第62話 視線 慣れるもんなのか
薬師ギルド事務所棟の一階、打ち合わせ用のテーブル一台とイス四脚がある、衝立で仕切られた簡易スペースの内の一つ。
僕とアーセは僕らに頼みたいという、新たな依頼についての説明を受けている。
依頼内容は、ゲイカンという植物の採取、正確にはその根が必要なんだそうだ。
この植物、ユライという名の森の中のある一か所にしか生えていないらしい。
森の中なので、当然魔物はわんさか出てくる、其の為おいそれと採りに行くわけにいかない。
予てから人工的に栽培する研究も行われているそうだが、いまだ実現には至っていないらしい。
これで必要となるのが葉や茎や花ならばともかく、いや葉や茎も使い道がありいるにはいるらしいが、それよりも重要なのは根っこなので、採ればそれでもう終わってしまう。
生えている数がそれほど多く無いらしく、一度に大量に採ってきてはいけないそうだ。
そこで、一定の期間ごとに少量ずつ採取するように、傭兵ギルドへ定期的に依頼を出しているらしい。
それを僕らにって事なんだが、なんで僕ら二人なんだろうか。
さっき初めて会ったばかりで、信用も何も無いと思うんだけど。
不思議に思い聞いてみる事に。
「あの、なんで初対面の僕らに依頼を? いつも頼んでいるなら、傭兵ギルドに依頼を出せばいいんじゃないでしょうか?」
「こんな事はあまり言いたく無いんですが、どうも傭兵の方々は仕事が粗くて、
確かに採ってきてはいただけるのですが、根が途中で切れていたり必要以上の量採ってきてしまわれるので、ちょっと困ってるんですよ」
「はあ」
「なにぶん魔物がいる森の中ですから、私らで行くわけにもいかないもので、あまり文句を言って受けて貰えなくなると困りますしね」
今にもため息をつきそうだ、なんか鬱憤たまってるみたいだな。
「あの、僕らも傭兵なんですけど?」
「・・・・すいませんでした」
「いえいえ、そうじゃなくて、僕らに頼んでも同じかもしれないじゃないですか」
「先ほど頂戴した集めていただいた『ガーフ』の羽、綺麗にまとめられていて状態もとても良かったです。
これだけ丁寧な仕事をするお二人でしたら間違いないかと」
これ完全にアーセのお手柄だな、チラッと見たらもの凄い笑顔だ。
受けてもいいかなと思っていたら、エイジに話しかけられた。
【アル、さっきの依頼みたいにろくに確認もせずに受けるようなマネするなよ】
【あー、うん、わかってる】
【森に二人で入るってのは結構なリスクだ、もし内容聞いて危なそうなら、傭兵ギルドで臨時のパーティーメンバー探す事も考えとけよ】
【そうだね、とりあえず話し聞いてみるよ】
「どうでしょう? 引き受けてはいただけないでしょうか?」
「その前に色々伺いたいんですが宜しいですか? 僕らはお察しのとおり、
オューには今日初めて来たんで、この辺りの事に詳しくないんですが、そのユライ森? というのはどの辺りにあるんでしょうか?」
「ここの北西門から出て、そうですね馬車で一日ほど行ったところに、ヒョウルという村があります、そこから歩いてそれほどかからないところにあります」
「魔物が出るという事でしたけど、通常傭兵ギルドで依頼を出した時は、これまでは何級の依頼として扱われていたんですか?」
「5級です、受付に見せていただいたカードによると、アルベルトさんが5級なんですよね?」
そのあたりはわかってて頼んでるのか。
そうすると残るのは、人数と・・・・報酬くらいかな?
「いつもは何人パーティー推奨の依頼なんでしょうか?」
「確か・・四人だったと思います、あっでも、以前お一人でやる方もいらっしゃいました」
「一人・・そっそうですか、それと報酬はどのくらいになるんでしょう」
「今回お願いするのが、ゲイカン三株となりますので、そうですね、状態が良ければ金貨三枚といったところでしょうか」
ユライ森の魔物の数と種類が不明だけど、一人でやったって人がいるくらいだから問題無いかな。
【エイジ、いけそうだから受けてみるよ】
【受けるかどうかはアルが決めてかまわないけど、出来れば返事は明日まで待ってもらった方がいい】
【なんでさ】
【セルとシャルが、もし明日問題解決したって合流しようとして、入れ違ったら困るだろ? だからちゃんと確認してからにした方がいいと思ったんだ】
【確認ったってなー、あっ鏡か】
【そ、あれで今夜連絡とって、問題無ければ明日返事するってのでどうだ?】
【うん、そうするよ】
「あの、良く考えてみますので、返事は明日まで待ってもらっていいですか?」
「はい、わかりました、私は明日は朝9時には居ると思いますので、それ以降でしたらそちらのご都合で何時でもかまいませんので」
「では、明日の朝返事しに参ります」
そう言って席を立ちその場を後にする。
外に出る時に、ジルフィラさんに声を掛けられた。
「本日はありがとうございました、明日良い返事を聞けることを期待してます」
◇◇◇◇◇◇
こうして薬師ギルドを出た僕らは、辻馬車で街の中央付近まで戻り、傭兵ギルドで依頼完了の手続きを。
依頼主の、完了確認のサインが書かれた依頼書を受付に提出し、報酬を受け取る。
その際に、職員さんから伝言がありますと告げられる。
伝言主は『月光』のラムシェさんで、話があるので今夜中にメープル館という宿屋に、二人で訪ねてきて欲しいという事だった。
話? 二人でって一体何の話だろう、全然心当たりないんだけど。
すでにエイジは先ほど休眠してしまい相談できない、まあラムシェさんだったら危ない事もないだろうからいいか。
傭兵ギルドを出て、っと行く前にまずは今夜の宿を確保してからにするか。
オューの街は広いので、宿屋の数もかなりあり、其の全部をチェックするのは無理がある。
中央から南へ向かいながら、目についたところを調べていく。
辺りがすっかり暗くなった頃、お昼を食べたカエデの看板のお店にたどり着いた。
ここまで調べた中では、一人一泊銀貨二枚銅貨五枚というのが一番安かった。
という事は、昼間に提示されたここの銀貨二枚が一番安いって事だ。
あの女性が「お安くなってます」と言ってたとおりだったな。
アーセにここでいいか確認すると「にぃに任せる」という事なので中に入ってみた。
昼間の給仕の女性を発見、声をかける。
「昼間はどうも、それでここに泊まりたいんですけど、部屋空いてますか?」
「あら、ウチに決めてくれたんですね、えーっと、個室は埋まってますけど二人部屋ならご用意できますよ」
「じゃあ、とりあえず二人で一泊お願いします」
「かしこまりました」
無事に泊まるところも決まったので、あまり遅くならない内に指定された場所へ行こうと思っていたら。
「アルくん、アーセちゃん」
と声がかかり、ラムシェさんが現れた。
もしかしてと思い、先ほどの女性に聞いてみたら「当館はメープル館と申します」との事。
なるほど、それであの看板なのか。
「ラムシェさん、えっと一昨日振りですね、それでお話っていうのはなんでしょう?」
「ここじゃなんだし・・・・、そうだ、アーセちゃん一緒にお風呂行かない?」
「ん、行く」
ん? 話があるのは僕にじゃ無くアーセになのか?
それにしても、アーセは家族と仲間以外とは敬語なのに、あの返事の仕方。
ラムシェさんと話すのに、僕との時の口調と同じになってるって事は、よっぽど好きなんだな。
部屋に荷物を置いて、ラムシェさんと待ち合わせて一緒に公衆浴場へ。
場所は東門へ続く通り沿い、歩いて10分ほどらしい。
中央通りを三人で歩く、アーセの右手は僕と左手はラムシェさんと繋いで。
うわー、すれ違う人ほとんどがこっち見てるよ。
この二人は慣れてるのか、全然気にしてないなー、僕はなんか視線が痛いというかいたたまれないというか、落ち着かないんだけど。
しかしよく見ると、男性はラムシェさんをそして女性はアーセを見てるような。
目的地に着き男女に分かれる、そこでやっと多くの視線から解放された。
はぁー、これでやっと落ち着・・、あれっ? なんかまだ見られてるような。
周りをぐるっと見回すと、男性二人組と目があった。
? 知らない人だよな、僕になんか用事あるのかな?
声掛けて見ようかと思ったけど、すぐに居なくなってしまったのでダメだった。
なんだったんだろう? まあ大方ラムシェさんと一緒にいたから注目されてたってだけかな。
◇◇◇◇◇◇
王都オューの中央通りから、右に折れた東門へ抜けるメインの通り、そこから一本裏に入ったところ。
夜も更けてきたことから、表通りは並んだお店の灯りに照らされて明るいが、裏道となると営業している店自体少なく、その軒先以外はかなり暗い。
そんな暗がりに、足早にまるで隠れるようにして、二人組の男が入ってくる。
双方ともにまだ若い、一目で鍛えているとわかる20代の男性。
二人は息を切らせてはいないものの、多少弾ませていた呼吸を落ち着かせながら口を開く。
「びびったー、目が合った時はドキッとしたぜ」
「まったくだ、俺たちゃ尾行なんて向いて無いっつーの」
「しっかし、目立ちまくってたなー、本人関係無いけどよ」
「アレ確か『月光』の副団長だろ? なんつったっけ」
「『鋼のラムシェ』、下手な事すっとお前もどっかちょん切られっぞ」
「もう一人は妹だよな? あんだけ注目集めるって余計な仕事増えそうじゃね?」
「宿屋はわかったんだ、もう今日はいいんじゃねえか?」
「そうだな、あー早いとこ交代してお役御免といきたいぜ」
互いに愚痴を言い合い、そそくさとその場を去っていく。
◇◇◇◇◇◇
「!? アルか! なるほど、相手にはこう見えるのか」
僕は今、メイプル館の今夜泊まる二人部屋で、セルに例の鏡を使って連絡をとっている。
女性二人を残してくるのは多少気が引けたが、あの二人ならそこらの男は蹴散らせるだろうと、一人この為に公衆浴場から急ぎ戻ってきたのだ。
「ごめんね急に、今一人? 大丈夫?」
「ああ、今は部屋に一人でいるから問題無い」
「良かった、あっ、でさっ、どうなの? そっちは」
「あー、うん、いや親父がつかまらないんだ、どうもえらい忙しいらしくてな、だから残念ながら進展無しだ」
「そっかー、じゃあまだ時間かかりそうだね」
「ちょっと読めないな、明日かもしれんしまだ何日も先かもしれん」
「あのさ、実はね」
薬師ギルドの依頼の件を伝えて、三日間オューを離れる事を話した。
「戻ったら、今夜と同じメープル館に泊まるから、覚えといてね」
「わかった、それで今後の連絡なんだが、出来れば夜9時で頼めないか?」
「うん、いいよ、トイレとかなんとか言って一人になる様にするよ」
「助かる、俺もその時間なら部屋に一人でいられる」
「じゃあ、毎日夜9時に定時連絡するって事で」
「ああ、それじゃまた明日」
向こうが話せて無いのは残念だけど、連絡とれたのは良かったな。
其のままでいるのもなんか不義理な気がして、僕は再びメイプル館を出て二人を迎えに公衆浴場へ。
あの二人の場合、どうやっても目立つから、知らない間に行き違うって事だけは無さそうだ。
僕がすっかり湯冷めした頃、二人が相当温まっていたのか、赤い顔でお風呂から出てきた。
「にぃ!」
「アルくん、先戻ってても良かったのに」
「一度戻ってまた来たんですよ」
どうも時間かかったのは、アーセがお母さんおばあちゃん世代につかまってたのが原因らしい。
「もう凄いのよー、アーセちゃんが湯船に入ると、全員入ってきてねー、お湯無くなっちゃうかと思ったわー」
なぜかラムシェさんが興奮気味だ、珍しいなこんな感じなの。
アーセはえへへといった感じで、ニコニコしながら手を繋いで歩いている。
「それで、話は済んだんですか?」
「ええ、お手紙書いてもらって私が預かる事にしたの、ねーアーセちゃん」
「ん、後で書いてお部屋持ってく」
「お願いね」
何のことか全然わからないけど、二人がわかってればいいか。
行きと同じ、三人並んでメイプル館へ。
アルは、穏やかで柔らかい時間を過ごしているような、くすぐったい気分で夜の街を歩いていた。




