君は世界一可愛い天使みたいな悪魔 前編
天使なんか存在しない?誰だ、そんなことを言ったのは
「はるちゃん、購買に付き合って」
いるじゃねぇか、ここに。
悪魔みたいな見た目した天使が。
「まーた悪野のやつ、天音さんのこと脅してる」
おめぇらの目は節穴か。どっからどう見ても天使だろうが。
「ふふっ、僕もちょうどお腹が空いたとこだったんだ、一緒にいこ」
そう言って財布を持ち、天のところへ駆け寄る。
「天音君、あんな悪野のこと気にかけてくれるなんて、マジ天使だよな……」
クラスメイトの気持ち悪い話し声が聞こえてくる。
残念ながら、お前らが天使だと思っているこの俺様こそが大悪魔様だっつーの!
悪野天は、この僕、天音はるかの幼馴染だ。身長も僕より低く、顔も幼い。人に対する姿勢も低いというのに、真っ黒な黒髪に吊り目、そして立派な八重歯という見た目が悪さするのか、周りからは悪魔と馬鹿にされている。
ねぇ、普通、悪魔って怖がられるもんじゃない……?
天ちゃんを見ると、購買のパンを眺めて必死に財布の小銭を数えていた。そのしぐさが不器用で、実に可愛い。
「はるちゃん、十円貸してくれる……?」
泣きそうな顔をして見上げる天ちゃんに、僕は天ちゃんの頭を撫でて微笑んだ。
「十円くらいあげるよ、気にしないで」
別にいいことなんてしてない。ただ微笑むだけ。
それだけなのに……
「天音さんが悪野にカツアゲされてる」
「天音さん天使だな~」
なんてあての外れた言葉が飛び交う。
馬鹿な奴らだ。本当の天使が誰かもわからないお前らが一番の悪魔だ。
「か、必ず返すからっ!今日!帰ったら!」
「いいってば、気にしなくていいよ」
「返、す!絶対」
高校生にもなって半べそかきながら約束を守ろうとする。
本当に君は天使みたいな悪魔だね、天ちゃん。
放課後、お金を返したいと懇願する天ちゃんに手を引かれて、家に招かれる。と言っても近所なのだが。
天ちゃんの両親はまれに見るいい親だ。こんな邪悪な顔をした天ちゃんを、小さい頃から可愛がっている。
まぁ、天ちゃんは可愛いから当たり前なんだけど。
でも、本当は違うんだよね。
出来損ないが故に堕天させられた天ちゃんの魂を地上界に送り出す際に、天ちゃんが何不自由なく幸せに暮らせるよう、この大悪魔の僕が吟味して決めた器なんだから、当たり前なんだよね。
「い、今っ、持ってくる!」
家に着くと天ちゃんは慌てて家の中へ走って行った。たかが十円なんか気にしなくていいのに。
途中、滑って転んだ音が聞こえ、僕は家の中に入る。案の定、天ちゃんは部屋の前で滑って転び、膝を撫でていた。
転ぶと思ったんだ、でも泣きそうな顔も可愛いよ、天ちゃん。
「膝打ったの?大丈夫?」
僕は膝をつき、顔をしかめる天ちゃんの膝に手を当てた。
「痛い痛いの、とんでけー」
囁くように呪文をかけると、天ちゃんの目から涙が引いていった。
「あれ、痛くなくなった……」
「ちょっとびっくりしただけだよ、大丈夫、傷になってないよ」
そう言って微笑むと、天ちゃんは目を輝かせて口を広げた。
「やっぱり、はるちゃんは天使なんだ……!すごい!」
クラスメイトとは違う、本物の尊敬の眼差しが、僕に突き刺さる。
僕は天使じゃないけど、君に天使って言われるのは、別に嫌じゃないよ。
「ほら、十円持ってきなよ」
「う、うん……!」
天ちゃんは慌てて飛び上がると、部屋に駆けていく。また転ぶんじゃなかろうか、と見つめていると、やはりまた転びそうになる。
やっぱり、天ちゃんには、僕がいないとダメだな。
「あ……はるちゃん……」
天ちゃんが部屋のドアからおずおずと顔を覗かせる。声が聞こえる距離まで近づくと、そわそわと落ち着かない様子の天ちゃんに、思わず声をかける。
「もしかして、十円なかった?」
「あ、る!……でも、その……」
後ろ手に十円を握り、隠しているのが見える。
もしかして、十円は僕を家に呼ぶ口実だったのかな……?
「何か、言いたいことがあるのかな」
優しく微笑むと、天ちゃんは落ち着かない様子で部屋の中にあるゲーム機をちらりと見る。
小さい頃はよく天ちゃんの家でゲームをして遊んでいた。十年前に遊んだゲーム機が、そのまま埃をかぶったまま鎮座している。
「……もしかして、ゲームやりたいの?」
天ちゃんは驚いたように目を見開き、首がもげるように前後に強く振る。
「はるちゃん、家に来るの、久しぶり……だからっ、でも、はるちゃんが……嫌なら」
「嫌じゃないよ、天ちゃんと久々にゲームできるの楽しみ」
天ちゃんの顔が明るく輝く。踵を返し、足をもつれさせながらゲーム機へ向かっていき、セットを始める。テレビの画面が付くと、僕を呼ぶように輝く表情を僕に向け、それに誘われるように隣に座った。
僕なんかと遊べるってだけでこんなに喜ぶ君は、本当に愚かだね。




