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防災公園の死闘(序)


 【三人称】



 T@MAがカイルとスタークに大見得を切っている頃、西館深川文庫の企業ブースに紙袋をぶら下げたアレインが到着した。

 ハルカ達と別れてからも二つのグループに併せを頼まれてしまい、遅くなってしまった。

 コンパニオンをしているであろう相棒の姿を探してみるが見つからない。


 「突然失礼ですが、アレインさんですか?」


 キョロキョロと不審なアレインに間宮が声を掛ける。どこからどう見てもレインだ、この男が優里の言っていた人物に違いない。


 「ああ、俺がアレインだ」


 「私、『おまひろ』の担当編集をしている間宮と申します。高坂先生より伝言を預かっております」


 自己紹介と共に優里の書いたメモを渡す。

 そのメモを険しい表情で読み進めるアレイン。その間に間宮は優里に電話をかける。


 「高坂先生? 間宮です。アレインさんがお見えになりました」


 『アレインが? 糞太郎が話したいと伝えて代わってください!』


 「アレインさん。高坂、糞太郎先生が話したいと」


 間宮からスマホを受け取ろうとするが、生憎紙袋で両手が塞がっていた。右手に持っていた紙袋を間宮に渡して代わりにスマホを受け取る。


 「悪いがこれを持っていてくれ」


 「戦利品ですか?」


 「そうだ。この同人誌、T@MAという男が書いているのだが実に尊い。お薦めだ」


 間宮は紙袋から薄い本を取り出してパラパラとページをめくった。それを見届けると、アレインは見よう見まねでスマホを耳に当てて返事をする。


 「アレインだ」


 『アレインさん? 私、糞太郎です。書き置きは読みました?』


 小さい板から聞こえてくる鮮明な声に一瞬驚いたが、すぐに平静さを取り戻す。


 「ああ、事情はわかった。アンナと一緒にいるんだな?」


 『ええ、一緒にいます。T@MA先生がラヴィを保護してるらしいから今から合流しようと思って。間宮さんに案内して貰ってアレインさんも防災公園に来て欲しいの」


 「わかった。そうしよう」


 『お願い。私も多少魔法が使えるけど、戦力として数えられるほどじゃないから。間宮さんに代わって貰えますか?』


 「了解した。さっさと問題を片付けて打ち上げとやらに行こう。マミヤ殿、糞太郎先生が代わってくれと」


 「凄い。凄い画力だ。それにラヴィーンへの底無しの愛を感じる。こんな作家が同人にくすぶっているのか……」


 間宮はT@MAの薄い本に夢中だった。没頭していてアレインの言葉に気がつかない。


 「マミヤ殿、代わって欲しいそうだ」


 「あ、失礼しました。私の中の熱盛が出てしまいました。はいっ、ただ今かわりました――」


 こうして、アンナ達には大分遅れたが、アレインも防災公園へと向かったのだった。




 一方、防災公園、芝生広場。

 

 「ラヴィちゃんには指一本……ぐわっ!」


 カイルの拳がT@MAの頬を捉えると、ドスッ! という鈍い音と共にひ弱な変態紳士は芝生の上に転がされた。


 ラヴィは僕が守る、と宣言しカイルに向かっていったT@MAだったが、喧嘩などした事が無いヒョロオタクである。屈強な戦士のカイルに敵うはずもない。一方的に殴られ続ける。

 眼鏡のフレームは曲がり鼻血も出ているが、それでもT@MAは立ち上がり続けた。


 「なんだこいつ……。アンデッドかよ」


 「その手を離せって言ってるだろ」


 まぶたも腫れ上がり、まともに前も見れなくなっているが、それでもT@MAは真っ直ぐにラヴィを見つめる。


 「もうやめてカイル! その人は関係ない、狙いは私でしょ?」


 「そうは言ってもよぉ、あの現地人の方から突っ掛かって来るんだ。蚊が周りを飛んでたら、お前だって叩くだろ?」


 「タマ逃げて! 私の事はいいから。大体、こんなズルい私に守ってもらう価値なんて……」


 「ある!」


 叫んだ。間髪入れず、ラヴィの卑屈な言葉を全力で否定した。


 「僕は君がいなかったら死んでたんだ」


 二年前、T@MAは上司の酷いパワハラのせいで勤めていた会社をやめ、自室に引きこもっていた。心は傷つき、病んでいたのである。

 そんな時、深夜、テレビから快活な女の子の「一人じゃないよ」という声が聞こえた。

 勿論、T@MAに向けたものじゃない。しかし、なんとなく聞こえてきたその声に、T@MAは救われたのだ。そのキャラの笑顔に、声に、T@MAは救われたのである。

 わからない人にはわからないだろう。たかがアニメのキャラにと馬鹿にするだろう。それでも、彼にとってはラヴィーンは眩しい太陽なのだ。

 少しでもこの気持ちを表したい、とラヴィーンの漫画を描き始め、今ではネットカフェでのバイトも始め、少しずつだが前に進んでいる。

 そんなラヴィーンが現実にいて、今その笑顔を曇らせている。彼女の元気がないなんてT@MAにとっては耐えられない事だ。


 「僕は推しの為なら死ねる!」


 T@MAにとっての生きる意味とは、ラヴィーンそのものなのだ。

 しかし、そんな事情も知らなければ言葉もわからない異世界人には到底理解できない。


 「ピーピーうるせえガキだ。人質はラヴィがいりゃ十分だ。カイル、そのガキを殺れ」


 「おう、俺も殴り飽きてきたところだ」


 スタークの指示を受けカイルは背中に担いだ曲刀を抜いた。刀身がギラリと妖しく光る。


 「そこまでだ! 動くな!」


 迷彩柄の上下にヘルメットを被った男数名が制止の声をあげながら走ってきた。

 自衛隊員だ。

 防災公園ではコミケ期間中、防災フェアという催しが開催されており、自衛隊車両なども展示されている。隊員達も参加しており、騒ぎを聞きつけ駆けつけたようだ。だが当然、武器の類いは所持していない。


 「あいつ武器を持ってるぞ! 応援を呼べ! 警察にも連絡を!」


 慌ただしく動く隊員達。しかしカイルの剣の切っ先はT@MAに向けられている。迂闊に近づく事は出来ない。しかも、いつの間にかラヴィの首筋にもナイフが当てられていた。


 「現地の軍みてえだな。どっちにしろ暴れる予定だっからちょうどいい。攻撃して来ないって事は一般人の救助が最優先ってトコか、ぬるいな異世界。帝国だったら人質ごと問答無用で爆発魔法でドカンだぜ。カイル、とりあえずそのガキの首をはねろ」


 「景気付けにサクッといくか。そらっ!」


 見せつける様に高く振り上げた剣をT@MAの首筋に真っ直ぐ振り下ろす。

 T@MAの首筋にその刃が届こうかというその時。一筋の閃光が走った。


 キィンッ!


 真っ赤な髪の女騎士がカイルの眼前に割り込み、彼女の代名詞とも言える精霊剣で凶剣を受け止めていた。


 「このっ、アンナァ! ごふっ……!」


 動きを止め隙を見せたカイルの腹に蹴りを叩き込み、数メートルほど吹っ飛ばした。


 「おいアンナ、おとなしくするんだ。じゃないとラヴィが……」


 「『ハウンドバインド』!」


 「くっ! 魔法だと?」


 ラヴィの喉にナイフをあてがっていたスタークの動きを、優里の魔法が拘束する。


 「お姉ちゃん! 今のうちにこっちに!」


 「お姉……ちゃん?」


 「早く! 私の魔法が保たない!」


 「う、うん! タマ、大丈夫?」


 「大丈夫。これぐらいかすり傷さ」


 スタークの腕からすり抜け、T@MAの元へと駆け寄った。T@MAは軽口を叩くが腫れ上がった顔がとても痛々しくて、ラヴィの心を締め付ける。

 ラヴィが逃げたのを確認すると優里は拘束魔法を解除した。T@MAに回復魔法を施す。みるみるうちに傷が治っていった。

 

 「もう、こんなに無茶して馬鹿なんだから! 『ハイヒーリング』」


 アンナは三人を守るように前に立ち、剣を構える。ラヴィに視線を移し、無傷の姿にほっと胸を撫で下ろした。


 「ラヴィ、怪我は無いようだな。奴隷紋は?」


 「うん! タマが助けてくれたから。奴隷紋もね、タマの友達が消してくれたの!」


 「なんと! タマ殿、感謝する。そなたの様な強き者がいてくれて助かった」


 「はあ? そのガキが強いだあ? 俺に手も足も出なかったもやし野郎だぜ?」


 鼻でわらうカイルにアンナは呆れ、馬鹿にしたような視線を向け逆に笑い返した。


 「守るべき者の為にどれだけ殴られようと立ち上がり続ける、それこそが本当の強者だ。それがわからんうちはお前らは私には勝てんよ。さて、自衛官諸君よ、下がっていろ。丸腰で奴らの相手は危険だ。奴隷紋の憂いが無くなった今、私に敗けはない」


 「アンナの邪魔になるわ。私達も下がりましょう」


 優里は回復したT@MAとラヴィを連れて自衛隊員達の方へと下がった。それを見届け、アンナは一歩前へ歩み出ると、カイルとスタークに精霊剣の切っ先を向けて高らかに宣言する。


 「十二年前は守れなかった。しかし今誓おう! 今度こそユーノ様とユーリ様を守ると! かかって来い下郎共! 守護騎士アンナ、容赦はせんぞ!」




 【今回の教訓】


 残念な事だが、

 スリ、置き引きにあった。

 痴漢にあった。体を触られた。

 などの被害を毎回聞く。


 サークルスペースを「少しの間だけなら大丈夫」と留守にするのも危険だ。隣の人達といい関係を築きつつ、防犯に努めよう。

 もし被害にあったら、すぐにスタッフ、そして警察に通報すること。躊躇う事はない。すぐに助けを呼ぼう。


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