腹が減っても戦はできる!
マンモスうれピー奈と申します!
学業との両立を目指し『毎日投稿』を目標に掲げているので、応援の程よろしくお願いします〜〜!
※本作はカクヨム様にも重複投稿しております。
都会にひっそりと佇むシェアハウス──通称「コンパスハウス」のご飯どきは今日も大荒れ。
下は19上は25歳と、年齢も価値観も食の好みも異なる女の子たちが、自分好みの夕飯とするため日夜、弁舌の限りを尽くします。
暖色の照明を受けたリビングには、お腹を空かせた四人の女の子。テーブルを囲んで対峙する彼女達には絶対に譲れないものがある。それは、晩ご飯のメニューを何にするか。
各々一日の締めくくりに相応しい食事を迎えるため、部屋には一触即発の空気が張り詰めていた。
「ひき肉の賞味期限は今日までです。よって、今日の晩ご飯はピーマンの肉詰めにしたいと思います!」
最初に口を開いたのは、コンパスハウス第一のしっかり者──東雲。
仕事終わりのため未だスーツを身につけたままの彼女は、文化的な食卓の実現のため、疲れた体に鞭打って夕食会議に臨んでいた。
国立大を卒業後、大手に就職した彼女の人生はまさに順風満帆そのもの。だが、ことコンパスハウスにおいてその権威は通用しない。
シェハウス内の料理、家計管理の一切を受け持つ彼女の発言は優遇されて然るべきなのだが、この場では暗雲が立ち込めていた。相対する、ソファにふんぞり返った美少女によって。
「東雲の案は却下。わたしは野菜が嫌いなんだよ、何度言わせれば気が済むんだ」
案の定、東雲に否定の意思を伝えるのは、コンパスハウス唯一の穀潰し──西宮。
ニートである彼女は捻出すべき家賃を滞納しており、当然このシェアハウスにおいて発言力が皆無……のはずなのだが、西宮は優遇される立場にあった。
なぜなら、西宮は顔がいい。兎にも角にも、顔がいい。
就労や納税といった国民が負うべき義務を全て放棄した彼女は、美しくあることのみを自身に課した。
夕飯決めに顔の美醜は関係ないようにも思えるが、そう、この場にはギャルがいる。
「待って、ののちゃん! みや様のお肌がストレスで荒れちゃうの、うち耐えられない!」
再度東雲に待ったをかけたのは、コンパスハウス光一のギャル──江南。
ミルクティーベージュに染めたハーフツインを振り回しながら、精一杯に抗議の意を示す。
可愛いものと恋リアが大好きな純然たる甘ギャルの彼女は『ビジュアルが極端に整っているから』という理由だけで西宮の肩を持つ。
大学といった広くも浅いコミュニティに揉まれる彼女にとって、「かわいい」は歴とした価値であり、ビジュアルの良さすなわちステータスなのである。
だが、彼女が西宮に向ける情は優しさなどではない。「飼っているかわいいペットに良いものを食べさせたい」といった、非常に自己中心的なものだった。
「そうねぇ。あたしはシノちゃんの案でもいいと思うのだけど」
それまで傍観していたのは、コンパスハウス随一のムードブレイカー──北上。
その異名は伊達ではなく、北上の一言によって、味方を得たはずの東雲さえも警戒の目を光らせる。
透き通るような美声と、おっとりとした嫋やかな語り口は、本来聞く者の心を掴むのだが……。この四人で暮らし始めてはや半年、北上への全員の認識は「同性好きの変態お姉さん」であった。
それゆえに、胸元をはだけさせた寝巻きに身を包んでいるだけで一挙手一投足を見張られる。先月、お酒を飲んで暴走した姿は全員の記憶に色濃く残っていた。
北上の発言を皮切りに、東雲がおずおずと切り出す。
「……って北上さんも言っているんだけど、どう?」
「あ? 冗談じゃねぇよ。北上がそっちに付いたって、まだ二対二の構図だろ。このシェアハウスの掟、忘れたわけじゃないだろうな」
「そりゃあ覚えてるけど……」
彼女が言うコンパスハウスの掟とは、「献立決めで揉めた際、過半数の意見を採用する」といったものであった。他には「夜ご飯は全員で食べる」というルールもあったりする。
西宮は粗を突いたとばかりにニヤリと笑い、自身の主張を展開する。
「そうだな、わたしはハンバーガーがいい。店まで行くのもダルいしデリバリーで済まそうぜ。な、江南もそう思うよな?」
同意を求められた江南の爪はピンクと白を基調とした長いネイルがなされており、「かわいい」を貫く彼女にとって、ハンバーガーはまさしく鬼門であった。
「うちいまギャル爪だからハンバーガー食べにくいよー! みや様が食べさせてくれるんならそれでもいいよっ」
「やだよ面倒くさい。わたしじゃなくて北上にでも食べさせてもらえよ」
「いいわよー。でも、エナちゃんのちっちゃなお口に、ハンバーガーは入りきるのかなー?」
突然、すんと表情を落とす江南。
「きたがみかぁ。それはイヤかも」
コンパスハウス最年長である北上に、まだ二十歳を迎えていない江南をどうこうする意図はもちろんないのだが、過去の行いのせいで皆からぞんざいに扱われている。
「待って北上さん。さっき貴女は私に同意してくれてたよね?」
「うーん、シノちゃんの言うようにピーマンの肉詰めもいいけどぉ……」
なぜか言い淀む北上。
「いいけど、なに?」
「ひき肉の代わりにお米を詰めた方がヘルシーじゃない?」
「ないわ」
「きたがみマジでない」
「私もそれは同意しかねる」
全員からの否定を受けても、北上は「えー、そう?」と微笑みを崩さない。皆の健康を第一に考える優しさは、誰にも理解されないのだった。
このままでは平行線といった局面の中で、東雲はパンと柏手を打つ。
「じゃあさ、間をとってハンバーグにしよう! それならハンバーガー派の二人も納得じゃない?」
提示された折衷案に、しかし西宮は首を横に振る。
「東雲、お前に専門店のあのジューシーさは出せるのか? 出せないだろ。そもそもハンバーグとハンバーガーを同一なものと括る物言いは、両方への冒涜だ」
「引きニートがなによエラそうに。ひき肉の賞味期限が近いんだってば」
「賞味期限が少し過ぎようが問題ないだろ。消費期限じゃあるまいし」
ふふんと得意げに鼻を鳴らす西宮に、予期せぬところから攻撃が飛ぶ。
「みや様、このまえ賞味期限切れの牛乳飲んでお腹壊してなかったっけ」
「……江南ちょっと黙ってて」
喧騒の中で北上がポツリと呟いた、「生鮮食品なら賞味期限じゃなくて消費期限だと思うけど」の言葉は誰の耳にも届かなかった。
このままじゃ埒が明かないと考えたのか、東雲は標的を江南へと移す。
「ねぇ江南さん。私が作ろうとしてるハンバーグはこれなんだけど」
そう言いながら東雲が見せたスマホの画面には、スコッチエッグの画像。途端にテンションが上がる江南。
「え、なにこれやば! ハンバーグの中に卵入ってんだけど! おしゃすぎ! ののちゃんこれ作れんの!?」
「もちろん。いいのかなーデリバリーのハンバーガーよりも、こっちの方がイソスタ映えするのになー」
「おい江南! わたしを裏切らないよな!?」
東西の間に板挟みになり、江南はぐぬぬとうめく。効果ありと見做してか、東雲は彼女の耳に手を当て悪魔の囁きを続ける。
「ハッシュタグおうちごはん……」
「うっ!」
「ハッシュタグ質のいい生活……」
「ぐはっ!」
「シャッフル睡眠法みたいなのしてんじゃねぇよ江南もなんでそれ効いてんだよ」
なおも悶える江南を横目に、北上はスコッチエッグを検索にかけていた。
「ごめんみや様……。うち、プロイソスタグラマーになりたいっ!」
「スコッチエッグだけではなれねぇよ、家中がカルデイみたいなやつがなる職業なんだよ!」
はぁはぁと息も絶え絶えな西宮。
「これで決まりかな」
江南の籠絡に成功した東雲は、勝ち誇ったように腕を組んだ。念の為、「北上さん、貴女もスコッチエッグでいいよね?」とスマホ片手に静観していた北上へと確認を取る。ただ、その返答は彼女にとって予想外のもので。
「いま世界の卵料理を調べてたんだけどぉ。バロットって知ってる?」
北上が見せた画像は、孵化直前のアヒルの茹で卵。羽や目やくちばしが生えかけた卵料理を目にして、東雲と西宮は「ひっ」と悲鳴をあげる。
「貴女、食前になんてもの見せるの……!」
「グロいグロい消せ消せ消せ」
唯一人、物事の本質を見ることを心がける江南だけは「なにそれおもしろい!」と語気を高揚させていた。
「フィリピンの料理らしいのだけど、ネット通販で買えるみたいよー。今度みんなで食べましょ?」
「いいねー! コンパスハウスにもグローバルの風、とりいれちゃお!」
「これ栄養価も高いらしいわよぉ」「ま? ハイブリッドじゃん!」と盛り上がる二人に雲行きの怪しさを感じたのか、東西ペアは顔を見合わせる。
「なぁ東雲? 今日はわたしが折れるからさ、さっき言ってたやつ作ってくんね?」
「うんそうしよっか……」
盛り上がる南北の傍、手を組む東雲と西宮。
どうやら、今夜もつつがない食卓になりそう。
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コンパスハウスの日常がスタートします〜〜!
ドタバタしたラブコメディ、楽しんで行ってください!
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