第十四話
ヴォルが語ったことを簡単にまとめると、女の事を何となくは覚えているが、その詳細は思い出せないという。
ダジルと同じような状態ではあるが、ダジルのように名前や見た目さえ覚えていない。
続けて、ヴォルは微かに覚えている事を語り始めた。
まず、ヴォルはシルヴァと思われる女に、「あなたの所属するパーティーをより良いものにしましょう」と言われたそうだ。
そして、その話を聞いている最中、意識が朦朧としていき「リーダーに会わせてくれたら、協力してあげる」と言われた事だけを覚えている。
そして、ヴォルは仕方なくダジルとシルヴァを会わせた。
順調に事が進む中、シルヴァは「それなら、この能力を持った人が邪魔になる」とミズキとリンナを名指しで言ったそうだ。
ヴォルはそれを聞いて、以前から邪魔だと感じていたミズキを排除することにした……。
つまり、ヴォルがミズキを嫌っていたのは事実で、シルヴァの言葉に影響されて行動を起こした。
徐々に真実へと近付いていき、やはりすべての鍵を握っているのはシルヴァという一人の女の可能性が高くなる。
「あの女と話していると、頭がぼうっとして何も考えられなくなって、それで……」
ヴォルは続ける。
「じゃあ、ミズキさんを殴ったのはあなたの意思ってことですね」
「ふん、それがどうしたっていうんだ」
メグが確認すると、ヴォルは開き直った口調で続ける。
「別にその時だって、そこの落ちこぼれは今の俺みたいに縛られていたわけじゃないんだ。やり返すことも逃げることだって出来ただろ」
すると、ダジルが「黙れ」と低い声で唸る。
「ヴォル、お前はとことん頭の中まで腐りきっているアホなんだな」
ダジルは腕を組み、ヴォルを睨みつける。
「ミズキの体を見たら、ちょっと殴っただけですぐに倒れるのは誰だって分かることだ。それとも、お前にはミズキが自分よりも大きな男に見えたっていうのか?」
ダジルはそのまま続ける。
「お前は見るからに自分よりも小さい奴を殴って、『そいつが反撃しないから問題ない』と言ってるんだ。そんな事を言うやつ、底なしの馬鹿か、卑怯者の二種類だ」
そして、「お前はどっちなんだ?」と尋ねる。
(なんか、リーダーっぽい)
ダジルはパーティーリーダーになってから急速に成長していった。
頭の中では分かっていても、いざ目の当たりにすると感慨深い。
ヴォルはダジルの問いに答えず、じっと沈黙を貫く。
「ふん、都合が悪くなったら沈黙か。ガキだな」
リンナは「あんたも似たようなものじゃない」と小声でつぶやく。
瑞希は少し同意しつつ、ダジルの様子を眺める。
「シルヴァはどこにいるんだ」
「……知らねえ」
ヴォルは大人しく答える。
「最後に会ったのはいつだ」
ヴォルが黙っていると、ダジルは「答えろ」と頭を引っ張る。
「……そこの落ちこぼれを追い出した後、女と喋ったような記憶がある」
「場所は?」
「ロックの街のギルド周辺……くそ、よく思い出せねえが、ギルドの近くだったのは確かだ」
ヴォルの情報は手がかりにはなるが、確定的なものではない。
「連絡先は知らないのか」
「……知らねえ」
すると、ダジルはふっと笑う。
「お前、シルヴァに利用されたんだな」
「あ?」
「だから、お前はシルヴァに利用されたんだよ。シルヴァはお前みたいな奴なら、自分の都合のいいように動いてくれるって分かってたんだ」
ヴォルは静かにダジルを睨みつける。
「なんだ、女に利用されたのを認めたくないか? じゃあなんでシルヴァはここに現れないんだろうな」
シルヴァがここに現れない理由は容易に推測できる。
利用していたかどうかは分からないが、最初からヴォルとシルヴァにそこまでの関係性は無かったということだ。
そもそも、シルヴァは他にも同じようなことをしている。ヴォルやダジルも、数多いるターゲットの一人だっただけ。
「ちょっとは頭を働かせろ。お前は未だにその女じゃなくて、俺達に怒りを向けてるんだ。利用しても、自分に敵対心を抱かない。シルヴァにとって都合のいい存在じゃないか」
ダジルは冷静に、しかし、しっかりとヴォルを見つめて口を開く。
「今なら、お前はただの馬鹿だ。でもこれ以上反抗するならお前は愚か者になる」
そう告げるダジルは、まさに銀の覇者のパーティーリーダー。先程、辞めるとか辞めないとか言っていた姿とは大違いだ。
ヴォルは気まずそうに俯いて「別に、もう俺に選択肢なんてない」と呟く。
「おい、ミズキ、こいつに言いたいことはないのか」
急に話を振られ、瑞希は困惑する。
「……うーん、えっと、人のことを『落ちこぼれ』とか言うのは性格が悪く見えるから止めたほうがいいと思うよ」
本当は「人のことを殴りやがって」と恨みつらみを言う予定だったが、ダジルが代わりに殴ってくれたし、もう意気消沈しているヴォルに言いたいこともなくなってしまった。
すると、メグが小さく笑う。
「ミズキさんの言う通りです! 性格が悪くてとっても不愉快だし、人間性を疑っちゃいます」
人の上に立ちたいと言いながら他人を見下すのは独裁者的な思考だ。
そして、独裁者が良い結果を得られる確率は限りなく低い。ヴォルの考え方は、根本的に問題がある。
「そもそも、ミズキは落ちこぼれなんかじゃない」
はっきりと告げるキュアの言葉に、思わずそちらを向く。
「ミズキは十五歳の時からずっと、銀の覇者のメンバーとして努力してきた。大人達に混じって臆することなく発言して、丁寧な対応で依頼のやり取りをして、ギルドの外でも中でも、良い評判を築いてた」
(そうだっけ)
確かに、最初の方は緊張気味なダジルとリンナに代わってよく他のパーティーと交流をしていたが、ミズキだけの力ではない。
ただ、そんな事を言われたのがミズキの記憶にはなく、何となくこそばゆい感覚になる。
「ミズキはいろんな人に評価されていたし、他人をどんな能力を持っているかでしか判断できないのはとても……狭い考え方だと思う」
キュアは静かに告げる。
ヴォルはそれを聞いても、嫌そうに「ふん」と小さく呟くだけで、心には刺さっていなさそうだ。
「……そうね、いい能力を持っていたからと言って、いい人になるとは限らないわ」
リンナは小さく呟くと、「じゃあ、後はギルドに話をしにいきましょう」と手を叩く。
◇
大人しくなったヴォルを二人の男と一緒に放置して、六人は話し合いを始める。
忘れていたが、二人の男は特に暴れること無く、じっと黙って俯いている。
「もう書類は用意したので、後はギルドへ提出して話をするだけです!」
メグが机から書類の束を掴んで見せてくる。
「早いね」
「はい! 私の能力は『速記』なので、これぐらいは余裕です!」
「なるほど」
ギルドでは書類仕事が多いはずだから、きっと慣れているのだろう。
びっしりと書かれた右上がりの力強い文字は、丁寧でわかりやすい。
少し確認すると、びっしりと右上がりの文字が書かれている。
「じゃあ、これを持って冒険者ギルドへ行こうか」
「そうね、じゃあ……」
話し合いの結果、テルとキュアは事務所に残って、二人の監視をすることになり、残りの四人はヴォルを引き連れて冒険者ギルドへ向かうことになった。




