第81話 参戦 いい加減気づけよ
大勢のヒトそしてグループが詰めかけて、傭兵ギルドの中は室温が上がり外よりも蒸し暑くなっている。
遅れて到着したセルも、ヒトの多さに辟易しながら僕らと合流して、やっと空いた打ち合わせスペースに腰掛けてひと息つく。
国からのダンジョン踏破の依頼が出てる事を伝えると、なるほどと納得しながらやはりその報酬には驚いていた。
「ポイントはともかくとして、大金貨1000枚とはまた思い切ったもんだな」
「どんなお宝が眠ってるのかわからなくても、これならすべてを国に譲り渡すというのも皆納得するでしょうね」
「大体、どんなお宝だってそんな額で取引されるものなんて、聞いたこと無いぜ」
「それだけの金額で買えるヒトなんている? せいぜい国くらいなもんじゃないの?」
「ああ、例え商会が買い取っても売る先は国になるだろうな。
値を吊り上げようにも他に競う客がいないんじゃ、足元見られて相手の言い値にされかねない。
資金力のある大手の商会も、儲けが見込めない様じゃ最初から手は出さないだろうな」
そうかな? なんか逆の様な気もするんだけど。
「あのさ、それだけの金額を国が用意する位だから、是が非でもそれを欲しがってるって事でしょ?
だったら、大抵の値段なら買い取ってもらえるって逆に強気に出たりしないかな?」
「無いとは言い切れないが、取引先が国に限定されてるって事はいわば国を脅迫してると同じだからな。
そんな真似して国の心証悪くするのは、今後の商売を考えればマイナスになるって判断するんじゃないか?」
「ちょっと待ってください、国が依頼を出してるのに商会が買い取るなんてありえないでしょう」
アリーからもっともな意見がでた。
「そうともいえないだろう、普通に受注できる上級者はともかく通常なら受けられない3級未満の傭兵が手に入れたとしたらどうなる?
国に売りつけようにも正規の手続きで依頼を出してるんだ、それを無視して取引に応じるとは思えない。
いくら何が何でも入手したいと考えていても、国が決まりを破る訳にはいかないだろうからな。
だとすれば商会が間に入る可能性はある」
「つまり商会が傭兵から買い取って、それを国に売りつけるって訳?」
「ああ、まあ可能性は低いというか無いと思うけどな」
「それだったら、はじめから上級者に売りつければいいんじゃない?」
「・・そうですね、上級者は国から依頼達成の報酬を普通にもらえて、売った側も少なくない金額を受け取れれば双方にメリットがあります」
セルが少し間をとったのは、考えをまとめていたのかそれとも矢継ぎ早の発言で息が切れたのか。
「確かにそれをすれば儲かる事は儲かる、だが今後の信用を失う事になる為上級者で取引に応じる者はいないだろう」
「そうなの?」
「傭兵を縛るルールは存在しない、それだけに個々人が不正をはたらかないという暗黙のルールを遵守している。
そしてそれは等級が上になるほどに守られる、伊達に上級者は国から依頼を受けられる立場にはないって事だな」
「プライドが高いんですね」
「まあ3級以上なんて腕の方もよっぽどだろうからな、自然とそうなっていくんじゃないかと思うよ」
ここでシャルが若干不安そうに口を開いた。
「確認しておきたいんだけど、まさかあたし達はこの依頼参戦しないわよね?」
セルに目で促され、ここはリーダーである僕が答える事に。
「うん、僕らの目的はあくまでもモノが安置されてるかの確認で、持ち出す事じゃ無いからね当然不参加だよ」
ちょっともったいないけどねと言うと、シャルも笑ってくれた。
こんな依頼がだされるなんて予想外ではあるけど、僕らのスタンスは変わらない。
なんだか僕らのパーティーの結束が強くなった気がする。
◇◇◇◇◇◇
とりあえず話がひと段落したところで、セルに肝心な事を聞いてみる事に。
「それで向こうの方はどうだったの? いつ頃出来るって?」
「結構かかる、一週間から十日くらいらしい」
「そんなに!?」
「ああ、えらい数のメンテナンスや新規の受注があって手が回らないそうだ。
なんでだろうと思ってたけど、あの依頼のせいだったんだな。
説明した限りでは作るのは可能だが、もう材料や燃料なんかも足りなくなりそうだって悲鳴あげてたよ」
「そうなると、明日からどうしよっか?」
「休みにするには長すぎるし、中途半端なまま他へ行くわけにもいかないんだ、依頼でもやるしかないんじゃないか?」
「そうだねー、皆はどう? なんかあるかな?」
女性陣にお伺いを立てると、シャルから順に答えてくれた。
「あたしは特に無いなー、余所ならともかくこの街で観光ってのも無いしさー」
「アーセちゃんはどうしたいですか?
私はアーセちゃんさえ良ければ一日中お風呂でも、ずーっと一緒にお昼寝でもかまいませんよ」
「依頼やる」
まあわかってたけど、それにしてもアーセは依頼好きだな。
「じゃあ依頼をこなすって事でいいかな?」
皆に同意を貰い、明日からの予定はこれで決まりかな。
「いい時間だし、飯でも食いに行こうや」
セルの一言によって、全員席を立って傭兵ギルドの外へ。
決して涼しいわけでは無いけど、大勢の混雑した空間からでたせいか、街中だっていうのに心なしか空気がおいしいような。
体を動かすことなく、話し合いだけだったにもかかわらずお腹は盛大に鳴っている。
傭兵ギルドの周りのお店は、どこも傭兵らしきヒト達で混み合ってるっぽい。
なんかこの辺り発信で街全体が活気づいてるというか、大きなうねりみたいなのを感じる。
入れるかどうかわからない中歩き回るのはしんどいという事で、一旦メイプル館へ戻る事になった。
この後午後からどう過ごすのか、口々に話ながら皆で昼食を囲んだ。
相変わらずアリーはアーセにしきりに話しかけ、華麗にスルーされ続けている。
そんな中、アーセが僕に話しかけてきた。
「にぃ、明日から依頼やるの?」
「そうだな、まだどんなのがあるかわからないけど、しばらく日数あるから普段あまり受けられない長いやつでもあればそれをやる事になるな」
なんだか考え込んでいる様子、どうしたんだろうか。
「アーセ、なんか気になる事あるのか?」
「んーっと、午後依頼しようと思ったけど、明日からやるんならどうしようかと思って」
「半日で確実に終わるのがあればいいけど、今後の予定もあるんだしそうじゃないなら受けない方がいいぞ」
「ん」
ここぞとばかりにアーセに色んな提案をするアリーはいいとして。
「セルとシャルは午後どうすんの?」
「俺はちょっと調べたいことがあるんで家に行ってみる」
「えー? あたしは行かないからね」
なんだろう調べものって、とここでアーセに袖を引っ張られた。
「なんだ?」
「アーちゃんとお城見に行ってくる」
「お義兄さんお任せください、このお姉ちゃんが責任もってアーセちゃんの安全は守り抜きますよ」
「にぃも行こ?」
「僕はいいよ、二人で行っといで」
このやり取りをみていたシャルが参加してくる。
「あっ、あたしも行くー」
「シャルは地元だからお城なんて見飽きてるんじゃないですか?」
「城は特に見たいわけじゃ無いけど一人じゃつまんないもん、ねっ? いいでしょアーセちゃん」
「ん、いっしょ行こ」
「やったー」
「にぃも」
「僕はいいよ」
まあ特にやる事ある訳じゃ無いんだけど、あんまり観光って気分でも無いし。
最近稽古もして無かったから、久しぶりに型でもなぞってみるかな。
そんな事を考えていたら、意外にもアリーに同行を求められた。
「そんな事言わずにお義兄さんも一緒に行きましょう、それとも何か用事でもあるんですか?」
「いや、何にもないけど」
「じゃあいいじゃないですか」
「? 逆になんかあるの?」
僕が居ればアーセは僕にべったりになる、アリーにとっては僕は邪魔な存在なはずだけど。
「そういう訳では、・・ただ一緒の方がアーセちゃんが楽しめると思っただけです」
なんか変だな、ここは会議して決めた方がよさそうだ。
【エイジ、どういう事だと思う?】
【どうって、まあ目を離したくないんだろ】
【目をって、・・僕からって事?】
【そうなるな】
【なんで僕?】
【・・もしかしてまだピンときてないのか?】
あれ? エイジはアリーの目的とかわかってるのかな。
【? なんの事?】
【はぁー、まあそれはいいや、一つにはその腰の征龍剣が理由だろうな】
【あーなるほど、貴重なものだもんね】
【国があれだけの報酬の依頼を出すくらいにな】
【つまりは、アリーは国から征龍剣の監視を命じられてるって事なの?】
【だろうな、でもそれは万一の場合の備えてっていうそれほど切羽詰まったもんじゃないと思うぞ。
大体、征龍剣のもつ意味を知る者もその形状を知る者も滅多に居ないんだ、これが狙われることはほとんどないだろう。
念の為に鞘も柄も加工して偽装してあるし。
ただ可能性がゼロじゃない限り、常にその安全を確認しておきたいとこなんだろうな。
それだけなら、アルにひっついていればいいんだが、個人的にアーセと離れたくないんだろう。
幸い、いつもはアルとアーセは一緒だから、アーセにくっついてれば必然的にアルも視界に入る。
風呂行くくらいの短い時間ならともかく、半日別行動で目を離すのはまずいって判断だと思うぞ】
なるほどね、アーセに張り付いてるのが仕事になるなんて、アリーには願ったりなんだろうな。
【ねっ、どうしたらいいかな?】
【自分で考えるんだ、行きたいわけじゃ無いだろうけど行きたくないって理由もないんだろ?】
【まあそうなんだよね、どっちにも決め手が無いっていうかさ】
【波風たてないってんなら行く、困らせたいなら行かないってとこじゃないか?】
【うーん、困らせたいわけじゃないからなー】
【んじゃ決まりだな】
まあ気分転換にいいか。
「わかった、一緒に行くよ」
「よかったですね、アーセちゃん」
「ん」
「セル、じゃ僕らは四人でお城見物に行ってくるから」
「ああ、俺も夕方には戻るつもりだ、シャル、地元なんだからちゃんと案内しろよ」
「わかってるわよー」
昼食後の話し合いを終え、セルは自宅へ僕ら四人はお城見物へとメイプル館を後にする。
◇◇◇◇◇◇
街道を駆ける馬車の列、速度は速すぎも無く遅すぎも無く、晴天の元順調にその道のりを進んでいた。
その中心に居るのは商隊の馬車、そしてその周りを屈強な傭兵が護衛として目を光らせている。
商隊はイァイ国の王都ファタに本社を置くヘイコルト商会、護衛するは団長及び副団長が揃った傭兵団『月光』の本隊。
「うーし、おめえらー、もう少しでオューだ、気ー抜くんじゃねーぞー」
副団長のラムシェはこっそりため息をつく。
相変わらず無駄に力入ってるなと、団長リバルドの喝に団員が声をあげて答える様子をぼんやりと聞いている。
それにしても、中二日ほどでまたオューに舞い戻る事になるとはと、行ったり来たりの移動が傭兵稼業の常とはいえ、移動疲れともいうべき鬱積したものを溜めこんでいた。
こういう時は楽しい事を考えるに限る、この後しばらくは依頼を受けてはいないので予定が空いているなと。
まだあの兄妹が王都に居れば、今度はのんびりと旧交を温められるかな。
そんな幸せな想いを抱いていると、ほどなく一行は王都オューへ到着した。
そして、商隊の護衛任務を完了した旨傭兵ギルドへ手続きに。
その最中ふとラムシェは不穏な気配を察知し目を向けると、そこには団長のリバルドがある依頼書の前で静かに滾っているのが見えた。
これはだめだ、のんびりなんてとんでもない、間違いなく何かが始まってしまうなと予感というより確信を抱き、自身の感覚を引き締める。
「大仕事だー、この依頼『月光』がもらったぜー」
傭兵ギルド内に響き渡る声でリバルドが叫んだ、緊張を高める傭兵達の中で一人青い房の付いた武器を持った者がそっと出て行った。




