23話「戦闘開始」
空からの光が道を照らし、さっきよりも周りは明るくなっていた。明るく光る道をヴォラク達は進んで行く事にした。
唇には口付けした時の感覚が残っていた。サテラの唇の感触が……
熱くて柔らかくて安心する様な。あの唇をもう一度僕は奪いたかった。ヴォラクはサテラの方を見る。サテラはシズハと何か話していて、ヴォラクには気付かなかったがヴォラクは少しの間サテラの姿を見つめていた。
「主様?どうかしましたか?」
「いや……何でもない。少し…お前と目が合っただけだ」
ヴォラクは上手くサテラを誤魔化した。サテラはその事を気にする事無く、ヴォラクの横で歩いていた。するとそこにシズハが突然割り込んできた。
「ちょっと!何か私透明人間感凄くないですか?もう少し私にも構ってくださいよ!ヴォラクさん!」
するとヴォラクはシズハの事を可哀想に思ったのかシズハに近づいた。
「これで……少しは落ち着くか?」
「え♡ヴォラク……ひゃん!?」
ヴォラクは唐突にシズハの事を強く抱き締めたのだった。シズハは急な出来事に手に握っていた自分の武器でもある杖を地面に落としてしまった。しかしヴォラクはシズハの事を抱き締め続けいた。シズハは自分の頬を赤く染め、手を僅かに震わせ立っていた。
するとヴォラクはシズハの耳元で一言呟いた。それは小さい声だったが、シズハの耳からはその声は大きく聞こえていた。
「お前も……僕の事を抱き締めろ…」
少しカッコつけて言ったがその事をヴォラクは気にする気にはならなかった。
シズハはヴォラクにそう言われると言われるがまま……
「分かったよ……」
シズハはそのままヴォラクの事を抱き締めた。ヴォラクの身体は温かかった。包む様にヴォラクはシズハの事を抱き締めてくれている。
誰かに抱き締められるのは初めてだった。今までこんな事をしてくれる人も「しよう!」と言ってくれる人すらも居なかったのだったから、ヴォラクの言ってくれた言葉にシズハは嬉しさを隠せていなかった。
「ヴォラクさん……私の事忘れたりしませんか?」
「そんな事は……出来ない」
「主様……後で私にも…」
「言われなくとも……やりますよ」
ヴォラクはサテラの方を振り向き、そう言うとシズハは抱き締めるのをやめて、ヴォラクの顔を掴み、自分の方に顔を強引に向けさせる。
「ちょ!シズハ?」
「今は私の事見ててください…」
「わ、分かりました」
少しの間ヴォラクとシズハは互いの事を見詰め続けた。シズハの顔は美しかった。金色と黄色が混ざる髪色。狐の様に生えている耳がヴォラクは大好きだった。
彼女の服装も個人的には好みだった。巫女の様な服装も、腰の辺りから生えている触り心地の良さそうな愛らしい尻尾も大好きだった。この尻尾を抱き枕にでもして寝たいぐらいだった。
「もう…離れていいですよ」
「ああ…分かった」
シズハがヴォラクにそう言うと、ヴォラクとシズハは互いの身体を離した。シズハはさっき地面に落としてしまった杖を回収し、ヴォラクは暇潰しにポケットからツェアシュテールングを取り出し、それを眺めていた。この銃は何度見ても飽きる事はなかった。
するとシズハが杖を握った時、シズハはさっきまで見せていた落ち着いた表情が突然焦る顔に変わる。
顔をヴォラクとサテラの方に向けて、2人に大きな声で叫んだ。
「サテラ!ヴォラクさん!近くに気配を感じます。しかもかなりの数です!恐らくモンスターではありません!」
シズハにそう言われるとヴォラクは舌打ちをする。また女狙いか……とヴォラクは思った。その考えは的中していた。木の影や生い茂った葉の後ろから剣やナイフ槍を持った男達が現れた。
これは命や金品を狙っているのではない。サテラとシズハを狙っているのだろうと思った。
恐らく相手は盗賊だろう。彼らの服装や装備している武器の質からそう判断した。
「てめぇら……僕に用か?」
「いや……お前にじゃない。そこの女達に用があるんだよ」
「犯す為にか?」
「大正解!お前みたいな気持ち悪い奴がこんなに可愛い女を2人も手篭めにしてるのを見て俺達には気に食わねぇんだよ!」
「犯したいのか……処女じゃないけどいいの?」
基本ヴォラクは自分の仲間が奪われそうになった時はこう言っている。
しかし実際実際が処女を奪ったのはサテラだけだった。シズハの処女はまだ奪っていない。
サテラとシズハはヴォラクが言った事に対して何も言わなかった。ここでヴォラクに対して何か言ってしまったら、面倒臭い事になってしまうからだ。サテラはネーベルを構え、シズハはさっき持っていた杖ではなくステイメンを持ち銃口を盗賊に対してむけている。
「てめぇが奪ったのか?別にいいぜ。気持ち良くしてくれるなら何でもいいさ、お前はさっさと女と金を置いて消えな!」
盗賊達の先頭にいた男がヴォラクにそう叫ぶとヴォラクは盗賊に近づき、背負っていたバックを地面に落とした。
「分かった分かった……僕の負けだ。金も女も…………………君達全員を殺したらあげるよ」
気が付けば血を吹いて死んでいた。ヴォラクは神速でツェアシュテールングを取り出し、引き金を引いた。僅か一瞬で盗賊の1人はツェアシュテールングの弾丸を体に直撃させ、血を吹いて死んでいた。
盗賊はヴォラクに撃たれた事に気付かなかった。分からなかった。自分が撃たれてしまった事、撃たれた時の痛みも分からずに死んだのだった。完全に即死だったのだ。
「じゃ……皆仲良く死んでもらうよ。サテラ、シズハ戦闘開始だ……」
「「了解」」
ヴォラク達は銃を構える。そして3人による虐殺劇が始まる。
「なっ………おい何見てる!早くあいつを殺せ!女は傷付けずに生け捕りしろ!」
中心の男が指示を出すが、指示を出したタイミングが遅かった様だった。自分の目の前には不気味な仮面を被った男が立っていた。仮面を被った男はツェアシュテールングを持ち、盗賊の目の前に立っている。
「はい……終わりです」
左手に持っていた剣を引き抜く事すら出来なかった。超高速の速さでツェアシュテールングは口の中に入り込んできた
苦い鉄の味が広がっている。しかしその味を感じる暇すらなかった。
抵抗する事も声を上げる事も出来ないまま、男は人生を終えた。
彼の頭はまるで爆弾の様に飛散し、血の雨が降る。ヴォラクの仮面や黒色の服には赤い色の血が付き、黒色の服を赤く染めていた。
「…汚ぇな……」
辺りには男の脳や目玉、血肉が散らばっていた。その光景は恐ろしく逃げ出したくなる様な光景だった。しかしヴォラクにとっては最高に面白い光景だったと言う。
こんなものを見て、何人かヴォラクの強さに恐怖して逃げ出そうとする奴もいた。しかし逃げる人を追わないなんて事をヴォラク達は優しくなかった。
「何処に行くんですか?」
シズハは逃げ出す盗賊を逃がさずに、ステイメンを敵に構える。引き金に指をかける。
敵に背を向け走る盗賊はただ的同然だった。シズハは盗賊に向かってステイメンを発射した。
高速で発射される弾丸は叫びながら逃げる盗賊を正確に撃ち抜いた。
シズハの目は氷の様に冷たかった。他人を見下す様な冷たく、冷徹な目をしていた。一秒でも早く逃げようとする盗賊達。さっきまで共に行動していた他人を押し退けてでも…殺してでも生き残ろうとしている奴もいた。
その姿を見ても何も感じず、シズハはステイメンを叫び声を上げながら逃げ出す盗賊を容赦無く撃ち殺していった。
目を開けて死んでいる奴もいた。しかしそれを見てシズハは何も感じなくなっていた。ただ死体を眺めて、その場を歩いて立ち去っていった。死体はその場に放置され、その死体は動かずに汚れた地面に横たわっていた。血が辺りを染め上げ、赤色の絵の具が散乱している様にも見える。
シズハやヴォラクが少し離れた所でもサテラが1人戦っていた。
サテラは今盗賊に囲まれていた。敵は絶対に油断してしまっている。
相手は女1人だ。盗賊は顔にいやらしい表情を浮かべ武器も持たずに、手を動かしている。サテラは完全に油断してしまっている盗賊に心底呆れてしまった。戦うならちゃんと武器ぐらいは持って戦ってもらいたい事に。
サテラは一度溜め息を付き、周囲を見渡す。盗賊15人がサテラを囲っている。傍から見ればサテラには勝ち目は無さそうに見えるが、その考えは違った。サテラは腰のポケットから何かを取り出した。
しかし何かを取り出そうとすると盗賊の男が手を出し、低い声でサテラに話しかける。
「おぉっと!武器は取り出すんじゃねぇぞ。抵抗したって無駄さ……今頃あっちの女はもうヤラれてるだろうに。それにあんたのご主人様も死んだみたいだからさお前も抵抗をやめて俺達の物に……」
「寝言は寝て言ってください」
サテラはネーベルを取り出し、男の言ってる事を聞き流しながら男の頭にネーベルの銃弾を撃ち込んだ。頭は飛散し脳が飛び出る。
男が言っている事は全て嘘だった。シズハは1人で敵を殲滅し、ヴォラクは盗賊達を恐怖させ、今は周辺の警戒をしている。
男の言った事はただの脅し、手っ取り早くサテラを手に入れる為の罠にしかすぎないのだった。
「邪魔です……早く主様と合流しなければいけないので」
「ちっ……お前ら!無理矢理にでも捕まえろ!」
男が叫ぶと周りの盗賊は声を上げて、武器も持たずにサテラに掴みかかろうとするが銃を持った相手に剣や拳で挑むのはただの自殺行為だった。
「死んで…」
次の瞬間、ネーベルの銃口から高速で銃弾が発射される。サテラはその状態で駒の様に回転する。高速で回転しながら銃を撃つその姿はまるで全てを駆逐していく戦士の様だった。
マガジンの中身が空になる頃、周りの盗賊達は皆死んでいた。白目になりながら息絶えた者。身体中に風穴を空け、内蔵を外に晒しながら死んだ者。首を飛ばされ、頭と体が離れてしまっている者が地面には倒れ込んでいた。
さっきまで自分の事を脅してきた盗賊も胸に大穴を空け、肺を僅かに露出させた状態で地面に仰向けに倒れていた。
しかしその光景を見てもサテラは吐きそうになったり目を逸らしたくはならなかった。逆に何故か少しの嬉しさがあった。主と同じ様に………
サテラはシズハとヴォラクとの合流に成功した。サテラはヴォラクに近付き、彼の身体に触れる。
「頭……………撫でてくれませんか?頑張ったご褒美に」
サテラは物欲しそうな顔でヴォラクに迫る。ヴォラクは「分かったよ」と言ってくれた。
そのままヴォラクはサテラの頭を撫でる。彼女の髪の感触はとても良かった。ずっと撫でていたいぐらいだ。そしてサテラが見せる美しい笑顔も可愛さが溢れていてその笑顔はヴォラクの心を癒し、安心させていた。
「ヴ……ヴォラクさん。私もしてくれませんか?私も頑張ったんですよ?」
「言われなくともシズハにもしてあげる予定だったよ」
右手でサテラの頭を左手でシズハの頭を撫でた。シズハの髪の感触は良かったがそれよりも彼女の耳はもっと良かった。軽く触れただけでとてもヴォラクは癒された。包み込む様な優しい感触、甘えさせてもらっている様な気分になっていた。
ヴォラクはふと思った。(この耳…舐めてみたい)と思った。
「ひゃん♡ヴォラクさん。耳はあんまり触らないでよ。そこは……敏感だから」
シズハの恥ずかしそうな顔を見て、ヴォラクは更に元気になってしまった。
その時のヴォラクの仮面の下にある表情は一体どんなものだったのだろうか?それは誰にも分からないらしい。
顔を赤く染め、サテラの後ろに隠れようとしているシズハを見てヴォラクは少し派手にやりすぎたかな?と思い、話をずらそうとする。
「あーシズハ…悪かった。少しやりすぎた……もう忘れてくれ」
「今度したら……私がヴォラクさんの耳舐めるからね…」
「ん?何か言った?」
「何でもない!早く行こうよ!この国から早く離れようよ!」
シズハの一言でヴォラクの気持ちが変わった。自分達は今までいた国の近くにいた事に……
その事を今更知ったヴォラクは国の壁とは反対の方向を向く。そしてサテラとシズハに小声で言った。
「…………行こう」
「主様……分かりました」
「急に真面目になって…でもそれぐらい恨みがあるなら…行こうか」
さっきまでの楽しそうな雰囲気は消え、いつもの暗い雰囲気が残るまま3人は国とは反対の方向を進んで行った。
残された死体はその場に転がっていた。鼻を刺激する臭いと恐ろしい光景を作ったまま…………




