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82 アケビの実
二限の授業開始のチャイムまでもうあまり時間がないことも分っていながら、守衛はデスクの引き出しを開けてなにやら取り出してくる。
ライトウェイ(灯路)。
六十は過ぎていようが、洒落た名をつけたものだ。
「見ていただこうと思って」
タブレット。
立ち上がるのがもどかしい。
「帰りに寄りますよ」
心惜しげな目線を送ってきたが、あっさり引き下がった。
「紅焔山で見つけたんですよ。アケビの実。まだ口は開いてないけど、来週には」
植物好きの守衛である。
教えている科目の中に植物を扱う授業があり、それを知ったこの男と親しくなったのだった。
「じゃ、後ほど」
「今日のシフトは五時までなので」
守衛はそれまでに来て欲しいと付け加えた。
「じゃ、その頃までには」
六甲の山麓、住宅街の北端。
この先は入り組んだ山肌に様々な動植物が棲むエリア。
その境界線上、等高線に沿って東西に延びる校舎群。
東西には広いが南北に奥行きのないキャンパス。
いつものように色とりどりの花が咲き、レンガ色の世界に彩りを与えていた。
雨に濡れ、さらに彩度を際立たせて。
その中央に口を開ける正門をくぐっていった。
駆けだしている学生たちに混じって。




