27 神様と痴女
有馬は誰の言葉も待たず枕に顔を埋め、迅速に頭まで掛け布団を引っぱって寝息を立て始めた。いつもなら眠るまで10分程度掛かるのだが、かなり疲れているらしい。
からかうように数馬が小さく笑った。心底面白そうな顔をしている。
「有馬が男に取り合いされるとは……いやー、長生きはしてみるもんだな」
「20歳でもう長生きですか」
「はっはっは」
「……長生きしてください」
なんとも哀愁漂う口振りである。フィーの方はこれから先、数馬よりずっと長く生きる。魔力量からして1000年は確実だ。延命は可能だが、受けるかどうかはまだ不明である。
と言うか説明すらしていない。頭脳明晰で落ち着いたフィーだが、ここ数百年程は行われていないそれを頭に浮かべる事はまだなかった。
「いつまでぼーっとしてんだ、ラル。帰るぞ」
「え? ……あ、あぁ。そうだな」
暫くじっと布団越しの膨らみを見つめていたランラクルは、はっとしたように肩をびくつかせた。その向かいに立つフォルテは、とっとと帰れと言わんばかりに不機嫌顔だ。
その様子を見て、密かにロボが面白がっていた。
フォルテは今まで自分を押し込めてきた。王となること以上に、いずれ異世界から妻を迎えること、そのために他の女性に心奪われぬこと。それを第一に置いて生きてきた。
必然的に幼い頃の活発さは隠れ、表情も乏しくなっていた。ロボもその事には何ら思うところはなかったのだが、今のように劇的な変化だと面白くもなる。
(……やはり、今までとは違うのう)
こうも不器用なペアは史上初だ。フォルテは真面目すぎるきらいがあり、故に1度突っ走ると一直線で歯止めが利かない。有馬は捻くれているが、むしろ捻くれすぎて一週回って純粋、そして臆病だ。しかし兄とは違う方向にカリスマ性がある。
そして双方異性に慣れていない。友人としてなら兎も角、男女関係を築くには前途多難だと誰もが思っていた。本人ですら。
結局のところ、やはりベルのお節介が効を為したのであろう。
「そろそろ仕事したら? ま、別に僕は関係ないけどー」
う、とフォルテが僅かに息を詰まらせた。そして深く溜息を吐き、名残惜しげにぽすんと有馬の頭のあたりに触れてから部屋を去っていく。僅かに顔が赤くなっている事を見落とすような者は、寝ている者を覗けばいなかった。
「青春だねえ」
「全くだよ。しっかし薬も効き易いんだねー」
「獣人は酒に強く毒に弱い、だっけ」
「竜人は両方強くて妖精族は両方弱い、と」
「人間はどうなんだろうかね」
「うーん。試す? そこに丁度いい人間が」
「試すな!」
不穏な空気を感じてロボは叫んだ。今一この2名は忠誠心に欠けている。
特にルネの主を主と思わぬ所業には呆れを通り越して激怒し、先日は命がけの鬼ごっこをやらかしている。本気でその小さな喉を噛み砕いてやろうとしていたのだが、結局捕まる前にタイムアップした。
たびたび有馬の近くに彼らが居なくなるのは大喧嘩をしているからである。
何せ有馬は基本的に臆病で貧弱だ。うっかり近くで戦うと気絶や怪我の危険性が高い。故に、そういった事は外で行う訳である。
有馬が知らないだけで、彼らはかなり頻繁に喧嘩していた。利害が一致すれば最強のコンビなのだが、昔から気が合わない。近頃は王都で都市伝説化していたりする。
「この体だとスリルがあるよねえ。戦う?」
守護を第一とするロボとは違い、この元魔王は好戦的である。効率的な回復のために今は猫型だが、むしろ楽しいようだ。
ちなみに彼は真の姿を滅多に見せない。魔王であった頃の人型も今の猫型も本当の姿ではないのだという。取れる形態が多すぎてどれが本物なのか忘れた説もある。
「断る」
対し、にべも無い返答。わざわざ主から離れてまで戦闘に時間を割く趣味は無いのだ。
有馬が平和であれば、彼も平和で平穏だ。今だ何がそんなに魅力的だったのかは説明しにくいのだが、有馬に跪き、庇護しているこの状態がとてもしっくりくる。
有馬の魔力が恐ろしく潤沢で濃厚である事は分かったが、しかしそれだけでも無いとロボは直感していた。
「そういえばベル、いつまでその体なのかな?」
「うっかり霊体でいると悪戯してくる猫が居るからね」
「やだなあ、あれは故意じゃないよ」
「余計に性質が悪い」
精霊は知性ある存在の中で、恐らく1番魔力やマナに影響されやすい。というかそもそもマナで出来ているのだから仕方ないのだが。
魔力やマナを吸う事で成長する精霊だが、急激に多量の魔力を注がれると成長が追いつかずに破裂してしまう事がある。更にその性質が己と違いすぎた場合は更にひどい。
ベルとルネの性質は真逆だ。ルネの魔力を投げ込まれると、それはもう苦しい。吐き気に眩暈に発熱と、精霊には本来ありえない反応が目白押しだ。それを分かっていて嫌がらせしてくるのだからたまらない。
今はマナで肉体を作って宿った状態にある。これを生体化、または肉体化と言う。
とはいえ、ベルとルネの関係はさして険悪ではない。性格的な面ではどことなく似ているため、結構気が合う事も多いのだ。更に言うと双方が魔法マニアとも言えるし、経験豊富なルネがベルに助言する光景も多く見られる。
「もー、色んな意味でひどいよね」
「何がだい。私は慈愛と慈悲と滋養強壮の化身のような男だよ」
「男かどうかも怪しいくせに……いたいけな精霊からありったけマナ吸い取って蹴り出したりしてー、慈愛って言うか自愛? 連絡してくれたのに」
「そうだっけ? ごめんね、年いってて記憶がね」
「どの口で言うか、痴れ者め。貴様の頭に衰えなど無かろうが」
「ほほう、言うねえ」
「喧嘩は外でねー」
止めようとはしない。無駄だと分かっているためだ。
有馬の契約者もとい守護者達は、こういうバランスで安定しているのであった。――ちなみにメアはというと、大抵寝ているため無害この上ない。
ただ、たまに昼寝しているルネやロボの夢に侵入してきて、夢の中でもふらふらとしたり寝ていたりする。
本来夢に入る時は体ごと消え去るものだ。これは原理も分かっていない特殊魔法である。しかしメアの場合、才能があるのか何なのか精神のみで侵入する事も出来た。
その場合やや不安定で、危険も多い。精神の死は肉体の死に直結するし、本体が無防備になるのであまり推奨されることではないのだが。
「うふふー」
今度こそ窓から飛び出して行った2匹を意にも介さず、ベルは再び本を読みながら研究を纏め始めた。流石に王城には貴重な本が大量にある。
更に、若き天才シヴァとその父アルマータ。2人も魔法のプロが居るのだから、是非とも話を聞いてみたい。自分が精霊でなかった頃には発達していなかった通信系魔法や魔術が随分と改良されているらしく、興味があった。
ベルが開発しようと思い立ったのは、監視用の魔法である。有馬がまた遠くに飛ばされた時、意識が無いと正確な位置が分からないため、地図のようなものに主の座標を表示できるようにしたい、と思っていた。
これは有馬を見守りたいという面白半分の一心で数馬に相談して得たアイデアだ。画期的だ、とベルは感動した。魔法版GPSといった所か。
こうして平和な一時は過ぎていき、この世界には新技術が生まれてゆくのであった。
◆
夢の中で、有馬は誰かと向かい合っていた。緑がかった灰髪を編んで後ろに纏め、服は何故かジーンズに緑のハイネック。
目の色は紫で、人間離れした美貌だが印象がこの上なく薄い。目を離せば思い出せなくなるような、特徴のない姿をしている。
性別すら分からない中性的な姿は、到底人であるとは思えない。
更に、有馬ですら下手糞な敬語を使ってしまうような神々しさがある。
神が在るとすれば、こんな風なのか、と有馬は思った。
「……神っているんですかね」
何でも聞けと言われたので聞いてみる。
彼は表情を変えずに、事務的で飾り気の無い口調で返答した。
「存在する」
「じゃあ、あなたは神ですか」
「神だ」
はあ、と有馬は溜息混じりに言う。
実を言うと、会話できたのは初めてながら、夢の中で何度もこの自称神を見ている。
けれどその印象の希薄さゆえか、目が覚めると何も覚えていないのだ。
それにしても、不思議な夢である。
今の有馬はまさしく意識そのものになってしまったかのように、肉体が無い。見下ろしても、胸も腹も足も目に入らないし感覚もない。視界と聴覚だけがある。
「……何の神です?」
「創造神、イスト・エクロース」
「えー……と。何の用ですかね」
質問には答えず、彼は幾つかの名前を述べる。その殆どはノイズのように聞こえ、有馬の頭には認識されない。
「“城崎有馬”、“×××・×××××”、“××××・××”、“×××××”……“マリア・メリラハティ”」
「マリア?」
1つだけ聞き取れた名前。有馬を逆さから読むとマリアだが、それだけだ。
イストは、疑問を含んだ有馬の声を聞いて口を噤む。数秒後、
「やはりか」
そう呟いて微笑んだ。目をぱちくりとさせ、有馬は自分に体が戻っている事に気づく。
しかし明らかに“有馬”の体ではない。え、と声が漏れた。
「旧友よ。再びその魂と巡り会えた事、嬉しく思う」
今の有馬の体は、目の前のイストと同じく人外の美貌を備えていた。しかし彼が性別的特徴が皆無なのに対し、こちらは両性を強く感じさせる。
紫がかった灰色の髪、緑の目。豊満な肉体で胸も大きいのだが、どうも、可笑しい。
――どうしようもなく違和感がある。そう、主に下半身に。
「うぇっ……!!」
有馬は顔を赤くした。つまり両性具有なのだろうか、全体としては柔らかな体だが、触れてみると筋肉はしっかりついている。
一見して分からないが、ストールらしきものに包まれた肩やゆったりした服に隠れたが案外がっしりしていた。脱いだらがっかりしそうな気がする。
「私は無性だが、その体は両性だ。驚く事ではない」
「わ、訳がわからな……何これ!」
「だろうな」
立ち上がると、背が高い。元より10から20センチメートルは大きい気がする。
ふらついた体を支えられ、どうも、と混乱したまま礼を言った。
「記憶は無いのだな」
「はあ……? はあ。前世か何か……そういうの? ですか?」
取ってつけたような丁寧語である。
「そうだ。といっても4つ前の体だからな、難しいだろう……しかし、けったいなものを住まわせているな」
目をぱちくりとさせる有馬の背後に、ぶわりと闇が立ち昇る。有馬の背中に、むにん、と何やら肉厚な柔らかい塊が押し当てられた。
「うあぅっ!?」
「……んむ、ぅ……ん」
身をよじる有馬に抱きついて首筋にかぶりついたのは、むっちりとした肢体を惜しげもなく晒した全裸の女だった。
艶めかしい唇は黒く塗られ、両目はルネと同じ色だが左右が逆だ。髪は黒に近い紫色で、太腿まで届く長さである。
「のわっ! やめ……ふきゃっ! み、耳は……耳は……いぎゃー!」
ぴっとりと張り付いてセクハラを繰り返す女は、黒い唇から除かせた赤い舌で有馬の耳をねっとりと舐る。耳の穴に舌先を突っ込まれ、有馬が何とも言えない悲鳴を上げた。
「やめろ」
そしてべりっと引き剥がされる。女は眉根を寄せ、不機嫌そうに豊満な肢体を揺らす。有馬はあわあわと赤面したままへたり込み、呻きながら顔を手で覆った。
「あぅあぁぁぅ、うー、嫁にいけない……」
抗議するように神に逆らっている女。全裸なのにやたら堂々としており、けれど原始人には見えない、そんな高貴さがある。
そのうち言葉を取り戻したらしく、女は見た目によく似合う妖艶な声で叫んだ。
「……妾の邪魔をするでない! 久々に意識が戻ったのじゃ。少しくらいはしゃいだとて、天地が揺らぐ訳でもあるまいに!」
「話の邪魔だ」
「くうっ……力の戻らぬ身が憎い! おお、なんと切ないこと!」
芝居がかったような口調は素なのだろう。有馬はなんとか息を落ち着け、改めて女を見る。
美形遭遇率が多い今日この頃。ご多分に漏れず美しい顔立ちである。色っぽく、そして迫力がある。ハリウッド女優顔負けだ。
「……厄介な物を住まわせているな」
「は、はあ。住ませた覚えとか、無いんだけど!」
こんな破廉恥な客人を住まわせてたまるか、と有馬は涙目のまま叫ぶ。
「そうじゃのー、可哀想にのう! 妾は助かったが」
「……えーっと?」
「存分に! 魔力を吸わせてもらったぞ、宿主!」
尊大に、胸を張って言われる。豊かな胸が揺れて、有馬は思わず目をそむけた。今の体は兎も角、元の体では太刀打ちできないナイスバディである。
「我が名は、レイスニクル・アヴロニータ・ディアヴァルシア。我が子が世話になった!」
再び胸が跳ねる。有馬はもうやめてくれと思ったが、レイスニクルはゆっさゆっさと自ら揺すっている。最早露出癖なのかと言いたいレベルで堂々としている。
「わ、わが子って」
「ネインクルスの坊じゃ。と言っても実子ではないがな」
どことなく名前も似ている。というか、古代語でネイン・クルス、レイス・ニクル、と明らかに対になっていた。
「ふぎゅうあ!」
その事実を頭に浸透させる間もなく抱き着かれ、思い切り胸が顔に当たる。有馬はその圧力にくぐもった声を上げ、ついでに窒息寸前になってもがいた。
「や、め、ろ!」
「むうっ!」
再びイストが引き剥がす。有馬は最早寝転がる体制で涙目になりつつ息を整える。
けちけちするな、邪魔だ、と言い合っている神(?)とレイスニクル。それを横目で見ながら、有馬の意識はゆっくりと闇に包まれていった。
◆
夢の中で意識が落ちるとはどういう事だと思っていると、ごく普通に目が覚めた。
有馬はいつになくすっきりとした目覚めを向かえ、上機嫌で着替えをしているうちにクレイアが来たので顔を洗った。どうやら時間は既に朝らしい。
最近寝すぎて時間の感覚が掴めなくなってきた。
「まあ。病み上がりですのに」
よく考えてみれば自分で服を選んだのは久しい。極普通の、ひらひらもふりふりもしていない服だ。やや丈の長いクリーム色のカットソーに、焦茶のティアードスカート。
(そういや、あんまり着ないタイプ……ってかワンピース以外もあったのか)
適当にカーディガンを取って羽織る。元の世界に近い服装をしているとなんとなく落ち着いた。少なくともワンピース系の服は元々縁が無い。
出来ることなら今だってズボンを履きたい。室内は適温が保たれているとはいえ、外に出た時にスカートだと非常に寒いのだ。暫く出る予定もないが。
「変な夢見た」
「どんな夢ですの?」
「……印象薄い人が、どぎつい全裸の美女と喧嘩を……いや、本当に変……」
「一口に変と言い切るのも面白くありませんわ。何かの暗示では?」
「ええー。いや、面白くないってそんな」
そう言いつつ伸びをする。室内にはメアとルネが居て、双方昨日のままの格好で熟睡していた。精霊も寝るのかよ、と有馬が内心で呟く。
「起きろー」
とりあえずベルから起こす。メアを起こすのは重労働だから後回しだ。
「ふぁーい」
ベルはあっさりと目を開けて、ぱっと服を払って立ち上がった。元より睡眠を必要としない身だから、寝起きは良い。相変わらず妖精じみた服装で、これ一着しか無いのだが汚れる様子もない。
「メア起こしといて」
「りょーかーい」
「お2人のお食事も向こうに用意してありますわ。ごゆっくりどうぞ」
すっかり馴染んでいる。有馬は帰ってきてから寝てばかりだが、ベルは馴れ馴れしい態度で溶け込み、メアは寝てばかりいるので無害だと判断されているらしい。
「ありがたいね」
生体を動かすエネルギーは食事で賄うのが都合が良い。といっても消化や排泄ではなく、食物をそのままマナに変換するのだが。
メアは流石に食事が必要だ。魔力を吸えばある程度代用可能だが、それだけでは生命活動に必要な全てを補う事は出来ないのだ。
「有馬様、お加減は如何です?」
「健康」
「それは幸いですわ」
「……ぬ? あれ、何か名前の発音がネイティブ」
「数馬様にご教授頂きました。まともに名前もお呼びできず、申し訳ございませんわ」
「んー」
と言われても、有馬にしてみれば半ば諦めきっていた事だ。日本的な発音が外国人に難しい事くらい分かっているし、別に発音など気にしていない。
といっても有馬は既に無意識にもこちらの言葉を話すようになっていて、発音に関してはほぼ完璧である。名前の発音も同様だ。
「兄ちゃんって何処に滞在してるの?」
「城下の宿に居られるそうですわ」
城下。その響きに、有馬はぴくりと手を揺らした。羨ましいことこの上ない。
いくらインドア派で引き篭もっているのが好きでも、外に出たくない訳では無い。何よりこれから長く付き合っていくであろうアニマラーナの街並みを、目にしたことすらないというのも寂しい。
学校が嫌いでも、長く休むと行かなければいけない気がしてくる、そんな心情であった。
「あ、おはよう」
至極あっさりと隣に座り、有馬は両足を行儀悪く揺らしながら、ティーカップを手にとってふうふうと息を吹きかけている。
フォルテは明らかに意識されていない状態に若干切なくなりつつ、クレイアが退出するのを見送ってから謝罪した。
「すまなかったな」
「何が?」
そしてこの反応である。
熱ですっかり忘れたのではないだろうかと一瞬危惧した。それはそれでいい。フォルテはむしろ忘れてほしかった。改めてまともに言いたい。
「……ああ、無理矢理キスしたって?」
その希望は一瞬で叩きのめされてしまったが。
フォルテは一見冷静そうな顔で思考を巡らせている。情けなさで一杯だった。
「それもある」
「どれ?」
ふい、と有馬が顔を横に向けた。彼女も大概能天気である。なんとなしに腹立たしくなって、フォルテはむにゅんとその頬を摘んだ。
「何をう」
「あー……その」
勢いに任せてる事は案外難しい。彼は長く強固な理性で己を縛り付けてきたのだ。
ドーピング無しにこの前のような大それた真似は出来ない。こう見えてヘタレである。
「勢いに任せてしまった」
「ベルのせいでしょ」
「まあ、そうなんだが。……嫌ではなかったか」
「嫌というか。恥ずかしかったけど」
有馬が視線を逸らす。少し頬を染めて、嫌じゃない、と呟く。
そんな仕草をされると、フォルテも恥ずかしくなってくる。摘んでいた手を離し、熱を増した頬を少しでも冷やそうとするように覆う。
「あら」
「ううぇあっ!?」
「なっ!」
ばっと同時に扉に目を向けると、音も無く扉を開けてクレイアが入ってきていた。
「まあ。今夜はオセキハンでしょうか」
「赤飯!? 何処でそんな単語を! ってか米あるの!?」
「うふふ。ではごゆっくり」
朝食を並べると、クレイアは鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌で去っていく。2人きりにさせる心算らしいが、思い切り水を差されたせいで気まずい。
有馬とフォルテは互いにほんのり染まった顔を見せまいとするように視線を逸らしつつ、それでもぽつぽつと会話をしながら食事を取る。
こっそり隣室から覗いている見た目詐欺の少年2名には、両者とも気づく事はなかった。
有馬後ろ後ろ!いや横!
更新に間が空きましてすいません。週1で書けたらいいなーと希望的観測……