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変態じゃない! 変態紳士だお!


 【三人称】



 東京臨海広域防災公園、長ったらしい名前だが略して防災公園と呼ばれる事が多い。ビックサイトの隣に位置し、コミケ期間中はコスプレエリアとして開放される。ビックサイト内のコスプレエリアより広いので、超人気レイヤーの囲みなどはここがよく使われる。


 そんな公園内の広場の芝生の上、ラヴィとT@MAは並んで腰をおろしていた。

 T@MAに買ってもらったワゴン販売のクレープを頬張り幸せそうなラヴィ。そして、そんなラヴィを目の前にした彼も幸せそうだった。


 (本物はスゴい……超可愛い。それに中学生ぐらいにしか見えない)


 三次元は二次元の下位互換。はっきりわかるんだよね。


 などといつも言っているT@MAだが、ラヴィは二次元から出てきたラヴィそのものだ。

 天然の青い髪。常に元気いっぱいで天真爛漫な笑顔。猫耳フードのついた黒いノースリーブの上着に黒のガウチョパンツといったアニメそのままの衣服。極めつけに見た目は中学生の二十二才という合法ロリ。

 理想そのものが目の前にいるのだ。ロリコンのテンションは上がりっぱなしだった。隠者のマントの中でラヴィと密着していた時を思い出し、再び鼻息を荒くする。


 (さっきはラヴィちゃんがすごい近くてドキドキしたなあ……。ダンジョンに潜ってたって事は何日もお風呂に入ってないって事だよね。それなのに、何であんなにいい匂いがするんだろう。女の子っていいなあ。っと、呆けてる場合じゃない。糞太郎先生に連絡しなきゃ)


 スマホを取りだし、指を滑らせて自作のラヴィが描かれたロック画面を解除する。そして先程登録したばかりの番号に電話をかけた。


 「あ、糞太郎先生? T@MAですけど、ラヴィちゃんを保護しました」


 『本当っ? ありがとうT@MA先生』


 スピーカーホンからは朗報を受けて優里の弾んだ声が聞こえた。

 企業ブースにてラヴィが帝国の二人から逃げようと西館を飛び出した、と間宮から聞かされた後、優里はT@MAに電話をかけラヴィの捜索を頼んでいたのだ。


 「はい。貸し二つですよ」


 『二つ? 一つじゃないの?』


 「サービスでサブクエストも終わらせておきましたから」


 『サブクエスト? よくわからないけど、黄金水晶はT@MA先生が持ってるのよね?』


 「ええ、アレインさんが忘れてった金色の玉ですよね? 僕が持ってますよ」


 『お願い、それだけは奴等に渡さないでください。今どこですか?』


 「防災公園の南口すぐの広場です。ここなら見通しいいから敵が来てもすぐわかるから。隠者のマントもありますし」


 『わかりました。アンナとすぐに向かいます。移動するならまた連絡ください。ありがとう』


 通話を終了し、スマホをしまう。


 「じゃあここで警戒しながら待機だね」

 

 「ここで待ってればいいの?」


 「うん。アンナさん達が今から来るってさ」


 「はーい。じゃあタマと待ってる。ごちそうさまでした」


 ラヴィは指についた生クリームをペロペロと舐めながら返事をした。彼女の何気ない仕草にもT@MAの胸は尊さで満たされる。しかし、そんな幸せな時間も野暮な乱入者によって中断させられた。入り口の方からカイルとスタークがやってくるのが見えたのだ。

 T@MAは慌てて隠者のマントを被る。


 「あいつらだ。逃げるよりも隠れてやり過ごした方がいい。ラヴィちゃん、暑いと思うけどじっとして……、え?」


 自分達の姿は認識出来ないはずである。しかしカイルとスタークは真っ直ぐに二人の方へと走ってくる。


 「タマ! だめ、魔力が切れてる!」


 隠者のマントは魔力が空になる前に効果をオフにして補充してやらなければならない。アレインが込めた魔力も、連続で使用していた為に底をついてしまったようだ。


 「まさかの充電式? そんな裏設定いらないって!」


 逃げようとするが、マントが足にからまり転んでしまった。すぐに立ち上がるが追い付かれて、ラヴィはスタークに背後からから羽交い締めにされてしまう。


 「カイル! 今だ!」


 「おう! ……あれ?」


 奴隷紋を発動させようとするが手応えがない。

 首を捻るカイルにスタークが痺れを切らした。


 「何をやってんだ! 早くしろ!」


 「やってる! けど反応しねえ!」


 そんなハズはない。距離だって一メートルほどで向かい合っているのだ。スタークは奴隷紋が描かれている太ももを確認しようと、ラヴィの履いている黒のガウチョパンツをめくった。


 「な……? 無い! 奴隷紋が無い!」


 燃え盛る黒い炎を模した禍々しい奴隷紋。それがくっきりと太ももに刻まれているはずだった。

 しかしそこに奴隷紋は無かった。真っ白で健康的な張りのある太ももがあるだけだ。

 驚く二人に、T@MAは眼鏡をクイッと上げて精一杯のキメ顔で高らかに言う。


 「悪趣味な落書きは消させて貰ったよ! さあ、その手を離せ。イエスロリータ、ノータッチだ!」


 何を言っているのか言葉はわからない。しかし状況から、この眼鏡をかけたひ弱そうな男が奴隷紋を消したのだという事はわかる。

 電話で優里に言った『サブクエスト』とは奴隷紋の解除の事だったのだ。




 エントランスプラザでラヴィを救出した後、奴隷紋の事を優里から聞いていたT@MAは古い知り合いに連絡をとって助けを求めた。


 ハルカとナツキだ。


 T@MAの中学からの同級生であるハルカの職業はメイクアップアーティストで、特殊メイクにも携わっている。彼女なら何とかしてくれるんじゃないか、そう思い電話をした。数少ない気心の知れた地元のオタク仲間は、アレインと別れた後T@MAからの電話を受けてすぐに来てくれた。


 「ありがとうハルカ。相変わらず立派な胸の特殊メイクだね」


 「胸は自前じゃ! 自分には特殊メイクした事ないわ!」


 もっぱらメイクの腕は弟のナツキで試している。その手腕に多くの男達が騙されてきた。


 「え? ハルカのその顔、特殊メイクじゃないの?」


 「やかましいわ! アホな事言ってないでさっさと始めるわよ。はじめましてラヴィちゃん。奴隷紋ってのを見せてくれる?」


 優しい笑みをラヴィに向ける。アンナのコスプレ姿も相まって、ラヴィは彼女を信用し太ももを見せた。


 「ふぅん、これが奴隷紋ね」


 「消せるの?」


 「鉱物と植物を混ぜた塗料ね。中まで浸透してなくて肌に乗っかってるだけみたい。なんとかなると思うわ」


 企業ブースにいた『ええっ?! エルフ様』のシルフィエール、あのコンパニオンの特殊メイクもハルカの仕事だったりする。バッグから仕事道具を取りだし、作業に取り掛かる。


 「ナツキ君もごめんね。わざわざ来てもらっちゃって」


  「大丈夫。この後TFTビルの『となコス』に行く予定だったし、通り道だからね。それにしても本物のラヴィーンかぁ。確かに仕草とか雰囲気とか、アニメそのままだよね」


 「本物のレインとも併せたってハルカから聞いたけど」


 「うん。まさか本物だとは思わなかったけど。もう一度会いたいなあ。ディアンナもいるんでしょ?」


 「ああ、いるらしいよ。奴隷紋のお礼と言ったらなんだけど、よければ打ち上げに来るかい? 厄介事が片付いたらハルカに連絡するから」


 「本当? 行く行く! ありがとうT@MAさん!」


 ナツキがピョンピョンと跳び跳ねて喜んでいると、ハルカが親指を立てながら立ち上がる。


 「簡単に取れたわ。魔法とか聞いていたから気合い入れたんだけど、拍子抜けだったわ」


 ラヴィの太ももから完全に奴隷紋は消えていた。


 「さっすがプロ! ありがとうハルカ!」


 「ありがとうおねーさん!」


 「ほんとにラヴィーンそっくりね。そうだラヴィちゃん、あのロリコンに甘い物でもねだるといいわ。きっと何でも奢ってくれるから。じゃあね」


 恩に着せる事もなく、サバサバした感じでハルカとナツキはTFTビルへと向かっていった。

 ハルカのおかげで奴隷紋に怯える必要はなくなったのである。



 

 

 時間を戻そう。

 驚いて沈黙したままのカイルとスタークに向かってビシッと指を差すと、T@MAはもう一度宣言する。


 「ラヴィちゃんにイタズラをするなんて紳士の風上にも置けない奴らめ! ラヴィちゃんは僕が守る! イエスロリータ! ノータッチだ!」




 【今回の教訓】


 Q コミケでご飯はどうしたらいいですか?


 A ああん? 飯なんか食う訳ねーだろ! 腑抜けた事言ってんじゃねーぞ!


 ガチ勢は終わってからしか食べないらしい。

 ビックサイト内にもレストランがあるし、コンビニもある。だが激混みだ。期待しない方がいいかもしれない。

 コンビニならTFTビルの中のコンビニが結構物があるぞ。困った時のTFT!


 ちなみにTFTビルでは『となコス』というコスプレイベントが開催されている。

 コミケは午後4時で終了だ。コミケ後はとなコスに流れる、っていうカメ子やレイヤーも多い。



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