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37話「侍見参」☆

 

 ヴォラクの目の前に広がる光景は元居た世界に似た世界だった。まるで前の世界に戻った様に思えてしまう。

 しかしここは前に居た世界ではない。その事を分かっていながらも、戻って来たとヴォラクは思ってしまった。





 しかしかなり似ているとは言っても、目の前に広がっている世界はどう見ても昔の世界だった。ヴォラクの記憶が正しければ、今目の前に広がっている景色は明治時代ぐらいの景色だった。

 ヴォラクは驚いた。この世界でも人力車を見る事が出来たからだ。一度だけ妹と乗った事があった。頭の中から掘り返された記憶がふと頭の中に思い浮かんだ。


 よく見ると、人力車以外にも馬車が近くを走っていた。その光景を見てその光景を自然に見てしまう。


「な、何だここは?」


 ヴォラクは目の前に広がる光景に少しばかり戸惑い、困ってしまうヴォラク。しかしシズハはこの場所の事を知っている様な口調でヴォラクに話した。

 ヴォラクはシズハの話を聞きながら、前に歩き出した。

 


「ヴォラクさん知らないの?ここはこの世界でもよくある場所だよ。ここは『和ノ世界』だよ。私も一応和ノ世界出身だよ。でもここ出身じゃないけど………まぁ簡単に言うと、冒険者で皆とは同じ様な感じだけど…少し皆とは違う存在、みたいな感じだよ。それにここは普通に楽しめる所だから…で?ここ寄る予定だったの?」



「違う…勝手に降ろされただけだよ。どうやら…置いてけぼりらしい……まぁ僕達はこの街にしばらく滞在した方がいいと思う。もう歩くのは嫌だからね…しばらくこの街でゆっくりしよう。さ…さっさと宿でも探して休もう……あ!今日の夜は3人でヤるからな」


「主様♡嬉しいです」


「もう~しょうがないね♡」


 2人は頬を赤くしながらもヴォラクに近寄り、サテラはヴォラクの左腕を、シズハは右腕を掴む。そのままヴォラクは両腕を2人に掴まれたまま歩かなければならなくなってしまった。




 そしてなんと言っても周りの視線が思っている以上に辛い。「やろぉ…見せつけやがって!」「羨ましいぜ。あんな美少女に囲まれてるなんて…」などと周りから聞こえてきた。言っている本人達は聞こえない様に言っているつもりだと思うがヴォラクは耳が結構良い方なので、他者の会話が丸聞こえだった。



 しかしそんな事をずっと気にしている訳にはいかない。

 ヴォラクは少しの気晴らしにでもと思い、周りの景色を見て、気持ちを落ち着かせる事にした。こんな事で気持ちが落ち着くのかどうかは不明だが……















(まるで…タイムスリップしたみたいだな…周りの景色が全部昔っぽく見えるぜ。でも何でこっちのも世界にこんな場所があるんだ?向こうの世界と同じみたいにこっちでも同じ文化を歩んできたのか?それとも誰かがこの場所を作ったのか?いや…無理だろ。こんなの最初から考えて作るなんて難しすぎる。じゃあ誰がどうやって…………まさか昔の人がこの世界に来たとでも言うのか?そりゃないか。そんな事は流石に有り得んだろ)






 宿を探すとヴォラクは言っていたが、宿を探す事を完全にヴォラクは忘れていた。


 彼の頭の中にあるのはただ周りに見える景色と自分の考えと前に立ちはだかる謎だけだった。

 しかし分からない事を考え過ぎても仕方ない事だとヴォラクは思った。

 ヴォラクは「今は考えるべきではない」と心に決めて、今頭の中で考えていた事を全て忘れる事にした。

 全て忘れると思えば楽に出来た。楽に嫌な事など忘れる事が出来て、ヴォラクは少しだけ嬉しく、楽な気持ちになれた。




 横を見るとサテラとシズハが自分の腕にしがみついているのが見えた。まるで自分の妹の様に…ヴォラクには2人の妹がいた。15歳と16歳だった。2人とも彼の事を兄以上の存在で見ていた事は今でもはっきりと覚えていた。

 たまにベットに潜り込んできたりする時時もあったし、1人で風呂に入っていたら突然2人同時に入ってきた時もあった。自分はかなり抵抗してしまったが、身体は正直なので融通は効かなかった。

 そのまま妹2人と風呂に入ると言うラッキーなのかアンラッキーなのかよく分からない事がしばしば起きていた。


 しかしヴォラクはもう抵抗などしない。これからは大人しく一緒に入ろうと思っていた。何故ならサテラとシズハとも風呂に入ってるからまた入ろうと言われても問題は多分なしだと思う…多分ね………




(でも…高校に入ってからは減ったか…いや減ってないわ。逆に増えたわ…と言うかこの世界に召喚される前日は妹2人と姉2人と母親と入ってたな。正直言って全く笑えん…)


 ヴォラクの心の中が少し散らかってしまった(精神的に散らかった)。しかしヴォラクはこの程度の事で壊れてしまうほどメンタルが弱い訳では無い。今までの人生散々嫌な事やら暴力やらに囲まれてたので、この程度で精神的に死んでしまう程ヴォラクは弱い人間ではなかった。


「まぁ…いいか」とヴォラクは小声で呟いてしまった。

 サテラは少し疑問の表情を見せたが、すぐに元通りの美しい顔に戻ってくれた。


 そしてまた歩き始める。宿を探す為に……































 と言いたかったが、目の前に何故か人集りが出来ていた。

 ヴォラクは人集りの奥に何があるのか知りたくなってしまった。ヴォラクは「ちょっと寄り道する」と言って両腕を掴んでいた2人を振りほどき人集りの奥に入っていった。
















 人集りの奥では何かが起こっていた。もしかして喧嘩か?と思ったがその答えは違った。

 なんと決闘をしていたのである。


 人集りの奥には小さな広場があった。そこで2人の戦士が戦っていた。


 ヴォラクはその戦いを見ようとしたが戦いは既に終わってしまっていた。


「お、俺の負けだ!もうやめてくれ!」


「あぁ!?もう降参か?だらしねぇ男だな全く!もっと根性見せろよ!」


「ひひぃ――ご、ご勘弁!」


 戦っていたの男は既に負けて、降参してしまっていた。

 そして勝った方の人は………












「ったく…もっと強ぇ奴はいねぇのか!?」


(うあ~美人だな~)

 

 血の様に赤い髪、侍が着ている様な男物の着物とても動きやすそうに見える。そして輝く綺麗な瞳。そして右手には刃が銀色に光り輝く刀を強く握っていた。歳もまだ若くヴォラクとあまり歳は変わらないだろうと思った。



 自分の目の前には侍が立っていた。女の侍が1人美しく、強い顔を浮かべてヴォラクの前に立っていた。






 女の侍は決闘が終わると刀の様な剣を鞘に納めて、周りを見渡した。

 歯を剥き出しにして、まるで獣の様に周りを見ている。……………見つけた、似ている奴がいた。彼女が心が揺らいだ。


「さぁ次はどいつだ?かかってこい!……何だよ誰も来ねぇのかよ!?来ねぇならアタシが相手選んでやるよ…………………おい!そこのちんちくりんな仮面と赤い服着てる奴!なんか強そうだからアタシと勝負しろ!」


「え?僕?」


「お前以外に誰が居るんだよ?さっさと私の相手をしろ!」


「………分かった」


「へっ!話が早くて助かるぜ」


 この戦いにヴォラクはあまり乗り気ではなかった。周りからも「勝てんのかな?」「死ぬんじゃねぇの?」とヴォラクの耳に入っている。

 しかし決闘を申し込まれた以上こちらも断ると言う訳にもいかなかった。

 ヴォラクは逃げも隠れもするが、信頼する者には嘘を言う事はない様に決めていた。自分の前に立っている侍はどこか強き力を持っている様に見えた。

 ヴォラクは戦う事を決めた。だが……剣は持っていない。

 なので代わりに自分でカスタムした鞭を使用する事にした。ツェアシュテールングを使いたいのも山々だが、この侍が相手では銃を撃つ暇がないと感じた。きっとツェアシュテールング撃つ前に一気に間合いを詰めて、斬りかかってくると判断して、あえてツェアシュテールングを使わない事にしたのだった。



「おい!刀か剣は持ってないのか?」


「あぁ…剣は持っていない。刀も持っていない。だからこの鞭を使わせてもらう」


「そんな先っちょに刃物付けた紐なんて…こりゃあ笑えるぜ!どうやら…楽しくなりそうだな!」


 そう言って女の侍は甲高く声を上げて笑い、強く自信のある目でヴォラクを見ていた。それに対してヴォラクは奇妙な仮面で女の侍を冷たい心で見詰めている。


 周りからはヴォラクか女の侍かどちらが勝つか議論していた。


「絶対に姐さんが勝つさ!百戦百勝の侍だからな!」


「いや…もしかしたらあの旅人が勝つかもしれませんよ。見る感じ、ただならぬ強さを私は感じます。もしかしたら…猛者かもしれませんよ」


「主様!頑張って下さい!」


「ヴォラクさん!勝ってね!」


「心配するな…必ず勝つ」


「へぇ~随分と一丁前な事言ってくれるな。面白ぇ!全力で行くぜ!」


 女の侍は刀の鞘に納めていた刀を抜刀した。

 女の侍は銀色に光り輝く刀を両手で強く握り締めている。


 ヴォラクもカスタムした鞭を取り出し、利き手である右手に鞭を握った。


 互いに距離を作り、間合いを測る。そしてヴォラクは少しだけ後ろに下がる。しかし女の侍は履いていた草鞋を使いすり足でヴォラクの方に接近してきている。広場の中心で起きている決闘に周りの人間は黙り込んでいた。ただ息を殺し、2人の戦いをじっと睨む様に見ている。


 弱い風が吹いた。その刹那2人は同時にまるで迅雷の様に高速で走り出した。

 ヴォラクと女の侍は同時に前に走り、激突する様に鞭と刀を交差させる。


「くっ……‼」


「な!……」


 互いにぶつかる刀と鞭。




 ヴォラクは使っていた鞭を巧みに利用し刀に鞭を絡ませた。一度上に鞭を振り上げ、思いっきり振り下ろす。刀などの剣系の武器は絡ませれば使えなくなるか剣の動きを封じる事が出来る。

 さっきヴォラクは女の侍の方に走った時に鞭を縦にしならせて、先端のナイフで女の侍を斬るのではなく、鞭を絡ませる作戦を考えていた。


 刀は今動いていない。刀には鞭が木のツルの様に絡まっている。強引に引きちぎるなど恐らく出来ないだろう。ヴォラクは鞭を解く事となく、鞭を右手に握ったまま左足を使って女の侍に向かって思いっきりドロップキックを行った。


「ぐぁ…‼」


 ヴォラクの蹴りを食らってしまった女の侍は大きく後ろに下がった。ドロップキックを近距離で食らったら当たり前だろう。

 しかし蹴り飛ばしたせいで隙が出来てしまいヴォラクが刀に絡みつけていた鞭は残念な事に解けてしまった。

 これでは女の侍が持っている刀の動きを封じる事が出来なくなる。


(どうする?何か勝てる案は……)


 必死で作戦を考えるヴォラクであったが、女の侍はヴォラクが考えている暇を与えない様にして、刀を両手で持ち、突き出した状態で猪の如く突進してきた。


「こんのぉぉぁ―――‼」


(まずい!……クソ!こうなりゃ!)


 ヴォラクは鞭の先端に付いていたナイフを無理矢理引き離した。 振り下ろすのではなく、ナイフを使い女の侍を斬る作戦に変えた。


 しかしこのナイフを使った戦い方ではリーチの差では圧倒的にヴォラクが不利だった。しかしヴォラクはそれを承知の上で鞭に取り付けてあったナイフを右手に持った。ヴォラクはゲームで鍛え上げた動体視力を使い、この戦い方にチェンジしたのだった。


(来る!)


 女の侍は刀を思いっきり振り上げ、ヴォラクに斬りかかってきた。

 しかしヴォラクも何もしない訳にはいかない。右手に握ったナイフで応戦した。


「ぐ…………」


 苦しい声が漏れてしまう。歯を噛み締め、ナイフを握る力をより一層強くする。

 足は僅かに震え、立つのが少しだけ難しくなった。


「やろぉ!」


 ヴォラクもナイフを使い、女の侍に斬りかかった。薙ぎ払う様に横方向に思いっきりナイフを振った。

 振ったナイフは女の侍の刀に直撃する。金属音が鳴り響き、互いに押されていた。しかしヴォラクの方がダメージが大きい。ナイフにかかる負荷やすぐ前まで迫る鋭い刀の恐怖に襲われて、ヴォラクは微かに弱気になっていた。

 しかし女の侍も僅かに苦しい声を漏らしている。辛いのはヴォラクだけではなく、両方だった。




 ヴォラクのナイフと女の侍の刀の鍔迫り合いが起こっていた。

 決着が着くかはまだ分からない。観客は息を殺して戦いをじっと見ている。誰も喋る事もなく2人を見つめている。沈黙と静寂が観客を支配していた。




 サテラとシズハも黙り込み、心の中でヴォラクの事を応援し続けていた


(主様!頑張って下さい!勝ってください!)


(ヴォラクさん!ファイト!)


 激しい鍔迫り合いが起こる中ヴォラクは若干押されていた。

 ナイフと刀ではやはり力の差が出てしまうだろうと思った。

 刀身の短いナイフにヒビが入った。このままではナイフが折れてしまうだろう。このままでは確実に負けてしまう。

 しかしヴォラクは諦めなかった。


 本当に負ける最後の瞬間まで戦い続ける…


 その言葉がヴォラクの心に刻んだとある人の言葉だった。


 しかしヴォラクに勝機が見えた。女の侍の脇腹が無防備になり、がら空きになっていた。

 今そこに攻撃を仕掛ければ確実に攻撃を当てる事が出来るとヴォラクは思った。

 しかしそこに攻撃するには今激しく起こっている鍔迫り合いをどうにかするしかなかった。

 一か八かで抜け出す。それしか方法はなかった。いや…他に考えが浮かばなかった。



 ヴォラクは心の中で叫んだ。



(不可能を可能にする男の力!見せてやるよ!)












 ヴォラクは一瞬で鍔迫り合いから抜け出した。その場でしゃがみ込んだ。地面に頭が当たるぐらいに。


 そしてナイフを両手で握り、突く様に女の侍の脇腹にナイフを向かわせた……



(間に合え!間に合え!間に合えぇぇぇぇ―‼)








「ど、どうだ?」


 ヴォラクはトドメを刺さなかった。この戦いは本当の殺し合いではなかった。

 ヴォラクは脇腹の手前でナイフを止めた。



「お前………良い腕してんじゃん。でも…アタシの勝ちかもね?」


(何!?)とヴォラクは思った。何故負けたのか。何故女の侍が勝ったと言っているのか分からなくなった。

 しかしその答えはすぐに分かった。


「な!?」


 なんとしゃがみ込んでいたヴォラクの背中には女の侍が持っていた刀が突き付けられていた。刺さってはいない。ヴォラクと同じ様に手前で止めてあった。

 しかしこの刀がそのまま前に進めば……串刺しにされるだろう。


 ヴォラクは負けを認める事にした。この状態から逆転するのは間違いなく無理だと思った。ヴォラクはナイフを地面に置き、暗い声で言った。


「くっ!僕の…負けだ…」


「なに暗い顔してんだよ!さっさと立ちな!お前強いな!気に入ったぜ!」


「気に入った?」


 ヴォラクは女の侍が言っている事が少しだけ理解出来なかった。

 しゃがみ込んでいたヴォラクは女の侍が何を言っているか分かっていなかった。


 すると女の侍は手をヴォラクに差し伸べた。


「ほら、立ちな」


「あ、ありがとう」


 ヴォラクは女の侍の手を握って立ち上がった。


「お前、名前は?強かったから言え。覚えといてやるよ!」


「名前……僕はヴォラク…『ヴォラク』だ」


「ヴォラク……なんかややこしいけど覚えといてやるよ!じゃあヴォラクが名乗ったならアタシも名乗らねぇとな!アタシの名前は『血雷ちらい』って言う名前だ!」


「血雷……良い名前だな」


「ああ…そう言ってくれると思ったぜ!」


 そう言うと血雷は刀を鞘に納めた。


 ヴォラクも持っていた鞭をしまった。

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