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第61話 面目 まだまだだな

 晴れ渡る空の下、お腹もいい具合に空いてきた昼近くに、僕らはミガ国の王都オューに到着した。

王都の守りを固める三重の巨大な門、僕らはそのいちばん外側で中に入る手続きを待つ列に並んでいる。

順番がきていざ受付で身分証を提出する、てっきりシャルの捜索願が出ていて身柄が拘束されるかと思いきや、特に問題無いとしてそのまま通された。


「・・通れちゃったね」

「・・・・ああ」


 僕も拍子抜けだったけど、それよりもセルの方が意外に感じているらしい。


「まあ、まだ二つも潜り抜けないと着けないからな、そっちでなんだろう」

「そっか、そうかもね」


 そして第二の門を抜け、最後の第三の門の受付に並ぶ。

ここでかと、多少緊張したもののやはり何事も無く街の中に入れてしまった。

こうなると逆に心配になったらしく、ごねるシャルを引きずってセルが

「じゃあ、俺たちはここで」と言って馬車を降り、自宅があるらしい方角へと歩いて行く。


 二人だけになり、僕とアーセはまずは馬車屋に馬車を返して、オューの街を眺めながら歩いた。

イァイ国の王都のファタへはまだ行ったことが無いので、僕にとっては他国とはいえ初めて見る王都だ。

まだ全体を見たわけでは無いが、少なくとも通りの広さと人の多さは、これまで拠点としていたヨルグを大きく上回る。


「凄い数の人だなー、建物も石造りで重厚な感じがカックいいなー」

「にぃ、あっちの高いとこに見えるのが王様のお城?」

「ん? ああそうみたいだな、後で行って見ようか」


 アーセは背が低いので、ほぼずっと見上げるように左右を見ては、初めて目にする街並みやお店に見入っている。

まあ二人で歩く時は手を繋いでいるので、早々転ぶ事は無いからいいんだけど。

するとかわいらしいお腹が鳴る音がして、アーセが僕を見てちょっと恥ずかしそうにしている。


「とりあえずご飯食べに行こうか?」

「んっ」


 王都の表通りという事もあり、お店自体はそこかしこに軒を連ねている。

ふとカエデの葉の図柄の看板が目に入った。

なぜカエデ? と思いつつよく見ると、入口のドアのところに本日のオススメなどのメニューが書いてある。

どうやら食事できるらしいので、アーセにここでいいかお伺いを立ててから入ってみる事に。

活気のある店内は、丁度お昼になるという事もあり、空いてるテーブル席がもう二つほどとなっている。

ここは海まではかなり距離があり、大陸全体で見ても中心付近にあたるので、ほぼ肉料理オンリーだ。


「僕はこの猪のお肉のにしようかな、アーセは何にする?」

「じゃあこの鶏肉のやつ」


 メニューから注文を決め、手を上げて給仕の女性を呼ぶ。

テーブルに来た女性は、アーセを見て「んまーあ」と感嘆している。

アーセを見て声が出る、この反応はこれまでの事例にあてはめると、おそらくは30歳を超えていると思われる。

この女性が、注文を受けた後僕に話しかけてきた。


「あの、失礼ですが、こちらにはどのようなご用事でいらしたんですか?」

「えーっと、知り合いの里帰りの付き合いで来たんですが、どうせならダンジョンとか行って見ようかと思いまして」


 まさか本当の事は言えないし、でも後で困らないようにと思い本当の理由も付け足しといた。


「そうですか、もうお宿は決まってるんですか?」

「いえ、まだ着いたばかりなのでこれから探そうかと」

「それでしたらここではどうでしょう? 一泊二食付でおひとり様銀貨二枚とお安くなってますよ」


 リンドス亭と同じか、他を見て無いんで高いんだか安いんだかわかんないな。

つーかここ宿屋だったのか、まあまずは食事をしてからという事で、返事は保留にしておいた。

ここのおかみさんなのかな? 店内を一人で切り盛りしている。


「アーセ、ご飯食べた後どっか行きたいところある?」

「んー、お城見てみたいけど、それよりにぃと傭兵ギルドの依頼する」


 ぶれないなー、まあセルとシャルが戻るまでは依頼でもと思ってたからな。

運ばれてきた料理は、美味しそうな上かなりなボリュームで、食べてる最中は会話を楽しむどころでは無かった。

途中でアーセとお互いのお肉を一切れ交換して食べたが、どちらも甘いソースが合っていて、結構な量にもかかわらず僕もアーセも問題無く完食。

結局、泊まるかどうかは他を見てからという事で、この場では返事は保留した。

食事にはとても満足して店を後にする、給仕の女性は名残惜しそうだったけど。


 正面、小高い丘にそびえ建つお城を見ながら、交差する四辻を左に折れる。

事前にセルに確認していたとおり、しばらく進むと見えてきたのは傭兵ギルド。

早速中に入り依頼書をチェック。


 お腹も膨れているので、何か討伐系で体を動かしたいところなんだけど。

アーセの為にも、出来るだけ高い等級の依頼が良いんだが、早々都合よくある訳も無く。

色々見た結果、8級の魔物の部位収集をやる事に。


 他の人達にとられない様に依頼書を確保。

受付に持って行って登録カードを出し、二人で受注する旨申告する。

それほど割がいいわけでは無いが、一応今のアーセの等級よりは上のやつだからいいだろう。


 傭兵ギルドを出て、歩きながら依頼書に目を通す。

えーっと詳しい依頼内容はと、依頼主が薬師ギルドで『ガーフ』の羽50本以上って結構な量だな。

ってか、『ガーフ』ってどんな魔物だ? 羽って事は鳥型なのか? いや蟲型ってのもあるのか。

50枚じゃなく50本って事は鳥型? わっかんないなー、場所はっと東門を出てっと、うわぁ森の周辺かー厳しそうだなー。


【ねえエイジ、『ガーフ』ってどんなの?】

【カラスみたいな真っ黒な鳥型、つーか確認する前に受けるなよ】

【ごめんごめん、混んでたからとられないようにと思ってさ】

【んーなこっちゃいつか痛い目みんぞ、『ガーフ』は鳥型だから当然飛んでる、操魔術で仕留めるようだな】

【羽って事は、やっぱ仕留めてむしりとるって感じ?】

【だろうな、こいつは羽を飛ばしてくるけどそんなに数多く無いから、何羽か相手にするならともかく、一羽二羽程度じゃそれを集めて数揃えるのは厳しいと思うぞ】

【飛ばしてくる? それが攻撃手段なの?】

【ああ、羽が刺さると麻痺させられる、それをなんかの治療か研究に使うのに、薬師ギルドが依頼して来たんじゃないか?】

【なるほどね】


 アーセと手を繋いで歩きながら、エイジとそんな魂話を交わしていた。

このまま歩いても行けることは行けるが、傭兵ギルドがある場所と東門はそれなりに距離があり、徒歩では流石に時間がかかり過ぎるので、王都内を走る辻馬車に乗って向かう。

東門を出て割とすぐのところに、うっそうと木々が生い茂る、目指す場所があった。


◇◇◇◇◇◇


 森は魔物の巣窟とは良く知られた話であり、この世界の常識でもある。

王が住むすぐ近くに、このような場所があるのは如何なものかと思わされるがさに非ず。

此処に王都を定めてからほどなくして、大規模な討伐隊が組まれて、森の魔物は一掃されている。


 そうした上で、王城から地下道を掘り、万一の際に使用する脱出口がここに通じている。

森の中ならば、外からは中の様子は窺いしれず、また追跡者が居た場合でも、ここであれば捜索範囲から除かれるであろうという理由で、そのままとなっているのである。

定期的に軍の兵士が森を巡回しているので、新たに魔物が住みつくという事も無い。


 しかしながら、空を飛ぶ魔物については如何ともしがたい。

どこからともなく飛来してくるので、兵士たちも見かけるたびに追い払ってはいるものの、根絶やしにするとまではいかない。

ましてや、その内のいくつかの魔物は、部位が利用できるとあって、余計にむやみやたらに駆除するという訳にもいかずに、半ば放置気味になっていた。


 アルとアーセは、東門をくぐり街道からはずれて、森を目指して歩いて行く。

道すがら、アルはアーセに今回の依頼対象である『ガーフ』について、エイジに聞いた内容を伝えておく。

王都の周りだけあり、街道の脇とはいえ巡回か何かで人が通るのか、下草も踏み固められていて、魔物が潜む高さは無い。

すでに森の中には魔物は居ないという事は、関係者に箝口令かんこうれいかれている事もあり、一般的には知られていない。

其の為、二人は森の中に入るのはリスクが高いという事で、その手前で頭上を見上げて対象となる魔物を探していた。


「・・見つかんない」

「そうだね、上は僕が見てるから、アーセは森から魔物がこないか見張ってて」

「ん」


 全然いないとは思わなった、どうしようかな、とりあえず。


【エイジー、『ガーフ』っておびき寄せるとか出来ないの?】

【難しいな、ありゃあ悪食だから何でも食うけど、それだけにこれってもんが無いんだよな】

【なんで居ないのかな?】

【依頼書にはこの辺りって書いてあるんだろ? だったらエサ食いに行ってるとかじゃないか】

【森の中は危なそうだしなー、でもただ待ってるってのもなー】

【そうぶーたれるな、こんな事もあるさ、それより今回はアーセも居るんだし、俺は手出さないから二人でやってみな】

【えー、エイジがやればすぐじゃないかー、やってよー】

【だーめ、操魔術鍛えてこの間の9層みたいな時にも、使い続けられるようになっておいた方がいい】

【あー、まあそうだね、あの時は最後全然使えなくなっちゃったからね】

【同じ状況になるかはわからないけど、またダンジョンには潜るんだ、不測の事態に備えて今のうちに出来る事はやっとくんだな】

【うん、わかったよ】


 それからしばらくすると、一羽そして二羽と鳥型の魔物が僕らの頭上を旋回しだした。

結構離れているし、そもそも『ガーフ』を見たことが無いので、あれがそうなのかわからない。

その間も増えてきて、視認した限りでは八羽ほどがいるらしかった。


 アーセに、羽を飛ばしてくるかもしれないから気を付けるように言って、『絆』を上空目がけて、操魔術で飛ばしてみた。

すると、こちらからの攻撃と認識したのか、急降下して急上昇する動きの中で、自らの黒い羽を一羽につき一~二本ほど飛ばしてくる。

どうやら『ガーフ』に間違いないらしいので、本格的に仕留めようとするも、素早い動きを捉えきれない。


【エイジ、あれ『ガーフ』であってる?】

【そうみたいだな、目で追い切れないから本体はよくわからんけど、飛んできた羽見ると間違いないと思う】

【なんか当たる気しないんだけど】


 正面からは躱され背後からでは追いつけない、側面からと思っても相手が飛んでくる軌道を変えてしまい空振ってしまう。

結構な数でそれなりな回数攻撃されているので、正直飛ばしてきた落ちてる羽拾い集めれば数は揃いそうなんだけど、そんな呑気な事してたらやられてしまう。

飛行する魔物は初めてじゃ無いけど、ダンジョンという閉ざされた空間で相手するのと、こうした制限の無い外でやり合うのとはかなりな差がある。

まあ、後半は特にダンジョンで飛行する魔物の相手は、ほぼエイジにお願いしてたから、単純に僕がやり合うのが久しぶりなだけなんだけど。


「? にぃ、なんで鉄球使わないの?」


 いつもの僕(エイジ)の操魔術を見慣れてるので、違和感というよりも単純に何故かといった感じでアーセが尋ねてくる。


「れっ練習だよ、鎖分銅にも慣れておかなきゃと思ってさ」

「ふーん」


 納得して無いな、まあ僕もちょっと理由になってない気がするけど。

いくら得物が違うからって、あからさまに速度が出て無いからな。

なんかボロが出ない内に、僕から意識を逸らせておこう。


「どうやら森の方は大丈夫そうだから、アーセも操魔術で攻撃していいぞ」

「ん」


 アーセの手元から、上空にいる『ガーフ』の元へ、鎖分銅が襲い掛かる。

僕のとは段違いな速度ながら、それでも当たる事は無く避けられてしまう。

しかし、一直線に伸びていった鎖分銅がそれを避けた個体とは別、近くにいた他の個体に急激に進路を変えて直進する。


 僕が試行錯誤しながらも、まるで成果の上がらない攻撃を繰り返している間に、アーセは二羽を仕留めていた。

速度の違いは元より、途中で軌道を変えフェイントをかけるような、相手に予測させない動きは効果的だ。

すると残りの『ガーフ』たちは、旗色が悪いと覚ったのかどこかへ飛んで行ってしまう。


 こうして、アーセが仕留めた二羽と、飛ばしてきた羽を拾い集めて、依頼を達成する量確保できた。

アーセは几帳面に、羽の逆立った毛を一本一本綺麗に揃えて重ねている。

こうなると僕もやら無い訳にはいかず、丁寧に撫でつけながら集めていった。


「にぃはどこか調子悪いの?」


 これが嫌味でも何でもなく、純粋に僕を心配してくれているだけに堪える。


「いやっ、別にどこも悪いわけじゃ・・、あっアーセ凄かったぞ、助かった」

「? ん」


【アル、兄の面目丸つぶれだな】

【ちぇー】

【アーセは操魔術も中々だな、アルもあれくらいを目指せよ】

【うー、わかったよー】


 無事に依頼は達成できたのに、なぜか敗北感に包まれてしまった。

はぁー、『マッドベア』の時のジンさんやディネリアとソニヤも、こんな気分だったのかなー。

でも、もし次にまた9層の時みたいな事になって、無事でいられる保証は無いんだ、少しでも地力を伸ばさないとな。


◇◇◇◇◇◇


 王都オューに戻り、依頼達成の報告と現物を渡しに、辻馬車に乗って薬師ギルドへ。

街の中心からは離れた、西側の最も奥まった場所に建つ、外壁が白で塗られた事務所棟と治療所。

表側から見えるのはこの二棟だけだが、裏に回るとさらに研究所などもあり、初めて訪れた者は迷う事必至な広さを誇る。


 事務所棟の一階受付で、登録カードを見せ依頼を受けて対象となる部位を届けに来た旨伝える。

すると担当の人が来るまで待つようにと、衝立ついたてで仕切られた場所で座って待つことに。

しばらくして、白衣を着た女性がこちらに近づいてくる。


「初めまして、私は担当のジルフィラと申しうっ・・」

「「?」」


 「申しうっ」ってなんだ? なんか喉にでもつまったのか?

不審に思いこの人の目線を辿ってみると、どうも僕を向いていない。

・・なるほど、僕の影に隠れてたアーセが視界に入ったのか、つまりはこの人もそういう年齢って事か。


「しっ失礼しました、私が担当のジルフィラと申します、この度はありがとうございました」

「僕はアルベルト、こちらは妹のアーセナルと申します、これがご依頼の品です、どうぞお確かめください」


 集めた『ガーフ』の羽、しめて73本をテーブルの上に置いて確認してもらう。


「・・はいっ、確かに50本以上あります、全部で73本超過分も合わせて引き取らせいただきます」


 とりあえずはこれにて依頼終了、後は傭兵ギルドへ行って、依頼完了のサインを貰った依頼書を提出し、報酬を受け取るだけだ。

さてっと席を立ち、この場を去ろうとすると、ジルフィラさんに呼び止められた。


「あっ、あのお二人はオューは初めてですか?」

「はい、なんでわかったんですか?」

「ここで『羽』の傭兵の方はあまり見かけないもので、それでそのこちらにはどのくらいの期間いらっしゃるんですか?」

「ちゃんと決めてはいないんですが、おそらくは十日間くらいは滞在すると思います」

「それでしたら、是非お二人にお願いしたい依頼があるんですけど」


 一体どんな依頼だろうと、アルとアーセがジルフィラの次の言葉を待っている。

夕暮れ時、治療所の診察時間も終わり、通りを歩く人もまばらになった頃。

薬師ギルドの事務所棟の外には、三人の様子を窺う怪しい人影があった。


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