52話「宴の前」
最高な時間になりそうだった。
食事は人生の中では楽しみの一つだ。ちょうど腹も減ってきた所だったので、この食事の時間をヴォラクは楽しもうと思った。
さて、調理場は何処だろうか?こっそりつまみ食いでもしてやろうかと思った(嘘)出来るなら手伝っても良いぐらいだ。
すると、レイアがヴォラクに話しかけてきた。肩をレイアに叩かれるなり、ヴォラクは後ろを振り返る。
「料理の方はメイド達がやってくれてるから、心配しないでね。後は少しだけ待ってれば出来るから、それまでは私と一緒に……いない?」
レイアは少しだけ恥じらう様な表情を見せる。やっぱり仕方ないかもしれない。
ヴォラクは男でレイアは女だ。異性と仲良くする事に抵抗があってしまうのは仕方ないかもしれない。
ヴォラクはあまり?問題はないが、レイアはまだ若干慣れていない様にも見えた。
「ちょい待てぇい!ヴォラクと2人きりとは…何をする気だ?」
「ヴォラクさん!2人で抜け駆けはズルいです!」
「主様は私といるべきですよ!」
やめてくれ。
こんな所で痴話喧嘩みたいな事はしないでくれ。
周りの目が痛い。ただでさえ、何処から来たかも分からない奴が行成、ハーレムモード展開してたら周りの男達はヴォラクを嫉妬と恨みの目で見る事になる。
現に今だって、周りから凄く嫌な視線を感じている。多分嫉妬の目だ。
周りの男達は女の子との関係はほぼないに等しいだろう。
なのに僕みたいな見た目も軽そうで地味そうな男がこんな美人な女の子3人、プラス、レイの様な美しい女性まで仲間になっていると言うのだ。
矢が刺さっている様な感じになってしまった……
いや、本当に矢が飛んできたらどうすれば……
無理もないか……
「で?どうするよ?レイ」
「仕方ないね。5人で行こうか?」
「激しく同意する」
「ま、まぁ私も一緒なら…」
「主様と一緒にいられるなら構いません!」
すると、レイアはヴォラクの手を握った。
また握られてしまった。
レイアに手を握られるなり、すぐに何処かに連れていかれてしまった。
勿論だが、レイアが手を握ったのはヴォラクだけだ。
サテラ達4人の事なんてまるで見てない?様な感じだ。しかし、レイアはサテラ達4人の事を嫌な感じや険悪な感じで見てはいなかった。
まぁ、一応僕達5人は「仲間」なのでそんな感じではなかった様だった。
「Let's Go!!」
「ま、待てって……って走り速いなおい!」
レイアが走り出した。ヴォラクは引っ張られて走り出した。レイアの走る速度はかなり速かった。もしかしたら全速力で走る時のヴォラクよりも速いかもしれない。
いや、ヴォラクの走る速度はそんなに速くなかった。どちらかと言うと持久力の方がある気がする。
それなりに持久力はあった様な気が……
残る3人は全力でその後を追っていった。
レイアは城の中に入るなり、中に設置されていた石造りの階段を上り始めた。
しかもその階段はかなりの段数がある。まるで神社の階段の様だ。多分だが一番上まで行くのにはそれなりの時間が掛かってしまうだろう。
そして何より…
(階段ダッシュは嫌いだァァァ!)
階段ダッシュは運動する中で一番嫌いだ。階段を全速力で上るのは体力的にも身体的にもかなりキツいと感じる。
脚が痛くなるし、息も上がるしで嫌な事づくしだ。だが、レイアに引っ張られているので多少は楽だったが、それでも嫌な事この上ない。ヴォラクは脚が少しだけ痛くなった。
「少しは楽だな」
「引っ張られると楽だよね?」
ただ、只管に階段を駆け上がると城の上の方にまでやって来てしまった。
階段を全て上り切ると、一番上には大きな扉がまた設置されていた。
すると、レイアは扉を壊す勢いで大きな扉を開いた。
大きな扉が開いた。
先には夕日の様なオレンジ色の光が遥か彼方に存在していた。
仮面を被っているとは言っても、仮面の中からはその先は見える。非常に眩しくなってしまった。
まるでベランダだ。少し開けた場所に乗り出せそうな壁が設置され、夕日が良く見えた。壁の向こうを見ると、さっき通ってきた道が上から見えてきた。
ここは城の上の所だ。下を見下ろす事が出来たのだった。
「そう言えばさ…ヴォラクの素顔、まだ見た事なかったよね」
「何だ?見たいのか?僕の顔を?」
「見てみたいね。仲間だからさ、見てみたいの」
「そうか……そこまで言うなら……」
そう言われたヴォラクは顔に付けていた仮面を脱いだ。
その下には彼、不知火凱亜、元ヴォラクの素顔が存在している。
レイアがヴォラクの素顔を見た時、レイアは自分の目を輝かせた。その素顔を見たからだろうか
「ヴォラク…何で仮面なんて……付けてるの?貴方の顔は凄く美しい顔をしているのに……何故自分の顔を隠すの?」
理由?この顔を人前で見せる事は出来ない。自分は裏切り者。小心者の様な存在。事実ではないが周りの多くの人間によって作られた偽物の事実だ。
この顔はその裏切り者の顔。見せる事は出来ないのである。
「この顔は見せる事が出来ない顔だ。レイみたいに…仲間の前なら見せられるけど、知らない人の前では……見せられないんだ」
「……そうなんだ…きっと辛い経験をしてきたんだね。私には分かんないけど、同情だけはするよ」
「ありがとう……」
ヴォラクは嬉しかった。自分の同情してくれる人がまだいただけで嬉しかった。
また1人として自分の味方になってくれる人がいたのだ。ヴォラクはただ嬉しかった、ただ嬉しかった。
「あ――――!ヴォラクが仮面外してやがる!」
「今は外すよ、姉さん………って!何で煙草吸ってんの?てかそれ、煙草じゃなくて煙管じゃねぇか!」
驚いたよ。
血雷は口にタバコの様な物を咥えてきたのだ。
姉さんって煙草吸ってたんだね。しかも、普通のタバコや噛み煙草ではなく、かなり昔の時代に普及していた煙管なのだ。
しかも火を起こす用の火まですでに点火済みだった。しかも火皿まで用意している。
ここまでやるなんてかなり本格的だ。
しかし、タバコなんて身体に悪いだろう。吸う事にヴォラクは何も異論を唱える事はないが、血雷の様な美しい女性が煙草の吸いすぎで死んでしまったら悲しい事この上ない。
吸うのをやめろとは言いたくないが、出来るなら吸ってほしくない。
血雷は依然と煙管を吸っている。口から煙を吐くと煙管の先端から灰が落ちる。
落ちた灰は吹く風によって何処かに飛ばされていった。
「い、いつから吸ってるの?その煙管」
「最近だな。煙草は20歳になってからじゃなぇと吸えねぇからな。最近20歳になったから吸い始めたんだ。親父も吸ってたから、それを継いだんだと思う……多分な。次いでに酒も飲み始めたぜ」
「そ、そうなんだ。僕はまだ18歳だから酒も煙草も使えないな…サテラとシズハも使えな……ってレイって何歳なんだ?もう20歳以上な感じがするけど……」
「え?私はまだ18歳だけど。まだお酒も煙草も使えないよ。って言うか私はお酒飲む気もないし、煙草も吸う気ないよ」
また、ヴォラクは驚いた。まさかレイアが自分と同じ年齢だったと言う事に。どう見てもその違いが分からなくて仕方なかった。
レイアは美しい姿をしているのに対して僕は地味で黒い姿をしている。まるでドス黒い姿をした怪物の様な姿をしている。
なのに歳は同じだと言うのだ。同じ18歳だ。
若干信じれない。
「僕と同じ歳とはね。驚いたよ」
「私は若干だけど気付いてたよ。背は私の方が少しだけ低いけど、歳は同じだと思ってたよ」
「いや、あんたはエスパーか?」
「人の心なんて読めないよ。読む事なんて出来ないからね」
そこで2人の会話は途切れた。続く事はなかった。
2人は黙り込んでしまった。
気まづい……
「お姉さん、煙草って美味しいの?」
「あぁ、美味いぜ。いい味してるぜ……ふぅ――」
サテラは血雷に煙草は美味しいのかどうか尋ねてみた。実は少しだけ煙草に興味があった。
サテラは煙草なんて吸った事なかったので、吸った事がある人に煙草の味がどの様なものなのか知りたかったのだ。
血雷は煙草の味は美味いと言っていた。自分の舌にその味が伝わる事はなかったが、皆の姉的存在である血雷が美味いと言っているなら…美味いんじゃないのだろうかな?とサテラは考えた。
「けぷっ!」
血雷が口から吐いた煙がサテラの顔にかかった。
煙草は吸った後に口からは煙が出てくる。血雷が口から吐いた煙がサテラの顔にかかってしまったのだ。
その時にサテラは可愛らしい咳をしてしまった。血雷しか、彼女の咳を聞いていなかったがヴォラクがこの可愛らしい咳を聞いたら素直に「可愛い」と言うだろう。
「可愛い咳するな、サテラは」
「そ、そんな事は…」
サテラは少し恥ずかしそうだった。
咳が可愛いだなんて言われた事なかったからだ。
(あの……何で私は1人ぼっちなんだろ?私はヴォラクさんと話したいのに…)
シズハは1人の様だった。
「ヴォラク、そろそろだよ」
「え?もしかして?」
「想像通りだよ!」
何が始まるか分かった気がした。今からは宴が始まる。
久しぶりに美味しい食事を楽しむ事が出来そうだった。
後ろに設置されていた扉が開いた。ヴォラク達5人は同時に後ろを振り返る。
後ろにはメイド服を着た女性が1人立っていた。
「レイア様、ご準備が出来ました。お仲間様達とお越しください」
と言ってレイア達に対して頭を下げた。
「分かった、今行く。さ、ヴォラクとその仲間達行くよ!」
「分かったよ、今行く……」
「「「って言うか……」」」
「名前で呼んでよぉ――――!」
「ヴォラクさんだけ名前で呼ばないでぇ!」
「アタシも名前で呼ばんかぁ――――!」
耳が痛い(物理的に?)