貧乏少年のハウツー喧嘩道2
雛由マヒルは、球場のような巨大ドーム状の建物の入り口にいた。
「本当になんでもありますね、この島は……。」
呟く先では、ジンヤが窓口で入場手続きを済ませようとしている。
本来ならドライバの生徒情報を提示するだけの簡単な手続きらしいが、まだ正式には未登録のマヒルの存在があってか、かなり時間がかかっているらしい。
「おい、まだ浮かない顔してんな?」
もたつく受け付けに背を向けて、ジンヤが頭の後ろで手を組ながら尋ねてきた。
「……ごめんなさい。」
「お前、テンション低くなるとすぐ謝る癖あるよな。」
「え……?」
「ったく湿気臭ェ、こっちまでカビ生えちまわァ。その癖直せよ。」
柔らかな銀髪に手を伸ばしてガシガシ掻き回すと、ジンヤはまた受け付けに文句を言う作業に戻った。
なるほど、かなり機嫌がいいようである。
彼が言うには、ここは「この島で一番エキサイティングな設備」らしい。
彼の言う「エキサイティング」を果たしてどう解釈したものかという点は気掛かりだが。
「やっとか、クソ。待たせやがって、こっちはやる気満々で爆発寸前なんだよ!」
「あ、終わりましたか。」
喜んでいるんだか怒っているんだか分からない顔でカウンターを叩くジンヤに、マヒルは顔を上げた。
マヒルの見ている前で最後に受け付けに向かって捨て台詞を叩き付けると、何かを掻っ払って戻ってきた。
「よっし。持ってろ、必要になる。」
「え?」
ジンヤが差し出すのは首から下げる紐の着いた名札の用なカード。
マヒルの首へ少々乱暴に引っかけると、ジンヤは「ヒャッホウ」と奇声を発しながらドームの入り口へ突っ込んで行った。
「行くぞマヒル、混んでっからはぐれんなよ!」
「あ、そんないきなり!?」
慌ててその背中を追いかけるが、飛び込んできたその光景と喧騒に足が止まってしまった。
ドーム内の空気は空調の仕事に関係なく熱気を帯びていた。
透明な硝子のような壁に囲われた部屋が幾つもあり、そのなかで生徒らしき面々が魔法を撃ち合っている。
その部屋の周囲にはギャラリー用のベンチなどが設けられており、他の生徒が興奮ぎみにそれを観戦していた。
『模擬戦闘訓練』とジンヤは言っていたが、なるほどそういう事らしい。
「おーい、こっちだマヒルー!!」
「え?あ、はーい!」
雑踏の中から大きく手を振るジンヤを見つけると、マヒルは人垣を越えて行く。
やっとのことでたどり着くと空いている硝子部屋(?)を見つけたらしいジンヤが、その近くの据え置き型の端末を操作していた。
昔世話になっていたATMにも似た佇まいのそれに、過去のゴタゴタを思い出したマヒルが半身を引いたのは誰も見ていない。
「ええと……ブラインドはかけなくていいか……。
……よし、マヒル。その名札貸せ。」
「……あ、はい。」
ジンヤはマヒルからカードを取ると、端末にかざした。
続いて、握っていた愛刀もかざす。
接続を確認する効果音がして、二つの文字列が表示された。
機械音声がそれを読み上げる。
「ゲスト『006』、コード『R006』
生徒『紅ヶ塚ジンヤ』、コード『コウガ864』
接続確認。」
きちんと接続されたことを片目に確認するや否や、ジンヤは愛刀を片手に駆け出した。
「うっし!」
「え?」
そのまま例の硝子部屋に入っていくジンヤ。
「ジンさん……あの、まさかですけど」
「おう、そうさ」
「そうさって……」
抜き身の刀をマヒルには向けて宣言。
「男どうしの会話なんて、単純単純。得物と得物をぶつけ合えば、自ずと響きあってくるもんだよ」
「また随分な生き物ですね、ジンさんの言うところの男っていうのは……」
そして、少なくともマヒルはそんな人種は知らない。
「ていうか、ジンさん?僕、ドライバ持ってませんよ?」
「その心配はしなくていいよ。」
突然、背後からの声。
「うわっ!?」
「うわっ!?」
声の主共々、お互いに驚き合う。
マヒルが飛び退きながら振り向くと、そこにいたのは本校舎に置いてきてしまったアユムだった。
「びっくりしたぁ……。」
「あ、アユムさん?ごめんなさい。あ、それに勝手に離れちゃって……」
「いいよいいよ」
「気にしないで」などと言いつつ、その目はジンヤの方を向いていた。
「話抜きでもだいたいわかるし」
視線に乗せられた隠しようのない非難の色に、ジンヤは口をへの字にした。
「……怒んなよ。つかオレにだって貸せよ、そのおもちゃ。」
「ヤだ」
「『おもちゃ』を否定しませんでしたね、アユムさん。」
やるせない笑顔を浮かべるマヒルの横で、アユムはさっさと端末を操作し始めた。
「ドライバ。レンタル用あるから調整手伝うよ。」
「止めてくれないんですね……」
救済を期待していたのか、マヒルの声音には落胆が見受けられた。
それを聞き取ったのか、アユムは申し訳ないような呆れたような口調で返す。
「ああなったら止まらないの、あの戦闘狂の闘犬脳。」
「なるほど……。」
コード入力などを済ませたアユムは、マヒルに訪ねる。
「で、これから即席とはいえマヒル専用のドライバを作るんだけど、気になることとかある?」
「ありすぎて何から聞いていいのやらです」
「だよね」
アユムは慣れた手つきでタッチパネル上のキーボードを操作しながら説明を始める。
「今調整するのは、『魔動機』と『戦略魔法』。
FF的に言ったら『そうび』と『まほう』かな?
魔動機はドライバに格納する武器、戦略魔法はバリア張ったり爆発させたりするコマンド技みたいなアレだよ。」
「あんまりゲームとかはしないんですけど……まあ、だいたい理解しました。
でも、武器を振り回すのは兎も角、いきなりコマンド技はハードル高くないですか?」
「だよね……私もそう思う。
だから今回は、戦略魔法はナシ。魔動機だけでいこう。ぶっつけ本番だから仕方ないよ。」
端末のパネルにいくつもの魔動機が表示された。
何頁にも渡って通販カタログのように魔動機が並んでいる。
「たくさんありますね……ていうか、ここ本当に学校なんですか?軍事要塞か何かじゃないんですか?」
「学校だよ一応。
魔動機にも色んなメーカーがあって、第五白波は十八のメーカーと提携してるからね。この学園の施設を試験場、生徒をテスターとして使用データを提供する代わりに、製品を低価格で提供してくれるんだよ。」
「なるほど……。」
「でも、マヒル。いきなり武器なんか選んじゃったりして使えるかな?」
「え?……ああ、それなら」
思い当たるような表情のマヒル。
「え?」
「まさか」という顔のアユムに、マヒルは端末へと次々条件を入力、カテゴリを絞りこむ。
「……なかなかバリエーションがあるんですね。なら、こういう感じのとかは……」
「ねえ、マヒル?」
口をポカンと開けるアユム。
マヒルは何食わぬ顔で応える。
「はい?」
「まさか……さわったことあるの、銃……?」
こんな時代になっても、ここは日本だ。
銃刀法は未だ健在で、一般人がその手の火器に触れられる機会は極端に限られている。
しかし、一呼吸置いたマヒルは気味が悪くなるほど自然体でうなずいた。
「ええ、まあ。」
「やっとか?待ちくたびれてたとこだぜ」
「ごめんなさい、凝り性なもんで……」
申し訳なさそうに頭を掻くマヒル。
フィールド上をうろうろと歩き回っていたジンヤは、待ってましたと刀を抜いて応える。
「いいや、そのぶん楽しませてくれりゃ満足だ」
マヒル曰く硝子部屋の中。
目測にして30メートル×30メートルと言った広さの、何もない四角いフィールドだ。
この一見硝子の様に見える壁は魔力により固定、補強されており、爆撃にも耐えうるという。
好戦色のみなぎる目を光らせ、ジンヤが犬歯をむいて笑った。
「先ずはお手本だ。一回しかやんねぇからな?
再構成、コード『コウガ864』オペレーション」
ジンヤの足元に数式化した儀式の集合体である青い印が現れ、体をモザイクの様な光で覆った。
感覚補助や強度補正などの恩恵が術者を覆い、最後に国家公認の魔術師である証の純白のコートが具現化された。
「以上だ。」
動きやすさを重視したのか袖口を広くしたスタイルはコートというよりも和服の羽織に近く、聖職者というよりも時代劇に登場する用心棒のように見える。
「うわ……」
「ほら、惚けてねェで。お前の番だぞ?」
「あ、はい……ええと……」
携帯端末の様な形をしたレンタル用ドライバを握りしめる。
これから自分もやるのだ。アレを。
発動する魔法をイメージして、ドライバに伝える。
それがコツらしいが。
いける、と深層心理が囁いている気がする。
根拠はないが自信はみなぎってくる。
その自信を自らのポテンシャルであると信じ、マヒルはドライバを握りしめた。
拳の中のドライバを掲げ、腹の底から唱えた。
「リロード!」
ゴトン
目の前に何かが転がった。
「……あれ?」
自分の傍らには、役目を終えて消失する印が。
その下には、先程選んできた拳銃型の魔動機が落ちていた。
ジンヤのような白いコートは、現れない。
「……間違った……ですかね?」
「……あちゃぁ」
「……。」
見守っていたアユムが額に手をやる。
同じくジンヤも呆れて目を細くする。
どうやら、発動されたのは格納された魔動機を再展開する魔法だったらしい。
しっかりと失敗したようだった。
マヒルは虚しく転がった銃を拾い上げて頭を掻く。
「難しいですね……。もう、これで始めちゃだめですか?」
「だめだっつの、怪我すんぞバカ!」
「ですよね……」
魔動機を床に置くと、再び集中する。
改めて念じる。
「リロード!」
握った手の中の機械と、生身の肌の間に、感覚的だが確かな繋がりを感じた。
次はいける。
「コード『R006』オペレーション!」
今度はきちんと、足元に青い印が現れた。
元より二つしか仕込まれていない儀式だ。
二回やれば成功はする。
目の前が光に包まれた。
「わっ!?」
目を固く閉じると、一瞬後にはそれは収まっていた。
目の前には、ジンヤが心配そうに立っている。
マヒルはくるりと回って自らの姿を確認した。
厚みを感じるが、決して重さを感じない白い袖が見える。
デザインはデフォルトの詰襟。
動き難くそうな見た目に反して、着ていることを疑うほど軽く、白さも相まって積もったばかりの柔らかな雪の様だ。
「白いコート……やった!ジンさん!アユムさん!できましたよ!!」
「やっとか……。」
ため息混じりのジンヤ。
ジンヤは刀を握り直すと説明を始めた。
「『オペレーション状態』。
今、お前の肉体はドライバとのリンクにより、常時魔法によって保護されている。
脳波処理の高速化によって魔法の行使もより直感的かつ迅速化されてるし、運動能力や五感も常時強化されてる。痛覚の抑制とか、『DGS』……まあその説明はパスするとして、肉体の損傷も直ぐ修復される。
それに、今は訓練場と接続されてるから、ドライバに魔力を供給してるのはお前自身じゃなくてこの施設そのものだ。どれだけ魔法使っても、この前のビルの時みたいなショック症状は起こらないぜ。」
「つまり?」
「存分に戦え」
白刃を如く鈍く光る目が、マヒルをしっかりと捉えていた。
それに挑む様に、マヒルもぐっと腰を落とした。
それを見たジンヤがにんまりとした笑みを見せる。
「初めに言っておく。
俺はあんまり手加減ってのが得意じゃねえぞ」
宣言と同時に、三十秒のカウントが視界の端に表示された。
戦闘開始までのカウントダウンらしい。
「ルールは簡単。最大五回戦勝負。相手を戦闘不能にした方に一本、先に三本取った方が勝ちだ。」
「つまり……どうにかジンさんに三回勝てばいいんですね?」
「ああ、まあ……」
ラスト1のカウントが切られた。
「……オレに一勝でもできればの話だけどな」
ブザー。
戦闘開始だ。
その瞬間、ジンヤが短距離走選手のスタートダッシュのような勢いで間合いを積めてきた。
それに合わせて、マヒルも床の銃を爪先で跳ね上げる。
空中でそれをキャッチすると共に、迫ってきたジンヤの横一文字の払いをバックステップで回避した。
眼前を刀身が通り過ぎるその一瞬、マヒルの感覚神経はその刃が僅かな熱白色と甲高い振動音を帯びているのを感知した。
高周波ブレードと呼ばれるギミックだ。
ブレード部分は魔力駆動の高周波発生機により超振動と高熱を帯びており、通常の刃物とは桁違いの破壊力を持つ。
人間腕や脚程度なら、軽く振るだけでも骨ごと断ち切られるだろう。
ーーと、ここまでの詳細を理解する術の無い雛由マヒルでも、その兵器へ驚異判定を下すのは容易だった。
あれに触るのはかなりまずい。
マヒルはそのままジンヤとの間に大きな距離を作った。
「ほう……やるな?」
ニヤリと笑ったジンヤだったが、着地したマヒルの体勢に表情を固くした。
刀が振り切る頃には既に、マヒルは体勢を整え、片方の膝をついた状態からの両手構え射撃を始めていた。
「早っ……?」
驚きで一瞬反応が遅れた。
なんとか横っ飛びで回避したが、放たれた魔力の弾丸はジンヤの右肩を掠めた。
ダメージを示す血を模した赤い光のエフェクトが舞う。
魔法で強化されているとはいえ、驚異的なバランス感覚と身体能力だ。
しかし、マヒルはその間にも攻撃の手を休めない。
止まない射撃に、ジンヤは走りながら刀を振るう。
弾丸をはじきながら、マヒルを中心に弧を描くような軌道で距離を積める。
だが、ジンヤの防御の穴を狙ってくる弾丸がじわじわと機動力を削ぐ。
脇腹、右脛、左足首。
掠める程度のものだが、次々と被弾を示す赤い光が飛び散っている。
マヒルは動こうとしないが、その分素人とは思えない精度で射撃を続けている。
「ッチ、なんなら……!」
焦れたジンヤは低い体勢で大きく踏み込む。
被弾を気にせず距離を積めると、大きく得物を振り上げた。
「問答無用、叩っ斬る!!」
刀剣の範囲まで積めてしまえば、こちらのものだ。
相手を真っ二つにせんと、勢いよく降り下ろす刀。
その瞬間にマヒルはやっと動いた。
「っ!?」
ジンヤは目を見張った。
射撃体勢から一転、マヒルはまるで体当たりでも仕掛けるようにジンヤの懐へと飛び込んだのだ。
体がぶつかるぎりぎりの距離まで迫ると、片腕でジンヤの肘を受けて、刀の動きを封じる。
「おいおい……マジかよ」
驚きよりも先に出たのは、呆れた声だった。
これはただの捨て身の肉薄ではない。
その動きの芯に、確かな徒手格闘の覚えをジンヤは感じた。
しかし、それも束の間。ジンヤの顎に固い銃口が突きつけられていた。
「一本目」
ジンヤの頭が吹き飛び、ブザーが鳴った。
無傷なマヒル。
それを前に、頭のない体がバタリと倒れて動かなくなった。
そこでマヒルはぴくりと動いた。
「……え!?ジンさんちょっと……これ頭無くなっちゃってるじゃないですか!?大丈夫なんじゃないんですか、ねえ!?」
思い出したように青くなるマヒル。
だが、すぐにその青い顔は血色を戻した。
「大丈夫だって、ここでは死なないっつったろ。」
どこからともなく現れた光の粒が頭のあった場所に集まり、一瞬にして頭部が再生したのだ。
何事もなかったかのように立ち上がるジンヤ。
それはそれでショッキングな絵面であり、マヒルは一歩下がる。
「じ……ジンさん、平気なんですか?」
「ああ、なんともねェよ。次やるぞ、次。」
気がつくと、またカウントダウンが始まっていた。
ブザー。
マヒルが構える銃は、拳銃型に属する魔動機だ。
個人運用型の魔動機中では最も小型であり、中近距離戦で使用されることが多い。
マヒルが選んだのは、そのなかでも大型な重量モデル。
射出している弾は金属などの固形物ではなく、魔力を媒介とした『熱』と『圧力』であり、射撃時の反動はほぼゼロだ。
高い威力と射撃精度を誇るが、反面燃費が悪い。
魔動機は基本、実際の銃のようなマガジンや弾薬を使用した操作を必要とせず、直接魔力供給を行うためにマグチェンジ等のリロード操作も不要だ。
魔力が切れない限り、引き金を引けばいつまでも射撃できる。
マヒルはその特性に目をつけて、短期決戦用武器としてこれを選択した。
マヒルの考えは、ジンヤのブレードの及ぶ範囲では恐らく何をしても彼には勝てないという定義から始まる。
だとすれば、必然的にブレードの及ばない間合いでの攻撃が基本に置くことになる。
その為、遠隔攻撃が可能、かつ取り回しが利く銃を選ぶに至った。
それなら、何故短機関銃や散弾銃など、更に高い火力の武器を選択しなかったのかは、それにも理由がある。
そもそも、ブレードの及ばない範囲は『遠隔』だけではないという点がポイントになる。
広くは、体を中心に半径三メートル強。
踏み込みからの一閃を得意とするジンヤの攻撃はそれが範囲であり、それ以上は圏外。
だが、それはジンヤにもよく分かっている筈であり、距離を詰めるために何らかの対策が成されていると考えるのが自然だ。
そこで、マヒルは思い付いた。
刀や長剣は近距離すべてをカバーできる訳ではない。
動作上、懐に潜り込まれれば無力になる。
その範囲にして、半径一メートル弱、約七十センチほど。
この内側もまたブレードの届かない、安全圏となる。
マヒルはそれを狙った。
立ち止まって足場を固めた状態からの執拗な連続射撃で、相手の特攻を誘う。
距離を積めれば勝てると踏んだ相手が踏み込めば、それに合わせて自らも即接近。
向こうからの接近など予想だにしない相手の三メートル強以内、一メートル弱以上を素早く突き抜ける。
あとは元より得意とする徒手格闘の範囲内でブレードを無力化、至近距離で必殺の一撃を放つ。
『片手で扱え、徒手格闘との併用が可能』という拳銃でしかできない芸当だ。
「ハンドガンって、案外ゼロ距離でも働くんですよ。」
先程と同じく、ブレードの範囲外から執拗な射撃を続けながら呟く。
「完全なゼロ距離の場合、長さのある刃物は刺突にしろ切裂にしろ、一度大きく身を引き強い力をかける必要があります。
対して拳銃は、コツさえ掴めばゼロ距離でもノーモーションの指一本で高火力が叩き出せます。」
「そのコツを何処で掴んだかっつーのが分かんねえんだよ、お前の場合!」
連続した射撃への防御が間に合わなくなったジンヤがやむを得ず間合いを積めてきた。
今度は地を這うような低姿勢から喉元を目掛けて斬り上げる。
しかし、その程度の動きは想定済みのマヒルは後方へ身を投げる様にしてかわした。
すかさずジンヤの追撃が襲う。
振り上げた刀の軌道が、体重移動で降り下ろす太刀筋へと急変。
背面飛びをするような無茶な体勢、拳銃一丁のマヒルには防御する手段はない。
次こそは決まったと思ったのも束の間。
マヒルの空いた腕が、ジンヤの刀を握った右手を掴む。
「うをっ!?」
不安定な空中で為す術はなく、ジンヤとマヒルはバランスを崩しお互いに床へと落ちた。
その瞬間にもマヒルは動き、捉えたジンヤの腕を両脚で挟み込むように拘束する。
「いっ……!いだだだだだっ!折れる折れる折れる!」
プロレスのリング上と見紛うような綺麗な十字固めが決まっていた。
腕を捻られた為に、たまらず刀を落とすジンヤ。
だが、この体勢ではマヒルもジンヤへ直接銃口を向けることができない。
固め技を食らっているジンヤだったが、痛覚がある程度抑制されている分思考もクリアだった。
無理矢理間接を外す、最悪腕一本引き千切れば拘束も解けるはずだ。
しかし、そんな暇さえ無かった。
マヒルは無言で銃口を自分の太ももに押し当てる。
その向こうには、ちょうどジンヤの頭があった。
ジンヤの額を流れる冷や汗。
「……マジかよお前。」
思わず、力が抜けてしまった。
「……本当に素人か?」
マヒルは躊躇いも容赦も無く三回引き金を引いた。
一発、二発で脚に大穴。
そして三発目、マヒルは自分の足ごとジンヤの頭を吹き飛ばした。
作者の趣味色満載な解説
今回マヒルが使用した大型拳銃型魔動機は、名前は上がりませんでしたが、モデルはマウザー社の『Mauser Schnellfeuer』となっております。
同社『c96』にフルオート射撃などの機能を追加した拳銃で、独特のフォルムとグリップから家出しちゃっている大きめのマガジンが特徴です。
と言ってもマヒルくんは速射嫌いなのかずっと単射でしたが。
作品内では、塗装はマッドブラックという設定です。
今回も最後までお付き合いありがとうございました。
ご感想、ダメ出し、その為ご意見おまちしています。