38話「義理の姉」
ヴォラクは今非常に大きな敗北感に満ちてしまった。元々ヴォラクは負けた事は全くなかった。
もしかしたら勝負など最初からしていなかったのかもしれないが……
ヴォラクは前の世界に居た時は何度も喧嘩や勝負事をやってきた。
その勝負において、負けた事は恐らくなかったと思う。ヴォラクは敗北と言うものをあまり知らなかった。敗北した者の気持ちなど、分からないに等しかった。
しかし今日ヴォラクは初めての敗北を味わってしまった。ヴォラクは負けてしまった屈辱よりも自分の弱さが途轍もなく悔しかった。
「おい、あんた。仮面外せ」
「え?外せってか?」
「いいから顔見せろ。勝負した奴の顔は見てみてぇからな」
「分かりましたよ」
そう言われてヴォラクは素直に顔に付けていた仮面を取り外した。黒色の仮面の下にはヴォラクの顔があった。
少しばかり美形な顔立ちで、心が惹き込まれそうな顔をしていた。
「へぇ……中々良い顔してんじゃん。結構アタシの好みかも」
「そんな…嬉しい事を…」
結構良い雰囲気になっていたが、2人の間にサテラとシズハが割り込んで来た。サテラとシズハは少しだけ血雷の事を嫉妬している様に見えた。
2人はヴォラクに近付くなり、ヴォラクの両腕にしがみついた。
「貴方!その身体で主様を誘惑するつもりですか?」
「ずるい!そんなに大きい胸、私も欲しい!」
サテラとシズハは血雷の非常に胸を見て言った。確かにサテラの胸と血雷の胸の大きさの違いは天と地の差だった。
サテラはかなり胸が小さいが、血雷の胸はサテラの胸の大きさを圧倒的に上回っていた。シズハも血雷の胸の大きさに少しばかり見惚れていた。シズハの胸も小さい訳ではないが血雷程大きくはなかった。
「あぁ!?誰が誘ってるって?アタシはまだ会ったばかりの男を誘惑する程アタシは馬鹿じゃねぇわ!別にこの乳でヴォラクを誘ってる訳じゃねぇよ!」
「そんな!口では否定しても、本当は誘ってるんじゃないですか?」
「うっせぇわ!それ以上言うならお前を叩き斬ってやろうか!?」
ヴォラクは一度首を横に振ると2人の間に割り込んだ。流石にこのまま放っておいたら、サテラが怪我をしてしまうかもしれないと思い、2人の仲裁に入った。
「やめろ。それ以上言ったら僕が困る……だからやめてくれ…」
ヴォラクが大きい声で言うと2人はヴォラクの方を向いた。
「は、はい…主様がそう言うなら…すいません」
「悪ぃな、ヴォラク。アホみたいな所見てちまって」
血雷はさっきまでサテラを睨む様な目で見ていたが、ヴォラクを見るなり男の様な愛想のない顔から女の子の様に可愛らしい顔に変わった。ヴォラクはその姿に少しだけ見惚れてしまう。
「別に構わんさ。でも…僕達は今から宿を探さないといけないんだ。だからもう…」
「おお、そうか。じゃ宿探してまた会いに来てくれ。街歩いてりゃ会えると思うからな。じゃあな」
(なんか…面白いな)
ヴォラクは血雷に手を振りながら、その場を3人で立ち去って行った。
ここで一時お別れかと思っていたが…
ヴォラクが後ろを振り返ると、血雷がヴォラクの後を着いてきた。
「面白そう」と言わんばかりな顔を見せて、ヴォラクの後ろに着いてきた。
「や、やぁ血雷さん。さっきぶりだね」
「おうヴォラク!また会ったな!」
再び再会を果たした2人だったが、サテラとシズハは嫌そうな表情を見せていた。
「ちょっと!今度は何の用ですか?」
「も、もしかして…ヴォラクさんを襲う気?」
「襲わねぇよ。まぁ暇だったからな、ヴォラクに色々と教えてやろうと思ってな」
「それなら、助かるよ。着いてきていいよ」
「「えぇぇっっ!?」」
そのまま血雷はサテラを退かして、ヴォラクの横に強引に割り込んで来た。サテラは悲しい顔をして、ガックリとしていたが「仕方ないよ」とシズハがサテラに言った。シズハはサテラの横に行って、サテラの手を握ってあげた。
サテラは「ありがとう」と言った。
仕方がないと思ったサテラはヴォラクから少しだけ離れて、シズハと話す事にしたのだった。
「で?僕をそのデカい胸で襲う気ですか?」
「お馬鹿だな。そんな事はしねぇよ、はっきり言ってこんな乳…邪魔なだけだし」
「そうかな?結構良いと思うけど」
「男から見りゃ良いかもしれんけどよ。割と疲れるぜ、このデカい乳ってのは…肩もこるし、戦闘の時に邪魔になるからな~どうせデカくなるなら乳と尻じゃなくて別のモンをデカくして欲しいぜ…」
「それを聞くと…何かキツいね」
ヴォラクは今仮面を外しながら血雷と話をしていた。周りからは何も言われなかった。ここではヴォラクの本当の名前である『不知火鎧亜』の名前は広まっていないのだろう。
安心していた。誰からも恨まれず、意地悪い事を言われなくなると言う事は安心で心が少しだけ落ち着いている。
それに今は仮面を外して、サテラやシズハ以外の人とも話す事が出来ているから。
「所でさ。ヴォラクって何歳なんだ?」
「僕ですか?今年で18歳だけど」
「アタシの方が年上だな。アタシは今年で20歳だからな!これからは敬えよ~」
年上の人との関わりは正直慣れている。何故ならヴォラクには2人姉がいたからだ。一つ年上の姉と三つ年上の姉がいたからだった。年上の女性とはどう接すればいいのかは大体知っている。
「じゃあさ…姉さんって言っていい?」
その瞬間血雷はヴォラクの何処かに途轍もない可愛さを見つけた。
「全然いいぜ!てか姉さんって言え!こんな事言ってくれる奴は初めてだぜぇ!アタシ、お前の義姉になってやるよ!」
「それは、大変嬉しいんだけど……んぐっ!?姉さん。胸当たってる。てか埋もれちゃってる!」
血雷はヴォラクの頭を思いっきり両手で掴み、自分の身体に抱き寄せた。そのせいでヴォラクの顔は血雷の大きな胸に埋もれしまった。
(姉さん、胸デカすぎだろ!?何カップあるんだ?この大きさはもしかして……FかGぐらいは……あるのか?シズハでもDぐらいなのに…)
「やっぱり誘ってる!」
「ぐぬぬ…私もっと大っきい胸欲しい。ヴォラクさんに今日の夜…触ってもらう!」
悔しそうな表情で血雷を見詰めるサテラとシズハ。ヴォラクは何とか血雷の胸から逃げ出した。しかし物凄く息苦しかった。正直かなり辛い。
ヴォラクは血雷に話しかけた。それに仮面を外して。
「姉さん。この街に宿はあるか?少しの間はこの街に留まる予定だからさ」
「宿か?普通にあるぞ。ほら、あそこに建ってるのも宿だぞ」
そう言って血雷は右の方を指さした。血雷が指さす先には確かに建物が建っていた。結構和風な感じだったが……
しかし和風みたいだから泊まらないのはおかしいと思ったのでヴォラク達は血雷が見つけてくれた宿に泊まる事にした。
「で?姉さんも宿に泊まるのか?」
「いやいや、アタシは親父が残してくれた家ちょっと離れた所にあるから、問題ない。だからさ…また会おうぜ!明日またゆっくり話そうぜ!」
何故だか知らないがヴォラクには血雷が少し慌てている様に見えた。
しかし本人に慌てている理由を尋ねるのは少し気が引けたので、ヴォラクは何も問わずにくるりと背中を向けて、血雷が見つけてくれた宿に向かうのだった。
血雷もヴォラク達に手を振り、人混みの中に消えていってしまった。
「ねぇ…ヴォラクさん…」
「ん?何だ?」
「今日の夜は……えぇっと、その…色々相手してね?」
「主様…私もお願いしますよ?」
「言われなくとも、分かっとるわ……」
ヴォラクは嬉しさと不安の間に挟まれてしまった。
まるでサンドイッチのハムの様に……
時間は夕方だった。多分だが今日の夜はサテラとシズハと愛し合う事になると思った。正直ちょっと嬉しいけど……
そしてヴォラク達は血雷が見つけてくれた宿に入るのであった……




