第六話
「……昔は違う雰囲気だったんですね」
「そうだね。でも私からしたら最近あんな風に変わったんだけどね。ほら、髪の毛も短くてみかんみたいでしょ?」
みかんは「みかん」なんだと思いながら、瑞希は写真を眺める。
普通の、家族の仲よさそうな写真。ビルは「メグは両親のいる街から逃げた」と言っていたが、そんなふうには見えない。
「メグは昔、『冒険者になって魔物を倒すんだ!』って言ってはしゃぎまくってたのさ」
「やんちゃな子供だったんですね」
リンナはふっと笑って、「案外こんな感じだったんだ」と呟く。
「ガキンチョのときはこんなだったから、こっちに来た時、誰も気が付かなかったんだ。知り合いに『メグ坊を騙る嬢ちゃんがお前の店の前でうろついてるぞ』って言われてな」
「……坊?」
リンナの困惑げな声が聞こえて、ビルは「ああ、そう言えばメグは男だぞ」と続ける。
「お、男……?」
「あれ、知らんかったか」
ちらりとリンナを見ると、リンナは信じられないといった顔でその写真を見つめていた。
「ミズキは知ってたの?」
「服を買う時に教えてもらった」
リンナはちらりとキュアを見る。瑞希も思わず視線を向けるが、驚いている様子はない。
「キュアも知ってたの?」
「うん。というより見たら分かるっていうか……」
仕立て屋ということは、体の作りにも知識があるのだろう。納得していると、「私だってちゃんと見たら分かるわよ」と小さな声が聞こえる。
(ダジルと似てるよなあ)
リンナは負けず嫌いで、優しい性格ではあるものの、その口調はダジルとそっくりだ。
違うのは、リンナは外面を作るのが上手で、ダジルはそれが苦手だということ。
(じゃあ、ダジルも「ツンデレ」ってやつなのかな)
ちょっと違う気がするなと思っていると、何人かの客が店に入ってきて、ディナとの会話は中断された。
◇
ご飯を食べ終わった三人は少し話をした後、キュアと「もう、金輪際ストーカーはしない」という約束をして、そのまま解散した。
少し不安だが、友達でいようとも約束したのでこれで一段落だ。
リンナは瑞希の部屋に当然のように入ってきて、我が物顔で瑞希の前に座る。
「それで、リンナは何の情報を手に入れたの?」
「最近、変な噂が流れているみたいなの」
「へえ」
「『追放』される人が増えてるんですって」
リンナの言葉に、瑞希は耳を傾ける。
「どういうこと?」
「冒険者パーティーとか、会社とか、ミズキみたいに追放される人が増えてるらしいわ」
「ほお」
「しかも、そのほとんどが同じ構造なの」
リンナはそのまま説明を続ける。
その説明曰く、追放する人はいわゆる「あたり能力」と呼ばれる、有用な能力を持っている人で、追放されるのはミズキのようなあまり使い所のない「ハズレ能力」を持った人だそうだ。
しかも、冒険者パーティー全体で、その追放が流行しているという。
「その影響で、冒険者パーティー全体の評価が落ちているみたい。野蛮で、能力差別が蔓延してるって。『銀の覇者』もついに化けの皮が剥がれたんだなっていうのが聞こえてきた」
「……へえ」
思った以上に、事態が悪化しているみたいで、瑞希は眉を顰める。
リンナが行ったのはリバーの街のギルドだ。そこまで噂が広がっているなら、マウントの街でどうなっているか、少し想像がつく。
「……一応、ダジルがやってるわけじゃなくてヴォルが首謀してるみたいだけど」
「どういうこと?」
「私がいなくなってからヴォルが副リーダーになったみたい。それでダジルはあんまりギルドに来なくなって、代わりにヴォルが出るようになったんだって」
リンナの表情には少し後悔の色が見える。今の状況の被害者は、ミズキだけじゃない。きっと他のパーティーメンバーも何かしらの影響を受けているのだろう。
副リーダーとして、少なからず責任感はあるはずだ。
「他には何か分かった?」
リンナはちらりと瑞希を見てから、目を伏せる。
「ミズキの言ってたシルヴァって女に関する目撃情報を聞いたわ。『黒髪の若い女がパーティーの周りをうろうろしたのを見てから数日後、追放された』とかね」
「やっぱり、シルヴァなのか……」
シルヴァが原因だとしたら、やはり何かの目的があっての行動なのだろうか。
「でも、残念なことに『シルヴァ』の名前は一切聞かなかったわ」
リンナは瑞希を見つめる。その瞳の奥には少し困惑が見える。
「つまり、『シルヴァ』をはっきりと認識していたのは僕だけ?」
まさか、と思いながら言葉にすると、リンナが「そういうことね」と返事をする。
「ねえ、おかしいと思わない?」
「なにが?」
「シルヴァっていう女が全ての原因だとしたら、そいつは何の目的で何をしているの?」
「それは僕にもわからないよ」
リンナは瑞希の答えに「そうよね」と返事をする。
「逆から考えてみたの」
リンナはそう言うと、クッションを手元に手繰り寄せてぎゅっと握りしめる。
「今の状況が全てシルヴァの目的通りだとしたら、シルヴァは冒険者パーティーが野蛮で、能力差別が蔓延してる場所にしたかったってことじゃない?」
「確かに?」
瑞希はその言葉に思考を巡らせるが、それだと差別される人間が増えるだけで、する人間は減らない。むしろ増えるばかりだ。
「ジンさんが言ってたでしょ。自分以外の人間が敵に見えた事があるって。だとしたら、シルヴァにとっての敵は、害力を持っていない人全員ってことなんじゃないの」
「だとしたら……」
リンナの推測を聞きながら、瑞希も頭の中で考えを纏めていく。
「シルヴァが攻撃したいのは、個人じゃなくてこの社会そのものってことかな」
――自分が受けた苦しみを、もっと多くの人に味わってほしい。
「自分だけ殴られるのは、不公平だ……」
だから、まずは「ハズレ能力」を自分たちのようにしてしまおう。
もし、自分がその立場だったらと考えて、そんな結論が出る。
視線をリンナに戻すと、不安げな表情のリンナと目が合う。
「……ただの推測だよ」
「……殴られるなんて言うから、本心かと思った」
頭の中で考えていた事を無意識で呟いていたみたいで、瑞希は苦笑する。
「理由はそうだとして、一つ疑問なのが、どうして僕だけ『シルヴァ』を認識できたんだろう」
キュアは「ミズキを排除した」とヴォルの声が聞こえたと言っていた。
「もしかしたら、シルヴァの能力は精神に異常をきたす何か?」
もしかしたらミズキが持つ「超再生」には精神に影響を及ぼす能力に反発する可能性があるかもしれない。
だから「超再生」を持つミズキがどうしても目障りだった?




