自販機革命と愚者の奇行団
アニメ三期を記念して投稿した短編です。
アニメの放送日に合わせて週一で何話か投稿する予定ですので、期待せずにお待ちください。
時系列はバラバラですよー。
二〇二〇年の六月一日。
この日、日本の自販機業界に革命が起こった!
そう食品衛生法の改正である!
細かい内容を語り出すとキリが無いのでわかりやすく説明をすると……今までだと生肉類を自販機で販売できなかったが、包装済みの冷凍食品ならOKに改正。
つまり、今まで日本に皆無だった肉の自動販売機が設置されるようになった!
更にコロナが蔓延して人が飲食店に訪れることが減ったタイミングもあり、肉だけではなくラーメンやその他の冷凍食品を扱う自販機が多く出現することとなる。
これを自販機革命と呼ばずしてなんと呼ぶか!
「ハッコン、どうしたの? なんかすっごくチカチカしているよ?」
すっと視界に入り込み、俺を覗き込むラッミス。
至近距離の彼女は心配そうにこっちを見ている。
あっ、うん。ちょっと盛り上がっていただけで平気だから。
「ありがとうございました」
「大丈夫そうなら、いいんだけど」
ラッミスは俺の前にちょこんと座ると、手にしたから揚げを食べながら俺から購入したミルクティーを飲んでいる。
俺が妄想全開モードになった理由が、そのから揚げだ。
素材の肉はウナスス……角の生えたイノシシ。荷猪車や家畜としても大活躍の、異世界では一般的な動物らしい。
から揚げかー。
今もから揚げだけなら自販機の商品として提供することは可能。なんせ、某冷凍食品メーカーの自販機にその商品はあるので。
だけど、生肉となると日本では無理だった。それが食品衛生法の改正により、冷凍とはいえ取り扱い可能となったのは大きい。
しかし、俺のメインとなる顧客はハンター。冷凍肉よりも即座に食べることが可能な加工された食品が好まれる。
ならばと、ムナミと女将さんが経営している宿屋で使って貰えないかと、一度試し売りしたことがあるのだが。
「ハッコン。これって、冷凍の肉? うーん、解凍するのに時間かかりそう。お母さんはどう思う?」
「そうね。良い肉みたいだけど値段がちょっと高いみたいだね。うちみたいな店は手頃な値段ってのが売りだから」
このように反応は芳しくなかった……のだが。
最終的には美味しそうだから、と一種類ずつ購入してくれて味には太鼓判を押してくれたが、安さと早さが自慢の食堂で出すのには難色を示す結果となった。
俺が少しお高めに値段設定したのも敗因の一つか。それでも、富裕層が暮らす場所なら飛ぶように売れると思う。あと、たまの贅沢にはもってこいなのに。
さーて……ポイントを結構使って大量に仕入れたのに、どうしようこの在庫。
冷凍食品は他にもあるのだけど、自分で調理しなくてはならない物を異世界の人々に伝える術がない。
袋の裏に調理方法が書いているのだけど、日本語が読めないと理解は難しい。
餃子なんて何分焼けば良いのか、水はどれぐらいが適量なのか。そのさじ加減で仕上がりが大きく異なってしまう。
おでん缶のように蓋の開け方だけなら、画の説明で十分なんだけど。
カップラーメンもラッミスが何度も失敗して、ちょうど良い時間を計ってくれたんだよな。
……くううっ、自分で調理してやりたい。この冷凍ラーメンとかちゃんぽんも超おすすめなのに!
ラッミスに食べさせてあげたいなー。
こういうときに自動販売機である体が恨めしい。でも、この体に転生していなければ商品を扱えないわけで……う、うーん。
「あっ、またチカチカしてる」
「ざんねん」
「えっ、何が?」
不思議そうな顔をしている。こういうときに意思を正確に伝えられないもどかしさはあるけど、それでも――
「ありがとうございました」
「んっ? どうしたの急に?」
戸惑い微笑む君に、感謝を伝えることはできる。
それからは色々と考え事をしながら、いつものように常連客相手に商売を続けていた。
日が落ち、食堂で飲み食いする人もいなくなった夜。
さっきまでは近くの民家やテント式住居から光が漏れていたのだが、それすらもなくなり集落は闇に包まれている。
もちろん、真っ暗というわけじゃない。灯りとしてたいまつや魔道具が道の脇に設置されているから。
それでも、日本の夜とは違いすぎる。
俺は夜の省エネモードで明るさも控え気味だけど、集落ではかなり目立っているはずだ。
「いらっしゃいませ」
誰も居ないのに言ってみた。
宿屋前の定位置で深夜の独りぼっちには慣れたはずなのだけど、それでも寂しくなるときがある。そういうときは意味もなく声、というか音声を再生する。
それだけで、すこし寂しさが紛れるからだ。
「おっと、気づかれちまったか」
えっ⁉
返事があるなんて予想もしていなかったので、驚きのあまり照明が消えかけた。
声のした方に視線を向けると、闇の中から歩み出たのはつばの広い帽子とニヒルな笑みが特徴的な男――ケリオイル。
日中見ても胡散臭いのに、夜に見ると怪しさに磨きがかかる。
王蛙人魔の一件で悪い人ではないらしい、とは思ったがどうにも見た目というか雰囲気が……気にしすぎかな。
「夜は冷えるからな、温かいスープもらうぜ」
銀貨が体内に入り込んだのを確認して、コーンスープを取り出し口に落とす。
「やっぱ、便利だぜ。ハッコンが来てくれたら遠征も楽勝なんだが。となると、運び役としてラッミスも必須だよなー」
勝手なことを言っているが、俺もラッミスも愚者の奇行団なんてところには入らないよ。団長のケリオイルが怪しいってのもあるけど、何よりもネーミングセンスが酷い。
「前の大蛙人魔では大活躍だったな。フェルミナも団員達も褒めていたぜ」
買い物をしたら直ぐに立ち去るのかと思ったら雑談を始めた。
何か裏がありそうだけど、褒めてもらったのは純粋に嬉しいので「ありがとうございました」と言っておく。
「あとあれだ、あー、シュイの大食いがヤバくてよ。遠征費の半分は食費に持って行かれるからな。腕の方はいいんだが、あの食欲が半分になってくれねえかな。……それと、ほら赤と白の双子がいただたろ――」
なんだ、なんだ? とりとめのない話を延々と続けている。
俺に話しかけているというよりは大きな独り言。心ここにあらずといった感じだ。
この状況に引っ掛かるものがある。昔、サラリーマン時代に似たような経験をした覚えが……。
あー、思い出した。会社の上司が何故か帰宅しようとせずに、俺とずっと雑談をして時間潰していた時と似ている。
確か、あの時は上司の浮気が妻にバレて家に帰り辛かったんだよな。
まさか、こいつ……。
「ざんねん」
「な、なんだ。ざんねんって」
思わず漏れた音声に対し、ギョッとした顔でこっちを凝視するケリオイル。
この反応、当たらずとも遠からずか?
何かしら後ろめたいことがあって、仲間の下に戻りたくないとか。
「またのごりようをおまちしています」
「おいおい、邪険に突き放すなよ。もうちょい、時間を潰させてくれよ」
理由は不明だけど方向性は当たっているようだ。
「またのごりようをおまちしています」
「冷てえな。常連じゃねえか。それに、助けるのも手伝っただろ。愚痴ぐらい付き合ってくれよ」
まあ、借りはあるし、感謝もしている。
仕方ない。俺も暇だし、話し相手ぐらいにはなってやるか。
「でよ。ちょーっと夜遊びするぐらい男の嗜みじゃねえか。そりゃ、安くない金を使っちまったのは悪かったが、息抜きも大切だよな! な!」
「ざんねん」
自己擁護に必死だな、団長。
あれから、ずっと愚痴を聞かされている。
話の内容を要約すると、団の運営費をシャーリーさんの店で使い込んだのが副団長のフィルミナにバレて、そこから団員にも伝わった。
で、酷く怒られたそうだ。いい年して。
同情する余地もない、ただの自業自得としか思えない。
夜のお店に行くのは個人の自由だと思うけど、団の運営費を使ったのはダメでしょ。
「ここからが本番なんだが……。フィルミナと団員の機嫌が良くなるような商品ないか? ハッコン、頼む! この通りだ!」
ケリオイルが両手を合わせて拝んでいる。
商売として割り切るなら、断る理由はない……のだが、実は前もフィルミナ用のご機嫌取り用の商品を求めてきたんだよな。
あの時は何が原因だったのかは話してくれなかったけど。
他の団員はともかく、あの人に二回目が通用するかどうか。って、後の心配は俺がすることじゃないか。うんうん。
「いらっしゃいませ」
「それはいい、ってことだよな! 恩に着るぜ!」
切り替えて考えよう。そうなると、何を渡すのが喜ばれるだろうか。
フィルミナは何が好きなのか予想も付かないな。
赤と白の双子は陽気でチャラかったのは覚えている。
シュイは食べ物! 一番わかりやすい。
まずはフォルムチェンジだ。
「うおっ、眩しい。っと、形は変わってないみたいだが……なんだこれ? 肉の絵か?」
そう、これはお肉の自動販売機。
八枚のパネルに商品の写真が表示されているので、文字が読めなくても選びやすい。
肉も種類が豊富で、焼肉用、やきとり用、ラム肉も置いてある。
「どれも旨そうだな。これをやったらシュイの機嫌は確実に直るな。おおう、串が刺さっているのもあるのか。……くううっ。見てるだけで酒が飲みたくなるぜ」
喉をゴクリと鳴らし、真剣にパネルを見つめている。
悩んだあげくに牛バラカルビとやきとり用を五個ずつ購入してくれた。
「おっと、これはカチコチに凍ってんのか。一晩解凍させて、明日の昼にでも食うか。ありがとよ」
「ありがとうございました」
こちらも在庫がさばけて万々歳だよ。
しかし、自販機の他の商品と比べてかなり高額なのにあっさり売れた。
愚者の奇行団ってかなり儲かっているのかな?
このお肉なら赤白双子も喜びそうだが、シュイに全部奪われて終わる未来が見える。
……まあ、あの二人なら確実に喜ぶ商品に心当たりがある。というか、絶対に外さない自信がある。
それよりも、先に面倒なのを片付けておくか。
問題はフィルミナに渡す物だ。
あの人、何が好きなんだろう。イメージは冷静な大人の女性。
他に知っている情報としては、副団長としてお金の管理を一任されているらしい。
しばらく黙って考え込んでいると、不意にケリオイル団長が口を開いた。
「ハッコンでもあいつの好きそうな物は予想できねえか。実はかなりいける口でな、血のように真っ赤な赤ワインが好きなんだが、さすがにないか」
おいおい、自動販売機を舐めてもらっては困る。あるんだな、これが。
でも、まず思い浮かんだのがコイン式ワインサーバー。コップをかざして注ぐタイプだからお土産には向いていない。
コップに注いだ物を持って帰るわけにもいかないだろうし。
となると、缶ワインか。ビールや酎ハイのように缶に入ったワインは存在する。かなり本格的で赤ワインもラインナップにあったから、きっと喜んでもらえるはずだ。
いつもの自動販売機に戻って、赤ワインをずらっと並べる。
「もしかして、これ中身がワインなのか?」
「いらっしゃいませ」
おしゃれ過ぎて一見、ワインだとわからないデザインをしている。だけど、話の流れから察してくれたようだ。
十本ほど購入してくれた。
これって、フィルミナが一人で飲むのだろうか? だとしたら、かなりの大酒飲みだ。
さて、残るは赤白の双子だけか。
またもフォルムチェンジをする。
「おっと、また変わったのか。んんんっ⁉ こ、これは!」
ケリオイルは俺の体を両手で掴み、鼻が付きそうなぐらい顔を寄せてきた。
興奮した顔でさっきよりも真剣に商品を吟味している。
ここまで夢中になっている商品は……エロ本。そう、ヒュールミとの一件で大活躍した、昔懐かしのエロ本自動販売機だ。
「色っぽい姉ちゃんばっかじゃねえか! どいつもこいつもそそる体してやがるな」
おっさんのだらしない顔を至近距離から見せられるという苦行。
「こっちの下着姿の方が……いや、待てよ。この体にぴっちりと密着した制服みたいなやつもそそられる……。くそっ、どれを選べば良いんだっ!」
ケリオイル……あんた、自分の物を選んでないか? それ赤と白に渡す物なのを覚えているよね?
目的を忘れて本気で苦悩する姿が見ていられなかったので、適当に選んだ物を取り出し口に落としておく。
「えっ、おい、ちょっと待てよ。まだ選んでないぞ!」
「ざんねん」
苦情は一切受け付けずに元の自動販売機に戻ると、渋々ながらエロ本を受け取った。
その恨みがましい目で見るの止めてもらっていいですかね。
「こんなことなら、さっさと選べばよかったぜ。まったく……お、おおっ⁉」
ブツブツと文句を言ってたケリオイルの不満顔が、一瞬にして輝く。
気づいたようだな。俺が落とした本が――三冊だということを。
一冊はあんたの分だ、取っておきな。俺からの奢りさ。
「ハッコン、お前ってヤツは」
俺の意図を正しく読み取ったようで、満面の笑みで自販機の体を軽く小突く。
お土産を持って早く帰ればいいのにその場に座り込み、渡した三冊からどれを自分の物にするか選び始めた。
ため息の一つでも吐きたい気分だが、あいにくそんな機能は無い。
どうせ暇なんだ、好きなだけ迷ってくれ。
本が見やすいようにと灯りの光量を上げる。
――そこで、俺はあることに気づいてしまった。
「くおおおっ、これぐらいでけえ胸っていいよなー」
「……いらっしゃいませ」
「だよな! こっちも捨てがたいし。くううっ、悩むぜ。こうなったら、あいつらにはやらずに独り占めしちまうか」
「……ざんねん」
「わーってるよ。半分は冗談だっての。しっかし、こんなのを持っているのがフィルミナにバレたらどうなるか。どっかいい隠し場所あったか?」
地面に並べた本から視線を逸らさずに悩み続けるケリオイル。
ちなみに、俺はさっきから一言も発していない。そう、一言も。
じゃあ、誰が相づちを打っているのか? それは――
「なあ、ハッコン。一番のおすすめはどれだ」
ようやく顔を上げたケリオイルが、俺に向けて三冊を差し出す。
「団長の好みはどれなのですか?」
「そうだな、俺の好み……は……」
自分の背後から聞こえる冷たい声を聞き、ケリオイルの顔から血の気が失せる。
そう、さっきから俺の声を真似ていたのは、無表情で闇に佇むフィルミナだった。
「俺の好みはなんですか?」
「そ、そりゃ、フィルミナさんみたいな人に決まってるじゃないですか」
「へえー、そうなんですか。帰りが遅いと思って心配して迎えに来てみたら、まさか反省もせずにこんな物を……」
足下に転がるエロ本を睨み、鋭い目つきのままケリオイルに向く。
「こういった本を何度も購入しているのですか?」
「な、何言ってんだ。これは赤と白にやる物だぜ。これもハッコンが提案して選んだ代物だぜ! な、なあ、ハッコン!」
必死な団長が罪を俺になすりつけてきた。
確かに俺が選んだ商品だが、今の言い回しだと諸悪の根源みたいじゃないか。
ほーら、凍てつく視線の先がこっちに変更された。
「本当ですか、ハッコンさん?」
目はそのままで口元だけ笑っているの怖いです。
「ざんねん」
「お、おい! 何言ってんだ、ハッコン⁉」
先に裏切ったのはそっちだからな。
「あはははは。そ、そうだ。お前の好きな赤ワインがあるぜ! ほら、土産に買ったんだよ」
「それは、ありがとうございます。でも、団長知ってますか? 血のように赤いワインよりも、新鮮な赤い血の方が好きなんですよ」
怪しげに微笑み舌なめずりをして、杖を掲げるフィルミナ。
ケリオイルは勢いよく立ち上がると、脱兎のように駆け出す。
飛来する氷の礫。破壊音。そして、悲鳴。
深夜に響く幾つもの音を聴きながら、〆の言葉をしておくか。
「またのごりようをおまちしています」




