の父親「不知火霊士郎」だった。
ある日の事だった。
凱亜は1人で湯船に浸かっていた。この日は1人で風呂に入っていた。いつもなら母さんか姉さん達が入ってくるのだが、流石に小学六年生にもなってお母さんや姉さん達と一緒にお風呂に入るのかはどうかな?と思い、この日は1人だけでお風呂に入っていた。
1人のお風呂も中々良いものだった。湯船を独り占め出来るのってかなり良い感じだ。
これなら、何時間でも………と1人でお風呂の温かさに浸っている時だった。
音を立てて、扉が開いた。凱亜はハッとすぐに扉の方を振り返った。
そこには父親が体にタオルを巻いて立っている。凱亜は突然見せられそうになったのですぐに視線を逸らした。
同性だと分かっていてもだ。
「よぉ、凱亜。父さんも入っていいか?」
「え?別に構わないけど……」
父親がお風呂に入ってきた。
入ってくるなり、風呂場に置いてあった椅子に座り、シャワーを流し始める。シャーと音を立てて、シャワーから温水が流れ始める。
父親はシャワーを手に取り、頭に温水をかけ始める。
体に巻いてあったタオルも取っていた。
凱亜は父親ではなく、顔を上に向けて天井を見ていた。意味はない。ただボーッとしていただけだ。
意味もなく脳を空っぽにして、何も考えずに最低限の呼吸だけで、天井を眺めていた。
…
…
……
ふと凱亜は横を見た。
凱亜は目を疑った。体を洗っている父親に目がいった時、凱亜は全身に戦慄が走った。
父親の姿を見て、凱亜は恐れてしまい体が少しだけ震えた。どうしてこんな姿になってしまっているのか、一体彼の過去に何が発生したのか。
まるで怪物と戦った人間の様だった。
父親の体は傷だらけだった。
もう一度言う。傷だらけだったのだ。
背中だけ見えたその傷は恐ろしい以外の何者でもない。
背中にはまるで剣で斬られた様な縦に長い傷跡があった。肉が裂けて、出血している訳ではない。
もう古傷となっているが古傷でさえ痛々しく見えてくる。
剣で斬られた様な傷跡だけでもなく、何か鋭利な武器に刺された様な古傷、更には沢山の薄い肌色の痣や槍で突かれた様な傷もあった。あの痣は間違いなく殴打や暴力行為をされて作られた痣だと言う事は分かった。
その背中だけでも分かる。どれだけ厳しい戦いを生き抜いてきたのか。
死戦を潜り抜いて来た事が伝わってくる。
しかし、何故父親がこんな傷を負っているのかが凱亜には分からなかった。
今まで父親とは暮らしてきたが、自分が知る父親は戦場で戦う様な人ではない。
父親は世界を飛び回る貿易商人的な人だと聞いているが、そんな職業の父親が戦場で武器を手に取って戦う様な人ではない事ぐらいは凱亜も分かっていた。
凱亜は唖然として、父親の古傷を見つめていた。
そして頭の中でどうして父親があんな傷跡を背負っているのか、考えてみた。
一体過去に父親の身に何があったのか。
しかし考えた所で所詮は小さな子供の考え。絶対に間違えている様な答えしか浮かび上がってこない。
分からなかった。
何も分からなかった。
しかし、答えを考えて口にする前に、父親は凱亜に話しかける。
「気になるのか?」
「えっ!?」
「父さんの体に付いてるこの傷が…」
凱亜は自分の考えをすぐに言う人間だった。気になる事があればすぐに聞き、すぐに行動に移す人間だった。
勿論だが、凱亜の答えは決まっている。
「き、気になる…」
その言葉に父親は1度頷くと…
「風呂から上がったら…話してやるよ」
父親の言葉に凱亜は父親と同じ様に頷いた。
凱亜は頭を父親に洗ってもらった。小学六年生にもなって、恥ずかしいとは思わなかった。
有難くも感じた。背中も流してくれたから、尚更父親に対する有り難さは大きかった。
父親の体の傷は、背中だけではなかった。逆に背中だけとは思わなかった。あれだけの傷が背中だけにあるとは考えにくいからだ。
案の定、上半身の前の方も傷でいっぱいだった。
剣で斬られた様な傷跡や鋭利な何かで突き刺された様な傷跡や殴られた後の様な痣は勿論、腹部にはまるで引き裂かれた様な損傷が見られた。まるで穴でも空けられてしまったかの様だ。何が原因であんな傷が作られたのかは不明だが、またしても痛々しい気持ちににってしまった。
見ているのが嫌になった。
父親は今は平然としてニッコリと笑っていたりしているが、きっとその受けた傷の痛みは耐え難い程の痛みだった事だろう。凱亜でも分かる。あの傷の痛みは転けてしまった時の痛みや包丁などで手を切ってしまった時に起きる痛みの大きさではない。
死ぬ程痛かっただろう。死んでしまった方がマシだと思えるぐらいの痛みだっただろう。治るかも分からない痛みだっただろう。
思い出しただけで再び痛む様な傷跡だった。
凱亜は想像するだけで怖くなってきてしまった。
すぐに忘れてしまおう。こんな事……
お風呂から上がった後は早かった。
父親はお風呂から上がると素早く体を清潔で綺麗なタオルで拭き、服を着替えた。
それは凱亜も同じだった。凱亜も話の内容が気になってしまい、全ての行動を素早く行ってしまっていたのだ。
素早く着替えると、凱亜達は居間の方に移動した。
母さんや姉さん、妹達は1階にはいない。既に2階に行ってしまっている。
誰もこの場を覗き見たりしている人は誰1人として存在しないだろう。
父親は凱亜にだけ椅子を用意した。父親本人は椅子に座らなかった。
近くには食事をする為のテーブルがあり、そこにも椅子があったが、父親は座る素振りを見せなかった。ただ椅子に座る凱亜の前に1人、暗い感じで立っていた。
「父さん?それで……あの傷って…」
「凱亜……単刀直入に言わせてもらう。お前はアニメとか漫画を良く見たり読んだりしてるよな?」
父親の言葉に偽りはなかった。確かに凱亜はアニメを見たり、漫画を読んだりするのは大好きだ。
主に父親と母親、姉の影響。そのお陰か知らないがこの短い人生の中でかなりのジャンルのアニメを見ていた。
漫画も同様だった。
凱亜はその中でも特に「異世界」を題材にしたアニメや漫画が好きだった。所謂、ハイ・ファンタジーと言う感じのものだ。
この世界とは別の世界、架空の世界を舞台に繰り広げられる物語に凱亜は魅了された。
アニメや漫画などでもその異世界で魔法を使ったり、現実では出来ない様な事をしている人達が凱亜にとってはカッコよく見えた。
アニメでも、現実では再現出来ない事をやってのける人達(特に可愛い女の子)が大好きだった。
しかし、この事と父親の傷に何の関係性があるのか?
接点がどこなのか理解出来ない。しかし凱亜は父親の言葉に驚く事になった。
全くもって理解出来ない程の言葉だった。
「うん、大好きだけど?」
「父さんは………………その異世界出身なんだ。まぁ厳密に言えば、生まれはこの世界だが、育ちは異世界だと言う事だ」
その言葉をいきなり信じる事は出来なかった。
父親が異世界の出身だって?まるで異世界転移だ。
最初は父親が狂ってしまったのか?と思った。
凱亜は父親の言う事が全く信じられなかった。
どうして?何で言わなかったんだ?もし言われた所で信じるかどうかは怪しいが、何故そんな重要過ぎる事を最初から言わなかったんだ?
いや、その前に父親が異世界出身だと言う事が真実かどうか確かめる必要があった。
「と、父さん?何、言ってるの?異世界なんて……あれはただのアニメや漫画の中の架空の世界でしょ?あんな夢の様な世界が……ある訳…」
「確かに……………異世界に行った事もない凱亜がお父さんが異世界に行った事があるなんて信じるのは少し厳しい。だが、これを見ても嘘だと言えるか?」
一瞬自分の目が狂ったかと思った。
とうとう自分が狂ってしまったのかもしれないと感じた。
逆に信じたくなかった。
父親のその姿を見た時それが父親の本当の姿だとは信じたくなかった。しかしそれが信じたくなくても、信じれなくても、それが真実だと言う事だったのかもしれない。
と言うよりもその父親の姿は真実だったのだ。
父親の右腕は闇の様な黒色に染まっていた。手の甲には謎の何かが描かれた紋章が刻まれていた。
あの右腕からは禍々しく、恐ろしく、暴力的な恐ろしい力を感じてしまう。背筋が凍ってしまいそうだ。
背中からは機械的で黒色の翼が生えていた。
まるで悪魔の翼の様だ。
近未来的で機械的な翼は邪悪感を放っている。一体どんな力を持っているのかが気になってしまった。
しかし凱亜は気になる以前に、その真実に驚きを隠せなかった。
信じられなかった、信じたくなかったがその父親の姿は真実だったのだ。
もう頑なに信じられないだの信じないだの言うのはやめよう。
大人しく信じた方がいいのかもしれない。それに凱亜の異世界への憧れは非常に大きいものだった。
近くにこんな異世界に存在しそうな人がいるんだ。気になる事は確かな事だった。
「父さん……それが本当の…」
「あぁ………これが本当の姿だ。父さんは異世界でこの力…「天帝」の力を手に入れた。だが、父さんはもうこの力を使わない」
使わない。そう言うと力の右腕は元通りになってしまい、背中の機械的な翼も消えてしまった。
「どうして?どうしてそんな強そうな力があるのに、使わないの?」
どうしてだ?そんな強そうで、魅力的な力を使わないと言うんだ?
そんな力を使わずに閉まっておいてしまうなんて…理由を聞いてみる事にした。
「もう戦う必要はない。こんな力なんて………この世界で使う必要なんてない。だけどさ…凱亜」
「父さん?何?」
「その天帝の力は……お前が唯一受け継いでいる。神姫や愛羅、希咲や美璃亜はこの力を持っていない。お前だけが、お前だけが唯一父さんの天帝の力を所持しているんだ」
「そ、そんな。じゃあ、僕はその力で戦わなくちゃいけないの?」
凱亜は怖くなった。
その力を僕は受け継いでいる。その力は戦いの中で使われる力だと言う事は分かっている。つまりそれは自分が戦わなければいけないと言う事だと解釈した。
凱亜は死ぬ様な戦いを強いられる事になるのではないのか?と感じたのだ。そのせいで怖くなってしまったのだ。
しかし父親が言ってきた言葉は戦えと言う言葉ではなかった。父親は凱亜の両肩に手を置いた。
そして優しい口調で凱亜に話す。
「いや、お前は戦わなくていい。そもそも、この世界じゃ異世界で起こる様な戦争はまず起きやしない。それにこの力はいつ何時でも発動出来る力じゃないんだ。父さんのは少し違うが………とにかく凱亜は戦場なんかに出向いて戦う必要はない。平和にのびのびと生きてくれればいいんだ……話はこれで終わりにするよ。これ以上長話するのもあれだ。それじゃおやすみ…」
と言って父親は凱亜の傍から離れていった。この話は信じる事にした。もう信じられないと言う選択肢を取るのは難しい気がしてきたからだ。
しかし、凱亜はまだ半分だけ自分が持つ力を信じれないでいた。本当に自分なんかがこの力を受け継いでいるのか?と。
そもそも受け継いでいるとは言っても使う時が来るのだろうか?この力を使う程強い敵がこの世界で暮らしている中で自分の目の前に現れるのか?
分からない。何も分からなくなってきた。
しかし、凱亜はこんな力を使わずに平和に暮らして……
しかしその平和に暮らしてほしいと言う願いは叶わなかった。
今彼は、ヴォラクはその力を遂に使った。
天帝…いや「闇夜の天帝」が再び世に姿を現したのだった。
「行くぜ…本気を見せてやるよ」
「私も全身全霊をかけて、本気で勝負するよ!」
使わないと豪語していたが、そんな言葉まやかしにすぎなかった様だ。
『ヴォラク』
レベル―64
???―天帝
体力500
筋力600
魔力30
知力650
瞬発力800
魔法耐性20
保有能力(保有時の装備も表示)
『魔法高速習得』(物体変換系)
『闇夜の天帝』
天帝の力を解放させる特殊能力。解放時は全能力(体力、筋力、魔力、知力、瞬発力、魔法耐性)が大幅に上昇、魔力の回復スピードや自身の再生能力も大幅に上昇させる。更に専用装備を使用出来る様にする為、能力発動時には思考能力、脳波能力、空間認識能力が使用者のみ大幅に増大する。
発動時には専用の特殊装備が自動的に装備される。装備の解除は可能。
発動条件-自分に敵対する相手が同様な状態、自分が即死に匹敵する攻撃を受けそうになった時、または自身が瀕死状態または仮死状態の時にのみ自身の判断により発動可能
『専用装備:審判』
『闇夜の天帝』発動時に自動装備される。自身の右腕に闇夜の天帝固有の変異型の魔力を定着させる。定着時、右腕には特殊能力が付与される。
特殊能力:自分の脳内に存在する記憶の中にある物をその場で創り出す事が出来る。ただし変異型魔力によってその物体を創り出される。その他、この右腕により攻撃を受け、負傷した相手には、身体回復が遅くなる「衰弱傷」を付与する事が出来る。右腕単体でも能力が高い為、肉弾戦も可能になる。その他にも個人の考えにより違う力を発動させる事も可能。
『専用装備:禁忌』
『闇夜の天帝』発動時に自動装備される。背部に飛行用、専用攻撃装備が装着された飛行用高速移動用の装備。バックパックの様な感じで背中に装着される。飛行用の羽は本当の鳥の様な羽ではなく機械的に作られてはいるがエネルギー源などは存在しない為『闇夜の天帝』発動時は半永久的に飛行が可能。
『攻撃用装備:災厄』
『専用装備:禁忌』に装備されている攻撃型の端末装備。禁忌の羽内部に全9基が装備されており、各中型の端末から魔力をビーム化した特殊魔力を発射可能。9基全てには魔力の発射口が5門ずつあり、そこからビームが発射される。この9基はそれぞれ全てが使用者の脳波、脳内での思考により動き、自分の考えたタイミングにより攻撃を行う。その為いつ射出させるか、いつ翼本体に戻らせるのかも全て使用者の思考により行われる。その為1基1基が動く動作なども全て使用者が行う為、9基全てをランダムな動作で攻撃タイミング、戻ってくる時や突撃させる時まで全て使用者の脳内での思考や脳波により行われる。
彼が持つカードにはそう記されていた。
復讐を遂げるどころか、世界すら滅ぼしそうな力を手に入れていた……




