第20話:モンスター倒すたびに金でも落ちれば今頃大金持ちだ
「もうすぐ王都につきますかね」
「昨日の話だと親方は夜には着くって言っていたわ、夕飯は王都で豪勢に行きましょ!」
レヴィとリーダーが話している。
少し前に嫌な予感がしていたんだが、思い過ごしだったようであの後五日間、何もなかった。
あったと言えば魔獣が数匹出てきたり、メイがまた乗り物酔いを起こしたり、リーダーとディアが言い合いになったり、あえて思い出すような記憶はない。
最初の四日間が異常にトラブル多かっただけで、これが普通なんだよな
護衛の仕事なんてのは本来こういうもんだ。何も起きないのが正解で、騒がしいのはこっちの連中が異常なだけだ。そういう当たり前のことを、こいつらといると忘れかける。
毎朝起きて積荷を確認して、全員の様子を確認して、親方と今日の行程を確認する。それを五日間繰り返していた。天気も崩れることなく過ぎていった。ディアが退屈すぎると言い始めたのが三日目で、レヴィが道中の魔獣を観察するために何度か立ち止まろうとしたのを止めたのが四日目だ。それくらいだ。
そして今日で遠征も十日目、予定通り夜には王都に到着して依頼達成し、親方から先に金貨報酬を受け取って夕飯はみんなでパーッと打ち上げしようという予定になっている。
既に慣れた作業になった積荷の管理を魔力糸でしつつ荷台に揺られていた。
「王都前の最後の町を抜けたな」
「あとちょっとが待ち遠しいわ!」
窓の外を見ると、街道沿いの木が整然と並んで続いている。
キャラバンを引くラプチャーの足音がいつの間にか硬質なものへと変わっていた。
どうやら地面も泥が踏み固められただけの道じゃなく石畳で整備された道になっていたようだ。
今まで見なかった魔導式の路面灯がぽつぽつ立っているのも見え始める。王都が近い。
世間じゃ魔導革命だの魔道列車だのと浮き足立っているらしい。行商人の荷物の中身も変わった。
少し前は食料や布地ばかりだったのに、最近は魔導部品や魔石の加工品が増えた。今回の積荷だってそうだ。
列車が走れば輸送コストが下がるとか、街道を馬で走る護衛の仕事はいずれ減るとか、ギルドでも話題になっている。
俺たち冒険者にも影響はあるんだろうが目の前の生活費を稼ぐ方が重要だ。借金もあるしな、嫌なこと思いだしてしまった。
このまま行けば夜には王都着だ。
◇
最初に気づいたのはこの工程で見慣れた魔獣を探しているレヴィだった。
「あの……街道の脇に、ダンジョンのものが出てきてます」
遠くの茂みの向こうに、鈍い灰色をした影が見えた。一体、二体、数えると五体いる。
遠方で目測だとよくわからないが高さは人間の倍近くある気がする。人型なのに四肢が妙に長い。腕というより触手と言った方がしっくりくる造形だ。
なにより異様なのは本来頭があるべき場所には何も乗っかっておらず、だけど何かを探すように小刻みに動いているのがわかった。
造形が気持ちが悪くて手に力が入った。
「あれははぐれか?」
「たぶん、この辺のダンジョンから溢れてきたんだと思います。……五体は少し多いですね」
「おっ? 魔獣じゃなくてモンスターか?」
「みたいね、こっち来たらこの前作った新技のスパイラルレイを試すわよ!」
この辺にもダンジョンがあるのか、はぐれもいるってことはなるべく避けていってもらいたいな
「レヴィ、悪いが親方に伝えてきてくれ」
「あのモブさん……、モンスターたち、こっちに向かってきている気がします……」
まじかよ。まだ遠くてよくわからないが確かにさっきまでの小刻みな動きというよりかは、まっすぐこっちに来ている気がする。
「親方、モンスターが近づいてきている! まだ遠いが振り切れそうか?」
少し間があって御者台から親方の声が聞こえてくる。
「ああ! 俺も確認出来た! 思ったより早いみたいだ! 追いつかれなくても王都まで連れ行ってしまうかもしれねぇ! お前たち倒せるか?」
「もちろん! そのための私たちサイレントプレーンよ! ディア! レヴィ! メイ! 準備しなさい!」
荷台で戦闘準備を始めて徐々にキャラバンが減速して止まった。
モンスターは少し距離があるが数分もすればここまでたどり着くだろう。
「やるわよ!」
リーダーがすでに剣を抜いていた。ディアが「おうっ」と立ち上がった。メイが無言で刀に手をかけた。
三人が揃って動くと準備が速い。俺は親方の隣に移動した。
「下がっていてくれ親方、レヴィ親方を頼む」
「わかりました」
親方がうなずいた。キャラバンの陰に入る。
レヴィが親方の横に立ちペットを地面に降ろした。
俺はその前に立って糸を周囲に広げた。何かが来たら分かる。
護衛としては力不足だがそこはレヴィに任せる。俺は俺のできることをする。
まぁでも正直あっちの戦闘側にいつもみたいに荷物持ちとして連れていかれるよりかは安全だと思っていることは胸にしまっておく。
モンスターが戦闘範囲内に入ってきた。数は確認した通り五体だけ、ダンジョン産のモンスターと考えればリーダーたちで全く問題ないと思う。
体表の質感が微妙に光沢あってぬめぬめしてそうでキモイな。
「サイレントプレーン、戦闘開始よ!」
リーダーが先頭の一体に踏み込んだ。足元の地面が少しえぐれて一気にモンスターの懐へと詰め寄る。
その勢いで一体目の胴を断ち切り上下真っ二つにした。剣を見ると刀身が輝いておりいつの間にか光のエンチャントをかけていたようだ。
技名言ってないのに普通に魔術使ってるし、あれ結果的にブラフになってるんじゃないか?
リーダーがそこまで考えてるわけないか、大方技名叫び忘れたかあれは技ではなくて基本技術として技認識していないだけだと思う。
「あっけないわね、ディアそっち行ったわ!」
「おう!」
ディアと二体目が道の途中でかち合った。
腕に水が巻きつき螺旋を作って回転しながら正面から貫く。
それだけで二体目が地面に沈む。
「っし! 手ごたえねーぞオラぁ!」
拳を握って何か感触を確かめるような動作をして次の標的に移ろうとした。
残りの三体の方に目を向けると既にメイいてぼうっと立っている。モンスターが触手のような腕を振り上げた瞬間メイが一瞬消えて、気づいたら三体とも倒れていた。
いつの間にか抜刀されている。何をしたか全く見えなかった。
五体、一分もかからなかった。
やだ、このパーティ強すぎ。
実際戦闘においてはレヴィ含めてA級上位相当と噂されることもあるらしい。ただし俺を除いて。
実力よりやらかしが多くて今のB級になんとかしがみついている。
リーダーはS級とか夢みたいな目標掲げているが、いくら強くなっても暴走癖が変わらない限りはこのままだろうな。
「弱いわね」とリーダーが剣を鞘に戻した。
「ダンジョンの雑魚だからな」
ディアが手を払った。モンスターの体液がべっとりついている。
お前水の能力なんだから絶対洗えよ、払って乾いたからセーフなんてことないからな。
「……雑魚だった」
メイが刀を鞘に収めながら小さくつぶやいた。
「あー! スパイラルレイ使うの忘れたー!」
リーダーの叫びが響く。誰も返さなかった。
親方がキャラバンの陰から出てくる。
「もう終わったのか、あんたら本当に普段の雰囲気からは想像できないほど実力あるな」
「それを帳消しにするやらかしをしているからB級どまりなんだけどな」
「おいおい、俺の依頼中には勘弁してくれよ」
しまった失言だった。余計なことを言ってしまった。
親方の後ろからレヴィが出てきた。
「わたしちょっと調べてきますね」
レヴィが倒れた一体に近づいて、モンスターを観察している。
「街道に出てくる習性は本来ないはずなので、これ以上は出てこないと思います。特徴からダンジョン低層のモンスターが外に紛れてしまったみたいですね」
「よし、それならすぐ出発しても大丈夫だな。早くいかないと城門がしまっちまう」
みんなすぐにキャラバンに乗り込み親方が手綱を引いて出発した。
倒れた五体が遠ざかっていく。体表のぬめぬめしてそうな質感は死んでいても変わらない。すでに気化が始まっているらしく死体から煙が上がり始めていた。ついでにディアについていた体液も気化している。でも手を洗え。
魔獣と違ってモンスターは事後処理楽でいいな。
俺は積荷に糸を戻した。固定は問題ない。
◇
荷台に戻って再出発してから、しばらくの時間が流れた。
日はすでに傾いて、山際に沈みかけている。残光が目に眩しい。
後ろでリーダーたちが駄弁っていた
「この辺はユニオン渓谷と言って、今通っているのが谷底で上が崖になっているんですよね」
レヴィが荷台から頭を出して上を見ている。
「崖っていっても人5人分くらいだろ、ただの段差じゃねーか」
「ディアさん、甘くみちゃいけません。雨も降って緩んでいるかもしれないんですから、土砂でも起きればこの高さの崖でも十分生き埋めです」
「怖いこと言うなよレヴィ」
「そうよ、そんな不安なことよりも楽しい話題で話すわよ!」
ちらりと外を見ると確かに崖が見えるが、特段崩れる様子もない。
リーダーの言う通り別の楽しい話しでも聞いている方が精神的に楽だ。
「ずばり王都についたら食べたいもの!」
「肉」とディアが即答したのに続いてレヴィも加わった。
「わ、私はあの、王都に有名な魔獣肉の串焼き屋があると聞いたんですが……」
「……行く」とメイが短く返した。
いや待て、お前魔獣食うのか!? 普段あれだけ大切にしているだろ! 割り切りか? 食用は別って考えなのか?
ツッコミたいけど今更急に会話に入るのも変だ。のど元に出かかった言葉を飲み込む。
とりあえずこのまま何もなければ今夜は王都で飯が食える。串焼きでも何でもいい。腹は減っているし依頼終わったら俺も酒飲んでいいよな。
そのやりとりの途中だった。
「……っ」
レヴィが急に立ち上がる。なんだ青い顔して?
「地面が……揺れています」
?
全員で首を傾ける。
キャラバンが揺れているのはずっとだろう?
地面?
そこでようやく地面そのものが揺れていることに気づいた。
気づかなかった。荷台の振動と区別がつかなかった。
いつから揺れていた? なんの揺れだ?
次の瞬間、揺れの質が変わる。はっきりと地面が振動しているのがわかった。地の底から来る振動だ。
キャラバンの車輪越しに伝わってくるそれは、さっきまでの街道の凹凸とは質が違う。連続している。一つの振動じゃない。
「お、おいなんだこりゃあ」
「…………敵の気配」
「敵! またモンスター?」
「そうだと思います」
「レヴィ」
「だけどこの振動……数が……おかしいです」
後方の木々が揺れている。地面が振動するほどの量のモンスターがいるんだとしたら
一刻も早くここから離れないと!
枝が折れる音が連続する。鳥が一斉に飛び立った。
「親方!」
「聞こえてるよ! さっきから全速力だ! だけど振り切れねぇんだ。ラプチャーもおびえていやがる」
チクショウ、王都まであと一歩ってところで何が起きていやがんだ!
横の林から音が聞こえてくる。もう横まで追いつかれたのか!?
地面を揺らすほどの振動の正体が姿を現した。
それは日中に襲ってきたモンスターだった。さっきと同じ灰色の体表。同じ造形。
ただし数が違う。視界に入っただけで三十体は超えている。木々の向こうにまだまだいる。
地響きが続いている。後ろと横から来ている。囲まれかけている。
「おいレヴィ、これ以上出てこないんじゃないのかよ?」
「そんな……普通はこんなに出てこないはずです」
「これは……溢れてるとか、そういう話じゃないです」
レヴィが絞り出すように言った。自分の見立てが崩れた音がした。
「なら普通じゃないことが起きているんだろ」
この数は無理すぎるリーダーの切り札ならなんとかできるかもしれないが、発動する前に囲まれて終わりだ。
つまり今できることは全力でここからの逃走。それしかなかった。
「全員警戒! キャラバンに近づいた個体を優先に攻撃よ!」
リーダーの命令で全員が構える。今できるのは逃げる成功率を少しでも上げることだ。
先頭のモンスターがキャラバンに飛びかかろうとしてリーダーの光弾に撃ち落される。
続いてディアが水球、レヴィが火球を撃ったり、縁に手がかかりそうなやつを腕ごとメイの刀が切り落とした。
バランスを崩したモンスターが倒れて後続を巻き込んではくれる。だが即踏みつぶされてまた別のモンスターが戦闘に立って追ってくる。
気のせいじゃなければ追って来る量が増えてきている気がする。
きりがない。追って来る数が多すぎて気休めにしかなっていない。
あり得ない事態だ。ダンジョンに直接潜ったってこんな量に遭遇することはない。
数か月前の戦場への遠征を思い出す。あれは乱戦の中であって、今は俺たちに対して何十というモンスターに命を狙われている。
どう考えても今の方がヤバい。
王都までこのまま逃げて駐屯兵に助けてもらえるか?
駐屯兵で対処できる量なのか、そもそも王都まで無事にたどり着けるのか
考えることが多すぎて頭の奥がチリチリする。汗と動機が止まらない。
今は対処できているが、リーダーたちの魔力と体力はどれくらい残っている?
「親方! もっと速度でないのかよ!」
苛立ちから思わず親方にあたってしまう。
「これ以上は無理だって言ってんだよ! チクショウ! 王都行くだけでなんで命の危険にさらされてんだよ、積荷は無事か?」
「まだ無事だ! だけどヤバくなったら保証はできないからな」
「わかってるよそんなこと」
ラプチャーを先頭に御者台に親方、荷台に積荷俺、後方にリーダーたち
そしてリーダーたちの少し後ろに何十という数のモンスター
王都まであとどれくらい距離があるんだ。




