53話「宴」
「もう、準備は出来たの?」
「はい、レイア様。貴方様のお仲間様を歓迎する為の宴の準備が今、完了致しました。もう他の者もお集まりしている最中なので、レイア様も顔をお出しください」
メイドの無機質な声に対してレイアは明るい声で反応した。
だがヴォラクは無反応。後ろから静かにその光景を見守っていた。因みにヴォラクだけじゃなくサテラ達3人もヴォラクと同じ様な感じに後ろから見ている。
「なら、行こうか!ヴォラク、今夜は楽しくなるよ!」
「はいはい、分かってる…………ってお――い!手を引っ張るな~!」
またまた、レイアに手を握られた。
しかし今度は無理矢理に引っ張られた。体には力を入れていないので、腕が痛くなる。半場引きづられる形で引っ張られていたので腕がすっぽり抜けてしまいそうだ。
そしてヴォラクは腕が抜けそうになる事とレイアが僕を引きづる形で引っ張っていく事に驚いた。
僕の体重は恐らくだが、レイアよりも高いだろう。それもヴォラク本人は少しは踏ん張っていたがそれでもレイアはヴォラクを重いと思う様子もなく手を握って引っ張っていったのだ。
レイアって怪力なのか?それとも魔力を使っているからそんな怪力を出す事が出来るのか?
ヴォラクには分からなかったが、気にしない事にした。
「アタシを………置いてくなよ………!」
「ま、待ってくださいよ~!」
「抜け駆けは禁止です!絶対に!」
レイアとヴォラクが手を握り合いながら走り出す。後ろから3人は2人を追いかける様に走り出した。
そして全員が屋上から出た事を確認したメイドは無機質な表情で屋上の扉を閉めた。
屋上の扉が閉まると何かを裂く様な風が吹いた。
その後、ヴォラク達5人はさっき全力で上らされた階段をまた高速で降り、宴が行われている場所にレイアに連れていかれる事になってしまった。
するといつ間にか、さっき扉を閉めたり、宴の連絡に来てくれたメイドがまた無機質な表情で立っていた。
いつの間に?とヴォラクは感じた。
「レイア様、この先です」
メイドは1度頭を下げ、設置された扉のドアノブに手をかける。
「ありがとね『アナ』」
「光栄でございます。レイア様」
するとメイドはドアノブを回し、扉を開けた。
アナと言う名前のメイドが扉を開けるなり、いきなりヴォラクの心臓の心拍数が上がってきた。
扉が開くとその先には広い部屋に多くの人数の兵士がテーブルの上に並べられた美味しそうな食事の前に座っていたのだ。
置かれたテーブルは大きな物から小さな物まで順不同に置かれている。大きくて長いテーブル等ではなく、あった物を並べた様な感じだ。
しかし、心拍数が上がった原因はそれではない。
一斉に他の兵士達の目線がヴォラク達にいってしまった事だ。
ヴォラク以外の人もそうかもしれないが、一斉に知らない人から同時に見つめられるとかなり緊張してしまったり、心拍数が上昇してしまう事があるかもしれない。簡単に言えば、知らない人から見られ過ぎて緊張してしまっていると言う事だ。
しかしヴォラクを見ずに兵士同士で話している人もいた。
すると、レイアがその静まり返っている様な雰囲気を変えた。
相変わらず活気の感じる声だ。
「皆、今日は集まってくれてありがとう!今日は私の仲間達の歓迎会って言う事で皆を集めたの。今日は存分に楽しんでね!」
あぁ、レイアってアイドル的ポジションなのかな?
レイアの話が終わると、いきなり兵士達から歓声の声が上がった。喜ぶ声が聞こえてきて耳が痛くなる。
そんなにレイアの声を聞く事が出来て嬉しいのだろうか?それとも豪勢な食事を食べる事が出来るのが嬉しいからだろうか?
まぁ、どっちにしろヴォラクには関係ない事だが……
「それじゃ、前置きはこれくらいにして………今夜は楽しもう!」
レイアが再び声を上げると再び、歓声が上がる。
そして兵士達はテーブルの上に並べられた食事に手を伸ばした。そしてすぐに食器を使い、料理を口の中に運んでいったのだった。
それはレイア達も同じだった。
レイアはすぐに自分用に用意されたと思われるレイア専用のテーブルに小走りで近寄り、すぐに座り込んだ。
そしてヴォラク達を手招きする。
「お――い!ヴォラク、こっちだよ!」
「お、そっちか?今行くぜ!」
レイアに手招きされた4人はすぐにレイア専用のテーブルに足を運んだ。
レイア専用のテーブルはヴォラク達5人だけしか座っていないテーブルだった。
そして、そのテーブルには既にヴォラク達用の料理が並べてあった。どれも色とりどりで食欲を唆る料理達だ。
「お、美味しそうですね、主様」
「肉だ!早く食べたい!」
「酒もあるじゃねぇか!しかも強ぇの!」
「レイア、食っていい?」
「ダメなんて言わないよ!ささっ食べて!」
「よし、なら……」
「「「「「いただきます!」」」」」
宴が始まった。
5人はすぐに料理に手を伸ばす。
血雷はいきなりテーブルの上に置いてあった一升瓶サイズの酒が入った瓶を手に取り、すぐに蓋を開ける。
そして置いてあったジョッキにその酒を注いだ。ジョッキに入った酒は泡を立て、上から零れてしまいそうだ。
「姉さん、初っ端から攻めるね」
「勢いだよ、勢い。こう言うのはね、グイッといくんだよ!」
そして血雷は躊躇する事なく、ジョッキに注がれた酒をグイッと飲んだ。グイッと
ゴクゴクとはいかないが、結構速いペースで酒を飲んでいる。一気飲みはやめておいた方がいいよ?
「くはぁ――!やっぱ美味いなぁ、酒は!………どうした?ヴォラクも飲むかぁ?」
一応だが、ヴォラクは18歳だ。まだ酒を飲める年齢ではない。
血雷は20歳なので飲む事は出来るが、ヴォラクはまだ飲める年齢じゃないので飲まない事にした。
「僕はまだ、飲める年齢じゃないっつうの!僕は水でも飲んどくよ!」
「何だよォ、ノリ悪いなぁ……ま、いっか。なら、また飲むか!」
「飲む量は程々にね?」
「分かっとるよ!」
いや、もう既に少し酔ってるよ。
本当に飲み過ぎには気を付けてほしいものだ。飲み過ぎたら身体壊すからね。
まぁ、僕は酒を飲む気は一切なかった。
さて、僕もそろそろ食べようかな?僕もお腹が空いてきた。
ヴォラクは仮面を外した。あまり人前ではこの仮面を外す事は避けたかったが、襲い来る空腹に勝つ事は残念な事に出来なかったので大人しく仮面を外して、食事にする事にした。
さて、何を食べようか?僕は野菜大好きな人間なので野菜でも食べようか?
何を食べるか迷っている所にシズハがいきなり声をかけてきた。片手には大きな骨付き肉を持っている。
「ねぇ、ヴォラクさんも食べない?」
と言われるといきなり骨付き肉を差し出された。
え?シズハって肉好きだったのか?少し以外……じゃなかったわ。
簡単に考えればシズハが肉好きなのは当然の事かもしれない。
何故ならシズハは亜人である為、体には普通の人間の血以外にも狐の血が混ざっている。
狐は肉食系の動物だ。
それならシズハが肉が好きでも仕方ないかもしれない。
「シズハ、口に肉が付いてるぞ」
シズハの口の周りには調理された肉の破片が付いていた。最初はそれに気付かずに肉を口にする姿も可愛く見える。
そしてヴォラクが言った直後のシズハは「え?」みたいなキョトンとした表情をして、首を傾げたので余計可愛く見える。
ヴォラクは少しほっこりとする。そんな可愛い表情を見せてきたのだ。少しほんわかとしてしまった。
「あ、ホントだ……キャ!」
ヴォラクは人差し指を使い、シズハの口周りに付いてしまった肉を取ってあげた。
そして、シズハの口周りから取った肉をそのまま口の中に放り込んだ。
「美味いな…」
「んしょ~?ってもおひしいえしょ?(でしょ~?とっても美味しいでしょ?)」
「食うか話すかどっちかにしろ」
「ゴク、ごめんねヴォラクさん。話す事にするよ。じゃ…お肉食べて!」
「んぐっ!?」
するとシズハは左手に持っていた骨付き肉を無理矢理ヴォラクの口の中に突っ込んだ。
突然肉を口の中に突っ込まれて、息苦しくなってしまった。ヴォラクは「んぐんぐ、んぐぐぐぐぅ」とボヤいているが何と言っているかは分からない。
シズハは「何言ってるの?聞こえな――い!」と言っている。
実際ヴォラクは「口の中に突っ込むな!」と言っていたらしい……
しかしいつまでも突っ込まれている訳にもいかず、ヴォラクは肉を噛んで、すぐに飲み込んだ。
「味はいいね。でも無理に突っ込むな…」
「あはは、ごめんなさい」
「別にいいよ。こんな事で人を殺す人間じゃないからね」
少しだけカッコつけている。
すると、シズハは少しだけ頬を赤くした。恥らしい表情を見せて、ヴォラクの耳に顔を寄せる。
ヴォラクは「どうした?」と言った。
すると……?
「今夜……サテラと3人で……ダメ?」
「……いいよ…」
ヴォラクも少しだけ照れながらもOKサインを出した。何がシタいのかは分かっている。
口には出さないが何をしたいかはヴォラクは知っていた。
今度はサテラがヴォラクの肩を叩いた。ヴォラクはサテラの方をすぐに向いた。
「どうした、サテラ?」
「これ、食べてください!とっても美味しいですよ!主様!」
すると、サテラは皿の上に盛られた魚料理をヴォラクの方に向けてきた。
相変わらずサテラは魚料理が好きだった。初めて会った時も同じ様に魚料理を食べていた。
あの時と同じ様に魚のフライをヴォラクに差し出した。
ヴォラクはフォークを使って、魚料理を刺し口の中に放り込んだ。
「うん、美味いな」
「はい、私も美味しかったので、口に合ってよかったです!」
確かにサテラがくれた料理は美味しかった。口の中に広がる味は非常に美味で歯応えもとても良いものだった。
「グッチョブ!」
ヴォラクは親指をピンと立てた。
サテラはその姿を見て、優しく微笑んでくれた。
「グッチョブ!」
サテラもヴォラクと同じ様に言葉を発し、親指を立てた。
サテラと同じく、レイアがヴォラクの左の肩を叩いた。
ヴォラクが左の方に振り返れば、そこにはレイアが微笑みながら座っていた。右手には少し大きめなコップを持っていて、中には液体が入っている。
恐らく飲み物だと思うが何の飲み物かは分からない。
「な、何飲んでるの?」
「ただのジュースよ。ヴォラクも飲む?」
「ただのジュースかよ。なら貰おうかな?」
そう言うと、レイアはテーブルに置いてあった空のコップを手に取り、瓶に入ったジュースを空のコップに注いだ。
ある程度までジュースが注がれると、レイアはジュースが入ったコップをヴォラクに渡した。
「はい、ヴォラク」
「ありがとう」
するとレイアはコップを自分の方に向けてきた。
きっと乾杯してほしいのだろう。
ヴォラクは「そう言う事なら……」と呟いて、自分で持っていたコップを差し出し、互いのコップをぶつけた。
ぶつかり合うチーンと言う様な金属音が鳴り2人は微笑み合った。
ヴォラクとレイアはコップを口に付け、注がれた飲み物を飲んだ。
喉を流れる飲み物の味は良いものだった。
喉を通っていくジュースは喉を潤していき、さっきまで飲んでいた普通の水とは違い甘い様な感触になる。
口の中はサッパリとしながらも甘い感じになり口の中を幸せにしてくれた。
「甘い感じになるな。このジュースは…好きかも」
「私もこのジュースは大好き。小さい時からずっと飲んでたからね。やっぱこの味はいいよ~」
2人は何故かいい感じの空気になっていた。まるで恋人の様だ。
この空気がずっと続いても良かったのだがその空気に邪魔をする奴が現れてしまった。しかもあんまり話したくない奴と。
「お~い!新人!」
(ゲッ!この声って?)
恐る恐る後ろを振り返る。
そこには、さっき模擬戦で負かした相手である『バリエル』が元気な感じで立っていたのだ。
さっきの模擬戦で僕の攻撃を受けて半場死にかけていたあのバリエルだったのだ。
もしかしたら死んだんじゃないのか?と考えていたがそんなボロボロな感じではなく、また戦えるぞ!と言わんばかりにピンピンしていた。
本当に人間か?と思った。後頭部を思いっきり殴ったのだよ?脚は粉砕したのかもしれないんだよ?
「や、やぁバリエルさんじゃないですか……僕がボコボコにしたのに……怪我は大丈夫なんですか?」
「おぅ!問題なしだ。回復魔法で治してもらったからな!」
声が大きいよ。
デフォルトでこの大きさなのか?それなら正直嫌だな。
うるさいし。
するとさっきまで大きな声で話していたバリエルだったがその大きな声が急に小さくなってしまった。
そして深々に頭を下げた。
急にどうした?何か僕に対して悪い事しましたか?とツッコミたくなった。
「新人君、申し訳ない!」
宴と言う楽しむ空間の中で突然と謝り出したバリエル。
周囲の人間は気付いていない様だ。目の前の事に必死になる様に気付く事はなかった。
「さっきの模擬戦で俺は君に酷い事を言ってしまった。素性も分からない奴だとか貧困育ちだとかそんな根拠もない事を言ってしまって本当に申し訳ない!」
確かにバリエルはそんな事をヴォラクに対して言っていた。
ヴォラクは気にしてなどいなかったが、向こうは申し訳なく思っている様だった。
「別に構わないですよ。怒ってないです」
「そうか、許してくれるのか……今後はそんな事は一切言わないと誓う。この度は本当に申し訳ななかった」
「で?何で突然?」
「そうだ!言い忘れていた!」
また声が大きくなった。さっきまでの薄くて小さな声と違い、またさっきの様に声がとても大きくなった。
「俺はお前みたいな強い奴を待っていた!」
「意味不明ですよ。どう言う事ですか?もしかして負けたかったとでも?」
「いや、意図的に負けたとは言わない。だが俺は強い奴を見ると闘争心が上がるんだ。何と言ったらいいのか……とにかく俺は強い奴を求めていたんだよ!」
「よく分かりません」
ヴォラクは自分から相手に興味を持たない限り、基本的にその相手には無関心だ。
実際、バリエルにも無関心だ。
しかし何も反応しない訳にもいかないので一応だが反応する事にしていた。
「まぁ、分からなくてもいい。だが色々とすまなかった。これだけは言わせてもらうさ………じゃ、これで失礼するよ。宴はレイア様と連れのお嬢ちゃん達と楽しんでくれ。じゃあな、新人君!」
「さようなら」
と言って、バリエルはその場を離れていった。
ヴォラクは離れていくバリエルを見る事すらしなかった。
すると後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
サテラの声だった。
「主様!早くこっちに来てください!5人だけで楽しみましょう!」
サテラがヴォラクに向かって手を振る。ヴォラクはそれに反応する様にすぐにサテラの方へと向かう。
「さぁ、まだまだ楽しむか?」
「何いっへんだよ!まやまやたのひむにきまっへるだろ?」
「姉さん、完全に酔ってる」
「ヴォラクさん!お肉食べよう!」
「分かってるよ」
「ヴォラク!お酒……飲んでみない?」
「僕はまだ飲める年齢じゃないっつうの。レイもそうだろうが」
「主様、私の食べた料理を食べてください!」
「分かった、分かった………え?」
こうして、5人の宴は続いていったのだった……




