第80話 喧騒 ナイスな発想
王都オューの中でも中心から離れた、はずれといって差し支えない南東にある民家。
ごく普通の家屋で外側に何も特徴となるところは無い、こういうと内装が変わってるのかと思われるがそういう訳でも無い。
普段は静かなこの家から、夜遅い時間にも拘らず時折ではあるが外に聞こえる程の大きな声がしている。
ここは傭兵団『風雅』の、オューにおける事務所のような役割を果たしている。
『風雅』の本拠地はカーの国の王都キーパであるが、ここミガ国のオューもいわば縄張りとしていた。
今夜はここで、団長及び副団長も含めた幹部での話し合いが行われている。
この事務所の役割は通常二つある、一つは傭兵ギルドに出される依頼をチェックする事。
もう一つは、団員のスケジュール管理という業務。
ここが機能する事に因って、団として効率的に依頼をこなしていくことができている。
そのような訳で、これまでここに幹部が集まり話し合いをするという事は無かった。
なぜ現在このような事態になっているかというと、本日の昼間に貼りだされた国からの依頼が破格だったことから、急遽幹部に連絡が回り集められたのだ。
丁度、商隊の護衛の依頼を終えた団長率いる『風雅』の本隊が、オューに戻ってきた事でタイミングが良かったのでこの次第となったのだった。
本日出された依頼とは国からのもので、その内容は王都オューの東にあるダンジョン最下層への到達。
どうやってそれを証明するのかというと、最下層には見る者が見ればわかる物があり、それを持ち帰る事でその証明とするというものだった。
条件として、ダンジョン内で手に入れた物はすべてその所有権は国に譲る事とある。
そして肝心の報酬はというと、大金貨1000枚に3級の依頼にもかかわらず1級相当のポイント付与であった。
これだけの依頼はそうそう無い、事務所に詰めている団員では判断がつかなかったので団長にお伺いを立てたところ、検討するので幹部を招集するように申し付かった。
そして幹部が揃った夕方前から会議がはじまったのだ。
怒号飛び交うとまではいかないまでも、かなりエキサイトしたやり取りもあった。
団としてのメリットとデメリットを並べて、その一つ一つを慎重に吟味していく。
そんな中侃々諤々(かんかんがくがく)の議論の結果、ようやっと団としての方針が決定した。
その結果とは傭兵団『風雅』としてこの依頼は、見送るという残念なものであった。
◇◇◇◇◇◇
僕らのオューにおけるもはや定宿となったメイプル館、その二階僕とセルとアーセの泊まっている部屋にシャルとアリーにも来てもらった。
昨日無事に三回目のダンジョン探索を終えて、一夜明け朝食を終えた時間。
難所である、昨日見てきた7層をどう攻略するかのミーティングをはじめた。
「さっ、じゃあ昨日見た7層をどうやって突破したらいいか、皆どんどん意見を出して」
「とにかくあの間欠泉? っていうのをどうにかしないと、先に進めないわよね」
「そう、まさにそこがなんとかなれば、他はどうとでも出来るんじゃないかと思うんだよね」
「他って?」
「んーと、暑さ対策と魔物への対処かな」
ここまで、僕とシャルとのやり取りを聞いていたセルから質問が出た。
「7層の魔物ってのは、どんなんだ?」
「『レイザス』っていうトカゲみたいなやつ」
昨日の帰りの道中、暇な2層から1層にかけてエイジに聞いていたんでバッチリ予習は済んでいる。
「体長は50㎝前後で四足の平べったい感じ、吸着する足裏で壁面や天井などにも張り付いてることがある。
また、前足と後ろ足の間に膜があって滑空できるんで、天井に張り付いてるのが急降下して襲ってくる場合もあるらしい。
攻撃手段は噛みつきと、口から小さな火の玉を飛ばしてくる。
7層は間欠泉があるから、おそらくは床では無くほとんどが壁に張り付いて移動していると思う。
背中側が岩肌に似ているんで、注意して進まないと突然横から噛みつかれたりするかもしれない。
熱には強い耐性があるから、あの間欠泉ではダメージは受けないはず。
対処としては、それなりに硬い皮膚だけど武器が通らない程では無いんで、普通に排除できるはず。
精霊魔術の場合、火にはめっぽう強いんでやっぱり風が有効かな。
他は、・・あっと毒は持って無いけど雑菌がひどいらしいから、噛みつかれたら急いで治療しないと不味いと思う。
そんなとこかな」
僕の長い説明が終わると、真っ先にアリーが質問してきた。
「どのくらいの数いるんですか? 3・4層の『ボーン』みたいに少ないのかそれとも5・6層の虫みたいに多いんでしょうか」
「んーと、そこそこかな、正確な数はわからないけどおそらくはその中間位だと思われる」
今度はセルから質問がとんだ。
「他には? それ一種類だけなのか?」
「そう、7層はそれだけ」
順番って訳じゃ無いだろうけど、今度はシャルから発言が。
「後は暑さ対策か、・・確かに入口であーってことは進めば進むほど、もっともっと暑くなるんでしょうね」
「アーセちゃんは大丈夫ですか?」
「わかんない、でも暑いのは苦手かも」
「仕方ないですね、まあでもご心配には及びませんよ、それでしたらこのお姉ちゃんがおぶっていってあげましょう」
「いや余計暑いだろ、そんなんしてたら途端に体力奪われてへばるぞ。
まあ、暑さ対策ってもこまめに水分補給するとか、塩気のあるものとるくらいしかないだろう」
セルのもっとも意見にみな頷いている、それはいいとして。
「やっぱり問題はあの間欠泉か、まともに浴びたら全身やけどするくらいな熱さだったからな。
少なくとも着るものじゃどうにもならんだろ、大きな布かなんかで防がない事にはやりよう無いと思うんだが」
再びのセルの話に納得を覚える、あれ? 僕何にも意見出して無いような。
「大きな布って、全員で並んで布を上に掲げるの?
直接手で? 手がやけどしちゃわない?
それに、下から吹き上がってくるのはどうすんの?」
兄妹らしい遠慮のない質問がシャルからとんだ。
「確かに直接手を使っちゃあやけどするだろうな、だから加工して棒で支えるようにしたらどうだ?
下からのは、昨日見てた限りじゃあ吹き上がる直前に沸騰するみたいに泡立つ、それを見極めれば避けられるんじゃないかと思う」
うーん流石だ、僕もなんかいい事いいたいんだけどな、・・そうだ!
「ねえ、シャルの精霊魔術で氷作ってそれで蓋するってのはどう? 魔力多めにこめれば強度増すでしょ」
「・・難しいかも、あそこ暑いし噴き出てくるのも熱いし、一瞬しか持たないんじゃないかと思う。
そりゃあ魔力こめればその分強度は増すかもしれないけど、あれが先の方までずっとあるとしたら、たぶん魔力が持たないんじゃないかな」
「そっかー」
とここでアリーから、アーセ惚けじゃない普通な意見が出た。
「さきほどのセルの大きな布を棒で支えてっていうのは、それを支えてる間魔物の処理はどうするんですか?
先ほどのお義兄さんの魔物についての説明では、『レイザス』っていうのは火の玉吐くんですよね?
上から滑空してきて燃やされちゃわないですかね?」
「うーん、確かに」
「あっ、じゃあさ金属製の盾を上に持ち上げるってのは?」
「盾だと布と違って棒で支えるってのは出来なさそうだし、それにずっとじゃ重いから腕が疲れて長時間もたないんじゃないか?」
「あーもう! いっそのこと馬車でも持ち込めれば楽なのに」
「んな無茶な、馬車だって燃えるじゃねーか」
「だから金属製の屋根にしてさ、一気に走り抜ければなんとかなるんじゃなーい?」
「なるわきゃないだろ、ったく」
「なによー」
色々意見は出るけど、これだって有効そうなのが無い。
わかってたけど、やっぱり中々名案ってのは浮かばないもんだな。
エイジが話しかけてきたのはそんなタイミングだった。
【中々面白い意見だな、馬車を持ち込むってのは】
【面白いったって実現できないんじゃさー】
【発想がとんでていいじゃないか、そういう柔軟な考え方の方がいいアイディアが出るもんだ】
【エイジも参加してくれるって言ってたよね? なんかいいの無い?】
【そうだな、普通に歩いて踏破するってのはクリアしなきゃならん問題が多くて厳しいだろうな】
【歩くのが厳しいって、そんな事言ってもそれこそ馬車なんて持ち込めないんだし、それ以外方法無いんじゃないの?】
【まあそう結論を急がずに色々考えてみろ、これだけ人数居るんだから一人の意見から連想して意外な案がでるかもしれんぞ】
【っつてもなー】
色々っていっても、うーん、避けるってはやっぱり無理だよなー。
あれ飛沫だけでも相当熱いし、あの通路の広さじゃ全部は避けられない。
そうなると防ぐしか無い訳だけど蓋をして、・・ってこれ前も考えてダメだったやつだ。
僕が一人で頭を捻っている間に、向こうはあらぬ方向にヒートアップしていた。
「だって歩いてたらやけどしちゃうでしょー」
「だからってどうやって乗り物持ち込むんだよ」
「そんなの、・・解体して皆で運べばいいでしょー」
「無茶言うな、そんな重い荷物背負っていけるわきゃないだろうが」
「やってみないとわからないでしょー」
「あほ、車輪だけでもどんだけの重さだと思ってんだ?
それに馬はどうすんだよ?」
「いらないでしょそんなのー、アルがぴゅーって飛ばせばいいじゃないよー」
【! それ面白いな】
【エイジ!?】
突然エイジが話しかけてきた。
【何? 何が面白いって?】
【今のシャルの話がさ、7層は天井高いしな】
【えっ? だって馬車なんてどうすんの?】
【それは考えなきゃならんが、そうだな・・、こういうのはどうだ・・・・って感じで】
【えー、出来るかなー?】
【とりあえず、その線で話し合ってみたらどうだ?】
【うーん、わかったよ、言ってみる】
エイジに言われた事を皆に提案してみる。
そんなの無理じゃないかなと思う僕の不安をよそに、あれよあれよという間に色々案が出て、他に何も無かった事もあり採用となった。
これにて話し合いは終了、この後このまま全員でのおでかけとなる。
◇◇◇◇◇◇
「それじゃ、俺は向こうに頼んでくる」
「僕らも行こうか?」
「一人で大丈夫だ、終わったらそっち行くから」
「わかった」
メイプル館を出て全員で傭兵ギルドへ行こうというところで、セルは先ほどの打ち合わせで出た案の実現に、一人別れて馴染みの工房へ作成依頼へ向かった。
何かいつにもまして街が活気づいてるような。
ほどなく傭兵ギルドへ到着し、混雑の中依頼の掲示を見てやっと事態を把握した。
「大金貨1000枚ってとんでも無いなー」
「もしも傭兵になりたての10級のヒトが達成したら、一気に中級者とかになれるのかな?」
「いやいや、等級低くて受けらん無いよ」
「えっ? あっほんとだ3級以上かー」
シャルと僕とのやり取りを聞きながら、アリーが得心したようにつぶやいた。
「なるほど、ダンジョンですれ違ったのはこの依頼目当ての人達ですが、斥候というか偵察部隊ってとこでしょうか」
「でもさ、3級以上なんてそんな大勢いるの?」
「自分達で受けられなくても、雇ってもらうとか情報を売り渡すとかじゃないかな?」
「でもここダンジョンの地図売ってるって言ってたよね?」
「いや、あれ見てよ受付のとこ」
僕が視線を向けた先、受付の端には「地図売切れ」と表示された張り紙がされている。
「ほら、あんな高いのが売切れてるよ」
「各階層で10枚ストックがあったと仮定したら、・・全部で金貨450枚じゃない!?
ふわー、作ったヒト大儲けねー」
僕はふと疑問を感じ、エイジに話しかけてみた。
【ねえエイジ、地図が売切れるって事はそれだけの数があの依頼を狙ってるって事?】
【さっき自分で言ってたじゃないか、情報売る奴も居るんじゃないかって】
【えっ、転売って事?】
【まあ補充されればそれまでだけど、手書きなら早々はされないだろうしな。
これだけの報酬だ、受注するやつは先越され無いようにいち早く欲しがるだろう。
その辺見越して、少しでもこの波で儲けようって奴らが居たって事じゃないか?】
【・・逞しいというかなんというか】
【しかし、この報酬をみると、こりゃあ国が本気になったってとこだな】
【なんで急に?】
【さてな、でもまあ売られてた地図が正確だったとしても、それ作った奴も踏破できなかったんだろうしな。
それ見たとしても、あの7層は簡単に抜けられるとも思えない。
しばらくは達成するとこは出てこないだろう】
そんな魂話をしていると、遅れてセルが傭兵ギルドに到着した。
傭兵の等級による呼称
○初心者 10級の者
○初級者 9級から7級の者
○中級者 6級から4級の者
○上級者 3級から1級の者




