73 人気馬は総崩れ
もう、食事どころではない。
しかし、肉料理は運ばれてくる。
新しい酒も。
また、飲んだことのない酒。今度はスピリッツ系。
話題は、よもやま話に移行している。
学校のこと、授業のこと、競馬のこと。
実際、共通の話題はそれしかない。
今の心境として、もうどうでもいいが、初めてヘッジホッグが話題に加わった。
ただ一度だけ。
「明日の菊花賞、大荒れになる。人気馬は総崩れだ」
ハルニナの反応はもっともなもの。
「へえ! どうして?」
ヘッジホッグはニヤリとしただけで、
「そういうことになっている」とだけ言った。
普段なら興味を持つ話だが、頭の中には疑問符が林立している。
しかも、その疑問林を伐採整地するどころか、次々に目の前に提示される新たな謎を、謎だと理解するだけで精一杯の状態だった。
ハルニナがまた妙なことを言い出した。
「馬が教えてくれる」
サークルのモットーだから、その言葉自体に意外性はない。
しかし、このタイミングで?
話題としてふさわしい?
それは、再生財団のイベント、ケイキちゃんのイベント、どうにかならないのか、という話になった時だった。
メイメイが言い出したのだが、それはあくまで場繋ぎとしての話題。
程度が低い、競馬を楽しみに来る人の関心とは全く違うところにあって、なにか意味があるのか、と言った時。
それは、誰しも感じていることであって、競馬場ではいわば普遍的な話題。
お年寄りの活力アップがどうのこうのなど、競馬ファンにとってどうでもよい。
むしろ、アンケートに答えろとか、チラシやノベルティを受け取れと付きまとわれて、不愉快この上ない。
と、メイメイがステーキを小さくカットしながら言った時。
ハルニナが、馬が、と言ったのだった。
「どういう意味?」
怪訝な顔をしながらステーキを口に入れたメイメイ。
「そのうち教えてあげる」と、はぐらかすハルニナ。
繋がらない会話。
発展しない話題。
断片と尻切れトンボの応酬。
それでも、ハルニナとメイメイは、なんとか場の雰囲気を保とうと奮闘しているようにも見えた。
対してグリーンとヘッジホッグは、我関せずという態で、目の前の新参者を品定めするような眼で見ては、黙々と口を動かしているのだった。




