木霊
「……おや、お早いお気付きでしたね」
姫鷺山 妃は、特に表情を変えることもなく、目の前に現れた律織を迎えた。
「――……本当にお前が、妖精の分身体なのか……?」
「答える義務はありません。しかし『はい』と返答することもできる」
姫鷺山 妃が刀を抜き放つと、戸惑いを収め、律織も臨戦態勢に入った。
「お前を打ち倒せば、【妖精の取り変え子】の魔法は解けるそうだが、魂を分けたという妖精に影響は及ばないのか? 魂の実在に詳しいシキが何も言わないから、おそらく問題ないんだろうが……」
「そんなこと知るわけないでしょう。あなたが知らないんだから。あなたが聞こえていると勘違いしているこれも木霊ですよ。あなたが考えたこと、感じていることが、基本的には反響されているだけ。私と云う人物像もまた、『妖精とはおそらくこのようであろう』という周囲の想像力に左右された木霊です。実在はあろうと、無生物なんですから」
律織は小さく息をつき、光の結晶を手にした。
「抵抗は――するんだよな?」
「そういう在り方ですので。分身体という自覚が私と云う存在を世に形作っている。安心なさい、私は妖精体の、十分の一以下しか力を発揮できません」
「そうか」
律織は言うと、瞳の色を豹変させた。
目付きの形という、比喩表現の意味だけではなく――白銀の成り損ないみたいな、輝く灰色に両眼が染まる。
「【重力法】」
逆扇の形に開くようにした両腕――律織のかざした、右手側の景色が歪む。
「【時間法】」
左手側の景色が、回転する。
「おや、わりと、すぐにでも終わりそうですね」
言って、姫鷺山 妃は律織に剣先を突き付けた。
「汝の焔を灯に。――披け、【薊十文字】」




